龍神ボーラスで東方暮らし   作:名無しの永遠衆

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第二十四話 鬼退治と尻拭い

《王神の贈り物》の設置による永遠衆の増員によって新・旧都周辺の治安は劇的に良くなっていった……のだが、最近になって平安京都で妖怪による被害報告が相次いでいる。

 下手人は昼夜問わず堂々と犯行に及んでいた為どんな妖怪の仕業か調べる必要はなかったが、その妖怪の種族を聞いて思わず頭痛がする思いがした。

 犯人の種族は、『鬼』。

 よりにもよってアイツらか、と思った俺を責めることはできないだろう。

 

『鬼』、人ならざる者、有角の妖怪。

 強大な腕力と妖力で人畜を害し、その肌は並の刃物では傷つけることすら叶わない。

 しかも奴らは世紀末を生きてるのかと思うくらいの暴力の信徒であり、なんでもかんでも力で片づけようとする。

 

 新アモンケットの頃も定期的に略奪に来る鬼たちの撃退にどれほど苦労した事か……

 鬼は基本的に高いパワーとタフネスを併せ持つ脳筋種族で、搦手(からめて)を使うのは少数派だ。

 まあそれは、『殴った方が早い』という経験則に裏打ちされているのだが。

 とにかく、大抵の鬼は真正面から力づくで物を奪い、人を襲う。

 罠や反撃は踏み破り、儚い抵抗を打ち砕き、満足したら意気揚々と帰っていくのだ。

 いかに一般人や木っ端妖怪では相手にならない永遠衆でも、鬼相手では被害覚悟で数で袋叩きにするしか勝ち筋がない。

 数体やそこらでは、奴らの足止めくらいしかできないからだ。

 緑クリーチャーもびっくり*1の戦闘種族、それが鬼なのだ。

 

 平安京都に居を構える今代の王もこれを座視することはできず、王家の血を引く『源氏』の将に討伐の勅を出した。

 しかし、下調べの段階で恐ろしい事実が判明する。

 度重なる被害をもたらした鬼の本拠は、新都の北西"大江山"。

 そこには鬼たちを統べる鬼の頭領がおり、幾多の鬼が配下として集っているという。

 ただでさえ一人でも対策が難しいというのに、本拠には強大な鬼がうじゃうじゃいる。

 "源氏の将も大江山の鬼に攻めあぐねている"という噂が流れ出した頃、その本人が俺の居る龍洞御所を参拝してから大江山へ出発した。

 まともに戦えばまず間違いなくひねり潰される戦力差でどうするのか、興味が湧いた俺は彼らの鬼退治を見届けることにした。

 

 使役した屍鬼と視界を共有する青娥の術を《戦慄猫》に掛けて、彼らの後を追わせる。

 こいつなら目立たずに鬼退治を観戦できるだろう。

 

「しかし、本当にどうやってあの鬼どもを退治するつもりなのか……」

 

「さてはて、私なら関わり合いにならないようにするか、逃げの一手ですけれど。……そろそろ大江山ですね」

 

 今回、新都の防衛強化くらいしか関わっていない俺は完全に他人事として見ている。

 最悪の場合、俺が上空から大江山にありったけのマナを込めた《溶岩震》*2をぶち込むことで豊聡耳に了解は取れているからな。

 せいぜい彼らの勇気と知恵のほどを見せてもらおうじゃないか。

 

「あら、なにやら着替えておりますね。あれは……山伏の格好でしょうか」

 

「そういえば、山伏が妖怪になった『天狗』と鬼は仲が良いと聞いたな」

 

 なるほど、山伏の姿で鬼を油断させて、隙ができた所をドスッっという訳か。

 しかし、それでは鬼の首領と数人は倒せても、全員倒すのは難しいんじゃないか? 

 そう考えながら彼らの様子を見ていると、手土産に酒をたっぷり持って行ったようで、鬼たちは喜色満面で歓迎していた。

 ははぁ、ヤマタノオロチで有名な酔い潰してから倒す方法か、それならみんな寝てるから大丈夫って訳だ。

 けど、少人数で持っていける程度の酒で足りるのか? 鬼は誰も彼も酒豪ぞろい、頭領に至っては『酒吞童子』と呼ばれるほどだという。

 鬼たちと一緒にどんちゃん騒ぎをする様子を見て首を捻っていると、手土産の酒がいきわたって少し経ったくらいで、鬼の一人が杯をポトリと落とした。

 それを皮切りに、次々に鬼たちが倒れ伏し、鬼の頭領とその側近と思われる者たちも体が痺れたように動けなくなっている。

 

「あらあら、()()をそういう風に使ったのですねぇ」

 

「……何か心当たりでもあるのか?」

 

 あまり聞きたくはないが、青娥に訳知り顔をさせておくのも腹が立つ。

 彼女に問うと、まるで世間話をするように自然にとんでもないことを言い放った。

 

