アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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ヒューガーとロウ

ラーシュとヒューガーは公園に足を踏み入れた。

周辺には全くと言っていいほど人がいない。不気味なほどの静寂に包まれている。

公園の真ん中にいるパドンはキョロキョロと辺りを伺っている。二人には気づいていないようだ。

 

「さあ観念するんだ!パドン・シュスタ!」

 

「うっ、追いかけて来やがった……にしてもどうしてパドン様の居場所がこうもあっさりバレちまったんだ?」

 

数多(あまた)の情報網を張り巡らせている。我が軍師にとってはいとも容易いことだ」

 

ラーシュの言う軍師とはもちろんケイコのことだ。

 

「へっ、そうかよ!だかなぁ、パドン様にだって意地ってもんがあんのよ!甘く見てもらっちゃ困るぜ!」

 

パドンが手提げ袋に手を入れた瞬間、ヒューガーはブレーダーを急加速させた。

腹目掛けてタックルをかます。

 

「大人しくお縄につけッ!」

 

取り押さえられたパドンは必死に抵抗するが、重量のあるジャケットを着たヒューガーの前に身動きすら取れない。観念したのかピクリともしなくなったパドンにラーシュは手に持っていた槍を突き出した。

 

「――主君!気を許してはならぬ!」

 

パドンは隠し持っていたスプレーをヒューガーの顔に吹き付けた。

 

「うっ、うがぁぁぁ!?」

 

催涙スプレーをかけられたヒューガーは両手で顔を抑え悶絶している。解放されたパドンは公園から逃走しようと出口に向かって駆け出した。すかさずラーシュは構えていた槍を起動させた。

 

「今がその時!」

 

かけ声と共に槍は四つの爪のアームに変わり、パドンに向かって発射する。地面と平行に発射された爪はパドンを捕獲した。もがけばもがくほど爪は体に食い込んでいく。

 

「な、なんだぁ!?い、いてぇっ!?!?」

 

「太平の世に仇なす者へ相応の報いを与える!その首、打ち取ったり!――捕獲痺雷(ホールディング・ボルテックス)

 

四つ爪はパチパチと音を立て、やがて音は大きくなりパドンの声が悲鳴に変わった。

 

「ウッ!?ギャギャギャ!?」

 

全身に電流を浴びたパドンは全身の力が入らなくなり地面にへたりこんだ。

 

「むっ!少々痛めつけ過ぎたか?」

 

ラーシュの問いに返答はない。返事をする気力も失せてしまったようだ。

 

「主君、顔色が優れないようだが?」

 

「俺のことはいい。それよりアイツは生きてるのか?」

 

「白目を剥いてしまっているが、身体(しんたい)にさしたる異常は見受けられぬ。しばらくは痺れて動けないであろう」

 

「くそっ、涙が止まらねぇ……まあ出だしは悪くないな。後はコイツを警察に引き渡せば任務完了だ」

 

「――いや、まだ終わってはいないようだ」

 

ラーシュはヒューガーの背後に立つ人物に敵意を向ける。振り返ったヒューガーの表情が曇る。

 

「窃盗犯を捕まえてくれるなんて、わざわざご苦労なこったよ。ヒューガー、懐かしくて涙が出そうだ」

 

「ロウ、お前がどうしてここにいる?」

 

「随分な挨拶をする身分になったんだな?裏切り者の分際でよぉ」

 

ラーシュは物々しい空気に槍を構える。

 

「主君を愚弄することは万死に値する。その覚悟がお主にあるのか?」

 

「やめとけ、ラーシュ。こんな碌でもないでもない奴相手にしたって何の得にもならない」

 

「変わった物言いをするほうがラーシュ・ダスティヒだろう?ひょうきんな格好してるって聞いてたが、こりゃあ本物だ」

 

「なにゆえ我が名を?お主、何者だ?返答次第では刀を抜くことになる!」

 

ラーシュは不信感を露し小刀を抜こうとするがヒューガーに制止された。

 

「この男は『ジェット・ストライカーズ』の隊長で早撃ちの名手ロウ・ダーヴィンだ。そして俺は一年前までこの男のチームに所属してたんだ」

 

「そうであったか」

 

「まさかお前さん、『ジェット』を知らない訳じゃないよな?」

 

