龍神ボーラスで東方暮らし   作:名無しの永遠衆

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第九話 戦後とこれから

 二柱による壮絶な泥仕合はかろうじて八坂神が辛勝を収め、ボロボロの状態のまま八坂神は宣言通り俺に二回戦を挑んできた。

 あまりにボロボロだったので、俺のドラゴンデコピン一発で地に沈んだが。

 

 一応の勝敗がついたことで、八坂神と洩矢の間で戦後処理についての話し合いがもたれた。

 八坂の要求は自分を国主とする全面的な信仰の譲渡と永遠衆の使用の廃止。

 彼女は自分が代わりに国主になることで信仰は自然に集まってくると思っているが、永遠衆をそのままにしては民の生活の中での洩矢信仰の匂いが強すぎるとのことだ。

 洩矢は至極あっさりとそれを受け入れ、洩矢の王国は八坂神の物となった。

 

「よかったのか?」

 

 俺が洩矢に問いかけると、彼女は呆気らかんとした顔で答えた。

 

「あの状況で負けるなら、もう仕方がなかったってことだよ。それに、君にぶっ飛ばされるやつの姿も見られたしね」

 

 にししと笑う洩矢の頭を、ゴチン! と八坂の鉄拳が襲う。

 

「その話はやめろ! お前は私の下になったという自覚が無いのか!?」

 

 いくら満身創痍の状態であり、相手が巨大な龍()だったとしても、デコピン一発で負けたのは武神として恥ずかしいらしい。

 それが分かっているのか、洩矢は事に付けてはその話を出して八坂をからかっていた。

 勝者と敗者と言うにはだいぶすっきりした関係になった二柱だが、洩矢も少しは腹に抱える物があるのかもしれないな。

 

「イテテ……あー、たしかに私はアンタに国を譲るよ? でも苦しい戦いはこれからだと思うなー」

 

「なんだと? どういう事だ!」

 

「私は祟り神の権能も持ってる。民は私を畏れていると同時に恐れているから、そう簡単に信仰は集まらないんじゃない?」

 

 宗旨替えは神を畏れぬ所業の最たるものだ。

 豊作と庇護を与える彼女に民は感謝しているが、同時に罰を与える洩矢の祟りに恐怖もしている。

 たしかにこれでは、洩矢が国を譲っても信仰の譲渡はスムーズには進むまい。

 八坂もそれに気づいたのか、拳を握り締めてふるふる震えていたが、どうしようもないと分かったのか大きな溜息を吐いて拳を開いた。

 

「分かった、この点ではお前が一枚上手だった。だが、私の負けでは終わらんぞ」

 

 不敵に笑う八坂に俺が「暴挙をするなら受けて立つぞ」と言うと、彼女はフッと鼻で嗤って言った。

 

「信仰を得るのにそんな事をするものか。……洩矢には、名を変えて新生し私の下についてもらう。──────そうさな、名は守矢、と言ったところか」

 

 その言葉に洩矢がゲッ、と嫌そうな顔をする。

 信仰の形が変われば性質も変わる、洩矢はそういう神だからな。

 名を変えて王国で大きな権限を与えられ信仰され続けても、結果的に八坂のために働くことになるとなれば嫌な顔の一つもするだろう。

 緩やかに弱っていく楽隠居から、元気なままでの馬車馬生活とは……八坂神も意地が悪い。

 

「お前とは長い付き合いになりそうだな。改めて自己紹介しておこう、私は八坂神奈子。風雨の神であり武神であり、これからはこの山国の神でもある」

 

 洩矢にそう話す八坂神を見て、そう言えば洩矢は下の名が無かったな、と思う。

 洩矢自身に聞くと、八坂神は神霊であり、元となった霊の名前があるからなのだそうだ。

 その説明をした途端、八坂神──もう神奈子でいいや──は洩矢に勝ち誇った顔をし、洩矢の顔を歪ませる。

 案外子供っぽい面もあるんだな……

 

「むぅー! 師範! ……じゃなくて、ニコルなんちゃらなんだっけ? 私にふさわしい名前、何か無い!?」

 

「おいおい、そういう事はノリで決める事じゃないだろ」

 

 俺の忠告にも洩矢は耳を傾けもしない。

 

「いいんだよ、これからは神奈子のやつが表に立つんだから!」

 

