ヒューガーの自宅にある地下室はチームの作戦会議室として使われている。ケイコとパドンはミーティングを行う時間に合わせ待機していた。
「そんじゃあケイコ先輩、パドン様がハッキングの極意を教えてしんぜよう!」
ラーシュの口調を真似するパドンは今日も絶好調のようだ。
「必要ない。私の仕事の邪魔しないで」
ケイコは指をしならせながらキーボードを叩く。パドンの声に合わせてキーボードを打つ姿はピアニストのようだ。
「はぁ、なんだよ。連れないなぁ」
軽口を叩くパドンの前にヒューガーが現れた。
「パドン、ケイコの邪魔するなよ。お前は一人にすると何しでかすかわからないからな。ラーシュがいない時は俺が見張りにつく」
そこにラーシュもやってきた。
「遅ればせながら馳せ参じた。むっ、パドンより後れを取るとは私も兜の緒を締め直さねば――」
何故かラーシュはブレーダーの紐を締め直した。ケイコはラーシュが靴紐を結ぶのを眺めている。
「おはよう、ラーシュ」
「ケイコ、今日もよろしく頼む」
「ご機嫌麗しゅう、ラーシュ殿!本日の出で立ちも凛としているでござるな~!」
「それで今日集まったのは――」
ラーシュに無視されたパドンは本気で落ち込んでいる。
ヒューガーは気にも留めず話を続けた。
「俺たちの役割について明確にしていきたい。とりあえず現場に急行する役目は俺とラーシュで決まりだ。そしてケイコはブレーダー管理と情報収集を一任する。それでパドンなんだが……」
「パドン様の仕事は索敵と撹乱とかだろ?任せとくれい!」
「陽動は危機察知能力と的確な判断力を要する大役ゆえ、命の危険にさらされるかもしれぬが良いのか?」
「あっ……」
「『あっ』、じゃねぇよ。お前の役割はターゲットの足止めか追跡しかないだろ。前科持ちの分際で口答えするのか?」
「い、いえ……滅相もございません」
「ラーシュに感謝しろよ。まあ、俺だったら速攻で警察に突き出して、報酬もきっちり貰うつもりだったんだからな」
「ラーシュ殿。違った……神様、仏様、ラーシュ様本当に助かったぜ!」
「全然反省の態度が見られない。私、やっぱりこの人嫌い」
「ケイコ、許してやってくれ。反省の弁を口にするだけ成長が見受けられる。本心かどうかは定かではないが……」
「うぅ……ジェットの件は本当に悪かったと思ってる。それに代わりといっちゃなんだけど今日はみんなのために、お得情報を持ってきたんだぜ」
「朗報か、はたまた悲報か」
「盗みを働く口実だったら舌を引き抜くからな」
パドンは咳払いをし、三人の注意を引きつける。まともに耳を傾けるのはラーシュしかいない。
「ジェットの内部に潜り込んでた時の話なんだけど、あの『エディンソン・カンパニー』御用達のオークションが開かれるって噂だ。その中には
「外聞ばかりで聞き苦しいが、その魔刀とやらは聞き捨てならぬ」
「でも全部噂に過ぎないんだよ?私のパパのことだからオークションに出向いても、出品されるとも限らないから。それにお気に入りの商品は全部買い占めちゃうぐらい強欲な人なんだよ!」
「盗みのパドンよりケイコの方が説得力がある。ラーシュは刀に釣られちまってるみたいだが、オークションの警備を理由に忍び込むのは難しい話じゃない」
「それだけではない」
「他に理由があるの?」
「うむ、『エディンソン・カンパニー』が絡んでいるのなら、ジェットが背後にいても不思議ではない。主君、敵地偵察を兼ねてオークション会場潜入の許可を頂きたい」
「ラーシュには何度も助けられてるが、今回ばかりは深追いするな。本当なら俺もついていってやりたいが、メンバーの追加登録の手続きがある。悪いが一人で行ってくれ」
「うむ、心置きなく行って参る」
「私、ラーシュに何かあったら心配だから中央本部の方に応援要請出しとくね」
「ケイコばかりお手を煩わせて申し訳ない。何か恩義に報いる手立てがあれば良いのだが――」
「じゃあ一つだけ、いい?」
「遠慮せず申してみよ」
「ラーシュと二人だけで行きたい所があるの」
「うむ、承知した。胸に留めておこう」
ラーシュは爽やかに答える。
ケイコははにかみながらパソコンに目を移した。
(なあ、ヒューガーの兄貴?)
(なんで声を抑える必要があるんだよ)
(あの二人って付き合ってんのかな?)
(盗人もさすがに人の心は盗めねぇみたいだな?)
(へっ?何のことだ?)
「二人とも仕事の邪魔するなら出て行って!」
ヒューガーとパドンはケイコにつまみ出された。