「存じ上げぬ」

 

「カッカッカ、傑作だな。ヒューガーも面白いオモチャを手にしたもんだ」

 

「俺の仲間を侮辱するのも大概にしろ。状況は二対一。お前の方が不利に変わりないだろ」

 

「そもそもオレはお前さんたちと撃ち合いに来たわけじゃない。これは確かだ。そして俺は紳士だから、ジェット・ストライカーズについても優しく分かりやすくラーシュ君に説明してあげようと思っている」

 

ラーシュは警戒心を剥き出しにする。たが、ロウは余裕たっぷりだ。

 

「ジェット・ストライカーズは二年前に結成された世界最高のブレーダー組織だ。任務の成功率、報酬の額、優秀な人材。どれをとっても他のチームに勝てる要素はない。その理由がお前さんにわかるか?わかるわけないよな。なんたってオレたちには極上のスポンサー様がついているからだ」

 

「スポンサー?」

 

「ジェットの後援者は『エディンソン・カンパニー』の社長、ノーマン・エディンソンだ。そして仕事の斡旋、優秀な人材の派遣、最新のブレーダーの開発などを積極的に請け負っているのさ」

 

「全ては裏で繋がっている、と申すか?」

 

「話がわかるじゃないか?そういう人間はスカウトしたくなる。どうだ?そこの裏切り者チームよりもジェット(こっち)の方が破格の待遇でおもてなしするぜ――」

 

「フッ、笑止」

 

「なに……!?」

 

戯言(たわごと)だと申しているのだ。見栄や地位などというものに固執する集団に(こうべ)を垂れるぐらいなら、私は地に足をつけて汗をかき続ける者たちのために身命を賭す。いかに愚かだと罵られようが、お主に忠義を誓うことなど微塵もありはせぬ」

 

「ラーシュ……」

 

「カッカッカ……格好つけて後悔しないよう、小銭稼ぎでもしてるんだな」

 

「まだそのような姿勢を貫くか……」

 

「ついでに残念なお知らせだ。窃盗犯パドン・シュスタが盗んだのは『エディンソン・カンパニー』が開発した新型のブレーダーだ。これは()()()()()()()だ。お前さんたちの手出しは無用。つまり警察に突き出すのはオレたちだということ。わかるな?」

 

意識が飛んでいたパドンが目を覚ました。ふらつきながらロウの胸ぐらを掴む。

 

「お、おい……はなしぇがちかうしゃねぇか……ぜっとのりぃだぁぁぁ」

 

パドンの呂律が回っていない。

 

「新型のブレーダーがあれば……ジェットに入れてくれるって……約束した……だろ」

 

「お前はまだそんなくだらねぇ商売してんのか!?」

 

ヒューガーが問いただす。ロウは不敵な笑みを浮かべた。

 

「主君、私にもわかるように説明して頂きたい」

 

「ジェットはな、実績作りのために自ら犯罪者を生み出しているのさ。それを自分たちの手柄にしてな。俺はそんな堕落し切ったチームが嫌で抜けたんだ」

 

「許せぬ!そのような狼藉が許されるような世の中ではあってはならぬ!」

 

「だが、これは現実だ。町を牛耳るのも時間の問題。全てはジェットの思うがまま。悪く思わないでくれよ」

 

「黙れ、小物ごときがおめおめ逃げ帰れると思わぬことだ」

 

「はぁ、今のは結構効いたな。そこまで言うなら好きな方を選ばせてやる。窃盗犯と新型のブレーダー。手土産ってヤツだ。その代わり今回の件は口外するなよ?」

 

「急に弱気になりやがって。それに提案自体お前にメリットはない。どういうつもりだ?」

 

「勘違いするなよ。こっちにも事情ってもんがある。実は上の方からあまり他のチームを刺激するなって念を押されていてなぁ。おサムライさんがオレの首を取る勢いだから、今日はこれぐらいにしといてあげようと言ってるんじゃないか」

 

「相変わらずつかめねぇ男だ。だが、今は俺たちもお前と争う気はない。それなら口止め料としてブレーダーを頂く。新型のブレーダーなら企業へのダメージも計り知れない。ジェット・ストライカーズも風前の灯火になっちまうかもな」

