龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
豊聡耳と俺がグルになってやった壮大な茶番劇は一応の成功を収め、俺は黄泉の龍神(大嘘)として都に迎え入れられた。
各所にこの大事件を伝えるために文官たちは上へ下への大騒ぎ、武官たちもまた他人事ではなく、龍神来訪によって起きつつある都の騒ぎを鎮めるために衛士たちの応援に駆り出された。
俺のやることと言えば、豊聡耳の言葉に重々しく頷いたり、虚勢で強気な態度を見せようとした者を威圧したりするくらいだったが、朝廷の上層部では緊急朝議が開かれ侃々諤々の論争となっていたらしい。
最も大きな争点は、"
現世に降臨した神、それも黄泉の女神の配下ということは国生みの女神に仕える神ということ。
対してこの国の王は、その女神の夫である男神が彼女と訣別した後に生み出した三貴神の一人、太陽の女神の末裔である。
豊聡耳とのやりとりから王族に含むものはないと見て取れるものの、黄泉の神が王族の下に置かれて耐えられるだろうか。
しかして至尊の座にある王の上に龍神を置くとなれば、この国の統治そのものが揺らぐ。
夜が明けるほどの長い論戦の末、朝廷は『受け入れつつ、隔離する』という玉虫色の回答を出すに至った。
すなわち、『都から北東に龍神を祀る
勅は王族である豊聡耳を介して俺に伝えられたが、予定地はいまだ原野で工事にはこれから取り掛かるとのこと。
"それまでは宮廷にてゆるりと休まれよ"なんて言われたが、冗談じゃない。
ここの庭先を借りるのも、宮廷の噂雀どもの視線を集めるのもご免だ。
北東に腕をかざし、ここらの土地のマナを借りて都から少し離れたところに《王神の玉座》*1を出現させる。
土台部分はともかく上ににょっきり伸びた二本角の飾りは宮廷からでも見えるほど巨大で、官吏たちからどよめきが起きるが、俺がそれっぽく"相応しく整えさせてもらった"と言うと、感嘆の声に変わる。
……やった後で思ったけど、これ予定になかったよね、大丈夫?
恐る恐る豊聡耳に視線で問いかけると、むしろ"よくやった! "と言わんばかりにニッコニコだったので胸を撫で下ろす。
その後は、適当に話を合わせて"豊聡耳の味方するよー、でも王様まで押し上げるつもりは無いよー"って感じの内容を回りくどく伝え、恭しく礼をする豊聡耳と官吏の前から飛び立った。
大きく翼を広げて宮廷の上空を何周かしてから先程《王神の玉座》を出した場所へ向かったが……はっきり言って、疲れた。
会話のやり取りなども事前の帝王学講座で叩き込まれたが、何分付け焼刃で演技指導に近いありさまだったので、長時間するのはどうにも気分的に肩が凝る。
まあでも、顔見せが終われば今後は『祝福を受けた豊聡耳のみが拝謁する』という建前で他の奴らとやり取りしなくてよくなるらしいので、必要な苦労だったと思おう。
居住場所の指定をされたこと以外は、ほぼほぼ想定の範疇。
これから豊聡耳による反対派や様子見の中立派の切り崩しを待って"死者の労働力"を導入、依存度を高めて多数派となればもう誰にも止められない。
クックックッ……この国には俺の力で安定して繁栄してもらう……
─────────だからゲートウォッチやウギンが来たら、代わりに命乞いしてくれよな!
俺が《王神の玉座》に居を構えてしばらく。
周りには天幕などが張られ、急ピッチで建物が建設されている。
豊聡耳の接触待ちになった俺は、とりあえずこれから必要となる"死者の労働力"の頭数を揃えるために動き出した。
幸い、都の近辺の神はほとんどが神奈子のような"神霊"で、俺がマナを使うことを妨げる"土地神"や"土着神"はいない。
それにここらは諏訪と違って白マナを生み出す土地もあったので、新たに永遠衆とは別系統のゾンビを出してみることにした。
《仕える者たち》。
アモンケットで単純労働から農作業、鍛錬の相手や身の回りの世話までこなしていたミイラたち。
白い包帯で全身グルグル巻きだから髑髏のインパクトが強い永遠衆より印象が柔らかいし、マナカラーも白なので穢れも多少は薄いんじゃないか?