「おい、いきなり私を呼び捨てか」

 

「なに? これからずっと私に"八坂神様"って呼ばれたい?」

 

「……いや、いい。鳥肌が立つわ」

 

 からかわれていたのもそうだが、どうやら口では神奈子より洩矢の方が強いらしい。

 しかし、洩矢にふさわしい名前か……ネーミングに自信はないんだが……

 

「そうだな根拠地の湖からとって、"諏訪子"とかどうだ?」

 

「うーん、ちょっと安直だけど、まあいっか! 今日から私は洩矢諏訪子だ!」

 

 そして洩矢……諏訪子は、神奈子に対してニヤリと笑う。

 今まで同格の存在がいなかったせいだろうけど、すごい張り合ってるなぁ。

 勝者敗者に分かれはしたが、神奈子は諏訪子をそう簡単に切り捨てられない。

 お互いに張り合ってるようだし、存外二柱は良い関係になれそうだ。

 

 俺がそんな思いでほのぼのしていると、二柱が居住まいを正してこちらを向いた。

 

「どうした?」

 

 俺が問うと、二柱は視線を交わして代表して神奈子が口を開いた。

 

「これまでの話は前座だ。最も重要なのは……これからのお前の扱いだ」

 

 神奈子の言葉に諏訪子もウンウンと頷いた。

 これから永遠衆は廃止され、守矢に名を変えた諏訪子とともに神奈子が国の舵取りを行う。

 しかしそこに、明らかに強そうな龍が居たらどうなるか?

 これぞ洩矢の怒りではないかなど無責任な噂も出るだろうし、異端信仰・反乱の拠り所など碌なことにはならないだろうとのことだ。

 

「お前に負けた私が言う事ではないかもしれないが……お前は、この国を出た方がいいと私は思う」

 

 無用な面倒事に巻き込まれるのは本意ではないだろう、と神奈子は言うが、俺もそれなりにこの国で暮らして愛着はある。

 俺の存在が不安定要因となるなら、離れるのが無難だろうか……

 それに洩矢との契約の目的だった本体の復活も叶ったし、永遠衆が廃止されるならこの国での俺のできることは少ない。

 いや、俺が人目に触れることで起きる不利益の方が大きいだろう。

 

「師範……貴方は裏方だったけど、実質もう一人のこの国の王だった。それなのにこんな事言うのは嫌だけど……」

 

 辛そうに口を言葉を紡ごうとする諏訪子の口に指を爪が当たらないように当てて続けるのを封じる。

 それ以上は言わなくていい、そんな気持ちを込めて。

 

「……分かった! 身体も取り戻したことだし、俺は出ていこう!」

 

 空元気でもいいから明るく聞こえるように声を出す。

 だから、そんなに辛そうな顔をしないで欲しかった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 諏訪子の、いや神奈子の国を出て、俺はまた家無しドラゴンに戻った。

 いや、龍師範の頃も明確に家があったかって言えば違うけど。

 

 身体を取り戻して自由に動けるようになった今だからやらなければいけないこともある。

 新アモンケットにあった《不滅の満月》の捜索だ。

 あれは相当頑丈なアーティファクトだから壊れていないとは思う*1が、できれば目の届くところに置いておきたい。

 その後は……どうしようか。

 これまでの経験で、受け身になっては上手くいかないということが身に沁みて分かった。

 そう、これからは積極的に生きる! 俺はデキるドラゴンだ!

 

 お手本になるのはやっぱりゲートウォッチ達も最初は居心地よすぎて困惑したアモンケットにすべきだな。

 どうやらこの地では中央集権化が進んでいるらしいから、権力者と癒着できれば大っぴらにやれることも増えるだろう。

 まんまアモンケットにしたら、造反者*2が出てゲートウォッチに告げ口しちゃうから注意しないとな!

 

 これからの未来への展望を考えつつ、俺は翼をはためかせた。

*1
元になった《不滅の太陽》はオフにしない限り、常に機能している。

*2
アモンケットで王神ニコル・ボーラスへの信仰を否定していた者たち。ボーラスによる欺瞞の真実を知る者たちともいえる。

「カードとしての効果」と「ストーリーでの役割」、どちらを重視して欲しいですか?

  • 「カード効果」に準拠して欲しい
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