龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
いきなりの土下座には少々面食らったが、こいつに叛意が無いのは分かった。
とりあえずは放っておいても大丈夫そうだし、残りのマナで建物のアーティファクトでも出して雨風を凌ごう。
でも、ボーラスのドラゴンボディはかなりの巨体だ。
生半可な大きさの建物ではドールハウスくらいにしかみえないだろう。
そもそもボーラス自体が《王神の玉座》*1とか《ボーラスの城塞》*2とか、吹きっさらしの見晴らしの良い所にいることを好んでいたのもあって建物の中にいたイメージがあまり無い。
この図体が収まる建築物か……
……お? そうだ、アモンケット*3にあった巨大建造物はどうだろう。
風雨を防ぐためだけにしては大仰だが、サイズ的に大きいものになるのは致し方ない。
後は入れるような入り口があるかどうかだが……んー、《権威の殿堂》*4なら大丈夫かな?
雨宿り用では絶対にないけど、入れそうなスペースがあるし。
入るというか、挟まるというか。
一度経験したことで幾らかしやすくなったマナを出す行為を、黒マナ2つと青マナ1つで行う。
キャストする*5イメージは《権威の殿堂》。
《不気味な修練者》を出した時よりも強い脱力感に襲われながら身体からマナを出すと、瞬く間に身体から出たマナは混じり合い、岩山の上に巨大な構造物となって実体化した。
……今更だけど、本当に雨よけに出す建物じゃねーな。
「カードの能力を使うたびに石材カウンターを乗せて完成させていく」というコンセプト故にかところどころまだ未完成ではあるが、十分立派な巨大建築が岩山に現れた。
マナを出した後の倦怠感が引いてからのそのそと《権威の殿堂》の空いてるスペースに入っていくと、なんと翼をたたんだ状態でジャストサイズ!
多少の余裕はあるが、3マナも使ってもし入れなかったら泣いてたぞ……
上向きに生えた大きな二本角だけはどう頑張っても入らなかったので、仕方なく頭だけは雨ざらしだ。
……これって見方によっては甲羅から首出してる亀みたいなんじゃないか?
でも別の建物出すほどマナに余裕はないしなぁ。
土地のマナはともかく、最初からあったマナが回復するか分からないが今は戦力と人手が欲しい。
残っていた赤マナと黒マナ1つずつを出しながら、クリーチャー来い! と念じる。
マナが出るときにクラッと軽い眩暈がしたが、無事にマナを出すことができた。
身体から出たマナがとった姿は《不気味な修練者》のように青い鉱物で体を覆った人型の不死者。
《不気味な修練者》よりは幾分装飾の入った姿をしており、手には曲刀ではなく、端にトゲ付きの鉄球が繋がった鎖を持っている。
これは……《戦慄衆の解体者》*6だな。
速攻*7持ちで、クリーチャー以外にダメージを与えるたびサイズが大きくなる*8能力と死亡時のパワーと同値のダメージを任意の相手に与える能力がある。
こいつもやはり灯争大戦でボーラスの手駒として送り込まれたゾンビ──────"戦慄衆"の内の一体だ。
具体的なイメージが無かったら、ボーラスゆかりのカードが優先して出てくるのか?
いや、アモンケットの建造物もボーラスに縁があるものだし、それ以外出せないというのもあり得る。
MTG的に言えばブロール*9に近い制約も考えられるけど……検証するにはマナが全然足りないな。
新たに現れた《戦慄衆の解体者》は、いまだにひれ伏している《不気味な修練者》の隣に並ぶと──────流れるように土下座した。
なんなの!? 流行ってんの!?
