龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
俺のねぐらである龍洞御所に参拝に来るものは多いが、直接謁見できるものはごく少ない。
共犯者の豊聡耳一行や政界の大物、一部の物好きな神など、そんなところだ。
その日、謁見を願い出たのはそのどれにも当てはまらない。
本当は謁見を断っても問題なかったんだが、実はこの老人には個人的な借りがある。
かつてこの男がもう少し若かった頃、
明らかに妖怪であり、都にも近いので永遠衆に討伐に行かせるところだったのだが、下調べの時に不穏な情報が入ったのだ。
曰く、”大百足は龍を食い殺す力を持つ”。
少ないとは思うが、もしドラゴンやエルダードラゴンへのメタ能力*2持ちだとヤバい。
そう考えた俺は、若かりし頃のこの男に接触して大百足を討伐させたのだ。
青娥に"大百足に住処を追われた龍神の一族の娘”に扮して討伐を依頼させ、俺は裏からありったけの強化呪文で援護に徹した。
こいつ自身も『討伐の際に神格化した過去の王”八幡神”に祈ったら急に力が湧いた』と言ってたから、利用されたとは露ほども思ってはいないだろうけど、借りは借り。
そういう訳で、武者としては高名だが政治的にそれほど力があるわけではない秀郷は謁見が許可されたのだ。
謁見は酷く畏まる秀郷の、老い先短い命を懸けた最後の嘆願……と言えばいいのだろうか。
本来、
軍部において起こりつつある派閥の衝突。
これを俺に仲裁、もしくは勅勘*3で
一応、俺も『神』としての体裁を保つために安請け合いするわけにもいかないが、拒否しないことで願いを聞き入れた事を示す。
安堵の表情で謁見の間から下がっていく秀郷を見送りながら、俺はどう手を回したものか頭をひねった。
現在の朝廷の軍部は戦力に大きく永遠衆が関わっており、生者は指揮官や一部官僚に限られている。
その中で二大派閥と言える者たち。
厄介なのは、両者共に派閥の祖が臣籍に降りた王族であったことか。
片や、血筋の良さから名目上の軍勢の大将になるうちに軍事知識を身に着け、高級将官となった指揮官側の氏族、源氏。
片や、軍勢の大将に王からの勅命を告げるために、文官の中でも血筋の良い者が任じられた軍の高級官僚の氏族、平氏。
派閥の長である二大氏族は、重視するものが全く違うためにすこぶる仲が悪い。
源氏は指揮官として臨機応変な対応こそ重要視するため、軍官僚による作戦の過度な制限を好まない。
平氏は軍官僚として予算の大幅な逸脱を忌避するため、指揮官の大幅な自由裁量を制限したい。
元の世界なら
だからといって何をやってもいい訳が無いので制限は必要で……いがみ合いが続く訳である。
特に平氏は、前に関東で反乱を起こそうとしたはねっ返り*4が同族にいたので、弱みを見せまいと頑なだ。
秀郷が永遠衆を率いて反乱を鎮圧した時など、源氏は鬼の首を獲ったかのようだったという。
豊聡耳に聞いたら、源氏と平氏の揃う朝議では口角泡を飛ばす議論が毎度のように行われているらしい。
「
「
王が臨席しないと、このような発言が平然と飛び交うほどだという。
確かにこれは何とかした方がいいなぁ。
とはいえ、俺が独断で動いていいような規模の案件じゃない。
なので、テゼレットに俺の腹案を書面にまとめてもらい、豊聡耳が来た時に見せたのだが……
「ふむ、まぁ良いんじゃないか? 彼らの諍いも目に余る、少しばかり荒療治も必要だ」
あっさり通った。
裏でお膳立てしたことがバレそうになったら、全部まとめて
一人二人くらいなら記憶をいじれば済むし。
最も渋られたのは『敵の敵は味方大作戦』という計画名くらいか。
どうせ
