戦姫絶唱エヴァンゲリオン   作:とりなんこつ

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第1話

 

「う~暑いよ~」

 

ビーチパラソルの下の簡易椅子に腰を降ろし、立花響がうめく。

 

「…おまえ、次、それを言ったら罰金な」

 

対面の席で、恨めし気な眼差しを向けたのは雪音クリス。

 

「そんなこといっても暑いッたら暑いんだもん!」

 

「あー、鬱陶しい! 余計暑くなるから黙れッ!」

 

いつも通りといえばいつも通りのひと悶着に、すかさず割って入る凛とした声。

 

「―――二人とも、気合が足りないぞッ!」

 

二人をにらみつけたのは風鳴翼で、彼女も夏仕様のS.O.N.G.制服を着ていたが、炎天下にも関わらず涼しい顔で仁王立ち。

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し。だいたい、この酷暑の中での調査部の皆さんを思えば、この程度なにするものぞッ!」

 

現在、国連直属タスクフォースS.O.N.G.は、箱根湯本へと派遣されていた。

ノイズの発生パターンに酷似した波形を探知した結果だったが、今のところノイズ本体は視認されていない。

それでも原因を探るべく、装者を一時待機させ、調査部は現地を虱潰しにしている。

季節は初夏なのだが、ここ数日、猛烈な暑さを更新中。

緒川慎次などは空調の効いたトレーラーへ装者たちの避難を勧めるも、彼らを慮って外で控えているのは、翼が先述した通りである。

 

「…先輩は慣れてるかもしんねーけどよ」

 

テーブルに突っ伏してクリスは唇を尖らせた。

アイドル稼業もこなす翼は、ステージの上で強烈なスポットライトを浴びてパフォーマンスを披露することも多い。彼女らは衆目の前で汗みどろにならないよう、汗腺を制御できるようになると聞く。

 

「慣れも何もあるか。戦場(いくさば)で暑いからと敵が手加減してくれるとでも?」

 

常在戦場、防人脳の翼であることを差し引いても、一理ある意見であった。

命懸けの死闘の中で、暑いとか寒いとかそもそも意識へと昇らせる余裕はないだろう。

 

「あー、もういっそノイズでも出てきてくれないかなーッ!」

 

やけくそ気味に叫ぶ響だったが、こちらの主張にも理が存在した。

シンフォギアを着装すれば、バリアフィールドが外気温すら遮断してくれる。

実際に成層圏の上や、極寒の南極でも活動することが可能だ。

 

「滅多なことをいうな立花ッ!」

 

たちまち翼の叱責が飛ぶ。

 

「ノイズは人類にとっての厄災そのものだ。いくら我らに倒す手立てはあれど、被害を出す可能性は否定できないのだぞッ!?」

 

「…はい、すみません。不謹慎でした」

 

あからさまに凹む響を見て、翼もふと表情を和らげる。

 

「まあ前世紀のように水を飲むなとはいわん。しっかりと水分補給して涼を取ることまで止めないぞ?」

 

言われて、弾かれたように響は顔を上げると、

 

「あー、忘れてたー!」

 

叫んだ彼女が向かったのはトレーラーの中。いそいそと肩に下げて持って帰ってきたのは大きなクーラーボックスだ。

 

「出かけるときに熱中症対策で未来から持たされたの、すっかり忘れてたよ~」

 

てへへと笑みを浮かべながらクーラーボックスの蓋を開ける響。

溢れる冷気が顔を撫でる。

クーラーボックスの中は、大量のガリ○リ君を保冷剤代わりにこれでもかとノベルティアイスが詰め込まれていた。

 

「さっすが未来! わたしの嫁ッ!」

 

得意顔で親友を絶賛する響の横で、同じく冷気を顔に浴びたクリスも頬を綻ばせた。

 

「おまえ、持ってきていたのを忘れていたのはバカだけど、今はバカじゃないな」

 

「酷いなー、クリスちゃん。アイス分けて上げないよ?」

 

響がぶーたれる間に、既にクリスはガリ○リくんの封を破いて齧りついている。

 

「あー! クリスちゃん、いつの間に!?」

 

「うっせ、さっきの罰金替わりだッ!」

 

「むー」

 

苦言を呈した響もガリ○リくんを二本まとめて頬張れば、たちまちご満悦の表情。

 

「あ、翼さんも何か食べませんか?」

 

「うむ、ちょうど喉が渇いていたところだ。そこの鯛焼きアイスを貰おうか」

 

「…先輩、それで喉の渇きは癒えるのかよ?」

 

酷暑の中での冷菓はこの上のない甘露となる。

一時的にせよ涼しげな表情を浮かべる装者たちの身体を、大きな地鳴りが揺さぶった。

 

「な、なんだ!?」

 

