龍神ボーラスで東方暮らし 作:名無しの永遠衆
本当にありがとうございます。
そして時は過ぎ、暑い夏がやって来た。
洩矢曰く、侵略者の
その予想を肯定するように、夏になってから王国の外縁部の支配下の集落が次々と向こうの手に落ちていった。
(どうする? 永遠衆に奪回させるか?)
「それじゃ意味ないよ、国の境界に戦力をべったり貼り付けたら『向こうを怖れました』って喧伝するようなもんだ。どこかで頭を直接叩かないと」
(統率者を叩くか……なら、ある程度は中に引き込む必要があるな)
「流石師範、話が早いね。あとは誘い込んだ奴らに、隠した戦力を纏めてぶつけられたら最高だ」
洩矢との作戦会議の結果、決戦の舞台は俺の本体が埋まっている森になった。
あそこは洩矢の王国の発祥地である湖……諏訪湖の近くだし、蛇体の永遠衆達は森に隠れるのはお手の物である。
侵攻ルートの住民を避難させて手ごたえを失くすことでこの森へと侵略者を誘い込み、洩矢を含めた全戦力での伏撃で決着をつける予定だ。
しかしこれは同時に、一度負ければ降伏するしか道のない背水の陣でもある。
彼女にその旨覚悟はあるのか、と問うと、「これで勝てないくらい実力差があるなら、サッパリ国をくれてやるさ」と答えた。
その顔からは確かな本気が感じられたが、負ける前提で戦うつもりはない不敵さも伝わってきた。
相手にバレないよう、少しずつ国内の永遠衆を森へと潜伏させ、洩矢は戦場で俺に素早く支配域から集めたマナを譲渡する練習に余念がない。
そうして準備を万全に整えた夏の盛りの嵐の日、侵略者達はやって来た。
侵略者達は大和の神……いわゆる人間社会から生まれた『神霊』というものらしく、洩矢と違って信仰によって己の形がぶれることが無い。
その為、新たな信仰者を積極的に求めて他所に侵略してくることがあり、土着の神からしてみればいい迷惑である。
(洩矢、敵の先遣隊は始末した。後は本隊がどれくらいいるかだな)
相手の先遣隊は馬鹿正直にも森の中を行軍してきたので、森の木々の上や足元の草むらの中、四方八方から音もなく襲い来る《ナーガの永遠衆》を前に呆気なく全滅した。
一柱も逃がさなかったことで本隊に情報は渡っていないだろうが、先遣隊が帰ってこない以上、
この後の戦いは間違いなく決戦になる、そう確信した。
「……私の知覚範囲にも入ってきたよ。──────すごいね、まるで嵐みたいな気配だ」
どうやら先遣隊がやられた上でなお進む以上、隠れるつもりは毛頭ないということらしい。
それだけの戦力なのか、自信があるのか……どちらにしても手強いことに変わりはない。
この森に俺達が戦力を隠していることは百も承知のはず、強行突破できる戦力があるというなら先遣隊が弱かったことを考えると、実力者は少ない。
つまりは統率者の武神だ。
(洩矢、敵は少数精鋭だろうが、一体何柱いる?)
俺の問いに、彼女は自分でも信じられないように戸惑いがちに言った。
「……たった二柱だ。しかも気配からして強いのは一柱だけ」
(ほぅ、武神御自らの御出陣だな。もう一柱は付き人かお目付け役というところか)
「舐められてるねぇ……これは思い知らせてやらなきゃ」
そう言って黒い笑みを浮かべる洩矢。
祟り神の権能を得て以降、彼女はこういう顔をよくするようになった。
伝えると改めるが、これも神格への影響なのかもしれないな。
大和の武神の進軍は予想外の方法で、俺達はその解決法に思わず唖然としてしまった。
方法は単純、森の木々を暴風で根こそぎなぎ倒して進む、それだけだ。
あまりにも粗略、あまりの暴威、まさに計り知ることのできない風雨の化身の御業だった。
森に潜伏していた永遠衆達は木々の下敷きにされたり風で吹き飛ばされたり、武神に相手にもされていない。
強力な敵だとは思っていたがこれほどとは……
状況を見てこれでは劣勢だと判断した洩矢は即座に決断する。
「仕方ない、こうなったら諏訪湖に着くまでに直接対決と行こうじゃないか」
(だが、相手の力を削ぐことが出来ていない、大丈夫か?)