今回の計画の大枠は、源氏と平氏が協力せざるを得ない状況が起きれば少しはマシになるだろう、ということだ。
足を引っ張るだけの無能の存在を許す程、
今いる武官文官はそれをわきまえた者ばかりだ。
手を取り合わねば越えられない障壁を経験すれば、相手が必要であることも分かるだろうし。
都の中で源氏と平氏が協力するくらいの大騒ぎを、しかも今後を考えて永遠衆にやらせるわけにはいかない。
源氏の手勢には永遠衆も多く配備されてるからな。
一番簡単なのは適当に捕まえてきた手ごろな強さの妖怪を放つ事だが、この計画の為に無駄な死人を出すのもためらわれる。
困った俺は、
封獣ぬえ。
悪戯者として有名で、鬼ほど理不尽な強さを持たず、《正体を判らなくする程度の能力》を持つ。
今回の計画にはこれ以上ない人材……妖材? だったので、すぐに永遠衆を派遣して
「なんだよお前ら! 私が何したってのさ!」
背中から青と赤、二つの触手のような羽根を非対称に生やした黒服の少女に見えるぬえ。
急いだせいで少々手荒な招待になったし、気が立ってるな。
向こうの意思で協力してもらった方がスムーズだ、機嫌を直してもらう方が先か。
「すまんな、急だったことは詫びよう。その力を見込んで頼みがある、どうか受けてはくれないだろうか」
俺が身を屈めて頭を下げると、ぬえはまんざらでもなさそうにそっぽを向いた。
「ふ、ふぅん、なかなか礼儀が分かってるじゃない。まあ、話は聞いてやってもいいよ」
よし、掴みはオッケー!
俺の身体は無駄にデカいからな、頭を下げて見せるだけでも相手は悪くない気分だ。
ぬえは妖怪だから、俺が頭を下げた事実は人間に広まることはないし、下げ得である。
それでも協力が得られる兆しもないなら、記憶を少々消して他を当たったが。
ぬえには軍部の力学的な事情の説明は一切せず、安穏とした人間が信仰をおろそかにしているので危機感を思い出させたい、人死にが出なければ好きに驚かせて回って構わない、名高い貴方なら心胆寒からしめることができるだろう、とそこそこ神っぽいカバーストーリーで依頼した。
享楽的な性格らしいぬえはこれを快諾、彼女の将来が不安になるくらいあっさりである。
彼女の能力が『”正体不明のタネ”を何かに埋め込んで、見る者によって違う物に見せる』ということだったため、自身は安全だったのもあるのだろうか。
試しに実演して貰ったら、ぬえが《リリアナ・ヴェス》*6に見えた。
危うく《リリアナの敗北》*7を撃つところだったよ。
そうして実行された『敵の敵は味方大作戦』…………結果は、まあまあといったところか。
夜ごとに都のあちこちに現れる奇怪な姿の妖怪(正体はそこらへんの鳥)を相手に大立ち回りをする中で、源氏と平氏は緊急時の休戦協定を結んだ。
恒久的な協力関係ではないが、そのとっかかりができたことは喜ばしい。
謎の妖怪()も源氏の武者の手で討ち取られたし、平氏は彼らとの適切な距離を学んだ。
ぬえも都で大騒ぎを起こせてご機嫌で"また呼んで! "というくらいだったから、すべて丸く収まったな。
またいがみ合う状態に戻るようなら、忘れた頃に二度目をやってもいいし。
誰も犠牲にならない、仲良くするための大作戦。
ゲートウォッチも、今なら目こぼししてくれるんじゃないか?
俺はそう思いながら、目を細めた。
実は今回、鵺(偽)を討った源氏の武者は源頼政ではありません。
(今回の話が990年代、頼政の鵺退治は1150年代)
ボーラスが2回目の『敵の敵は味方大作戦』を実施したのが、1150年代だと思ってもらえれば助かります。
これからの展開について
-
まだまだ時代順に見ていきたい
-
そろそろ原作時期の絡みが見たい
-
過去の原作勢が概ね出たら時代飛ばして
-
並行して書け