……落ち着け、俺。
これはたぶんボーラスに対して敬意とか恭順を示してるだけなんだ。
しかし、こいつもゾンビだから喋れないし、リアクションが取りづらい……
「か、顔を上げろ」
俺の言葉に反応して2体はバッと頭を上げてこちらを見る。
うぅ……ゾンビだけあって結構顔怖えぇ……
だがこれでこちらの言う事を聞いてくれるのは分かった。
「俺はもう一度寝る。《不気味な修練者》は周囲を警戒、《戦慄衆の解体者》は話の通じるやつを探して丁重に連れてこい。丁重にだぞ、乱暴にするな」
色々あって疲れた、もう一回寝たい。
先制攻撃*10持ちの《不気味な修練者》の方が探索に向いているかもしれないが、召喚酔い*11があるかもしれないのでやめておいた。
両者がコクリと頷き、《戦慄衆の解体者》が離れていくのを見送って、俺は瞼を閉じた。
目が覚めると、雨は既に止んでいて、岩山の麓の森の向こうの地平線から朝日が昇ってくるところだった。
建物ギリギリに収まってる状況では直立できないので、猫のように伸びをして背筋を伸ばす。
眠気がとんだところで自分の中に意識を向けると、昨日と同じく5つのマナが存在するのが感じられた。
これは多分一日で回復するってことなのだろう、山のマナも岩山の中に感じられるし。
建物の下から這い出てぐぐっと首を伸ばすと、岩山の崖の縁で《不気味な修練者》がこちらに背を向ける形で直立不動で辺りを警戒しているのが見えた。
……こういうところを見ると便利だよなぁゾンビ、疲れ知らずで眠りもしない、倫理的に完全にアウトだけど。
「警戒、ご苦労」
俺がそう声をかけると、《不気味な修練者》はペコリとお辞儀を返し、また警戒へ戻った。
"戦慄衆"を含めたボーラスの手勢であるゾンビの軍団──────"永遠衆"は、ボーラスが「手下と犠牲者を区別しない」と言われるほど尊大で理不尽なプレインズウォーカーだったため、完璧に従順で感情というものが無い。
MTGのストーリーではこの実直さのままに殺戮や破壊の蛮行を繰り広げたのだが、命令されなければ三原則のぶっ壊れたロボットと大差ないな。
俺一人では何をすればいいか考えるのにも限界があるし、喋れる相手が欲しいところなんだが、ボーラスに友好的な相手となると……
アモンケットでボーラスが暴虐の限りを尽くしても信仰していた狂信者でも出すか? いや、そんなの出しても追従の意見しか出ないよな。
ボーラスが意見を聞くなんて殊勝なことする訳もないし、大概の相手はボーラスと敵対している。
うわ……
そう考えると、《戦慄衆の解体者》の役割が大きくなってくる。
この次元がボーラスと関係ないことに賭けて、住民と友好的な関係を築くんだ。
配下がゾンビなのは大きな問題だが、アモンケットみたいに一部の死者とは共存してた次元もある。
俺のマナ能力で協力する代わりに知恵を貸してもらう、あわよくば文明的な暮らしも手に入れたい!
そんな風にこれからの行動指針を確認していたら、岩山の岸壁を軽々と登って《戦慄衆の解体者》が戻ってきた。
……片腕に女の子を抱えて。
十代前半にしか見えない女の子を抱えて帰ってきたことに思わず「犯罪ですよ!」と言いかけるが、俺にしか理解できないだろうからそのまま呑み込む。
赤と青のツートンカラーの服を着た少女は敵意を隠さない瞳でこちらを睨みつけると、大声で叫んだ。
「あなたがこの不死者の主人!? 私に何かあったら都市から討伐隊がやってくるわよ!」
がるるると威嚇せんばかりの少女に頭を搔きながら答える。
「あー、確かにそいつの主人は俺だ。だが君に危害を加えるつもりはない」
言ってから思うが、全く説得力ないだろうな。
配下はどっちもゾンビ、主人は悪そうなドラゴン、絵に描いたような悪役だ。
だが可能ならこの縁は失くしたくない。
この少女は見たところ人間、獣人やエルフではなく人間だ。
ボーラスの被害には人間も多く遭っているが、特に獣人とエルフは恨みが深い。
それに俺の姿を見てニコル・ボーラスの名前が出なかったのも大きい。
ボーラスは自己顕示欲の塊みたいなドラゴンだったので、支配したところには自分のトレードマークである二本角の意匠をいたる所に置いた。
ボーラスの影響を受けた次元でこの見た目に反応しないやつらはいないだろう。
どう説得したものかと悩む俺だったが、少女は予想外に冷静に何事か考えこむと、警戒はしているが幾らか敵意の減じた瞳で言った。
「いいわ、信じてあげる。で、貴方は何の妖怪?」
いきなり態度を変えた少女に困惑して「随分素直に信じるんだな?」と言うと、少女は「論理的に考えただけよ」と返した。
「この不死者は、私が妖怪に襲われているところを助けてくれた。最初は獲物を横取りしただけかと思ったけれど、主人の貴方も穢れを持っていても理性的だわ。だから信じることにしたの」
《戦慄衆の解体者》はそんなことをしていたのか……グッジョブ!
それにしても
雨にちょっと降られて拭かずにそのままだけど、濡れた野犬みたいな匂いがしてたら俺のメンタルが若干傷付く。
そんな俺の姿を見て少女は吹きだして笑いだした。
「穢れは
クスクス笑い続ける少女に調子を崩された気分になったが、不愉快ではなかった。
だが、一応修正しておかないと。
「俺は妖怪じゃない。ニコル・ボーラス、エルダードラゴンだ」
妖怪が存在する次元ということは神河*12みたいな和風の世界なんだろうな。
この俺の見た目でドラゴンを連想しないということは、この世界にドラゴンは存在しないのかもしれない。
少女は聞いたことが無いのか小首をかしげ、まっすぐ俺を見つめて言う。
「自己紹介されたなら私も返さなきゃね。私は
「カードとしての効果」と「ストーリーでの役割」、どちらを重視して欲しいですか?
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「カード効果」に準拠して欲しい
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「ストーリーの役割」っぽく柔軟に