「はい、私も買い物などするために都で小さな薬屋を開いているのですが、最近"妖怪にしか効かない無味無臭の毒"を頼まれまして。お代も十分頂きましたので、精一杯のものをお渡ししたのですが、まさかこういう使われ方をするとは。オホホホホ」

 

 コイツ……その依頼内容でこういう使い方以外があるか! 絶対分かっていて受けただろう。

 鬼たちは青娥謹製の毒を受け、動けないために無防備に首を刈られていく。

 頭領と側近は足腰が立たないながらも腕をぶんぶん振るって牽制しているが、じわじわと包囲されていっている。

 鬼の身体に傷を付けられるのだから、討伐隊の者たちが持っているのもさぞや名のある霊刀なのだろうが……この使われ方は、かなり惨い。

 毒を盛られた鬼たちの怒りの形相は、筆舌に尽くしがたいものだ。

 それこそ、末代まで祟られそうなほどに。

 頭領の側近の一人の腕が斬り飛ばされた時、金髪に一本角を持った女の鬼が咆哮を上げ、生き残った仲間を抱えて転がるように逃げ出した。

 他の鬼の首を取った討伐隊の者たちは咆哮に居竦み、彼女らの逃走を許してしまったようだ。

 

「こんなものか。しかし毒を盛られるとは、鬼たちも災難だな」

 

「皆が皆、ぼぉらす様のようにとはゆきませんわ。弱いからこそ知恵を絞り、手法を凝らす。それが人の強さですから」

 

 青娥の言う通り、この方法でなくば犠牲無しに鬼たちを倒すことはできなかったのだから、合理的に考えれば彼らのやり方は間違っていない。

 俺に出来るのは、俺自身が毒を盛られる立場にならないよう気を配ることだけだ。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 思えば、嫌な予感はしていた。

《戦慄猫》に帰還命令を伝えさせた直後、青娥が急に用事を思い出したと都へ帰ったのをもっと追及するべきだった。

 控えめに言って、現状は最悪だ。

 

「テゼレット! 状況はどうなっている!?」

 

「現在、警備の永遠衆たちの十二重の陣は八段目まで突破されました! この場に到達するのも時間の問題かと思われます!」

 

 始まりは龍洞御所の周辺の警備をしている永遠衆の一団が倒されたことだった。

 何者かの襲撃へ対応するため警備と御所内に配置された永遠衆たちはすぐさま厳戒体制へ移行、しかして襲撃者はそれを気に留めることなく全てをなぎ倒しながらこちらへ進んできている。

 テゼレットが「代人」と呼ばれるゴーレムを介して必死に指揮を執っているが、形勢は圧倒的に不利。

 ……これ以上は、もし何とかなっても被害が無視できないレベルになるな。

 この襲撃自体は都にも伝わっているはず、ならば安易に逃げる姿を見せるわけにはいかない……まあ殺されるくらいだったら飛んで逃げるけど。

 とにかく、パワー的なものだけみればこっちの最大戦力は俺なんだ。

 鉄火場は得意じゃないが、やるしかない。

 

「テゼレット、陣を解け。ここで迎え撃つぞ!」

 

「……ハッ! 微力ながら、お供致します!」

 

 死ぬかもしれないような形勢不利の状況で、ボーラスの為にテゼレットが最後まで付いてくる……か、皮肉なもんだ*3

 

 

 永遠衆たちが抵抗を止めたせいか、襲撃者はそうかからずに謁見の間の壁をぶち抜いて現れた。

 

「おう萃香、ここであってるのかい?」

 

「合ってる合ってる、だからあんま揺らさないでよ。一番たくさん飲んでたせいでまだあの毒酒が残ってクラクラするんだ」

 

 (いとけな)い幼女と長身の女性の姿をした襲撃者、その頭部には立派な角が生えているのが見える。

 なにより、その顔を見たのは術越しとはいえ忘れるほど時が経ってない。

 

「……大江山の鬼の頭領と、その側近か」

 

 俺の言葉に、幼女の姿をした鬼が"あー、違う違う"と答えた。

 

「大江山では四人で頭を張ってたのさ、まあ生き残ったのは私たち含めて三人だけど」

 

 だから、まあ、と言葉を溜めた(いとけな)い鬼に合わせて、金髪をした長身の鬼がボロキレのようになった《戦慄猫》の残骸をこちらに放り棄てた。

 二人の鬼は口を同じくして言う。

 

『お礼参りをしなくちゃなぁ!』

 

 

 

 

 …………なんかスッゲェ誤解されてる気がするんですけどォ!? 

 

 

 

*1
緑クリーチャーの特色の一つに、パワーやタフネスの高い大型クリーチャーが多い事が挙げられる。

*2
込めたマナの分だけ威力が上がる赤の呪文。飛行を持たないものは等しく巻き込まれる。

*3
灯争大戦の際、身体と一体化した『次元橋』を破壊されたテゼレットはボーラスの形勢不利と見てプレインズウォークで逃げ出した

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