龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
”宮中に
今までは必要に応じて生者の武官を伴うだけだったから、相当に危機感を感じたのだな。
しかし永遠衆の力の本質は”数の暴力”だ。
生前の能力をそのまま使うことができる利点はあるが、鬼のような突出した個の力が有るわけではない。
俺がマナを使って出す『死体から作られていない永遠衆』ならば総じて特殊な能力があるが、死体が加工された時点でパワーとタフネスが4/4の《王神の贈り物》製の永遠衆に比べて性能でむしろ見劣りする。
それを補うには更に数が必要となり……いくらマナに余裕があっても、そんな使い方をしていればあっという間に枯渇してしまうこと請け合いだ。
だが、貴人の護衛をするには徒に数を増やさず、質を高める必要がある。
なんとか両方のいいとこどりができないかと研究を始めたものの、手掛かりも何もなく、成果が出るには時間がかかるものと思われたが…………意外な事に十年と経たずに結果は出た。
必要な要素のほとんどは既に揃っていたのだ。
《王神の贈り物》と《不朽処理者の道具》、その併用こそがカギだった。
まず、普段は白のゾンビたちが死体を《仕える者たち》に加工するのに使用している《不朽処理者の道具》で不朽処理をある段階まで進める。
そして俺が目的のクリーチャーに対応した色マナを込め、その後《王神の贈り物》で永遠衆に加工するのだ。
この手法の良いところは、死体の生前の技能と永遠衆の平均化された性能に加えて、目的のクリーチャーの能力を付与できること。
素の性能が低いクリーチャーの能力も4/4のパワー・タフネスを持つ永遠衆として運用できるだけでなく、今まで造反を危惧して出せなかった永遠衆以外のクリーチャーの能力も付与できる。
残念ながら素体の種族と大きく異なるクリーチャーの能力は付与できなかったので、人間の死体にミノタウルス*1やエイヴン*2、ケンラ*3などの能力を付与したりはできない。
手間は普通の永遠衆よりかかるが、性能は圧倒的に良くなるし特別感もある。
よって、特に功の大きい武官を素体に《選定の司祭》*4、少しマナコストはかさむが《名誉ある門長》*5なんかの人間・クリーチャーの能力を付与していった。
《選定の司祭》は実質ゾンビを生産するたびにライフを回復できるし、《名誉ある門長》は集団戦で有効だろう。
勿論、普通の永遠衆の能力も付与できるので、マナ効率的にあんまり出さなかった《戦慄衆の先駆け》*6や《煌めく監視者》*7も生産し、戦力の底上げをしている。
武功が高い戦の一番槍や撤退の
そうして順調に新世代の永遠衆が製造されていたのだが…………ある日、朝廷からの貴人の遺体を永遠衆にする依頼が来た。
それ自体は、そう珍しい事ではない。
基本、生前の職務で
だが、何事にも例外が存在する。
依頼された貴人の遺体の生前の名は”崇徳院”。
遺体を再利用されない例外の存在である王家の人間、しかも直近で王だった経験のある先王である。
そんな立場の者の遺体がなぜ来たのか、それは崇徳院自身に理由がある。
崇徳院は執務に熱心で、治世に熱意のある王だった。
それだけを見ると名君なのだが、問題は崇徳院に能力が伴っておらず、頑張れば頑張るほど空回りする性質だったことだろう。
意欲的なのは分かるのだが、彼に執務を任せると逆に仕事が増えるので、重臣や側近たちはやんわりと彼を実権から遠ざけた。
当然、そんなことをされて面白くない院は何を思ったか実権を取り戻すために反乱を計画。
軍によって反乱は無血で鎮圧されたものの、厳しい処罰は免れず、離島へ島流しとされた。
都から遠く離れた島への流刑ではあるが、昨今の僻地開発の経緯から暮らし向きはそう悪くはなかったはずだ。
その地で反省の日々を過ごしていた院は、民の平穏を祈りたい、と大陸から伝わった経典を写経し、奉納して欲しいと都に送った。
これもまた美談であろう。
…………気持ちを込めようと、血文字で書かれていなければ。
