龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
八雲に引き渡した《王神の立像》はその後、幻想郷でその派手さから妖怪たちに一定以上の警戒を抱かせることに成功したらしい。
……まあ、人間たちも人里に一夜にして設置された巨大な像に瞠目したらしいが。
だが、とにかくデカくて目立ち、幻想郷に行った妖怪には"龍神"としての俺の姿を知る者もいたので、八雲も元は取れたと太鼓判を押してくれた。
迂闊に妖怪たちが人里へ襲撃しなければ、永琳の提供した術式も問題なく使える。
もし襲撃の兆候があっても、あの巨体が動けば脅しには十分だろう。
《王神の立像》には、永く人里の平和の象徴として頑張って欲しいものだ。
なお、著しく景観を損ねるという八雲からの陳情には全力で耳を塞いだ。
ゾンビの永遠衆や不老の豊聡耳たちと共にいると時間の流れを忘れがちだが、そんなことは言っていられない程大きな出来事があった。
新たな王が都を、北の新都に
なんでも今代の王は大陸の国との交易に熱心らしく、かの国で流行っている仏教を都に受け入れたという風に見せたいがために遷都したのだという。
確かに、新都"平安京都"に比べて"安門京都"と呼ばれるようになったこの都は国作りの夫婦神を初めとした"八百万の神"への信仰の匂いが強い。
向こうの宗教施設がある都ならば使者も少なからず安心するだろうし、国家間の対話も円滑になるというものだろう。
もちろん、新たな王も豊聡耳との関係を崩すつもりは無いので、彼女には新たに『太政大臣』という地位が新設されて授けられた。
これは、"政治を執り行う最高機関の長官で、王の手本になる人"が就く地位として作られたもので、簡単に言えば滅茶苦茶偉い。
その権力は王に次ぐというのだから、そんなものを豊聡耳が不老とはいえ作ってよかったのか疑問に思った。
しかし彼女に聞くと、"任官基準の欄に『相応しい者が居なければ欠員』と書いてあるから問題ない。今代の王はやり手だね"と笑っていたから、多分褒めているのだろう。
俺は三度説明を受けてようやく理解したが、これは豊聡耳が政治に関わる根拠となると同時に、何らかの事情で彼女がいなくなった時にはすぐさま実権の無い名誉職に切り替えられるという事なのだそうだ。
体裁でだけ仏教を取り入れることといい、今の王は辣腕なのだな……
この地位に就いてから、豊聡耳は『太政大臣』にあたる大陸の官職名である『太師』と呼ばれるようになり、過去の王に号された"聖徳王"と合わせて"聖徳太師"とも呼ばれた。
……本当に、日本史と似ていても違うことが随所にあるあたり、輝夜姫の一件が例外だったのだろうかと首を傾げることしきりである。
都が平安京都に遷都すると、幾らかの住人も新都へ移住していった。
結果として安門京都で余った土地には、俺が歳費を貯めて土地を買い上げ《権威の殿堂》、《神託者の大聖堂》*1、《神々のピラミッド》*2といったアモンケットの建造物を建てていっている。
この国とは建築様式が大きく異なるが、"神"の関わる建物だと言うとこの国の住民はとりあえずありがたがるので、特に深刻な問題は起きていない。
これらの建造物は出した時点では未完成なので、永遠衆や《仕える者たち》の労働力の一部を使って完成させていくことになる。
……その工事の関係で
《王神の贈り物》。
"蓋世の英雄"と呼ばれる、神々の五つの試練をも突破したアモンケットの修練者の遺体を永遠衆に加工していた
原作のニコル・ボーラスがアモンケットの人々に示した『約束された来世』という欺瞞の核心そのものである。
代を重ねたことで死者の労働力も受け入れられ、永遠衆も増員する時期に入ったと感じたからこその設置だが、念のため秘密裏に人々の目の届かない場所に設置した。
なにせこのアーティファクト……自動化されているのだ。
