龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
今後は原作の設定に対する最低限のリスペクトが感じられるよう努めますので、読者様方は私が書き方の偏向や誤解を招く言い回しに気付けるよう、今後とも感想に感じたままの言葉を載せてくださると助かります。
恐ろしい形相で指をバキバキ鳴らす一本角の長身の鬼と、酔っぱらったようにフラフラと左右に揺れている二本角の小さな鬼。
宣戦布告は終わってしまった。
機を
「テゼレット、小さい方の足止めはできるか?」
経験則的に『鬼』は体躯がデカいとパワー型が多く、小さいのは搦め手が得意な奴が多い。
まあ小さくても尋常じゃない怪力とタフネスは持っているんだが。
「ご命令とあらば、命に代えましても!」
「やめろ、お前に死なれると被害を抑えるために迎え撃つ形にした意味がない。何が何でも生き残れ」
「……ハッ!」
こっちのやり取りを聞いていた鬼たちは、小さい方と睨み合ったまま俺から引き離そうとするテゼレットを見て場違いなほど快く笑った。
「私の相手はそっちの異人さんか。いいよ、"鬼の四天王"が一人、
謁見の間の壁ごと吹き飛ばして交戦しながら離れていく二人を余所に、長身の鬼は頭を搔く。
「萃香の奴……本調子じゃないから無理はしないんじゃなかったのかよ……」
呆れを滲ませて戦場の緊張が一時緩んだのを見計らい、戦う前に言っておきたい事を言うことにした。
「今更かもしれんが。今回の件、俺は無関係……とまでは言わんが、直接関わってはいないぞ」
むしろ9割9分青娥が悪いと言ってもいい。
しかし、長身の鬼は剣呑な視線を返した。
「……私たちの仲間の茨木が解析した毒の術式と、ウチの根城を覗き見していた奴に掛けられた術のクセが同じだった。で、覗き見してた青黒いのはアンタの眷属なんだってな。これで信じろってのは、寝言は寝て言うもんだよ?」
そう言われてみると状況証拠では真っ黒だなオイ!?
だが理不尽な復讐は断固断る!
「だが、都を先に襲撃したのは鬼だろう? 毒を盛られようが闇討ちされようが、因果応報というものではないか」
俺の言葉に、長身の鬼はハッと嗤う。
「一番の目的は、人と鬼の絆にケチをつけた事、心を偽らせたことのケジメを付けるためさ。退治に来たことでガタガタ騒ぐものかよ」
「絆? 心? どういうことだ?」
「知りたけりゃ後で教えてやるよ、私とアンタのどっちかが死んでなきゃなぁ!」
交流することが無かったから鬼の行動原理なんぞ知らんのだが、何かがこいつらの心の琴線に触れてしまったらしい。
いわゆる"地雷踏んだ"ってやつだな……恨むぞ青娥!
再び緊張を高まらせて睨み合う中、拳を固めた長身の鬼は戦名乗りを上げた。
「私は大江山の鬼の四天王、
俺と勇儀の戦いは、不本意なことに地上戦になっていた。
できれば俺は距離をとれる空中に居たいのだが、空を飛ぼうとすると勇儀がでかい瓦礫を剛速球で投げつけて翼を破ろうとするので防御するしかない。
となると小回りの利く勇儀が有利になっているのか、というと必ずしもそうでもない。
勇儀は典型的な力押しをしてくるタイプの鬼で、基本戦術は"まっすぐ行って、右ストレートでぶっ飛ばす"に近い。
空恐ろしいほどの踏み込みの速さでこっちに向かってカッ飛んでくる勇儀の一撃に合わせて俺も体躯を活かした一撃を彼女に見舞うが、拳の一撃の威力で相殺され目に見えるダメージは入っていない。
何百倍という体格差があるというのにコレとは流石鬼……この世界の法則に文句を付けたいくらいだ。
「見た目だけじゃないって訳だ、ならこれならどうだ!」
一直線に突っ込んできた勇儀の一撃に同じように合わせたら、有る筈の拳がぶつかり合う衝撃が無く、一瞬で俺の視界の天地が逆転する。
投げられた!? どんだけ体重差があると……! これだから鬼は相手にしたくないんだ!
