龍神ボーラスで東方暮らし   作:名無しの永遠衆

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第十一話 聖人との密談

 豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)

 この国の王の血族であり、政治家として統治の多くを差配する権力者。

 その力量は確かで、この国の中央集権化を強く推し進めている勢力の中心だ。

 

 そして青娥の調べが確かなら──────いつかは死ぬ人間の運命に不満を持っている。

 

 この悪趣味な仙人がどんな方法でそれを調べ上げたのかは知りたくもないが、この情報は俺が動くのを決めるに足る情報だった。

 これほどに()()()()()権力者に出会うことが出来るのは二度とは無いかもしれない。

()()に取り入ることで、俺の存在を大っぴらに認めさせるとともに、国ぐるみでの永遠衆の利用をさせるのが最終目標だ。

 

 もちろん、最初からそこまでできるとは思っていない。

 しかし俺には永い寿命を持つニコル・ボーラス(エルダードラゴン)の身体がある。

 まず、最初の数回の接触は当然警戒されるだろうから、敵意がないのを示す事だけを目標とする。

 そして何度か貢物(賄賂ともいう)を贈って敵意を和らげてから、初めて話をする所まで行けるだろう。

 なんならもっと時間をかけても構わない。

 豊聡耳神子の権勢は上り調子で、年齢からしても立場からしても権力の座から引くまでには時間があるはずだ。

 権勢が続く間になんとかして話を通す。

 そして最初は徐々に、ゆくゆくは引き返せないズブズブの関係にしてしまえばいい。

 こちとら金や権力は求めていないんだ、そのぶん相手に大きなメリットを用意する。

 互いに同じ利益という名の車を回す両輪だと分かれば、切り離すのは難しくなるに違いない。

 

「あらあら、悪いお顔になっていますわよ?」

 

(……顔など見えていないだろうが。黙って進め)

 

 気の抜けた……というか最初から緊張などしていない青娥がからかいの言葉を投げかけてくるが、相手をしても喜ぶだけなので会話を断ち切る。

 俺は今回精神体での同行となっているので、例え喋っても只の人には声も聞こえなければ居る事すら感じられない。

 壁もすり抜けられるんだから俺だけでいいんじゃないか、そう上手くは話は行かない。

 接触する相手は神子と呼ばれているが神奈子や諏訪子のような神でもなければ、青娥のような仙人でもない。

 青娥の話では俺の精神体の声は何らかの超常的感覚が無ければ聞こえないとのことで、実際それは俺自身も確かめている。

 つまり一方的な接触にならないためにも青娥の存在は必要なのだ……とても残念なことに。

 

 (みやこ)の豊聡耳神子の寝所は流石の警備が敷かれていたが、青娥の能力の前には意味をなさなかった。

 彼女が妙な形の(かんざし)を壁に当ててクルリと回せば、まるで手品のように穴が空く。

 空けた穴はいつの間にか消えて塞がっているので、見回りの者が穴を見つけることもできない。

 まさに不法侵入のためにあるような能力である。

 

「どうやら、この壁の先のようですね」

 

 そう青娥が手元の見取り図を見ながら言う。

 ……仮にも王族の邸宅の見取り図をどうやって手に入れたのかは気になるが、聞いたら絶対に後悔しそうなので聞かない。

 

 そして彼女が簪で壁に穴をあけると──────

 

 

 ──────夜着を着た女性が剣を抜いてこちらへ向けていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「おやおや、私の寝所に忍び込む不届き者がどんな顔をしているかと思いきや、まさか女性だとは」

 

 剣を構えた女性はそう言い、警戒しながらも余裕のある風情で口を開いた。

 私の寝所、ということは彼女が豊聡耳神子か。

 青娥も自分たちが気取られていたことに驚いていたが、気を取り直して言葉を紡ぐ。

 

「お気付きとは、流石は音に聞こえし聖徳王様。感服しましてございます」

 

「殊勝な物言いだが、寝所に入り込んで言う事ではないな?」

 

 青娥お得意の世辞に対しても一欠片の気の緩みもない、これが王の下で位人臣を極めたる者の在り様というものか。

 警戒は確かにあるが、外の警備を呼んでも青娥をここで仕留められないことも分かっているのだろう。

 そして、相対している青娥では己に傷をつけることはできないという自負。

 先程まで軽口をたたいていた青娥が冷や汗を垂らしていることを考えると、それほど的外れでもあるまい。

 噂は何度も聞いていたが、これほどの傑物とは思わなかったな。

 

(わたくし)は御身と誼を通じたいと思い罷り越しました、霍青娥と申します。今日は顔合わせのみと思い、これにて……」

 

「待て」

 

 すぐさま撤退に移ろうとする青娥を、豊聡耳は引き留めた。

 しかし、その顔に先程までの敵意は無く、むしろ面白い玩具を得た子供のような笑みを浮かべている。

 

「その様子だと、また来るつもりだろう。なら話したいことは言っていきなさい。それに──────まだ紹介するべき者がいるはずだが?」

 

(ッ!?)