これが設置されていたアモンケットにボーラスが帰還するまで永遠衆を造り続けたのだから当たり前といえば当たり前だが、遷都してすぐの今ではこの話が広がるのは少し危うい。
《来世への門》*3とまではいかなくても、多少は神聖さを感じさせた方がウケがいいのは今までの経験で感じている。
できればもう少し期間を置いて、地上部分には《永遠衆の墓所》*4でも設置して受け入れ口としたい。
死後に永遠衆になる武官たちはいわば職業軍人だからな、無味乾燥な終わりより色を付けてやった方がいいだろう。
新都の体制がどれほどで落ち着くか、王の統治に期待だな。
基本的に俺との謁見は、豊聡耳で一本に絞られている。
輝夜姫の時に貴族の一人が謁見を求めてきたこともあったが、普通に断っても問題にはならなかった。
そんな窓口が非常に狭い俺に、豊聡耳が謁見を取り次いできた。
「で、相手は誰なんだ?」
この件に関して、妙に歯切れが悪い豊郷耳に問うと、彼女は珍しく困った様子で答えた。
「それが、相手は神霊でね。それほど有名ではないが、出自は非常に良い。というか良すぎる。だから断れなかった」
「それほどか……」
神が少なくとも人のくくりに入る豊聡耳に謁見を取り次がせたというのも凄いが、詳しく聞くとその神霊とやらの出自も凄い。
国産みの女神、彼女が死にゆく際に体から生まれた"
神としては、窯業など焼き物に関わる者の一部に信仰されるのみなのでそれ程でもないが、出自はほぼ最高のものだ。
設定上では、俺は黄泉の国へ行ったその女神の配下だから、いうなれば主筋ということになるか。
……それは断れないな。
「
「ああ、肝に銘じる」
釘を刺してきた豊聡耳が謁見の間の扉を
緑の頭巾をかぶり、同じ色の前掛けを独特の模様の縁取りがされた黄色い衣装の上に着た青い長髪の少女神。
彼女が入ってくるとともに、
「はじめましてね、同輩さん。私は
……一応、まだ疑われてはないようだ。
敬意を込めて頭を下げて応えると、彼女は満足そうに頷いて返す。
「時間は有限よ、早速本題に入りたいのだけれど」
「あ、ああ。此度は一体何用で?」
できるだけ丁寧に袿姫に問いかけると、彼女は興奮した様子で言った。
「貴方の作品を見させてもらったわ! 一切の無駄を排した妥協なき造形、死しているのに生きている新たな命の形、そして生前の一点の
怒涛の勢いで矢継ぎ早に言葉を紡ぐ袿姫を一旦落ち着かせ、頭が痛くなるような内容に思わず確認を入れる。
「あー、つまり、永遠衆の制作現場が見たい、ただそれだけだと?」
「ええ!」
コイツあれだ、天才肌の芸術家だ。
この手の自身の欲求に素直な奴は、断っても絶対にゴネる。
なら、いっそ願いを聞いてやった方が扱い易いだろう。
……自分の母親なのに、
「見せてもいいが……永遠衆の制作は今は俺の手を離れて、自動で行われている」
「自動!?」
俺の言葉に袿姫は頭を殴られたかのように大きなショックを受けたようだ。
それもそうか、制作に一家言ある自分も難しいと思った技術が職人技じゃなくて大量生産なんだからな。
彼女があまりにも呆然としているので、居心地の悪い俺は適当に思いついた事を口にした。
「製作は造れて三流、良いものを造れて二流、自分の手を介さずとも造れて初めて一流だと思わないか?」
それっぽいことを言っただけで意味などないなのだが、この言葉を聞いた袿姫の目の焦点が徐々に戻って来た。
「……そうか、そうね。自分の手を使わないと良いものは造れないというのは傲慢だったのかもしれない。作品に命を与えられるなら、作品自身も作品を作れるはずよね」
うむ、なにかよく分からんが、自己解決したようだ。
我に返った袿姫は鬼気迫る表情で爛々と瞳を輝かせ、《王神の贈り物》の中を食い入るように見学して帰って行った。
帰り際に、"私も貴方に負けない一流の作品を仕上げて見せるわ"と言った彼女の顔は、早口でまくし立てた時以上に生気に満ち溢れていた。
…………俺は職人じゃないんだがな、バレなくてよかった。