何より一度で複数体出るのが嬉しい、一体ずつ出すのは数を揃えるには効率が悪いからな。
そしてもう一つ新たな試みをしてみることにした。
それには《不朽処理者の道具》というアーティファクトが関わっている。
このアーティファクトは『墓地で発動するクリーチャーの能力』*2を使う時のコストを軽減する効果があるのだが、むしろ今回注目したのはこの道具のストーリーでの役割だ。
アモンケットで使われたこの道具は、《仕える者たち》のようなミイラが遺体を不朽処理して自分と同じ働くミイラとするためのものである。
ゲーム上ではコストを軽減するくらいの能力しかなかったが、ストーリー的に考えるならば、これを使わせれば勝手にミイラを増やしてくれるんじゃないか、というのが狙いだ。
いきなり人間の遺体で試すのもアレなので、俺の食事用と称して献上して貰った鹿でまず試してみることにした。
結果は成功、包帯で巻かれた鹿ミイラが生まれた……まぁこれに関してはゾンビ・猫トークンとかもいたし失敗するとは思ってなかったが。
何はともあれ、これで遺体さえあればミイラを俺の手を経ずに増やすことも可能になったわけだ。
国が発展していけば寿命以外の死亡も減って平均寿命も延びるだろうが……それまでに十分な数のゾンビたちは得られる見通し(豊聡耳予測)だ。
まさに濡れ手で粟、俺もその分のマナを他に回せるようになるし、笑いが止まらないなぁ!
……おっと、豊聡耳直伝帝王学曰く『驕れる者は高転びに転ぶ』だったか、地盤を固めるまでは堅実に行かねば。
ニコル・ボーラスの最期的にも、シャレにならないしな……
周りの建物を含めた俺の住居、通称"龍洞御所"も結構できてきた頃、豊聡耳がやって来た。
遺体の入手はまだできなかったのでマナで色んな永遠衆やミイラを出したり、《王神の玉座》の近くに《不滅の満月》を設置したり
「久しいな豊聡耳、少し遅かったのではないか?」
俺の文句に、豊聡耳は恭しく跪きながらも余裕綽々に返す。
「一見無駄に見える時間を置くというのも、大局を見据えれば必要な事さ。おかげでもう労働力としての受け入れは限定的には許可が下りたよ」
「ほう……流石の辣腕だな」
許可が下りたということは中立派をほぼ取り込んだか反対派が切り崩せたという事、どちらにしても、具体的な成果や実績もなしに簡単に行えるものではない。
「権力者もまた人間、元来臆病なものだ。しかし君が今まで大人しくしていたという事実が臆病さを眠らせ、現世利益という欲が彼らを揺り動かす。後はその方向性を導くだけだったよ」
流石は『十人の話を同時に聞くことが出来る程度の能力』の持ち主、欲の声を聞き、その者の本質を見据える超人的な洞察力の主は思考誘導も得意らしい。
良いなぁ、俺もボーラス様みたいな《ドミナリア*4最古の悪》とか《マジック界における究極の悪の黒幕》みたいな二つ名に見合う知性が欲しいもんだ。
「しかし、中には聞く耳を持たんという奴らも居るだろうに、よくやったものだ」
「そちらはもっと簡単だったよ。強硬な反対派は物部氏だったのでね。布都の情報が役に立った」
そうか、豊聡耳は布都姫と屠自古姫を通して朝廷の二大勢力である物部氏と蘇我氏の中枢にパイプがあるんだ。
これじゃあどちらも手を打とうにも全てのタネが割れてるようなもんじゃないか、えげつない……
「そうか……で、これからどうする?」
「まずは下層の貧民へのテコ入れからだね。そこの待遇が明らかに良くなれば、羨ましい上は否応なしに引きずられていく」
底辺が恵まれれば、上も同じように恵まれなければ納得できなくなるという事か、なるほど理に適っている。
そして贅沢や楽したことは習慣になりやすい、一度味わえば苦しい暮らしには戻れまい。
それが最初は悪印象だったとしても、底辺は生きていくことの方が大事だから受け入れるだろう。
そこまで考えられた策か……味方だと頼もしい限りだ。
「そうそう、これで君との謁見もそれなりにできるようになるから、次から帝王学の講義を再開することにしよう。研がねば鈍るのは当然の事だからね」
えぇ……あれで終わりじゃなかったのか……
いつになったら楽ができるのやら…………