そんな呪いのこもっていそうな経典を送り付けられた都の現王は、当然受け取りを拒否。
それに対し”民を安んじる心が無いのか”と院は激憤、『我、死して龍神に仕えし冥侍の骸となりてこの国を守る一助とならん』と遺書を残して自死してしまう。
泡を食ったのは朝廷の重臣たちである。
困ったお方だとは思っていても、別に死んでほしい訳ではなかったのだから突然の展開に慌てるのも無理はない。
王族の遺体を永遠衆にしてもいいのか、せめて遺志は尊重するべきではないか。
長い議論の末、現王は崇徳院の意思を尊重することを決めた。
ただし依頼の中に条件として、威権を崩さぬよう一般の永遠衆と差をつけること、前線で使い潰さないことが付け加えられた。
俺としては《呪われた者の王》*8とかがいいかなと思ったのだが、能力付与した永遠衆は能力元に見た目が引っ張られるので豊聡耳からストップが入り、協議の結果《
一般永遠衆より豪華な見た目、ゾンビ・トークンに接死*9を与える関係上、直接戦闘に出る必要が無い能力。
特別感を出すために、レジェンド・ルール*10みたいな運用が必要になってしまうが、しょうがないか。
こうして、特例ではあるが俺の配下に唯一無二となることが決定した《蠍の侍臣》が加わった。
生前の能力も受け継いでいるのでやたら所作が上品で、喋れはしないが宮中作法に精通している異色の永遠衆。
運用法の問題で外に出せないことで、”龍神の奥の手””永遠衆の切り札”などと言われるようになり、その生前に残した文から永遠衆と違って呼び方が定まっていなかった《仕える者たち》が《冥侍の方》と呼ばれるようになるのは先のことである。
「あ゙ー、息抜きがしたい……」
永遠衆の加工のひと手間で戦力が向上するのは良い事なのだが、俺にしかできない作業があるので《王神の贈り物》と違って放りっぱなしにできない。
能力の実験も研究対象が定まってないし……最近は
肉体的疲労は無いに等しいが、精神的消耗でもうへろへろだ。
「おやおや、だいぶキテるようだね」
俺の様子に豊聡耳も苦笑いである。
気晴らしにどこかに出かけたいところだが、生憎俺の立場では勝手に外出するわけにもいかん。
そこで布都か屠自古のどちらかを貸してもらいたい、と泣きついたのが現状である。
「そんなに息抜きがしたいなら、
「止めてくれ、逆に息が詰まる」
政府や軍部のお歴々が集まる中で、終始偉そうにふんぞりかえるなど仕事と変わらん。
俺はお前と違って生まれた時から偉そうにするのがデフォルトじゃないんだ。
「ハハハ、すまない、ほんの冗談さ。ただ、立場上気兼ねなく息抜きしてこいとは言えなくてね」
まあ、そうだろうな。
豊聡耳の側近を伴っても、大げさにならずに済ませるなら日帰りか、出来て一泊まで。
それ以上は行幸・行啓*11のような一大行事になりかねん。
しかし、短期間の物見遊山にちょうどいいなにか…………時期ももう弥生*12か……
「花見などいいかもしれんな」
俺が思いついたことを口にすると、その場に居た者全員がきょとんとした顔をした。
え? 俺なんか変なこと言った?
「ぼぉらす様、花見にはいささか時期が遅いのでは? もう花が散ってしまっている頃かと」
布都がおずおずと口にするが、俺は首をひねるしかない。
暖かくなってきたけど、まだ桜咲いてないよね?
「そうか? まだ蕾だと思うが」
「蕾どころか梅はとっくに咲いて散ったよ。何の花見るつもりなんだてめーは」
…………あー。
屠自古に言われて思い出す、今の時代じゃ花見の主流は梅なんだった。
ソメイヨシノなんかもかけらもない時代だし、桜の名所など数えるほどだ。
でも、俺としては花見といえばやっぱ桜なんだよなぁ。
植樹なんてされてないから見渡す限りの桜はどこにもないが、見ごたえのある古木なら在りはするだろう。
豊聡耳に有名な桜の木はないか、と聞くと意外なことにすぐに答えが返ってきた。
「なんでも、ある高名な歌人の入滅の地にそれは見事な桜の大木があるという」
木の下で入滅した歌人の名からその桜の名は────────西行桜。
風流人が死に場所に選ぶほどの絶景、楽しみなことだ。