龍神ボーラスで東方暮らし   作:名無しの永遠衆

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第二十一話 月の頭脳

 なんで永琳がここにいるかは分からんが、とにかくめでたい! 

 立ちっぱなしも辛かろうと、普段は豊聡耳たちが使っている円座と敷布を永遠衆たちに用意させる。

 用意させた後で、穢れの無いらしい月で長く暮らしていた彼女に穢れの強い永遠衆たちが接するのは不味かったかと思い至ったが、永琳は気にした様子もなく円座に腰を下ろした。

 

「それにしても驚いた。まさかこんなに早く訪ねてきてくれるとは」

 

「あら? やっぱり迷惑だった?」

 

 俺がすぐさま"そんな事はない! "と否定すると、永琳はクスクス笑いながら"冗談よ"と返す。

 永琳には昔、本当に世話になった。

 月に行ったときは……まあ不幸な行き違いがあったが、アレが彼女の意志が介在したものではなかったと今も信じている。

 現在に至るまでの時間を考えればほんの短い期間だったが、それだけの絆があった。

 少なくとも、経緯が不明でも訪問を歓迎できるくらいには。

 

「輝夜姫と一緒にいる事を見るに、彼女を連れ帰るのに永琳が来たという事か?」

 

 今もって静かに寝息を立てている輝夜姫の頭を膝に乗せ、優しく頭を撫ぜている永琳に聞くと、"半分は正しいわね"と言う。

 半分? と首をひねると、永琳は濡羽色の輝夜姫の髪を手櫛で梳きながら答えた。

 

「輝夜を連れ帰る月の民のリーダーとして私がここに来たのは正解、でもこの子を連れて月に帰るつもりは無いわ」

 

 ?? つまり、そういう名目で他の奴らと一緒に月から降りて来たけど、今は輝夜姫と一緒に逃避行という事か? 

 それは……ヤバくない? 

 

「今すぐ戦力をかき集めた方がいいか? 敵わないまでも、永琳たちが逃げる時間稼ぎくらいはできると思うが」

 

「大丈夫よ、他の奴らはみんな殺したから」

 

 

 ……長生きしすぎて耳が遠くなったかな、なんか今もの凄く剣呑な言葉が聞こえたような気がするんだが。

 思わず現実逃避しかける俺に、永琳は全く変わりのない微笑みを(たた)えたまま言葉を放つ。

 

「月夜見や弟子の()たちだったら他の方法も考えたけど、アイツらなら殺した方が早いわ。月の追手から逃げるのにも、発覚は遅れた方が都合がいいしね」

 

 笑顔のままで放たれる酷薄な言葉に、俺はしばし呆然とする。

 永琳ってこんな覚悟ガンギマリガールだったっけ……もう少し、というかだいぶ穏やかな天才少女だったと思うんだが。

 月日の流れとは残酷なものだとよく言うが、こんな形で実感はしたくなかったよ……

 向こうでどんな経験をすれば、こういう成長をするのか。

 俺に出来る事は、辛い経験をしてきただろう彼女を労わることだけなのかもしれない。*1

 

「しかし、殺したとなると向こうも躍起(やっき)になるだろう。迎撃の態勢を整えた方がいいか?」

 

「いいえ、月の民には今では玉兎(ぎょくと)を含めた豊富な兵力があるわ。局地戦でも分が悪いし、勝てたとしても爆撃で一掃されるだけよ」

 

 爆撃か、あれには酷い目に遭ったな。

 それに永遠衆の最大の力は数なのに、同じく数で月の民の技術による兵器となると確かに厳しい。

 そうなると、どう頑張っても目立つ俺の近くよりも、どこかに隠れ住んだ方がマシか……

 永琳も先に同じ結論に至ったのか、先程よりも幾分儚げに笑って言う。

 

「残念だけど、()()()のようにとはいかないわね」

 

 あの頃、月に行った連中がまだ地上にいて、俺が新アモンケットを造った頃。

 隠れ住むとなれば、俺の住んでいる龍洞御所や、都に気軽に顔を出すというのも難しいだろう。

 少し気落ちしたような永琳に、俺は元気づけるように声をかけた。

 

「それでも、月にいた頃よりは連絡を取り合えるようになるさ。住処が決まればちょくちょく使いを出すよ」

 