状況を理解するとともに尾を地面に叩きつけて投げが極まるのを回避し、体を捻って四足の状態になり地面に着地する。
これには勇儀も驚いて目を丸くしているところに、猫パンチのような身軽さで上からドラゴンパンチをお見舞いする。
周りの地面ごと陥没するほどの威力だが、これで済むとは思っていない。
穴から出てくる前に、ダメ押しで縦に一回転して勢いを付けた尾の一撃で圧し潰した。
謁見の間は見るも無残な有り様になっており、むしろ残っているのは壁の一部くらいのもの。
でも死んではいないんだろうなぁ……鬼だし。
穴……というか溝から這い出てこないので一息ついていると、小さい方の鬼"萃香"と交戦していたテゼレットがゴーレムに抱えられた状態で戻って来た。
「……申し訳ございません、戦力は削りましたがこれ以上は難しいと判断し撤退いたしました」
「構わん。よくやったな」
「ありがたき幸せ」
テゼレットを追いかけるように現れた萃香は切り傷だらけ痣だらけ、テゼレット謹製のゴーレムに纏わりつかれた状態でそれらを引き摺るように入って来る。
「ハァ……ハァ……まだ、終わってないぞ!」
傍から見てもよく立ってるなという感じなのに、このガッツはなんなのか。
鬼全般に言えるけれど、異常に精神力が強いんだよなぁ。
「ゆ、勇儀!?」
お、相方の状態に気付いた。
萃香の声に反応したのか、勇儀の方も割れ目からズルズルと這い出して来た。
「あー痛ぇ、強いなぁ、気持ち良いぐらい強い。だけど、この際一矢報いるくらいはしないとなぁ」
口の中に溜まった血を吐き出し、緩慢な動きで立ち上がった勇儀はこれまでと違う、何かの
「勇儀! 毒の残った身体でそれはマズイって!」
「まぁ、もし死んだらお前が茨木の奴に伝えてくれや」
「馬鹿!
突然の愁嘆場に目を白黒させていると萃香の身体がみるみる薄れ、拘束していたゴーレムを残して消えてしまった。
なんだ? ゴーレムがとれたってことは透明になる能力じゃないな。
霧になるとか小さくなるような能力か?
俺が周囲を警戒していると、勇儀が"警戒する必要は無いよ"と言った。
「悪いがアイツは見届け人にさせてもらった。勝手をした分は、終わった後に私の首で帳消してくれ」
「……首?」
「ああ、鬼の首は誉れの証。アンタはそれに値する」
おかしいな、この世界は元の世界で言う平安時代くらいだと思ってたんだが、首狩り民族になるには時代が早くない?
といってもここにいるのは勇儀以外は俺とテゼレット、この世界の常識には疎い奴しかいない。
そういうもんかと呑み込む以外ないか。
「どう転んでもこれで最後だ。その前に強き者よ、名を聞いておきたい」
「……ボーラス。ニコル・ボーラスだ」
「ぼぉらす、か。耳慣れない響きだが、いい冥途の土産ができた」
そう言って朗らかに笑った勇儀だが、笑みを収めると今日一番の闘気が場に渦巻いた。
本能的にヤバイと感じる雰囲気に、テゼレットを避難させてから勇儀に向き直る。
ボロボロの身体の総身に闘気を漲らせた彼女は、俺の準備ができたと見て渾身の技で挑んできた。
「四天王奥義・三歩必殺!!」
その言葉が聞こえた瞬間、勇儀の居た場所には踏み砕かれた地面だけが残り、俺のすぐ近くにその姿は移動している。
全く動きが見えなかった。
遅れて聞こえてきた「一ッ!」の声とほぼ同時に「ニッ!」の声が聞こえ、勇儀の姿は俺の鼻先の空中に飛びあがっていた。
あまりの速さに飛びのくような大きな動きはできない。
せめて打点をずらしてダメージを抑えようと身をよじるが、勇儀は「三ッ!」の声と共に
俺が身をよじって生まれた空間があっという間になくなる。
避けられない。
総毛立つような死の予感が俺を襲っていた。