木々が揺れ、鳥が一斉に飛び立つ。

揺らめく大地に思わずよろけるクリスの前で、翼は不動。

そんな彼女の視線の先には。

 

「むッ!?」

 

山の麓に、地面から空に向けて噴き上げるような巨大な光の柱が出現していた。

まるで十字架のような光に、装者たちは表情を引き締める。

 

「ノイズなのか!?」

 

『通常のアルカ・ノイズの出現パターンとは6.2%の差異が認められますッ!』

 

すかさずそれぞれの通信機にエルフナインの声が響いた。

 

『されどノイズには違いあるまい! 総員、戦闘準備だッ!』

 

総司令風鳴弦十郎の声に、装者全員が胸元からギアペンダントを引き出す。

 

果たして、光が収まった先に存在するのは、巨大な人型の怪物だった。

手足は細く長い。巨大な怒り肩のようなフォルムは、首が存在しないこともあってほとんど水平になっている。

だからといって顔が存在しないわけではない。

胸の部分に存在する、円形から鋭い二等辺三角形が飛び出したような造形が、おそらく顔なのだと思われた。

まるで簡略化した鳥の顔のようで『ちょっと可愛いかも…』などと思う響だったが、その顔の下にある球体に表情を一変させた。

幾何学的に明滅を繰り返すそれは、まさにノイズの器官の証し。

 

「いくぞッ! 立花ッ! 雪音ッ!」

 

翼のその声を皮切りに、箱根の山に三つの聖詠が木霊する。

 

Imyuteus amenohabakiri tron…

 

Balwisyall Nescell gungnir tron…

 

Killiter Ichaival tron…

 

シンフォギアを纏った三人が、正体不明の巨大ノイズと対峙した。

 

「…まずは小手調べだッ!」

 

叫びつつ、クリスは両肩に生成した巨大ミサイル二基を発射。

 

「先手必勝!」

 

同じく巨大な刃で<蒼ノ一閃>を放つ翼。

 

普通の巨大型であればオーバーキルな連撃だが、黒煙の晴れた先で対象の謎のノイズは微動だにしない。

 

「だったらわたしがーーーッ!」

 

言いざまに、響が宙を舞う。ガントレットのカートリッジは既に充填済み。

あのバカ…ッ! とクリスが眉をしかめたのも一瞬で、事実近接戦闘のインパクトにおいては、ガングニールが他のギアより突出している。

かつてキャロル・マールス・ディーンハイムの絶対防御術すら貫いた一撃の前に、いかなノイズも太刀打ちできまいッ!

風鳴翼をしてそう確信した響の拳は、謎の巨大ノイズの右手で受け止められていた。

 

「なにッ!?」

 

インパクトの瞬間、放射状に展開する巨大な波紋のようなバリアに、翼ばかりか発令所の面々も目を剥いた。

大きく目を見開き、血相を変えたクリスが叫ぶ。

 

「…逃げろ、このバカッ!」

 

巨大な拳は響の拳を包むように捉えたまま、謎の巨大ノイズの肘の部分から鋭い槍のような器官が対外へと引き絞られていた。

次の瞬間、その槍はパイルバンカーのように握られた響目掛けて炸裂する。

 

「うあああああッ!?」

 

凄まじい速度で山の斜面へ叩きつけられるガングニール。

 

「くそっ! やりやがったなッ!」

 

すかさずクリスは全力でありったけの銃弾を斉射。

心得た翼は響の元へと駆け付けながら発令所へと声を飛ばす。

 

「あの防壁はなんなのですかッ!?」

 

『過去のデータにも、類似したパターンが発見できませんッ!』

 

『こんなの…錬金術とも異なる次元の…ッ』

 

明確な返答を得られぬまま響の元へと達した翼は、その体を抱え起こす。

 

「大丈夫か、立花ッ! しっかりしろッ!」

 

「う…、へいき、へっちゃらです…」

 

ダメージは負っているが、命に別状はなさそうだ。

ホッと胸を撫でおろした翼を、またもや地鳴りが揺さぶる。

振り返った彼女は見た。

またしても大地から光の十字架が突き立つ光景を。

 

「しかも…今度は三本だとッ!?』

 

通信機越しに、総司令である叔父が息を飲む気配を感じる。

目前の一体だけでも持て余しているというのに、さらに三体も加勢されたら。

 

果たして、光が収まり、そのあとに忽然と姿を現した三つのシルエットとは。

 

「…なんですか、あれ? ロボット…?」

 

痛みに顔をしかめながら、響は視線を上に向ける。視線の先には新たに三体の巨人が出現していた。

彼女の言う通りまるでアニメに出てくる巨大ロボットのようなフォルムではある。

なるほど、言い得て妙かもしれん。

翼をしてそう思わせる外観の三体だったが、これも新種のノイズである可能性も否定できない。

 

