龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
時間をしばらく遡り、布都の方では──────
「驕り高ぶりし妖怪よ、この物部布都が身の程というものを叩きこんでくれようぞ!」
「あ゛ぁん? 他人の船にカチコんできて説教する気? あんたこそタダで済むとは思わない事ね!」
お互い止める相方がいない上に、逆鱗に下世話に触れられたのだ。
気炎は高まる一方である。
自身の得物である術符と柄杓を構え、一触即発の空気で睨み合う二人。
船の後部で轟音が響くと、それを合図に両者は弾かれたように動き出した。
ムラサが柄杓を振るうとどこからか湧き出た水が濁流となって押し寄せる。
空飛ぶ船の甲板から侵入者を押し流そうとする水流に、布都は術符で障壁を張り流れを堰き止めようとした。
しかし、濁流は意志を持つかのように障壁を避け、布都もろともに舳先の向こうへ勢いよく流れていく。
「なーんだ、口ばかり達者で大したことないじゃんか。さて、私も一輪に加勢しに行かないと……」
空を飛ぶ術を持たない人間は、この聖輦船から落ちれば助からない。
手応えのない相手に
瞬間、後方から飛来した術符が発動し、先程までムラサがいた場所を炎が舐める。
自らの船が一部とはいえ焦がされたことに舌打ちをするが、それよりも重要なその怒りの矛先に視線を向けた。
「なかなか見事な術ではあったが、その程度ではこの布都は仕留められぬよ」
舳先の上で小早のような形の小舟に乗って宙に浮く布都。
一人二人しか乗れぬ大きさの小舟ではあるが、宙に浮いている事、強い神威を放っていることからもただの船ではあるまい。
再び油断なく柄杓を構えるムラサに、布都は自慢気に言った。
「この船こそは我が物部の氏神"
「たしかに私は水にまつわる存在だし、土気が強いのは苦手だよ……」
布都の操る『天の磐船』が速度を上げてムラサに突っ込んでくる中、彼女は皮肉気に言った。
「でも…………『船』を選んだのは間違いだったねぇ!」
高速でムラサに激突しようとした『天の磐船』は、彼女の寸前で停止した。
船には無数の青白い腕が絡まり、船体が動くのを妨げている。
船上にいた布都もまた、船から湧き出るように現れた潮の匂いのする水に包まれ呼吸を封じられていた。
「何故、って顔してるね。私は"
村紗の発言に布都は驚愕する。
舟幽霊は船の水難事故で亡くなった者の怨霊、無差別に船を沈めようとするものだ。
それがどうして、自分の船を持って沈めずにいるというのか。
布都も尸解仙であり、常人よりはるかに頑丈であると自負しているが、本当に死んでから仙人になるのではなく死を装ってなった故に体は完全な死人ではない。
呼吸を封じられれば当然苦しいし、意識も朦朧とする。
術の制御が続かず『天の磐船』が消え、甲板に落ちた布都に止めを刺さず、村紗はあえて水の拘束を解いた。
「ぷはっ、ぜぇ……ぜぇ……」
「勝手に好き放題やってくれたんだから、そう簡単に許しやしないよ。せいぜい苦しみな」
ようやく息が継げて荒々しく呼吸をする布都の頭部を再び潮水が包む。
再び呼吸が封じられ、苦しむ最中で布都は逆転の一手を探した。
布都の得意な術は、物部に伝わる神道の秘術と火に関わる道術だ。
しかし秘術で最も相性が良い筈の術は完封され、火の術は水妖には効果が薄い。
後は挙げるとすれば風水の知識に明るく、八卦の調整が上手いことぐらいだが……
(…………!)
覚悟を決めた布都は、村紗が水を解いた瞬間に複数の術符を放った。
「
「はい、息継ぎしゅーりょー。何しようとしたのか知らないけど、発動できなかったみたいだね」
再度頭部を包む潮水。
放った術符も特に何かを発動するでもなく、村紗とは見当違いの方向に飛んでいった。
水の中で苦しむ布都に余裕綽々に告げる村紗。
「次の息継ぎで最後だよ。安心してよ、溺れても死なない塩梅にはしといてやるからさ」
全く安心できない言葉を言ってしばらく布都が苦しむのを眺めた後、彼女は水の拘束を解く。
それこそが布都にとっての最後の好機だった。
「ゲホッゲホッ……
更に四枚の術符を放ち布都が印を結ぶと、村紗を囲んだ八枚の術符の内部が炎に包まれた。
村紗は冷静に水を操って消火しようとするが、水を受けた火はさらにその勢いを増して彼女を焦がす。
「ぎゃあああああああああ!!」
この炎は道術における猛火"真火"。
水にて消すことができない強力無比な炎であるが、その制御の為に八卦炉の中でつくられる。
布都は術符で周囲の五行の気を調整することで疑似的な八卦炉を作り出し、この場に真火を生み出したのだ。
風水に明るく、火の道術に長けた布都だからこそできた荒業である。
本来、真火は八卦を調整せねば消えはしないが、布都は村紗が気を失うのを確認すると術を操り鎮火させた。
「生かしておくのは業腹だが……助命をしようとしたのは感心である。命までは奪わん」
真火の威力で黒焦げにはなっているが、妖怪化生の類はこの程度では死なない。
思った以上に苦戦はしたが、何とか片付いた。
術符で意識を取り戻しても抵抗できない様に村紗を拘束すると、布都はボーラスに加勢するために後部甲板へ向かった。
時を再度戻し、ボーラスは──────
相手によってサイズを変え、再生能力まで持つ雲の巨人。
ここまで強いと、むしろなんかあからさまな弱点があるんじゃないかと思うんだが、それが分からないとなるとただの強キャラだ。
だが、そういう相手でもマナが豊富ならやれることはある。
この上にさらに呪禁*1とか持ってたら詰むが。
「雲山、大きいの行くわよ!」
逃げに徹していると、しびれを切らした相手が大技の態勢に入った。
それを待ってたんだよ!
