龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
「地上……離れる……? どういう事だ?」
あまりに突飛な話に俺の頭は付いてこれていなかったが、永琳はボソボソと呟くように説明してくれた。
永琳の住んでいる都市では"穢れ"をできるだけ排除して生活しているが、それでも地上に住んでいる限り生物の生む穢れから逃れるのは難しく、いっそのこと生物の住んでいない月へ移住することで穢れから離れよう……という計画が進んでいたのだという。
月で人が生活できるのか? という疑問があるが、次元によっては太陽が2つあったりするくらいだし、この次元の月は人が住めるのだろう。
「しかし明日の夜とは……随分と急だな」
「ごめんなさい、私もこんなに早くなるなんて思わなくて……」
計画ではまだ一か月以上先の出発を見込んでいたのだが、噂を聞き付けた妖怪達が都市への大規模な襲撃を企てていることが分かり、急遽予定が繰り上げられたらしい。
明日の昼からは宇宙船への搭乗が始まるので、夜にもかかわらず最後の挨拶に来た、と言う事だ。
「月へと移住したら……もう地上へ戻ることはないと思う」
「……そうか」
この5年間、永琳には世話になってばかりだった。
新アモンケットの建築当初に雨よけの天幕や食料の援助をしてくれたのも彼女だ。
《不滅の太陽》の改造については「私の勉強にもなるから」と快く引き受けてくれたが、2年も諦めず研究を続けてくれたことには感謝しかない。
今生の別れか……それに報いることができるかは分からないが……
「永琳、これを君に」
鋭い鉤爪で壊さないように気を付けながら、永琳の手にそっと用意していた物を渡す。
《知識のカルト―シュ》*1、かつてのアモンケットでは試練を乗り越え精神力を証明した者に与えられた護符。
比類なき智慧を持つ彼女にはぴったりだろう。
本来は来月の彼女の誕生日のために用意していたのだが、まさか別れの餞別になるとは思ってもみなかった。
「これは……あの不死者たちの鎧と同じ素材ね。魔法が込められているのに魔法を弾く性質を持つ不思議な鉱物……」
「それを持っていれば空を飛ぶことだってできる*2。君が新しい地で強く羽ばたけるよう、祈っている」
最後に関しては少々こじつけだが、もともと永琳はラゾテプ*3に興味があったようだから相応しい
この次元世界での初めての友人との別れ……やっぱり結構きついもんだな……
永琳も《知識のカルトーシュ》を胸に抱きしめて、涙をポロポロ零しながら言った。
「ありがとう……! ずっと大事にするわ……」
「遠く離れてもお前とは友達さ。俺たちは、いわば"盟友"だろう?」
少し茶目っ気を込めて言った俺の言葉に、永琳は涙を拭き、あの日のように優しい瞳で笑った。
この時のやり取りを見ていた木っ端妖怪が、その後も生き残り"妖怪の盟友"の話を子孫へと語り継いでいくのは、また別の話……
永琳と最後の別れをした次の日の早朝、俺は新アモンケットに最低限の戦力だけを残し出陣の準備をしていた。
向こうの都市を襲おうとしている妖怪たちにとっては、今日は最後のチャンス。
もし話が漏れていれば夜の出発までに襲撃があるだろう。
今回の出陣の目的はその妖怪たちの排除と、宇宙へ旅立つ永琳の乗った宇宙船を見送ることだ。
永遠衆以外の新アモンケットの住民は、下手したら調子に乗って向こうの都市に襲い掛かりかねないので強制的にお留守番を言い渡してある。
「よし、出陣! 友の旅立ちを邪魔する無粋者を蹴散らしてやれ!」
俺の号令とともに永遠衆たちが一糸乱れず動き出す。
一言も言葉を吐くことなく、ただ前進するその姿はまるで《永遠の刻》*4*5。
ゲートウォッチたちが見たら憤激するだろうな。
埒もない空想に、思わず溜息が漏れた。
予想通りというか、当たっていて欲しくはなかったが、永琳の住む都市は妖怪たちによって包囲されていた。
都市の警備隊たちは機銃のようなものを使って妖怪たちを薙ぎ払っているが、地を埋め尽くさんばかりの数に都市の壁へ近づけないのが精一杯のようだった。
そこへ到着した俺の率いる永遠衆たちが襲い掛かる。
先鋒の《不気味な修練者》たちの突撃によって乱戦となり、討ち取り討ち取られの戦況となるが、まるで問題は無い。
《不気味な修練者》の死亡時の効果によって動員*61が発動、永遠衆が増員・強化され、数は減らないからだ。
「うぉらあぁぁ!! よし、討ちとっグギャァァァ!?」
強化された《戦慄衆の解体者》を決死の攻撃で倒した妖怪が、砕け散った腕だけで振るわれた最期の鉄球に頭をカチ割られて倒される。
「ぎゃあぁぁぁ!? な、なんで受け止めたのに傷が!?」
永遠衆の攻撃を止めた妖怪が、加虐*7によって斬られていないのに傷を受ける。
腕の立つ妖怪も多かったが、どんな傷を受けても決して動きを止めない永遠衆にどんどんと押されていった。
もちろん、一番
襲撃に参加している妖怪の数が多かったのもあり、中には厄介な奴も混じっている。
その筆頭は"鬼"だ。
とにかく頑丈で、馬鹿みたいに力が強くて、時には妖術のような搦手まで使う。
幾ら永遠衆でも一対一では勝ち目がないので、動員した大量のゾンビ軍団を蟻のように群がらせて動きを封じてタコ殴りにする。
そうしてようやく6割……いや7割こちらが有利になってきたところで辺りは夜になり、都市に攻め込もうとする妖怪達は活性化して乱戦から潰し合いに様相が変わってきた。
意地でも都市を襲おうとする妖怪達と、命を惜しまず戦う永遠衆達。
そんな果てしない潰し合いの中で、都市から轟音とともに何かが空へ向かって飛翔して行く。
(ああ、永琳。ついに旅立ったんだな。それじゃあ何とかして引き上げるとするか)
天高く飛んでいく光に目を細めながら、俺が永遠衆に撤収の号令を出そうとした時。
──────激しい閃光と爆風によって、俺の意識は刈り取られた。
「どういうこと!?」
永琳はモニターの中で起こった出来事に瞠目し、近くに居た船員に詰め寄った。
問題は、なぜアレが今まで住んでいた都市に向かって、置き土産のように落とされたのかという事だ。
「情報の消去ですよ。残った都市の技術を妖怪達に渡して、月に来れるようになられては困りますからね」
それは分かる、でも、残った都市を調べても技術が流用できないよう、情報保全の処置をしたのは永琳だ。
あんな風に、彼を巻き添えにしてまでしなくてはならなかった事なのか?
疑念を抱く永琳に、船員はすっきりしたような顔で言った。
「それにしても、これで心置きなく月に向かえるというものです。妖怪も穢れた龍も不死者の軍団も、脅威でしかありませんからね」
その言葉に、彼女の心の何処かが、スッと冷えるのが分かった。
ああ、この人は、いや他の住民たちも、彼を妖怪達と同列にしか見ていないんだ。
彼は、私達が出発するまで都市を代わりに守ってくれたというのに。
喉まで出かけた言葉をすべて呑み込んで、永琳はポケットの中の《知識のカルト―シュ》を、血が滲むほど握りしめた。
彼女はヤンデレではない、いいね?
「カードとしての効果」と「ストーリーでの役割」、どちらを重視して欲しいですか?
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「カード効果」に準拠して欲しい
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「ストーリーの役割」っぽく柔軟に