龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
永琳たちが八雲の作った隠れ里"幻想郷"に移住してから、時々八雲も俺を訪ねてくるようになった。
人々から恐れられる妖怪の身で問題が起こりうることは承知のようで、人目を避けて夜に来てくれるのは有り難いが、毎度のように愚痴るのはやめてくれないかなぁ。
月の追手がかかってる者たちという重度の厄ネタを抱え込ませた手前、聞く耳持たんとは言えんが……
「八意様の術で、幻想郷内に作った人間の里がすぐさま妖怪に襲われて壊滅することはなくなりました。しかし、あの方の術は強力すぎて、人が妖怪を恐れなくなるのではと心配で……」
「ふぅむ、妖怪が生きていくのにも難儀な調整が必要なのだな」
仕事の絶えない箱庭の管理者は、だいぶお疲れの様子だ。
綺麗な金髪を紫色のドレスの上に流した出で立ちは輝夜姫や永琳にも劣ることのない人ならざる美しさを滲ませているが、今日は疲労の色が濃い。
ストレスが溜まっているのか、全く可愛くない《戦慄猫》を撫でて癒されている姿など、いっそ哀れだ。
「八意様の術は完璧すぎます。人里の中の安全は保障されますし、そう頼んだのは私ですけれど……妖怪を威圧する要素が無いので無警戒な妖怪が返り討ちになるなど、問題も多いのですわ」
むう、月の民の技術だと、妖怪は追い払うより
八雲としては、"妖怪が警戒して遠巻きにするけれど、人間も安心はしきれない"という絶妙なバランスが欲しいんだろうが、それをするには月の民の技術と戦力は強すぎる。
永琳ならば、とは思うが、彼女も他者に分かりやすい派手でゴテゴテしたのは好みじゃないだろうしな。
そういうのは、むしろ原作ボーラスの
「一つ、思いついた事がある」
「……聞きましょう」
おい、そんな諦めたような顔で見るな、失礼だろう。
遠い目をして《戦慄猫》を撫でまわすんじゃない!
「これ、ですか」
「これだ」
「確かに存在感はあると思いますが……」
俺たちの前に、闇夜を押し退けるようにそびえ立っているのは《王神の立像》。
"《灯》の収穫"というボーラスの計画の最終段階で永遠衆に侵攻されたラヴニカ次元で、都市の破壊と戦乱の最中に街に建てられたニコル・ボーラス自身をかたどった巨大な像だ。
戦火に耐えるラヴニカの住人すべてへの侮辱であり、ボーラスの自分本位な思考と自己顕示欲の塊。
初めて目にした奴は、悪い意味で遠巻きにしたくなる代物である。
「まさか、これを置いて"龍神"の威光で守るとは言い出しませんよね?」
「当たり前だ。というか、お前の中で俺の印象はどうなってるんだ」
オホホホホ、と笑って誤魔化す八雲を睨みつけていると、永遠衆に呼ばれたもう一人の必要人員がやってきた。
「ボーラス様、お呼びと聞いて罷り越しました! 何の御用でしょう。それが何であれ、粉骨砕身の覚悟で全う致します!」
「分かった、分かったから静かにしろ。お前の能力が必要なんだ…………
そう言って、跪いた右腕が義手の男を立たせる。
コイツ、最初は本当に操り人形だったのに、いつの間にやら感情を持って自分で動くようになったのだ。
豊聡耳に言わせれば、"道具とて
アモンケット次元も死体は何もしなければ必ずアンデッドになる、といった法則があったし、そういうこともあるのかもしれない。
原作テゼレットの魂ではなく新たに魂が宿った事と、テゼレットの忠誠度がすでに激高になっていた事が悪魔合体して、現在のような俺に忠誠を尽くす"キレイなテゼレット*1"状態になったようだ。
都合が良いと言えば良いんだが、違和感がすごいんだよなぁ……
「畏まりました。必要なのはエーテリウム電池でしょうか、それとも……*2」
テゼレットが剣呑な眼で八雲の方を見たので、すぐに否定する。
エーテリウム電池ばかり作ってるところに直の呼び出しだからそうも思うか。
だが、今回呼んだ理由はその二つの能力ではない。
「テゼレット、奥義*3を使え」
俺の言葉にテゼレットは目を瞠り、表情を硬くして言う。
「なんと……よろしいので?」
「構わん。その為にお前を呼んだんだ」
許可が出たことでテゼレットは黙って一礼して承知したことを示し、《王神の立像》に歩いて行った。
俺たちのやり取りを困惑しながら見守っていた八雲は、テゼレットの背中を見ながら俺に問いかける。
「先程の言葉、どういう意味ですの?」
「なに、非常時にコイツが動いて人里を守れるなら、条件は満たせるだろう」
「……そうかも知れませんが、この巨大な像を動かせるので?」
八雲も『式』という人工物を動かす手段を持っているので、その困難さが分かるのだろう。
しかし、問題は無い。
テゼレットは生きている金属……
奴がエーテリウム製の鉤爪状の義手で《王神の立像》の足元に複雑な紋章を刻むと、命を吹き込まれた巨像が重々しく動き出す。
この能力で動く
派手だし大抵の妖怪なら対処できるだろうけれど、これ一つでは絶対安心まではいかないだろう。
生き物のように動く巨像を見上げて驚く八雲を見ながらそう思う。
妖怪とはいえ女性に対してこういうのもなんだが、いつもの胡散臭い笑みを消してポカンと口を開いた八雲の顔は、なかなか見ものだった。
八雲は疲れた顔で感謝を述べ、例の謎空間に《王神の立像》を呑み込んだ。
あんな大物もしまえるんだから、大概すごい能力だよなぁ。
テゼレットが意思を持つようになってから、俺もプレインズウォーカーとしての能力を使おうと練習しているのだが、イマイチ安定しない。
基本的に物騒な能力しかないので、気軽にぶっ放す気持で使えないのも一因だ。
テゼレットのマネはサイズ的に難しいし。
テゼレットは見事に使いこなしているのに……俺が本物じゃないからなんだろうか。
「改めて、ご助力感謝いたします。八意様への手紙も、お届けしておきますわ」
「ああ、頼んだ。だが、そうだな……」
辞去の挨拶をする八雲に、俺はニヤリと笑って言い放つ。
「──────これで、貸し借り無し、だな?」
八雲は
「ホホホ……そうですね、そういうことにしておきましょう。で・す・か・ら! もう借りを返そうとはしないでいいですからね!」
「そ、そうか? 少しぐらいは力を貸してやっても……」
「い・い・ん・で・す!」
「お、おう」
現代日本でも、外国人は日本人を慎み深いというが、こういうことなんだろうか。
キッパリ断られて、少し寂しかったのは秘密だ。