龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
遠洋航海用の軍船の中、兵士たちは彼らの信ずるところである祖霊と精霊たちに加護をもらえるよう祈っていた。
ここまで来る途中に同胞の乗る軍船は、その多くが骨ばかりとなった頭部を晒す巨大な凶鳥の手で沈められている。
逃げ場のない洋上の船では標的にならないことを祈る以外にできる事はない。
陸に、陸に着きさえすれば。
先の戦役での失敗を教訓に、不死の軍勢に対するための火薬武器は大量に用意されている。
しかし、軍船ごと沈められてしまえばただの大量の副葬品である。
船員が揚陸範囲内に近づいたことを告げ、これまでの借りを返さん、と血気盛んに揚陸準備に入った兵士たちは、陸に絶望を見た。
海岸を埋め尽くさんとする大量の死者の軍勢に、蛇と猫のような骨の頭部を持つ二体の巨大なナニカ。
おまけに空には多くの軍船を沈めた凶鳥も飛んでこちらをうかがっている。
『なんなんだ……なんなんだあの国は……!』
もし、指揮官が降伏の決意を固めていなければ、彼は味方の手で命を奪われていたことは確実であった。
前回の動員数を超える永遠衆の招集に、新たな大型戦力(直喩)である永遠神三体の投入。
いっそ過剰なほどに万全の態勢を整えた結果…………新興国軍による第二次侵略軍はあっさりと降伏した。
勝ったな! ガハハ、とかフラグ立てる暇もない完勝である。
まあ、大陸から
流石に白旗上げたような相手を殲滅したらもしゲートウォッチが来た時の心証が悪くなるだろうな……と思ったので俺からとりなし、侵略軍(未遂)は武装解除・拘束されるに留められた。
その後、再び国書による新興国王とこの国の王のやり取りを経て"互いの国が続く限り"の『不戦の盟約』が交わされ、第二次侵略軍迎撃戦はこちらの血が流れることなく*2終わる。
でも、それはそれとして、一方的に襲い掛かってボロ負けしたのだから、戦時賠償というものはある。
先の迎撃戦で戦死した者たちの遺族も、明確に勝った証が無いと心の整理がつけられないだろうしな。
……で、その内容なのだが。
「は? 戦士団五千名?」
「そうだ。この国のために戦うから、煮るなり焼くなり好きにしろとのことだよ」
なんと侵略軍の一部をそのまま差し出してきた。
一人残らず使い潰す勢いで戦わせてもかまわないとのことで、
この状況で新興国からこの国に戦力が引き渡されれば、既存国の方からは新興国に与したように見えるだろう。
こいつらが真面目に働けば働くほど、疑いの目がこちらを向く、厭らしい手だが受け取らないわけにもいかない。
そんなところだろうと思ったのだが、豊聡耳と話すとまだ隠された狙いがあるとのこと。
「やられたね……」
「全くですねぇ。数代で隣国のほとんどを併呑した手腕は偽りではないということかと」
しかし豊聡耳と青娥は分かっているらしい。
豊聡耳は言うに及ばず、青娥はこの手の悪だくみには腹立つほど聡いからな。
「芳香ちゃん、分かった?」
「わかんない! けどなんかあやしい!」
……あれと同レベルにはなりたくないなー。豊聡耳政治塾の受講回数増やすかぁ。
俺が嫌そうな顔をしているのに気付いた豊聡耳は"その意気で、しっかり学んでくれたまえよ"と言いおいて、新興国の意図を説明する。
「差し出された戦士団は身を粉にして戦うだろう。そうすれば目覚ましい活躍をするものも居るはずだ。そうなると褒章をどうすればいいと思う?」
「使い潰せと言われているも同然なのですから、褒章など出さなくてもよいのでは?」
布都が過激な意見を言うが、実際にそうしたら
信賞必罰がなされないと不安になるものだしな。
しかし豊聡耳は"たしかに、むしろ渡しても受け取らないだろうね。少なくとも
「生前一度も褒章を受け取らず、戦死するほど奮戦した戦士に死後与えられるものがあるとしたら何か……心当たりがあるだろう?」
「なるほど……戦士団を最終的に永遠衆にさせるのが狙いか」
でも永遠衆の支配権を持ってるのは俺だし、青娥のキョンシーの技術みたいのがあっても複製は難しいんじゃないか?
俺も
「模倣などできなくていいのさ。『永遠衆は子孫のために戦う』……そのお題目があるから、かつての祖国のために義勇兵に、と言われたら断れないからね」
「内実が傭兵でも、か」
どうやら既存国より新興国の方が耳が良くて
強国となるのが目に見えているなら縁を結んでおくのも悪くない。
恩は売れる時に売っておくものだからな。
「おら、てめーはこれから太師様とみっちり講義だ。何のためにご立派な頭がついてんだよ」
一方で、無慈悲に屠自古が豊聡耳政治塾の臨時開講を告げる。
トホホ…………
いくらこの次元の人間が永遠衆の技術を複製するのは難しそうといえど、他国の連中を惜しみなく永遠衆にしてたら有難みが無いよな。
ということで、新興国から来た戦士団の皆さんには、永遠衆になる権利を求めて試練に挑んでいただこう!
このために新たに
それぞれの場所はだいぶ遠いが、霊気動力鉄道の最新型『パラディア=モルス*6』号なら1週間足らずで行き来できるから問題ないだろう。
《オケチラの碑》で行われる《結束の試練》以外は一人でも挑戦可能で、試練中に万が一にも死なないようにかなり気を使っている内容だ。
元ネタに
ゲートウォッチに怒られないよう、《野望の試練》*7と《激情の試練》*8は削除。まあ大がかりな能力検定的なものだと考えて間違いない。
突破者には《蓋世の英雄の短剣》を授与して、死後に永遠衆へ迎えることを約束する。一種の免許証みたいなものだな。
一応、拒否したくなったら返納も受け付けると伝えたが、目的からしてしないだろうなぁ……
彼らが永遠衆になり、義勇兵として祖国に戻ったら流石に既存国の方も耐えられるとは思えん。
幸い、新興国も圧政なんかするつもりはないみたいだし、味方したからといって怒られる筋合いもないが。
……せいぜい義勇兵という名の尖兵として、永遠衆を新興国の戦力の中に食い込ませておくとしよう。