 

パドンはうなだれている。自分はブレーダー以下と言われているようなものだからだ。

 

「カッカッカ、敵の塩を送ることになったが楽しい一時を過ごさせてもらった。そんじゃあ、ここいらで退散させてもらうとするか――」

 

「待て」

 

「ラーシュ、どうした?」

 

「主君、私は悪意という名の手垢にまみれた汚らわしいブレーダーよりもそこでうなだれている盗人を選ぶべきと進言致す」

 

「チッ……」

 

唐突なラーシュの発言に勝ち誇っていたロウの態度が一変した。

 

「そうか、ラーシュはロウを一言一句信用してないんだな。何か考えがあるんだろ?」

 

「如何わしい組織が作った代物など信ずるに値せぬ」

 

「ブレーダーは罠だってことか?」

 

「いかにも。ブレーダーに盗聴器や発信器の類いの姑息な手段を用いているかもわからぬ。さしずめ盗人をお主に引き渡せば報酬だけ奪われ、我々が実害を被る可能性は否定できぬのだ」

 

「た、確かに……」

 

話を聞いていたロウも黙ってはいらない。語気を強め反論した。

 

「仮にそうだとしてもだ、パドン・シュスタは犯罪者に身を落とした立場の人間。そんな人間のために自ら手を汚す気か?」

 

「ブレーダーは使い方次第で新型にも旧式にもなり得るが人は違う。元来、人は未熟かつ、か弱い生き物だ。過ちを犯した人間もやり直しがきくと申しているのだ。盗人の言葉よりもお主の言葉の方が軽いと断言せざる負えぬ」

 

ラーシュの言葉に目を吊り上げるロウとは裏腹にパドンは顔を上げ瞳を潤ませている。

 

「カッカッカ、やっぱ面白いなぁお前さんはよ。まあ、勝手にすればいい」

 

ロウはパドンの側に落ちていた手提げ袋を拾い上げると、ブレーダーを急発進させ帰って行った。

巻き上げられた砂を吸い込んだパドンはむせている。

 

「ゲホッゲホッ!……パドン様には謝罪の一言もないのかよ!?」

 

「それでラーシュ、こいつどうするつもりだ?」

 

「うむ、単刀直入に申し上げる。こやつをアルマダ・ブレーダーズにて引き取りたい」

 

「そんな事したら俺だけじゃなく、ケイコやラーシュの報酬がなくなるぞ。それでもいいのか?」

 

「主君やケイコには心苦しい思いをさせてしまうが放ってはおけぬ。いかんせんパドン(なにがし)はジェットの罠に陥れられようとしていたのだ。もう一度贖罪の機会を与えても罰は当たらぬはず」

 

「俺はジェットの息がかかった奴は信用できない。ラーシュが責任を持って監視することになるが、それでもいいんだな?」

 

「無論、承知の上。ではパドン・シュスタに伺う。年貢を納めるか、アルマダ・ブレーダーズに忠義を誓うか、この場で腹を決めよ」

 

ラーシュは槍をパドンに向ける。

 

「うう……捨てる神もいれば拾う神って本当にいるんだ。見た目はサムライだけどよぉ……」

 

「早く決めろ、ケイコが連絡を待ってるんだ。前科持ちにかける時間はない――」

 

ヒューガーはパドンに催促すると、ケイコに事後処理の連絡を入れた。

 

「パドン様の得意分野は情報の仕入れやその場凌ぎ的な時間稼ぎだぜ。ブレーダーの免許は持ってないし、殴り合いとか怪我するのもゴメンだ。血は流せねぇけど、チームためなら汗をたくさん流せる縁の下の力持ちだぜ!」

 

「なればお主にはケイコ同様、後方支援を担ってもらいたい。異存はあるか?」

 

「とんでもねぇ!これ以上ない待遇だ!……因みにお金の方は?」

 

「私と折半になるが良いか?」

 

「ほっ、報酬が出るならひとまず安心だぜ。よーし、今日からラーシュ殿のお世話になるでござる。なんちゃって!」

 

「う、うむ……」

 

調子のいい二人の会話を聞いていたヒューガーはあえて教えなかった。ラーシュが無免許であることを。そして報酬が()()()()になることも……。

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