アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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騒擾の果てに

真夜中の闘技場を満月が照らし出す。

ラーシュの祈りが届いたのか、三日月刀は静かに光り始めた。

凶極刀はネフェルを操り左側に回り込む。

 

『お前の耳が使い物にならないことは百も承知。ならば徹底して側面から攻めれば良いのだ』

 

凶極刀の刃がラーシュの首を食らおうとした。

目を閉じていたにも関わらず、すんでのところで小刀で防ぐ。

 

「耳が聞こえぬとも目を瞑ろうとも貴様の邪な意志は感じ取れる。どこにいようとも貴様を必ず追い詰める」

 

『足掻けば足掻くほどネフェルティアはお前の元から離れていくことになるというのに、なんと愚かな振る舞いだ』

 

「貴様の軍門に下るぐらいなら自ら腹を切る。ネフェルを守れることもできぬのなら私に生きる意味などないからだ」

 

ラーシュの言葉にネフェルが少し反応したように見えた。

三日月刀が満月の光に照らし出され明滅する。

 

『なればお前に利用価値はない。災厄をもたらす刀はお前を亡き者してから処分する。さらばだ――ラーシュ・ダスティヒ・ヴィルヘルム』

 

ネフェルは夜空に向かって凶極刀を突き立てた。切っ先から火の玉が浮かび上がり無尽蔵に肥大化する。疑似太陽が忽然と頭上に現れた。紅炎が表面をうねるように波を描き、万物を焼き尽くさんと輝き放つ。

ネフェルの髪が紅蓮に染まる。

 

「魔刀め、ネフェル諸とも一帯を焼き尽くす気か!?」

 

『魔女と聖女を一掃したとしても我の望む世界においては障害にもならん。忌まわしき刀を葬り、じっくり邪魔者をいたぶってやるわ!』

 

「させぬ!主君、ケイコ、パドンそして私を信じて襷を繋いだ者たちのためにも、この一太刀に全てを賭ける!」

 

『冥府で己の行いを恥じろ!――獄迅炎(ごくじんえん)ッ!』

 

「時の流れを纏いし力よ――魔を制する刃となれッ!!」

 

ネフェルが凶極刀を振り下ろすと強大な火球が落下を始めた。ラーシュは神々しく輝く三日月刀を振り上げ火急を袈裟斬りにする。三人は爆炎に飲み込まれた。

闘技場全体が火の海と化し本部周辺に熱風が吹き荒れる。

 

『ヒッヒッヒ!ヒャッハッハッハ!!』

 

凶極刀の笑い声だけが反響する。火の勢いが収まると人の形をしたシルエットが浮かび上がった。

 

『ば、馬鹿な!?生きているだと!?』

 

赤と青の力強い眼差しがネフェルに向けられている。

 

「貴様のような人の絆を無下にするような輩に……私は決して負けはせぬ」

 

ラーシュの服は焼けて上半身が露になる。肌から湯気が立ちのぼり足がふらつく。強烈な爆風で槍と小刀がシレジアの近くまで飛ばされていた。

 

『どういうことだ!?地獄の業火を凌ぎ切ったというのか!?』

 

「私にも意地がある。人として男として成さねばならぬ使命がある。たとえ貴様が私の壁として立ち塞がったとしても臆することはない。決してないのだ。今の私に恐れることなど何もない。死など些細なことに過ぎぬ。愛する者たちを守れるのなら」

 

『グッ……』

 

シレジアの指が動いた。ゆっくりと這いずりラーシュの槍を握る。側に落ちていた小刀を拾い細工を施す。凶極刀はシレジアが息を吹き返したことに気づいていない。

 

「これで全てを終わりにする」

 

『まだだ……まだ終わってなどいない!』

 

「炎月の陣――夢幻泡影(むげんほうえい)

 

三日月刀を地面に突き刺す。ラーシュとネフェルを包み込むように地面に埋もれていた化然石の結晶が舞い上がった。紺碧の灯火がぶつかり合いながら数を増やしていく。蛍の大群が宙を漂う美しい光景にネフェルは思わず息を飲む。

 

『何なのだこの光は!?』

 

凶極刀は視界を奪われラーシュの姿を見失った。ネフェルは二人の姿を探すが、ゆらゆらと漂う結晶に翻弄されている。

 

「――そこッ!」

 

シレジアの掛け声と同時にアーム状の鉤爪がネフェルの足を捉える。鉤爪から小刀が落ちた。

 

「怒りの雷を食らいな!」

 

鉤爪から光が溢れ稲妻が全身を貫く。

 

「あうっ!?!?」

 