 

 豊聡耳の言葉で思わず俺はビクリとしてしまう。

 彼女は人間としては優れているが特殊な能力は持っていないと思っていたのだが、誤りだったのか……

 

(……まさか気付かれるとは思わなかったな)

 

「ふふふ、私の呼び名(豊聡耳)は偽りではない。私の能力は『十人の話を同時に聞くことが出来る程度の能力』、そして私の耳にはその者の欲の声が同時に届く。姿無き程度では私の耳からは逃れられんよ」

 

 青娥め、こんな重要な事を調べ損ねるとは……やはり全面的にあてにしてはいかんな。

 そう思った俺に対して豊聡耳は、「彼女を責めてやるな。人は自分より優れた者を表現しにくいものさ」と付け加える。

 超人的な洞察力、そして驕り高ぶった言い方なのに嫌味にすら感じられないカリスマ性。

 依存させるような関係になろうとしていたが、この傑物相手には俺では分が悪い。

 最低限、俺にメリットがある形で話が通せれば御の字だな、と考えを変え、改めて挨拶をする。

 

(改めて、俺はニコル・ボーラス。エルダードラゴンだ。ここに来るには身体が大きすぎるのでな、精神だけで失礼する)

 

 豊聡耳は俺の自己紹介に「えるだぁ……?」と少し小首を傾げ、「よくわからんが(あやかし)の類か?」と聞く。

 青娥が間髪入れずに「ぼぉらす様は龍の化生にございます」と言うと、「龍か、瑞兆*1だな」とウンウン頷いた。

 俺としては瑞兆と言われるとモヤモヤするのだが、この国ではその方が通りがいい。

 否定するほどの不満があるわけではないのだが……つい、毎回訂正したくなってしまう。

 俺の気持ち────欲が伝わったのか、豊聡耳はクスクス笑いながら「随分と人間臭い龍のようだね」と言った。

 

「さて、ではお話しさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 青娥が豊聡耳に問いかけると、彼女は尊大に、しかしよく似合った風に頷く。

 

「聞かせてもらおうか、君たちの企みを。ただし、愚にもつかない話なら私の耳は貸せないぞ?」

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 俺たちの計画はこうだ。

 権力者たちは青娥の勧める道教を信仰し、超人的な力を得るとともに仙人となって不老になる。

 俺の能力で都で出た死者たちを労働力として使役し、生産性を高める。

 今まで単純労働についていた者たちは武や智の研鑽に努め、死後、自らの身体が子孫の助けになることを誉れとするよう誘導する。

 民がいらぬ知恵と武力を得て蜂起する危険を考えるかもしれないが、その段階に行く前に労働力である俺の使役する死者が行き渡るのが先なので、簡単に鎮圧できる。

 もちろんアモンケットのように積極的に死者を出すことを強要したりはしない、あくまでも生き抜いた後での死者の遺体を利用する形だ。

 豊聡耳には大きなメリットを出した形だが、彼女の顔は渋かった。

 

「権力者だけが仙人として不老を得るのは良い、だが神道の教えが主流の今、死とは穢れだ。生活が楽になると言えど、簡単に受け入れられるとは思えん」

 

 もっともな意見だったが、豊聡耳自身、この計画を馬鹿らしいと切って捨てなかった事から魅力は感じられたとみていいだろう。

 なんとか妥協点を探さねば、と考えたところで青娥が口を出す。

 

「ならば民には神道に仏教を混ぜて教えを広めればどうです? 仏教では死とは次の生の始まり。魂は彼岸へ赴き、此岸に残された身体は朽ちず子孫のため働き続けるのだ、とすれば」

 

「なるほど……ならば、黄泉平坂の岩戸を開き伊邪那美神と和解した、と言って神道派を懐柔するのもありだな」

 

(……)

 

 実際仙人化以外をやるのは俺なのだが、二人の頭の回転が速すぎて追いつけない。

 早々と豊聡耳に俺に兵力を向けない限り、永遠衆の指揮権を貸すという条件を付けられた他はほとんど話に入れなかった。

 

 

 三つ子の魂百までというが、やはりどれだけ生きても俺は凡人だなぁ、落ち込むわぁ……

 

*1
めでたききざし、吉兆。

「カードとしての効果」と「ストーリーでの役割」、どちらを重視して欲しいですか?

  • 「カード効果」に準拠して欲しい
  • 「ストーリーの役割」っぽく柔軟に
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