龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
「はぁ~……」
進学校である東深見高校の新入生、
事の発端は、彼女が自分は選ばれた存在だと信じており、交友を結ぼうとする者たちを面倒がっていたことだった。
中学までは地元の学校に通っていて、彼女が全く友達を作ろうとしないことは周囲も承知していたが、進学校に入学するにあたり周辺の人間が一新されて、また彼女にとっては鬱陶しい友好の勧誘が始まったのだ。
相手からすれば完全な善意であるが、董子にとっては己という選ばれた存在を『友人』という枠にはめて平均化しようという悪魔の囁きにしか思えない。
それというのも……彼女は生まれながらの超能力者だったのである。
常人には不可能な
このような能力を持つものは国の中でもそうおらず、董子の優秀な学力も相まって、彼女は将来は戦慄衆になるどころか、永世政策顧問である豊聡耳神子様に古の世から仕え続ける二人の姫のように侍ることさえできると自負していた。
だが、彼女の将来が有望だということはよく知れ渡っているので、彼女のいうところの有象無象は嫌というほど寄り付いてくる。
そこで彼女は一計を案じた。
『龍神様【以外】の現代の超常現象・神秘』を探求する非公式オカルトサークル"秘封倶楽部"を新たに主催したのである。
この時代、目に見える神秘である龍神様とその配下である永遠衆・冥侍の方を除外したオカルトサークルなど流行るはずがないという読みだ。
常軌を逸した行動をとれば周りも遠巻きにしてくれて、五月蠅い雑音も減るだろう……そう考えていたのだが。
「何よ入部希望三十二人って……新設の非公式サークルに来る人の量じゃないでしょ……」
新設の非公式サークルにも関わらず入部希望者に面接を行い、振るい落してなおこれである。
面接で落とせなかった者たちは皆、『口裂け女』『赤マント』『八尺様』『メリーさん』などそれぞれ探求したい怪異があり、相当な熱意が感じられた。
龍神に対し強い信仰を持ち、それ以外の超常現象を格下とみている董子は、"主催しておいてなんだがこいつら本当に正気なのか"と訝しむことしきりである。
「でも、問答無用で全員入部拒否! ってわけにもいかないのよねぇ……」
入部希望書類を出してきた生徒の中には、友好国からの特別留学生も含まれている。
特にそのうちの一人の母国は中央アジアから西は東ヨーロッパの一部、東は極東まで国土を持つ大国"モンゴル首長国連邦"である。
国防の関係で昔から親日の姿勢を貫く友好国であり、彼への無体な扱いは内申に響くことも考えねばならない。
まあ、当人は『準国民』の待遇が与えられる留学期間中に『三つの試練』を突破して"在外永遠衆"として故郷に凱旋する資格を得るため忙しいだろうから、サークルにはそれほど顔を出さないだろうが……
しかし、彼を除いてもまだ入部希望者は三十人以上。彼らと強制的に交流をさせられては本末転倒である。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、どうしよぉ~……」
サークル"秘封俱楽部"の実働まで残り一週間。
初代会長・宇佐見菫子の悩みは深まるばかりだった。
「おかーさん、ただいまー」
「おかえり、董子。ごはん、できてるわよ」
董子が帰宅すると、夕飯の美味しそうな香りが彼女の鼻をくすぐる。
彼女の母は調理に使った器具の洗い物をしており、席に着けばすぐにでも食事にありつけそうだ。
靴を脱いで家に上がった董子は、母に返事をしてから他の同居者にも声をかける。
「はーい。お父さんとお祖母ちゃんも、ただいま」
声をかけたのは白い包帯に身を包んだ大きな冥侍の方と、同じく一回り小さな冥侍の方。
彼らは董子が小さいころ、地震の被害で亡くなった彼女の父と祖母である。
父の奮闘で母と小さかった董子は助かったものの、父と祖母は亡くなった。
無辜の犠牲者は優先的に冥侍の方に取り立ててもらえるのも、龍神様の慈悲深さとして知られていることの一つである。
「いただきまーす」
「はい、いただきます」
席について、母と共に董子は食事を始める。
毎日の食事は"生きていることへの祝賀"として国の生者全てを対象に龍神農園から毎日供給される食材が使われ、最も身近に龍神様への感謝を感じられる時間だ。
特に董子の家庭は食材の供給においても周囲より若干優遇されており、片親を失った董子も不自由をした覚えは少しもなかった。
そう、董子の家は優遇されている。それは彼女の父と祖母が冥侍の方となってもそのまま家で家事の手伝いをしていることからも分かるだろう。
他の冥侍の方と一緒に労働するでもなく、そのまま母のサポートや小さかった私の面倒を見てくれたのは龍神様の配慮、ひいては彼女への期待に他ならない。
それらもあって、董子は自分が期待に恥じない働きができることを確信し、自身が特別だと信じているのだ。
食事を終え、お風呂に入ったら寝る前に明日の予習と今日の復習。それにプラスして政治の勉強も少し行う。
この国では政治に携わることは栄誉であって実利ではない。
上層部へ行くほどその給金は減っていき、総理大臣ともなればその額は雀の涙ほど。国を良くしたいという熱意のある者だけがその責を担うのだ。
これは新たに政治参加する者との資金的な格差を少なくするための制度でもあるのだが、死者の労働によって最低限の生活が完全に保証されているこの国ならではの制度であると董子は学ぶ過程で知った。
そしてこの国の政界での最高の名誉は、皇室、政策顧問である豊聡耳神子様、龍神様の三者から信任を得る事。
そこを目指すためにも、期待に応えるためにも董子は自分を磨き続けねばらならない。
できれば他の有象無象にその邪魔をされたくはないのだが……
"秘封俱楽部"のアレコレを思い、董子は大きく溜息を吐いた。
龍神の住まう国では、昔から特殊な能力を持つものが優遇されている。
時代によって
……あまり知られていないことだが、その中でも『転移能力』を持つ者は特に手厚い保護が約束され、必ずそばには永遠衆や冥侍の方による警護が敷かれているという。
龍神は、特殊な能力を持つ者に蜜のような甘い世界を与える。
いつの日か、その身の内の"灯"を覚醒させ、世界を渡れるほどの転移能力を持つ者が現れた時のために……*1