とある幽霊と天気予報   作:車輪軸

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Side-S She have a dream②

 佐天涙子は逃げるように走っていた。何かに追われるように、恐怖を振り払うようにして。

 手に持っている音楽プレイヤーの中に入っているレベルアッパー、初めは使ってみたい衝動に駆られたが外を歩いているうちに冷静になり、純粋にお手柄なのではないかと思い始めていた。ただ、友人達が、あのレベル5の御坂美琴を含む彼女らが、レベルアッパーを持つ者を捕縛するという話題を出すまではであった。

 勿論だが、いきなり捕まえられるようなことはないと思っていた、お手柄であると褒められる可能性も十分にあった。けれど、彼女は怖かった、レベルアッパーを持っていることで友人達に軽蔑されてしまうかもしれないことが。彼女は惜しかった、もしかしたら『特別』になれるかもしれない道具を取り上げられてしまうのが。

 だから逃げ出した、適当な言い訳を述べて話し合いをしていたファミレスから飛び出した。

 

 「何やってるんだろ…私…」

 

 自分でもどこをどう走ったのか分からないまま、気が付けばあまり人気のない路地裏に迷い込んでいた。『学園都市』は価値の無い『普通』の人間が多い影響で不良が多く、人気の無い場所はそんな不良達の溜まり場になっていたりするので危険である。その危険性を思い浮かべ早足に抜け出そうと考える佐天だったが、そこで声が聞こえた。怖いと思いながらも少しだけと思って、声の在り処に行って見ると、いかにもな格好をした不良が三人と彼らの足元で這い蹲るように倒れている青年がいた。

 

 「と、とりあえず通報しとかなきゃ…」

 

 影からそっと様子を窺いつつ、誰もが当たり前に行うように携帯電話を手に取り通報しようとした。番号をプッシュしようとボタンに手をかけた時、彼らの会話の中で聞き逃せない単語が聞こえた。ああ、これはレベルアッパーの取引の現場だと気がついた。ふと両手を挙げてみると、片手には携帯電話、もう一方の手には音楽プレイヤー、即ちレベルアッパーがあった。それは『普通』の代名詞と、『特別』への片道切符だった。

 

 「や、やめなさいよ!」

 

 そっと携帯電話をポケットに戻し、音楽プレイヤーをぎゅっと握りしめると佐天は彼らの前に躍り出た。いざとなればレベルアッパーを使いこの場を切り抜けてやるという甘い妄想を抱いて。きっと今の自分は『特別』になっているんじゃないかと信じて。

 

 「あぁ?」

 「ひっ!」

 

 不良の中で恐らくリーダー格であろう男に睨まれて足が竦んでしまう。甘い妄想はあっという間に霧散し、哀れな英雄願望は粉々に砕け散っていた。

 

 「や、止めてあげてください…」

 

 なんとか声を出すが怯えているのは一目瞭然であった。その姿を見て不良達は口角を吊り上げ、嫌な笑みを浮かべると何事か囁きあって佐天のほうを向いた。

 

 「俺たちはなぁ、正式な取引をしてるんだよ。分かるか?取引だよ取引。こいつが金を払って俺たちがブツを渡す。それをこいつが金を出し渋るから、ちょっとばかし、ほんのちょっぴりお仕置きをしているだけなんだよ。それを止めろだって?ならなんだあんたが足りない分の金を代わりに補ってくれるとでも言うのか?俺たちはそれでも構わない、ただまあ補ってもらうのに金だけじゃあちょっとばかし物足りないことになるかもしれないけど」

 

 不良のリーダー格の男は這い蹲っている青年を踏みつけながら気味の悪い笑みを浮かべて言う。佐天はその表情をみて純粋に気持ち悪いとそう思った。金だけで足りないとなれば他に何を差し出せるのか、佐天は中学生であり絶賛思春期真っ只中である。その言葉から彼らが何を欲しているのか察すると吐き気がこみ上げてきた。彼らが何か言いながら近づいてくるが、佐天の耳には何も入ってこない。気持ち悪いものが向こうからやってくる。そのことにただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 「つまりだな、おまえがちょっとばかし『勇気』を出してくれればいいんだ。『勇気』出して身を差し出してくれれば全部丸くおさまんだからよお」

 

 その手が彼女の顔の前まで来た瞬間、下らない妄想を抱いていた自分を後悔した。『勇気』を出すことを『特別』なことだと思い、前に出たことを。震えながらも諦めに近い感情を持ってそっと目をつむった。

 

 「そんなものは『勇気』とは呼びませんわ」

 

 聞き覚えのある声が響いた。それと同時にどさりと何かが倒れる音。目を開けるとリーダー格の男が後ろを振り向いて何事か確認していた。男が半ば覆いかぶさるようになっていたため声の主の姿は見えなかったが、彼女はその声を知っていた。その声の主を知っていた。

 

 「『勇気』とは立ち向かう『意志』!『恐怖』に震えることがあっても決して揺るがない『輝き』のことですの!」

 

 更に続く声、それと同時にまた何かが倒れふす音。ようやく男が離れ、視界が広がる。そこにはもう二人いた不良が地面に倒れふし、小さな杭のようなもので服と一緒に地面に縫い付けられている姿。そしてそれを成した人物が間に立っていた。名門である常盤台中学の制服に身を包み、髪をツーテールに纏めた少し小柄な少女。袖につけた腕章を見せ付け、彼女は叫ぶ。

 

 「風紀委員(ジャッジメント)ですの!」

 

 『学園都市』の治安維持の一端を担う組織『風紀委員(ジャッジメント)』の一員であり、レベル4という高位能力を持つ白井黒子の声が凛として響きわたった。

 

 

 

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