「…司令ッ!」

 

指示を仰ぐべく本部へと声を投げる翼の目前で、自体は急展開。

三体の一つである紫色の巨人が、謎の巨大ノイズへと躍りかかったのである。

半瞬遅れて赤色の巨人が同じように飛びかかっている。

 

「…仲間割れか?」

 

当然の疑問を、クリスは途中で飲み込んだ。

なぜなら、その二体の巨人からは若い声が響いていたから。

 

『アスカッ! そっちを早くッ!』

 

『わーってるわよ! あたしに命令すんなバカシンジッ!!』

 

「…子供の声、かよ?」

 

自分がどんな行動を取ればよいのか躊躇するクリスの前で、S.O.N.G.の面々が目を疑う光景が現出する。

二体の巨人の前に、またしても発生する透明な放射線状のバリア。

それに巨人たちはそれぞれ指を突っ込んで、左右に割り開いたのである。

 

『…綾波っ!』

 

その声に応じるように、最後の黄色い巨人が動く。

右手には巨大なナイフが握られており、黄色い巨人はバリアの隙間から、例の明滅する球体器官へ刃を突き立てようとする寸前―――。

 

『ッ!?』

 

黄色い巨人の手がボロボロと炭化していく。

 

『きゃああああああッ!!』

 

切り裂くような悲鳴が上がり、巨人の右手は肘まで炭化。

そのまま胴体まで達しそうな炭化現象は、強制的に右腕を付け根からパージすることによって中断。

 

『なッ!?』

 

これには、先の二体の巨人も、慄くように飛びずさる。

一方でシンフォギア装者たちも、ただ手を拱いて見ているだけではない。

 

「…行くよ、クリスちゃん! 翼さん!」

 

「よっしゃ一発かましてやるぜッ!」

 

「委細承知ッ!」

 

装者三人の力を合わせて放つS2CAトライバースト。

巨人二体の枷を解かれた巨大ノイズに対して、外しようもない距離だ。

膨大なフォニックゲインを載せた一撃は、七色に煌めく巨大竜巻のように天を衝く。

 

「…やったかッ!?」

 

翼の言に、クリスは呻く。

 

「うっそだろ…」

 

地面に片膝をつき、体表を黒焦げにしなからも、巨大ノイズはなお健在。

 

「なら、もう一撃を…」

 

言いさした響が、ゴフッと血を吐く。

 

「無理をするな、立花! 先ほどの一撃は生半可のものではなかったぞッ!?」

 

「でも…ッ!」

 

翼の心配そうな声に、弦十郎の声が被さってくる。

 

『翼の言う通りだ。どうやら対象は行動を停止したようだし、一旦全員帰投しろ』

 

そして続く声が、装者三人の耳を疑わせた。

 

『…彼らたちと一緒にな』

 

「え? 彼らって、え?」

 

クリスは顔を上げた。

いつの間にか三体の巨人たちも片膝をつき、その首の付け根あたりから筒状のものが飛び出している。

そこから飛び出してきたのは、全身スーツをきた黒髪の少年だった。

続くように赤い巨人からは金髪の少女が降り立ち、二人は黄色い巨人のもとへと駆け寄っている。

 

…あの筒はコックピットみたいなものなのか? 

 

クリスがそう洞察していると、黄色い巨人のコックピットからは、右腕を押さえて呻く青い髪の少女が引っ張り出された。

少年の気づかわしげな声がこちらにも聞こえてくる。

 

「綾波! 大丈夫、綾波…ッ!」

 

呆然とする装者たちを横目に、緒川は本部へと向けて新たな報告。

 

「司令。所属不明のトレーラーを発見したのですが…」

 

『ふむ?』

 

誘導されてきたトレーラーの外観は、確かにS.O.N.G.に配備されたものではなかった。

 

「これ、なんて読むんだろ? …ねるぶ?」

 

車体に書かれたロゴのNERVという文字を見て響は首を捻る。

 

「なんにせよ油断するな、二人とも」

 

天羽々斬を構えながら翼はトレーラーの後部ハッチを鋭くにらむ。

中からノイズが溢れて出てくる可能性も皆無ではない。

そんな緊張に反し、トレーラーの中から聞こえてきたのは妙齢の女性の声。

 

「あー、はいはい、すみません。敵対するつもりはありませんので」

 

床を銃が滑ってくる。

続いて姿を現した女性は、両手を挙げて無抵抗のポーズ。

遅れて現れた白衣に金髪の女性も同じ格好をしていた。

先に出てきた黝い髪を背中まで伸ばした女性が言う。

 

「私は、国連直属組織NERV所属葛城ミサト三佐です。人道と国際条約に則った保護を求めます」

 

 

 

 

 

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