「喰らえ、《暴君の嘲笑》!」
俺から放たれた衝撃波が雲山の巨体を吹き散らす。
こんだけ能力盛りだくさんでマナコスト3以下扱いは無かろう*2。
「無駄だって言ったでしょう! 雲山戻ってきて!」
すぐさま吹き散らされた桃色の雲が収束を始めるが、それを許す気はない。
戦場に出たら対処できないなら、戦場に出さないようにするまでだ。
「《相殺の風》!」
呪文と共に周囲に風が吹き乱れ、跡形もないほどに雲を散らしていく。
《相殺の風》は唱えた呪文を打ち消すいわゆるカウンター呪文。
今までの経歴から俺の墓地は相当な数があるはずだから、避けられるとは思えない。
ゲーム的に見る以外にも、雲の身体ではここまで徹底的に吹き散らかされれば元にはそう簡単には戻れないだろう。
戦場から離れるのが再生条件じゃなかったら、その時は同様にして今度は《退路無し》*3だな。
「なっ!? 雲山!」
幸いにして、雲山は一輪の声に応えない。
どうやら何とかなったようだ。
威圧的に近づく俺に、一輪は毅然と抵抗する構えを取ったが、そのせいか後方からの乱入者に気づかなかった。
「ぼぉらす殿、遅ればせながら助太刀いたします!」
「えっ? きゃあっ!!」
後部甲板へやってきた布都の術符で、不意を突かれ拘束される一輪。
どうやら布都の方も何とかなったみたいだな。
……なんか凄いずぶぬれだけど。
「一応聞くが、白蓮法師との関係をしゃべるつもりはあるか?」
「くっ、殺しなさい!」
いや、殺さんけど。
これだけ慕われているとなれば、白蓮法師の方もこいつらの身柄を持ってれば素直に従いそうだし。
無くてもいいけど一応確認だけしとくか。
「話さないなら、後はお前の頭の中に聞こう。《侵略の代償》」
「な、なにを……あ……あァ……」
《侵略の代償》は相手の手札を
これを使えば相手の記憶をある程度覗けるのは試用済みだ。
……ふむふむ、やっぱり白蓮法師とつながりがあるな。
排斥されたところを拾われた、もう一方のムラサとやらも似た境遇か。
目的は、仏教の下の人妖の共存。
なーんか裏がありそうだと思うのは穿ち過ぎだろうか、俺自身がそうだからかな?
おっと、長く覗きすぎるのも良くないな、適当な……排斥される前の記憶を
以前と決別する決意があったから、多少無くても────良くはないが────他の記憶よりマシだろ。
「ア……アぁ………………」
はい、お疲れ様。
呪文が終わり気を失った一輪を、《侵略の代償》の副次効果で現れた永遠衆に運ばせる。
布都の話だとムラサの方も拘束したらしいし、この船は……《永遠衆の天空王》*4で戦慄衆に空を飛ばせて朝までにどこかに運んどこう。
今までは雲による隠蔽があったが、もうそうでもないし。
「しかし、こやつ一人にしてはぼぉらす殿も手古摺ったようですな」
「こいつ……一輪はそうでもなかったんだが、雲山とかいう見越し入道がな……」
サイズで相手が上、再生能力持ち、本当に呪禁持ちだったら危なかった。
想像して怖気を振るう俺に、布都はふむと頷く。
「見越し入道ですか、相手より大きくなる妖ですな。大きくなる前に"見越し入道、見越したぞ"というと退治できると聞きますが」
マジで……? どういう条件だよ……
かのデュエマの"カレーパン"みたいなもんか……?
その後、白蓮法師は妖怪に通じた破戒僧として拘束、同門の仏僧たちの封印術によって"法界"という別次元に封印された。
スムーズに事が運んだのは、村紗と一輪の身柄がこちらにあったことも一助だろう。
封印の要には聖輦船……かつて高僧命蓮が法力を込めたという"飛倉"が使われた。
当然のことだが、封印を解除できないよう"飛倉"も隠さねばならない。
そこで目を付けたのが"地獄"だ。
仏教における地底にある苦界。
仏教が少数派のこの国でも、規模が甚だ小さいながらも存在しているらしい。
以前、幻想郷関連で地獄の獄吏と会ったことがあるのでその伝手から、地獄に置いてもらうことになった。
……少々無理を言って、妖怪の仏教徒である一輪と村紗も監視も兼ねて置いてもらった。
"お前、もし死ぬことがあったら覚悟しとけよ"的な言葉を遠回しに言われたが、了承してもらえたんだから良しとしよう。
こうして一人の尼僧から始まった一連の騒動は、政治不信に波及することなく幕を引いたのである。
死にたいとは思ってないが、ますます死ねない理由が増えたな……
聖「私の時代なのに、一切出番ないのどうして……どうして……」
これからの展開について
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まだまだ時代順に見ていきたい
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そろそろ原作時期の絡みが見たい
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過去の原作勢が概ね出たら時代飛ばして
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並行して書け