龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
私の名前は東風谷早苗、中学三年生です。
先日、15歳の誕生日を迎え、母から守矢神社の
私の家系は代々、守矢神社の神職を務めてきた家系。
この諏訪の地に根を張る由緒正しき神社である守矢神社に、遥か昔から仕えています。
正式に風祝の役職を継いだ私の朝は、境内の掃除から始まります。
朝の弱い私は毎日が眠気との戦いですが、
朝早くに神社の参拝に来る方もおられるので、おろそかにはできない仕事です。
掃除が終われば朝食の時間。
テレビが流す朝のニュースを見ながら、母の作った朝ごはんを頂きます。
『──────県警と永遠衆の方々の合同による【王神派】団体の一斉摘発が行われ、複数の逮捕者が──────』
ふむふむ、今日のニュースは宗教カルトの摘発ですか。
同じ宗教関係者としては、なんだかなぁ、という気分です。
【王神派】、世界で唯一現世に残った神として龍神様を、神々の王たる『王神』と信仰する新興宗教。
崇める龍神様自身が弾圧しているのに、いなくならないのは何故なんでしょうね?
それに、現世に唯一残った神、という考えも不快です。
みんなには見えないだけで、神々はこの世に
ご飯を食べたら、制服に着替えて通学カバンの中身を最終チェック。
私の家兼社務所は学校から近いですが、取りに帰るには坂道がつらいので念のため。
教科書が全部そろっているか確認していると、後ろから声がかかりました。
(さなえー、そろそろ出ないとヤバいんじゃない?)
時間を注意してくれたのは、諏訪子様でした。
金髪の
その姿は時代の流れによる信仰の変化によって、今では私と母にしか見えませんが、この国で広く信仰されている龍神様より私にとっては身近な神様です。
「ありがとうございます、諏訪子様。じゃあいってきますね」
通学カバンを持って玄関から出ようとする私を、諏訪子様は"神奈子にも挨拶してやりなよー。ほっとくと拗ねちゃうから"と悪戯気に笑って送り出してくださいました。
その言葉に笑みで返し、拝殿の前へ向かいます。
神奈子様は普段本殿の中で過ごされていますが、毎朝のこの時間はいつも拝殿に出てこられます。
拝殿の
「神奈子様、いってまいります」
(ああ、ケガしないように気を付けなさいよ)
微かにほほ笑んで返して下さる守矢神社のもう一柱の祭神、神奈子様。
その身に纏う威風から、最初は諏訪子様より近寄りがたく感じられた神奈子様ですが、本当は深い優しさをお持ちです。
お二方についてみんなと感想を共有できないのはモヤモヤするところですが、私は優しいお二方に風祝としてお仕え出来てとても幸せです。
通学路では、冥侍の方が伸びた草刈りやゴミの清掃といった作業をしてらっしゃいました。
全身を白い包帯で覆った姿をした冥侍の方は、社会貢献を重ねて
それを龍神様の秘儀によって、生前と変わらぬ能力で生きている者の為に働き続けられるようにしていただいたものです。
古き時代と違い、現代では冥侍の方や永遠衆になることが出来るのはほんの一握り。
生前に抜群の功を成し得た者にだけ許される狭き門です。
特に戦争となれば、国民を守るために最前線で恐れも疲れも知らず戦う永遠衆や、その精鋭たる戦慄衆は小さな男の子の誰もが夢見る
かたや、冥侍の方は永遠衆に選ばれし者たちと違い派手さはありませんが、食料の生産や単純労働、インフラの維持、介護にいたるまで……
私たち生きる者がより高みに至るために、様々な労働を肩代わりし、死した己より先を進もうとする私たちを見守ってくださっています。
礼儀として、一心不乱に作業にいそしむ冥侍の方に一礼して敬意を示し、学校に向かいました。
学校では中学三年生ということもあり、修学旅行の話で持ちきりです。
私の通っている学校では毎年、
首都である京都の人気も高いですが、それよりも、龍神様の
同級生の話の焦点は、3泊4日の修学旅行の間に古都の上空を舞う龍神様を目撃できるかどうかのようです。
龍神様のご機嫌が良ければ、龍洞御所から空へ飛び立つ龍神様を見られるそうなのですが、何分時間は限られているので見られないなら京都の方がいいのでは、という意見もあるみたいです。
私としては、もちろん龍神様も見てみたいですが、古都の独特の石造建築の数々を見て回るのも悪くないと思います。
それに古都には、王治から法治へと国体が変わっても政策顧問として政府に名を連ねる不死の皇族である"神子様"と、己の氏族の叛乱をいち早く知らせた功をもって侍ることを許された忠臣"布都姫"、彼女を庇い肉体を失えども神子様に仕え続ける英霊"屠自古姫"の住まう離宮もあります。
この国の中央集権の流れを学ぶにはぴったりだと思うのですが、友達に言ったら"早苗ったらマジメすぎー! "と言われました。
なんででしょう……?
家に帰り、本殿の掃除をしていると諏訪子様に声をかけられました。
(いやー頑張ってるね、少しは力を抜いたら?)
「そうはいきません、私はお二方に仕える風祝ですから!」
私は意気込んで答えたのですが、諏訪子様は少し寂しそうな顔をして
(そうは言っても、もう時代が時代だからねぇ。信者も龍神を信じているから私たちの存在を信じてるだけで、畏れなんかない。消える心配はしなくていいけど、昔のように、とはもういかないからさ)
"だから適当でもいいんだよ? "と言って去っていく諏訪子様に、私は悲しさを感じます。
みんなが私と母のように、お二方を見ることができれば諏訪子様の諦感を解くことができるのでしょうか。
……いいえ、そもそも龍神様の影響力は破格です。
もしお二方がみんなの目に映るようになったとしても、今度は龍神様と比べられて幻滅されるかもしれません。
そうではなかったとしても、龍神様ほどのご利益無しには諏訪子様の言う"往年の力"は戻らないでしょう。
死者とともに生きる今のこの国の体制を作り、"聖戦"と称して攻め来る侵略者を打ち払ってきた大いなる庇護者たる龍神様が、とてつもなく大きな壁のように感じられました。
神奈子様も、諏訪子様のように現状に諦めを感じているのでしょうか。
それとも……この国の守護神とさえ言える龍神様に反感を抱きながら堪えているのでしょうか。
わかりません、しかし、後者だとするのならば、神奈子様はいつか行動を起こすでしょう。
神奈子様は神としての己への自負に溢れたお方です。
もしそれが龍神様に対する叛乱と言えるものだったとしたら……
いいえ、迷ってはいけません。
私はお二方に仕える今代の風祝。
たとえ地の果てでも、お二方にお仕えし、付いて行く所存です!