ネフェルは悶絶し地面に突っ伏した。凶極刀が主を奮い立たそうと呼びかけるが、体が痺れ思うように動かせない。

 

「好きにはさせぬ!」

 

ラーシュが倒れながら小刀を拾うと、凶極刀の切っ先を押さえつけた。

 

『こ、これは……!?』

 

「会長殿、トドメを!」

 

シレジアは氷の短剣を拾い凶極刀を見下ろす。

 

『ま、待て!ネフェルティアがどうなっても良いというのか!?』

 

「あなたの脅しにはもうコリゴリよ。二度とシャバの空気を吸えないように真っ二つにしてあげるわ」

 

『や、やめろぉぉぉッ!?!?』

 

シレジアは超巨大な氷の剣を創出し振り上げる。

 

千の王魂を束ねる零廟(プラグマティッシェ・ミルグラース)

 

凶極刀は断末魔を上げるが、無情にも両断された。

風景はネフェルの記憶である闘技場が姿を消し普段の中庭に戻った。満月は太陽に変わり雲一つない青空が広がる。

心地好い日差しを受け、ネフェルが目を覚ました。

 

「ああ……ここは……?」

 

「ネフェル!私の声が聞こえるか?」

 

「ラーシュ!?どうしてそんな傷だらけなんだ?もしかして全部私が……?」

 

「フッ、魔刀に操られていたのだ。覚えていなくとも無理はない」

 

感極まるネフェルはラーシュに寄り添う。

 

「ごめん。私がラーシュの本当の気持ちが知りたいなんて刀に望んだから、ラーシュやシレジアに酷いことをしてしまった」

 

「謝罪など必要ない。ネフェルを苦しめたのは私だ。それに会長殿が力を貸してくれなければ魔刀に抗うこともできなかったのだ」

 

「そうなんだ。シレジアが助けてくれたのか」

 

二人の会話をよそにシレジアは真っ二つにした凶極刀の切っ先を何度も踏みつけている。

 

「私一人ではどうにもならなかった。主君、ケイコ、パドンたちが襷を繋いでくれたのだ。皆の思いがネフェルを暗闇から救ったのだ。ネフェルさえ戻ってきてくれれば私は十分だ」

 

ネフェルはラーシュが小刀を握っていることに気づいた。

 

「やっとわかったよ。ラーシュが私を守っていてくれたことに。ずっと信じきれなかったんだ。もしかしたらラーシュの中に私なんか、いないんじゃないかって思ってたから」

 

ラーシュは小刀をネフェルに握らせた。

 

「ネフェルは強い女性だ。私にとってもチームにとってもなくてはならない特別な存在なのだ」

 

「ラーシュは言ってた。私が相手の力量に合わせて柔軟に戦い方を変えられるって。でもそれは私の心が弱いからなんだ。力を発揮できずに自分に負けてしまった時の言い訳なんだ。そんな自分が本当は嫌いで嫌いでイヤだった」

 

「私はそうは思わない」

 

「どうして?」

 

「ネフェルが弱いからではない。人の気持ちを思いやり寄り添うことができる心の持ち主だからだ。それが相手の力量に合わせ柔軟に対応できるネフェル自身の力の源泉となっているのだ。並々ならぬ積み重ねによって培われた剣技と人を思いやるネフェルの優しさに私は魅了されたのだ」

 

「それって……」

 

「己の道に迷いはない。自身に嘘をつくなと戒めたのだ。どうかこれからも私の側にいてくれないだろうか?」

 

「ラーシュ……」

 

「私は……私はネフェルを……敬愛している」

 

「――ちょっとなんなのそれ!?」

 

シレジアが三度ラーシュの首根っこを掴んだ。

二人はシレジアの存在を完全に忘れていた。

 

「せっかく空気読んで死んだフリまでしてあげたのに、満月が出たと思ったら太陽まで出たり余計調子狂うじゃない!」

 

「シレジア、体は――」

 

「大丈夫よ!この通りピンピンしてるわよ!ほらっ、触ってみなさいよ!ほれほれ」

 

「会長殿、一度病院で診てもらった方が――」

 

「うっさいわね、(げん)(てい)(めん)(きょ)(ざむらい)!何よ、『敬愛してる』って。まどろっこしいわね!サムライならサムライらしく派手に散りなさいよ!」

 

ラーシュは図星を突かれ顔を真っ赤にして失神した。

 

「ラ、ラーシュ!?」

 

毒をぶちまけたシレジアは上機嫌になり二つに折れた凶極刀を拾い上げる。

 

「さあ、吐いてもらうわよ。背後に蠢く黒幕の正体をね」

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