龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
後日、豊聡耳に八雲との対談について話すと、彼女は目を細めて笑みを浮かべた。
顔は笑ってるけど、目が笑ってない……これは説教されるやつか?
「基本的には君の考えは間違ってない。けれど、迂闊に言質を取らせるものではないよ。交渉を長引かせるのは面倒かも知れないが、相手の譲歩を待つ以外にも、自分の懸念を相手に伝える意味もあるのだから」
実力者を敵に回さないという考えは及第点だがね、と付け加えられたが、全く嬉しくない。
俺も
どうしてもこういう事は経験がモロに出る。
いや、原作ボーラスでも"従え、さもなくば死ね"って感じで交渉とか考えてなかった気もするけど。
「おそらく君との交渉に焦点を絞ったのは、永遠衆が君の一元管理の下に成り立っていることを知られたからだろう。君から言質をとれば、死人の戦力を利用する私の方はなし崩しに従うと見たのさ。……少し、不快だね」
なるほど、俺は"豊聡耳でもこれは受け入れられる"と考えたが、八雲は"俺から言質をとれば豊聡耳も聞き入れざるを得ない"と考えたわけだ。
まあ物理的なパワーで見ればそうかも知れないが、俺はゲートウォッチとかの対策にこの次元での正当性を求めている。
そこに俺と八雲との間の思考のズレがあったんだな。
「聞けば摩多羅隠岐奈という神もいたらしいじゃないか。摩多羅神は被差別民の神でもある、朝廷によって排斥された者も吸収して隠れ里を創るつもりなのだろうさ。まあそういう民の受け皿ができると思えば悪いことじゃない」
俺としては将来のことを考えて民の幸福度は上げても無駄にならないから、被差別民がわざわざ隠れ里に行ってくれるのは問題ない。
どうしても差別というのは取り除きにくいからな、棲み分けで文句がでないならむしろ助かる。
……造反者みたいに俺にヘイトを高めてないか八雲と連絡を取り合いたいところだが。
「私が尸解仙となったからといって、まだまだここは出発点だ。繫栄させるより衰退を防ぐ方が舵取りは難しい。君にも期待していいかな?」
「任せろ、
謁見の予定もないある日、俺は青娥とともに実験を行っていた。
実験対象は《不滅の満月》。
永琳が改造したこのアーティファクトは、この次元へのプレインズウォーカーの移動を封じる機能がある。
では、実際に呼ぼうとしても来ないのか、というのが今回の実験の趣旨である。
プレインズウォーカーであるプレイヤーがプレインズウォーカー呪文を唱えるのは、異なる次元から同盟者を呼び寄せることの表現だ。
ならば、俺がマナを使ってプレインズウォーカーを唱えても、《不滅の満月》で来れない、という結果が起きれば成功である。
もちろん俺にとって危険な相手を呼び出すつもりは無い。
ニコル・ボーラスが利用したり配下にしたプレインズウォーカーは数多いる。
ドラゴンを崇拝するシャーマン"サルカン・ヴォル"*1、暗殺者を率いる女ゴルゴン"ヴラスカ"*2、オルゾフ組のギルドマスターとなった"ケイヤ"*3、イゼット団のギルド魔道士"ラル・ザレック"*4、グルール一族の若者"ドムリ・ラーデ"*5、アゾリウス評議会大判事"ドビン・バーン"*6……
たくさんいるにはいるのだが、大半が利用されたことを恨みに思っていたり、見放したり、裏切ったりしている。
"リリアナ・ヴェス"とかは呼べたらノータイムで殺しにかかってくるだろうし……人選が難しいな。
考えに考え抜いた末、対象は"テゼレット"にすることにした。
テゼレット……5つに分かれていたアラーラ次元の断片の一つ"エスパー"出身の工匠。
死にかけてボーラスのいたグリクシス次元に転移してしまったせいで、長らくボーラスの配下として活動していた。