「最後はやっぱり戦わなきゃいけないんだから変わんないさ。この『洩矢の鉄の輪』の神威を見せたげるよ!」
そう言って彼女は手にした
坤という大地を司る洩矢は、そこから生み出される鉄をも司っている。
その鉄の輪の威力は、永遠衆も手古摺る強力な妖怪の外殻を容易く切り裂くほどだ。
鉄の輪を携えた洩矢とともに、森をなぎ倒しながら進む武神の下へと向かう。
この王国の王としての彼女の強さを信じてはいても、俺には会った当初の印象から心配する気持ちはどうしても消せなかった。
「ほう、お前がこの国の王、土着の神・洩矢か」
森の木々をもなぎ倒す暴風の顕現は、意外にも美しい女性の姿をしていた。
紫がかった青色の髪はサイドに広がるように流れ、赤の上着と
最初は傍らにいる、緑の髪の青年のような神が武神かと思ったのだが、先に口を開き、青年神が控えるように立ったことから、こちらの女性神が武神なのだと分かった。
「そうさ、自己紹介はいらないみたいだけど、戦う前にそっちの名前も聞いときたいね?」
洩矢の軽口に武神はハッ、と傲岸に笑うと、荒ぶる風を背に名乗りを上げた。
「我が名を聞くか! ならば答えよう。我は八坂、風雨を操る大和の武神なり!」
「はぁ? 風の神なのに八坂*2なの?」
「問題ないさ、これからこの山国が我が物になるのだからな!」
そう言って武神・八坂が己の神威の一つと思われる巨大な木の柱を複数呼び寄せると、洩矢も鉄の輪を構えて待ち受ける。
それからの戦いはそれは激しいものだった。
八坂の操る暴風雨の中で敵を打ち据えんと迫る柱を、洩矢は鉄の輪でいなし、断つ。
風をもって空を舞う八坂を洩矢は鉄の輪を投げうち狙うが、暴風で軌道を外され躱される。
お互い決定打が無いまま戦いが続いていたが、八坂が傍らの青年神に「やれ!」と合図を送ると事態が変わった。
青年神が細い蔓のようなものを放ると、それはたちまち鉄の輪に絡みつき、刃を瞬く間に錆びさせてしまった。
「これは……!?」
「貴様に何の対策も持たずに来たと思ったか! 鉄も元は土より生まれしもの、ならば土に帰るも道理というものよ!」
鉄の輪が崩れ去ったとなれば、洩矢の不利は揺るぎない。
この戦いは勝っても負けても洩矢の事を後世に語り継ぐ決戦になると思った。
だから
(二対一か……ならば、俺が手を貸したところで、よもや卑怯とは言うまいね?)
「っ!? まだ伏兵がいたか! 気を付けろ、私にも姿が見えん!」
八坂が青年神に警戒を呼び掛けるが無駄だ、俺はそもそも
存在しないものを見つけるのは無理というものだ。
(洩矢、ありったけのマナを渡してくれ。デカいのを使う)
「……分かった。鉄の輪がやられたならどうこう言ってもいられないしね」
洩矢が己の支配域からマナを移動させ、俺に渡す。
八坂達は俺達が何をしているのかは分かっていないが、何かとんでもないことをしようとしているのは直感で分かったようだ。
「させるかぁっ!」
八坂の渾身の柱の投擲、それはマナを引き渡し終えた洩矢を吹き飛ばす。
(洩矢っ!? ……だが、もう遅い! 喰らえ、《残酷な根本原理》*3!!)
姿なき声が不気味な言葉を口走った瞬間、彼女の傍らにいた眷属神が
「なっ!? おのれ、何をし……ぐあぁぁぁ!!」
眷属との繋がりが断たれて紛れもなく死んだのだと確信し、せめて相手を恫喝しようとした八坂の身体からみるみるうちに
見れば、彼女の神威の象徴たる
なんだ? 洩矢とは所詮田舎の土着の神ではなかったのか?
困惑する彼女に構うことなく、吹き飛んだ洩矢との間の地面が見る間に盛り上がり──────
──────弾け飛ぶ土煙を纏って、巨大な龍が目の前に現れていた。
八坂に《残酷な根本原理》を撃ったおかげで、相手に5点相当のライフダメージ与え、自分は5点のライフ回復をすることが出来た*6。
ドロー効果はこの際関係ないが、5点も回復したおかげで本体が動かせるようになった。
久しぶりの肉体での空気! 思わず吸い過ぎて、吐き出した息が咆哮となって響き渡る。
「……あららー、もしかして君、龍師範?」
後ろを振り向くと、地面を転がったせいでだいぶ汚れた姿の洩矢がこちらを見上げていた。
「そうだ。本当の名はニコル・ボーラスと言う。エルダードラゴンだ」
彼女は身体の傷も気にせずにぽかーんと呆気に取られていたが、クシャッと顔を歪めて笑って言った。
「いけないんだー。神様を騙すなんて、祟っちゃうよ?」
洩矢はクスクス笑いながら言っているが、冗談ではない。
俺の色はエンチャント*7を除去しづらいんだ、本当に勘弁してつかぁさい。
「っ!! 貴様ら、私を無視するな!」
おっと、ついいつもの空気になってしまった。
放っておかれた八坂は顔を真っ赤にして怒り心頭の様子。
だが、《残酷な根本原理》で弱体化した今、この
俺が鉤爪を振りかぶろうとすると、俺の前に洩矢が出てきて俺を止めた。
「どうした?」
「今のこいつなら、現状の私で五分と五分。なら、恨みっこなしの
それにこのままだと私の神格またぶれちゃいそうだし、と笑って言う洩矢の言葉に、八坂はこれ以上無いと思っていた赤い顔にさらに血を上らせる。
「舐めるなぁっ! 田舎土着神程度、今の私でも何するものぞ! おい、そこの龍! 洩矢を倒したら次はお前だからな!」
威勢よく啖呵を切って、洩矢と向かい合う八坂神。
こうして、洩矢の王国と大和の神の侵略者による諏訪大戦は、キャットファイトとは程遠いガチンコの殴り合いで幕を閉じた。
「カードとしての効果」と「ストーリーでの役割」、どちらを重視して欲しいですか?
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「カード効果」に準拠して欲しい
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「ストーリーの役割」っぽく柔軟に