中央本部での一連の騒動は上層部の根回しによって表沙汰になることはなかったが、『騒擾』の当事者たちは高い代償を支払わされることになった。
月に一度の役員会議において退去命令に背いた本部役員は無期限の活動停止処分となり、シレジアとレインはザスクード実技主任預かりとなる。
教官に楯突いたランバーは期限付きの謹慎及び免許停止処分、バランゴは無期限の奉仕活動を科された。
教官側も無傷とはいかず騒動の発端となったネフェルは期限付きの免許停止処分。責任者のザスクードは訓告処分。
報告の遅れを指摘されたフレイナは戒告処分。
ロウの逮捕に貢献したものの本部に重大な混乱をもたらしたと糾弾されたマブライは最も重い無期限の免許停止処分となった。
ジェット・ストライカーズの三人は警察に勾留されたものの証拠不十分として即日釈放される。
アルマダ・ブレーダーズの処遇に関しては頭を悩ませた。チームという狭い領域で起こった内紛なのか、それとも本部という公共性のある空間の秩序を乱した、いわゆる暴動なのかで処罰の程度が大きく変わるからだ。
審判の日、ケイコは役員会議での決定事項が書かれた文書をレインから受け取った。
決定事項は次の通り。
第一項
アルマダ・ブレーダーズは本日をもって事務禁止処分とする。
但し、三ヶ月の執行猶予を付す。
第二項
ヒューガー・ソレイユの本部退去命令違反及び監督不届きを認定する。但し、一部正当防衛を認め、二週間以内の反省文の提出を義務付ける。
第三項
ケイコ・エディンソン、パドン・シュスタ両名は本部サーバーへの不正アクセスの件で一ヶ月以内の出頭を義務付ける。
第四項
ラーシュ・ダスティヒの建造物侵入及び争乱の罪を認定する。但し、情状酌量及び一部正当防衛を認め二週間以内の反省文の提出を義務付ける。
第五項
第一から第四項までの文言に異議がある者は申し立てを行うことができる。
――
――――
――――――
場所は病室。全身に包帯を巻くラーシュと肩を脱臼したネフェルは同室に寝かされていた。
「やっほー!フェルちゃん、シュシュ君、ハウアーユー?」
レインが華麗なステップを踏みながら病室に乱入してきた。手には果物の入った籠を持っている。
「ちょっとレイン、ここは病院だ。周りの人の迷惑になる言動は慎むんだ」
「ごめーんちゃい。あれぇ?シュシュ君、まだ耳は聞こえない?」
レインは頭に包帯をグルグル巻かれたラーシュの顔を覗きこむ。あまりの近さにネフェルが発狂しそうになっている。
「女狐殿の甲高い声が直接頭に伝わるほど響いている。一度ならず二度までも治療して頂いたことに感謝申し上げる」
ラーシュは間近にあるレインの鼻を親指で押し上げた。
「ブヒー!
ネフェルは怒りを通り越して呆れている。
「レインに確認したいことがあるんだ。ラーシュの耳は完全に聞こえるようになるのか?」
「どうだろうね。
「受け入れ難いが事実ならば致し方ない。片耳さえ聞こえていれば十分だ」
「ラーシュ、ごめん」
「ネフェルが謝る必要はない。私がランバーの気持ちを裏切ったからだ。当然の報いを受けたまで」
「でもランバーは役員の過ちを一身に受けて処罰されてしまった。シレジア、マブライ、ヒューガーにも迷惑をかけてしまった。私はなんてことをしてしまったんだ……」
「皆迷惑など思っていない」
「ラーシュ?」
「主君も会長殿もヒャッコ先生殿も立場は違えど手を取り合い、ネフェルを救うただそれだけのために身を投じたのだ。むしろネフェルが帰ってきてくれて良かったと思っているはずだ」
「それってシュシュ君が一番嬉しいってことでオーケー?」
レインは指でサインを出している。冷やかしているわけではなさそうだ。
「フッ、それは女狐殿も同じだろう?」
「ほっほー、シュシュ君も切り返しがうまくなったもんだ!さすがは無敵の夫婦!レインちゃんに格の違いってやつを見せつけられちまったぜぇ!」
「ふ、夫婦?二人で私に何か隠し事でもしてる?ラーシュ?」
ネフェルに体を揺さぶられながらラーシュはふて寝する。
「ビッチ会長からの伝言忘れてたぁ!フェルちゃんに取り憑いてた刀のことなんだけどね、ひとまず修理してから保管する方法を考えてるんだって申し遣わされたのでござる~」
「魔刀のことよりも会長殿の傷は癒えたのだろうか。胸を貫かれたように見えたのだが――」
ネフェルはうつむいてしまった。自らの刃でシレジアを殺そうとしたのだから罪悪感に苦しむのも無理はない。
「二人は知らないと思うけど、ビッチ会長が使った
「なるほど。傷口を塞ぎ出血を最小限に留めることで一命を取り止めたということか。背中に触れた時、体温を感じたのは気のせいではなかったのだな」
「でもでも~その後二日間は眠りっぱなしで部屋から一歩も出て来なかったんだぁ。様子を見に行ったバレンゴ君が死んでるじゃないかって思い込んでお経を唱えてぐらいだからね!」
レインの生き生きとした話し方にネフェルの罪悪感は薄れていくようだ。表情に明るさが戻る。
「そういえば本部の方は大丈夫なのであろうか?建物の修復に時間がかかりそうだと風の頼りに聞いたのだが」
レインはリンゴを齧りながらゴリラの動作をしている。
「ぷへっ?本部だったら聳え立つ摩天楼のようにピンピンしてるよん。バレンゴ君が監視用の塔を壊しちゃったってフレちゃんが報告したみたいだけど、なんともなかったぴょん。直すとしたら中庭の手入れと外壁の修繕ぐらいかねぇ?これぐらいなら一ヶ月で終わるぴょん」
フレちゃんとはフレイナのことだ。
「どういうことだ?誰かが本部に手を加えたってこと?」
「いや全ては魔刀の仕業であろう。幻術の類いが本部全体にかけられているとヒャッコ先生殿が申していた」
「マブちゃんは占い師でもあり風水師でもあり魔法使いでもあるもん。マブちゃんにかかればまるっとお見通しなのだ!」
「ヒャッコ先生殿はジェットの首領と干戈を交え、殊勲を立てるとは価千金以上の働きだ。退院祝いに労いの挨拶に行かねばな」
「マブちゃんは痺れが残っちゃって体が思うように動かせないみたいだよん。フレちゃんが看病してくれてるみたいだし、二人だけの世界を作ってあげるのも愛の使者である私たちの仕事だよねん?」
レインはネフェルの頬を揉みほぐす。
「君はそうやってフレイナたちの中をかき乱そうと考えているのか?なんて卑しい性格をしてるんだ!二人の身にもなってみろ!」
「ンギャー!レインちゃん、大ピンチ!ほんじゃま今晩は二人だけの夢を堪能するのだー!」
そう言うと食べかけのリンゴのラーシュの口に押し当てる。ネフェルは急いで口からリンゴを引き抜きゴミ箱に投げ込んだ。何故か息を切らしている。
「息つく暇もないほど狡猾な狐だ。だが、改まってネフェルと向かい合うと胸の鼓動の高鳴りを感じる」
「フフッ、ラーシュにはたくさん話したいことがある。でもその前にヒューガー、ケイコ、パドンにも伝えたいことがあるんだ」
「構わぬ。さすれば皆の所に参ろう」