「フフッ、ありがとね」

 

 彼女の顔の暗さが少し薄らぎ、昔から変わっていない所もあるのだと感じる。

 一応の話がひと段落したところで、永琳に気になっていたことを聞いてみた。

 

「そう言えば、輝夜姫は一体何の罪で地上にやってきたんだ?」

 

 竹取物語でもそこら辺りはあやふやだった気がするし、単純な好奇心で訊ねる。

 聞かれた永琳も"言ってなかったわね"と快く教えてくれた。

 

 輝夜姫の罪、それは永琳が輝夜姫の協力の下で作り出した"蓬莱の薬"を服用した事なのだという。

 この薬は、穢れを排することで老いを遠ざけた月の民とは違う方法で不老不死を実現したものである。

 輝夜姫の"永遠と須臾を操る程度の能力"という御大層な能力と、俺がかつて永琳にした"いくつかのマナが断絶した(アラーラ次元)世界の断片"の話を基にする完全な存在になるための要素を補う術式。

 その効果によって、服用者は肉体ではなく魂を根幹とする生物へと変わり、肉体が失われても魂を元にそれを再生する。

 一見月の民が求めるものに見えるのだが、術式が存在を完全とするのに5つのマナ(赤・青・緑・白・黒)を補うため、服用とともに否応なく黒マナ、穢れが発生するのだ。

 故に、月の民の間ではこの薬の使用は重罪とされ、服用した輝夜姫は地上へと送られた……と。

 

 

「服用者が罪人にされたのに、開発者の私は無罪放免。それで愛想が尽きたの。地上に降りてから私も飲んだし、晴れて同じ境遇ってやつね」

 

 不老不死か……今からでも豊聡耳は欲しがるのかな? 妖怪とかに飲まれて不死身の特攻とか仕掛けられても困るんだが。

 そう永琳に伝えると、輝夜姫が少しだけ老夫婦の屋敷に残してきたが、人間(月の住人を含む)用に調整したので、仙人や妖怪には意味がないだろうとのこと。

 最悪の場合、逆に死に至るまで有り得るらしいのでひとまず安心だ。

 

「じゃあ、永琳たちの隠れ家をどこかに作らないとなぁ」

 

「そうね、一般社会からも知られてない所ならなお良いのだけれど」

 

「うーん……あっ」

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「……それで、私たちの隠れ里に移住したい、と」

 

 かつての会談の後に"何か連絡がありましたら"と渡されていた折り紙の鳥のような『式』で繋ぎを取った八雲は、頭痛を堪える様な顔でそう言った。

 

「ああ、お前たちの隠れ里作りも試行錯誤で、住民は随時募集中なのだろう?」

 

「確かに人間と妖怪の力の均衡の取り方で行き詰ってはいます。話を聞く限り、八意(やごころ)様の智慧が役立つ事とは思いますが……」

 

 理ではなく感情で承服しかねる、といった表情の八雲を前に、永琳は悠然と言葉を発した。

 

「あら、少なくとも箱庭の管理()()()なら力になれるはずよ。私だって家賃分は働くわ」

 

「く、くらい……」

 

 なんか二人の間で火花が散っているような気がするが、それを見て輝夜姫はコロコロ笑っている。

 しばらく八雲と永琳の間で言葉の応酬があったが、最終的には八雲が折れて二人は彼女の隠れ里へ移住することに決まった。

 八雲の作っている里は道惑(みちまど)いの術式などで特別な方法がなければ辿り着くことは難しいので、隠れ住むのにはちょうどいいだろう。

 目に付きにくい《戦慄猫》*2で使いを出すのも許可してもらったし、手紙*3を送るのが楽しみだ。

 

 

「ボーラス様、頼りになる御方をご紹介ありがとうございます。ですが! 次に何方か紹介されるのであれば、今度は厄の無い方をお願致しますね?」

 

 少し浮かれていたのがバレたのか、八雲にはしっかりと釘を刺されたのだった。

 

*1
月の連中への態度から目をそらしているだけである。

*2
猫を素体とした永遠衆。伝令・偵察に使えるだけでなく、他の味方を喰って自己強化する能力を持つ。

*3
永遠衆が代筆

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