龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
とりあえず、新しく配下に加わったテゼレットについて
ごめんって、予定ではこうなるはずじゃなかったんだって。
文句は言われたものの、豊聡耳は手早く根回しを終え、テゼレットに作業をさせる場所も手配してくれた。
突貫作業で龍洞御所に
材料は、俺に当てられた歳費で購入された幾らかの卑金属と
エーテリウムの生産には本来はサングライト、あるいはカルモットという赤い特殊な鉱物が必要なのだが、これは実は戦闘で死亡したドラゴンの血の化石なのだ。
なので俺の血で代用できないかと試させたのだが、思ったより簡単にエーテリウムの試作は完成した。
エーテリウムは肉体の一部と置換して埋め込むことで寿命の延長や魔法の才能の向上、知性向上などの効果もある不可思議な合金であるが、過剰に置換しすぎると《エーテリッチ》というアンデッドの怪物になってしまう。
死者の労働力を使っている手前、管理外のアンデッドが多発して評判を下げるのは避けたい。
そういう思惑の結果、テゼレットは内匠寮外局でエーテリウム電池を造り続けている。
豊聡耳に何に使うのか聞かれたので"緊急時のマナ供給用*2"と答えたが、興味を持った彼女が"他の者にも何かに使えないか試させたい"と言ったのでいくつか譲った。
材料費もそんなに高いものじゃないし、別の利用法も見つかるといいな。
朝廷の支配圏の拡大、そしてその支配域での冥田収受法と骸伝永年不朽法の施行が軌道にのると、時間は驚くほど早く過ぎていった。
豊聡耳と組んで物部氏を討伐した蘇我氏も、屠自古姫の甥とその息子の代で増長して大コケし滅亡、今は分家がほどほどの名門として残るのみだ。
代わりに台頭してきたのが藤原氏、こっちは今の王と組んで朝廷で幅を利かせている。
王も何度も代替わりして、何代か前の王が突然別の場所に都を造ると言い出したのには驚いたものだ。
豊聡耳いわく"私を目の上の
大丈夫なのかと聞き返すと、"周りを
豊聡耳が固めた政権基盤は盤石なようで、造都後に王が代替わりすると執務の救援の依頼がすぐさまやってきたくらいだ。
今は政策指導という体で助言の立場をとっているが、未だにこの国を動かしているのは実質豊聡耳だというのは変わらないらしい。
俺は大きくこの国の歴史を動かしたが、それが安定してきて、悪いものではないという事もこの頃になると周知の事になり、いつしか"降臨祭"という催しが開かれるほどになった。
"降臨祭"、まあ俺が黄泉の国からやってきた(大嘘)ことを祝うという趣旨の催しなのだが、初めはガチガチの堅苦しい祭礼だった。
俺としては本当は神じゃないし、都のお偉いさん方に延々祝いを述べられても嬉しくない。
そこで、豊聡耳に頼み込んでかなりソフトな、縁日みたいな祭りにしてもらった。
この日だけは待機中の《仕える者たち》や永遠衆もフル稼働して生者は仕事から解放される。
生者は生きている事に感謝し、死者に助けられていることを改めて感じる、そんな日だ。
……結果としてその日は龍洞御所への参拝者が激増し、気疲れする日でもあるが、一日二日くらいはそんな日があってもいいだろう。
降臨祭の日は大勢の人が龍洞御所へやってくるため、行列のできる参道には永遠衆たちが俺の歳費から買った食べ物を配る屋台などを設けていて結構騒がしい。
直接民衆に謁見させるのはやり過ぎだと止められたので、参拝者たちはお堂のような部屋で《ボーラスの肖像》*3を眺めるだけだ。
そんな中、俺は謁見の間から精神体で抜け出して民衆の雑談などに耳を傾けている。
豊聡耳たちは身分が高いから卑近な噂話など聞けないし、青娥だと妙なバイアスかかってそうだしな……
民衆の間で今最もホットな話題は、一介の竹細工師から富豪になった老夫婦の一人娘が何処へ嫁に行くからしい。
なんでもこの娘、とんでもない美人らしく、5人の貴族が名乗りを上げるもけんもほろろに断られたのだとか。
正確には見たこともない宝物を持ってくることを条件に出されたそうだが……そういやこの前、俺の角の間の宝石が欲しいって謁見求めてきた貴族がいたな、断ったけど。
まあ結局5人とも断られて、もう王が側室に上げるくらいしかないんじゃないかという下馬評だ。
今の王もそんな女好きとは聞かないが、それ程の美人なんだろうな。
ていうか、全体的にすごい『竹取物語』な感じがする……この次元世界は本当に日本に酷似してるんだな。
あれ? ってことは、最後にかぐや姫は月に……
そのことに気付いた俺は、急いで青娥を呼び出し、二度目の深夜訪問に出る決意をした。
「ウフフ、こうしてぼぉらす様と企み事をするのは久しぶりですね」
(人聞きの悪いことを言うな、さっさと進め)
いつぞやの豊聡耳との密談よろしく、俺は精神体で青娥を伴って
豊聡耳にも一応伝えはしたが、若い娘に古い知り合いへの伝言を頼むという支離滅裂な内容に首を傾げていることだろう。
実際、竹取物語がモチーフだと思うからという薄弱な根拠に基づく行動であり、娘が月と無関係なら無駄足にしかならない。
それでも……わずかにでも可能性があるなら、彼女に俺からの言葉を伝えたかった。
「あらあら、この程度の警備ならば、わたくしは必要なかったのでは?」
(それだと俺の声を聞けなかったらどうするつもりだ。分かり切ったことを抜かすんじゃない、口元を隠してても笑ってるのが見え見えだぞ)
「これは失礼いたしました。それではこちらから入るとしましょう」
慇懃無礼の見本のような邪仙は、高い塀に能力で手早く穴をあける。
立派な庭を通って屋敷に近づくと、邸宅の縁側に座って空を見上げる黒髪の少女の姿があった。
見事な着物を着た、腰に届くかという長髪の見目麗しい少女。
空へ向けた視線をちらりとこちらへ向けるが、警備の者や下男を呼ぶでもなく、再びぼんやりと空を見上げている。
「この邸宅の姫様とお見受けいたします。都は北東の龍洞御所に御座します、龍神様のお言葉を伝えに参りました」
「ふーん、夜更けに私を一目見ようと押し入る不埒な男よりはマシだけど、それは
(ッ!! ……いやはや、最近は見破られることが多いな)
彼女が扇で指し示した場所は、俺の精神体がいる場所に相違ない。
一般人にはバレたことないんだが、名のある者と会う時は使うの控えた方がいいのかもしれないな。
「気にしないでいいわよ。私の故郷ではそういうのに敏感な人が多いの、普通は分からないと思うわ」
口元を隠して優雅に笑う少女。
月へ行った未来都市の連中も穢れにはうるさかったし、そういうものなのか?
「それで、姿の無い貴方が龍神か、その縁者?」
(あ、ああ。俺が龍神と呼ばれている者、ニコル・ボーラスだ。体が大きいから精神体で来させてもらった)
俺の答えに少女は目を丸くして瞬きをし、一呼吸おいて破願した。
「驚いた! "穢れた龍"の系譜ってまだ途絶えていなかったのね! 私はとうの昔に死に絶えたって習っていたわ」
ビンゴ、この少女は間違いなく月の関係者だ。
俺の事を"穢れた龍"と呼んだのは、後にも先にもあの都市の奴らだけ(永琳を除く)。
本人は隠す気もないみたいだから、素直に事情を話しても大丈夫、かな?
「そう言えば自己紹介が遅れたわね、私は