龍神ボーラスで東方暮らし   作:名無しの永遠衆

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アンケートを鑑みて進めていきます。
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第十二話 骸伝永年不朽法、施行

 豊聡耳神子との初対面は思った以上に良好な結果で終わり、その後も幾度か彼女と密談の場を設けた。

 俺はできないことを述べるくらいで豊聡耳と青娥の話し合い(わるだくみ)にはほとんど参加しなかったが、「君は力を持つ者としては浮薄すぎる」という豊聡耳の言葉の下、彼女直々の帝王学講座を強制履修させられるハメになってしまった。

 彼女の"耳"は余程いいのか、俺の気が逸れ始めるとすぐに気付く。

 俺が"協力者"として相応しくなるようにするためだ、と言われると断ることもできず、小難しい心構えや偉そうな言動の意味などを懇々と説かれることになった。

 

 そうそう、何度目かの密談から新たに加わった者が2人。

 1人は銀髪の小柄な少女、物部布都(もののべのふと)

 もう1人は薄緑色の髪をした女性、蘇我屠自古(そがのとじこ)

 両者共に豊聡耳の信頼厚い人物であり、今回の計画について知るに値する者達だと紹介された。

 詳しい立場を聞いてみたところ、なんと2人は廃仏派の物部氏と親仏派の蘇我氏、それぞれの氏族の姫なのだという。

 敵対する勢力の重要人物同士が裏でつながっていて、しかも全く別の道教を信奉して不老を目指している……まさに複雑怪奇、魑魅魍魎の世界だな……

 

 彼女ら2人は豊聡耳ほど超常的な感覚は持ち合わせていないようで、俺の声を聞き取ることはできなかった。

 ただ物部の方は"地脈や気の流れ"についての知識に明るいらしく、俺の精神体がいる所が「不自然に陰の気が強い」と存在を朧気にだが感知しているようである。

「陰の気」というのは例によって黒マナの事だろうな。

 本体に繋がってるだけでマナを余所から使う必要のあった龍師範時代と違って、今の精神体は本体からマナを引っ張ってこれる。

 それ故に黒マナの比率が高くて不自然に感じられるのだろう。

 こういう判別法もあるのなら、精神体だからって過信しすぎることはできない。

 あんまり調子に乗って多用しすぎるとエライ目に遭いそうだ。

 

 

「太子様、本当にコイツ……ら、を信用していいんですか?」

 

 疑問を呈したのは蘇我の姫、屠自古。

 まあ妥当な話ではある。

 彼女からは俺の存在も全く感じ取れないので、計画の話を彼女らにしているのは胡散臭さ満点の青娥だ。

 少しでも豊聡耳を案じる心があるなら疑ってしかるべきだろう、俺も同じ立場なら疑う*1

 そんな彼女の言葉にもう1人の姫、布都が異議を唱える。

 

「なんじゃ屠自古、こやつらを信じた太子様を疑うというのか! 青娥殿も仙人として腕は確か。理由なく疑うのは失礼であろう」

 

 こちらの言い分は人を見る目の確かな豊聡耳の意見への信頼、という名の考えの放棄である。

 実際に豊聡耳が有能過ぎるからこそ正論になるのだが……後半については素直過ぎて少し心配になってくる。

 もうちょっと疑ってもいいと思うよ?

 

「屠自古、布都。彼らの欲を私の"耳"は聞いた。利益を得ようとする心が無いとは言わないが、騙りは無い。それに故無い者に無私の奉仕を求めているわけではないからね」

 

 豊聡耳の言葉に不満気ながら言葉を呑み込む屠自古と、なぜか自慢げに胸を張る布都。

 対照的で敵対する勢力に属する者同士の2人だが、その立場からは意外なほどに仲が良い。

 2人の相性がいいのもあるだろうが、やはり豊聡耳に心酔する者同士というのが大きいのだろうな。

 布都は素直過ぎるが、屠自古が歯止め役になって上手く回っているように見える。

 そんな気はないが、豊聡耳を裏切ったら地の底まで追いかけてきそうだ、くわばらくわばら。

 

 

(では明日、ついに決行ということでいいのか?)