霊気を封じ込めた合金"エーテリウム"に体の一部を置換しており、アーティファクトに造詣が深い。
策謀を好む傾向は要注意だが、生き残ることにかけては定評のある男だ。
しかし、ここでもう一つの疑問ができる。
ゲームでは同一人物の別カードが同時に戦場に出ることも、過去と現在の同じ人物が出ることもあったが、現実ではどのようなことになるのか。
ラヴニカ次元にあるはずの《不滅の太陽》が出せたのだから、俺のマナで出てくるのは史実の本物という訳ではないのだろう。
ならば人格を持った人物はどうなるのか、コピーでありつつ同じ人格を持っているのか、今回の実験はそれを確認することも含めている。
複数の要素を一度に確かめるため、呼び出す為のマナは《次元橋》*7と合体する前の姿である《策謀家テゼレット》に準拠しておく。
「来い、《策謀家テゼレット》」
俺が唱えるとともにマナを込めると、体から抜け出たマナが集まって人の形をした
「あれ?」
実体化しないのは別にいい、しかし
呆ける俺を余所に、青娥はその
おかしい、込めたマナの分はキチンと減っているし、実体化もしないのに残り続けるとは……
試しに《不気味な修練者》を出してみるが、こちらは何事もなく成功した。
うーん、予想した失敗ではないし、成功とも言い難い。
この事象について考えを巡らす俺に、検分を終えた青娥が声をかけた。
「これは不完全な霊体のようですね。魂魄の魂の部分が足りず、自我が存在しないあやふやなもの。術で実体化させることも可能でしょうが、こちらの命令に反応すらしない
ほう、そうなるのか。
これは過去の姿を呼び出そうとしたせいなのか、それとも《不滅の満月》に妨害されたからか。
どっちにしろゲートウォッチやウギンをそのまま呼び込まれることを警戒する必要は少なくなりそうだ。
それに、それならそうで
「青娥、そいつを実体化させろ」
「良いのですか? 先程言った通りこれは……」
「いい。操る方法はいくらでもある」
コントロール奪取もボーラスは得意なんだ、問題ない。
青娥が術をかけて霊体が実体化していくと、霊体はドレッドヘアーに近い髪形をした壮年の男の姿に変わる。
右腕は銀色の鉤爪にも似た義手になっていて、その顔つきは俺が言うのもなんだが油断ならない悪人顔だ。
しかし実体化し、
こいつは灯争大戦でボーラスを見放して逃げたから、報復にビビらないことから自我がないというのは本当のようだ。
「こっちへ来い」
試しにさっき呼んだ《不気味な修練者》とともにこっちに来るよう命じてみるが、動くのは《不気味な修練者》だけでテゼレットは動かない。
まあ、ここまでは予想通り、後は……
「《ボーラスの手中》」
凶悪な、エンチャント型のコントロール奪取呪文。
大量の青マナがテゼレットに吸い込まれると、一瞬だけビクンと彼の身体が揺れる。
「よし、こっちに来い」
確かな手ごたえを感じて改めて命じると、テゼレットは虚ろな顔のままこちらに歩いてきた。
成功、だな。
抜け殻の精神を俺によって掌握されたテゼレットは、操り人形同然だ。
ちょっと悪行ポイント高めかも知れないが、テゼレットもラヴニカでは指名手配犯だし、多少酷く扱ったって引き渡せば文句は言われないだろう、ヴラスカもドビンを匿おうとしてたし。
青娥は自我のない霊を使役する術に興味津々のようだが、悪用するとしか思えんこいつに詳しく見せる義理はない。
《ボーラスの手中》は伝説の呪文という特殊なカテゴリーの呪文なので、複数対象には同時に使えないしな。
まあ今回で十分な実験結果も出たし、これ以上はしないでおこう。
自意識が無い以上、テゼレットには何をさせるべきか……
とりあえず、能力を活かして"エーテリウム電池"でも生産しててもらおうかな*8。
この判断が、のちのエネルギー事情を大きく動かすとは、この時は俺自身も全く気付いていなかった。