 

「ああ、根回しも済んだ。あとは君と私がどれだけ衝撃を与えられるかでやり易さが変わってくる。ここまで私の教えを受けたんだ、できないとは言わせないよ?」

 

(……楽な仕事というのはどこにもないものだな)

 

 最後の密談を終え、帰る間際の会話でも容赦なく発破をかけてくる豊聡耳。

 最初は、表向きは吉兆の珍獣枠で入り込んでもいいかなと思ってたんだが、そんな話は跡形もなくなってしまった。

 威厳のある態度というのを衆目にわかるよう示さねばならないのは気が重いが、これが上手くいけば中央の権力構造に大きく食い込めるのも事実。

 ハァ……仕方がないと割り切るしかないか……

 

「ぼぉらす様、御一緒には行けませんが成功をお祈りしております。頑張って下さいまし」

 

 ニコニコしながら青娥が激励してくるが、これは面白がってる顔だ。

 くそぅ、青娥の奴め、自分が完全に裏方だからって煽ってきやがる。

 上層部の一握りだけが『選ばれて』不老になるという筋書きなので、青娥の存在は秘さねばならない。

 俺だってドラゴンボディがあんなに大きくなけりゃそっちがよかったよ……

 

「むむ! よく分からぬが、ぼぉらす殿こそ計画の要。この布都も応援しておりますぞ!」

 

「あー……姿も見えねー奴にこういうこと言うのも変な感じだが、アンタには太子様も期待してるんだ。せいぜい頑張りな」

 

 ああ、布都と屠自古の激励が心に沁みる。

 一緒に行動しているこの性格ひん曲がった邪仙とはえらい違いだ*2

 

 さあ、早く帰って明日に備えなくちゃいけないな。

 

 

 

 明日には、この国の歴史が大きく変わるのだから。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 陽も沈みかけ、空が紅く染まる刻限に、都の朝廷では内裏の大きな庭で式典の準備が調っていた。

 今朝の朝議にて、時の権力者である豊聡耳神子が「黄泉の神より託宣を受けた」と言い放ち、「夕の刻限に龍神がやってくる」と告げたからだ。

 位の低いものの言葉ならば笑い話にもなろうが、豊聡耳神子ほどの者の言葉となれば何かしらの行動はせねばならない。

 半信半疑より些か疑の勝つ話ではあったが、朝廷の警備含め、権力者の怒りを買いたくない者達は「どうせ形だけだ」と式典の用意をした。

 普段は何日も、あるいは何週間もかけて行事の準備をするところを、たった半日弱で用意をしたので朝廷は今日一日上へ下への大騒ぎだった。

 陽が沈み、夜になれば太子様の気も済むだろうと考えていた者たちの眼に、太陽の方角の空に浮かぶ影が映る。

 影はみるみるうちに大きくなっていき、立派な翼と双角を持った異形の龍が自分たちの前に降りてきた。

 本気にしていなかった者たちが腰を抜かし、警備の武官ですら圧倒されて何もできない中、豊聡耳神子が前へと進み出る。

 

「龍神よ、御身を歓迎する」

 

 太子の声は涼やかで、恐れを欠片も感じさせなかった。

 次の瞬間には異形の龍によって太子が害されるのではと周りは怯えていたが、龍は思ったよりも落ち着いた、深みのある声で応えた。

 

「豊聡耳神子よ、黄泉の女神は其方を祝福する。神徳において死者は其方にひれ伏すだろう」

 

 その言葉とともに、何処からか青い光沢を放つ鎧を全身に着た死人が現れ、次々と太子の前に跪く。

 この段になって、太子の言葉を疑っていた者達は己の不明を恥じ、人よりはるかに優れていた太子が名実ともに一つ階梯を上がったのだと感じた。

 跪く死人達を前に頷いた太子は、後ろにいる大勢の者達へ向け声を上げた。

 

「聞け! 我に与えられし神徳により死者はこれより生者とともに歩む(ともがら)となる! 死に抗い生き抜いた身体は死後も、子々孫々の助けとなり永遠に続いて行くだろう!」

 

 その言葉を瞬時に理解できたものはいなかっただろう。

 しかしその場にいた誰もが、新たな時代の訪れを肌で感じていた。

 

 

 

 後の世に『骸伝永年不朽法(がいでんえいねんふきゅうのほう)』と呼ばれる制度の、それが始まりだった。

 

 

*1
共犯者に対する溢れるヘイト。

*2
超失礼。


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