戦姫絶唱エヴァンゲリオン   作:とりなんこつ

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一応、作中は2045年になってますが、全裸錬金術師と戦いは終えてるXV以前の話になります。そこはふわっとした感じで流してください。あまりアレだったらこっそり修正するかも知れませんけれど…。


第6話

 

歓迎パーティのことを聞き、アスカは真っ先に難色を示す。

 

「まさかこの病院着で出席しろってワケ!?」

 

基本的にプラグスーツの下は素っ裸だ。そして着替えは元の世界へ置きっぱなし。

お仕着せの管制品なんかごめんだからね! と半ば憤慨しつつ、もう半分は実はアスカなりの威力偵察。

この生意気な物言いに、S.O.N.G.の大人たちはどんなリアクションをしてくるのか?

その反応如何によって相手側の器量を測るという、あまり行儀の良くないアスカのプラン。

仮に激怒されたとしても、最悪、『子供のいうことだから』とミサトが庇ってくれるという打算も織り込み済み。

 

果たして、弦十郎の後ろから現れた黒服の男が、ニコニコとしながらチルドレンたちに向かってそれぞれ紙袋を差し出しきた。むろんこの黒服は緒川慎次である。

 

「僭越ながら、こちらを準備させて頂きました」

 

受け取ってアスカが覗き込むと、なにやら衣類がチラリと見える。

 

「そういうことだから、着換えてきたら?」

 

ミサトに促され、三人は廊下の先の更衣室へと案内された。

さっそく着替えて廊下へ出れば、

 

「あら、アスカ、可愛いじゃない」

 

ベルト付きのえんじ色のキュロットスカートは丈も短く、ほとんど白に近い薄桃色のカットソーの組み合わせも涼しげだ。

 

「…そお?」

 

言われて、アスカも満更ではない。なかなかセンスの良いコーディネートだと思う。

ただ一つ、腑に落ちないというか驚くべきことは、サイズがこれ以上もないほどピッタリなこと。

下着もオーダーメイドのような着け心地。

 

「うん、似合っているよ、アスカ」

 

「…ふん! 当ったり前でしょ!」

 

シンジの賞賛に鼻を鳴らしてそっぽを向いてみせたものの、彼のネイビーのパーカーにチェックのチノパンを合わせた姿も結構似合っているとアスカは思う。

そして最後に姿を見せたレイは、うるさくない程度にフリルのあしらわれたカットブラウスに、膝丈の大人しめのプリーツスカート。

 

「綾波も、その、可愛いいんじゃないかな…?」

 

「…ありがとう、碇くん」

 

少し顔を赤くしているシンジが気に食わない。

 

「いたッ!?」

 

シンジの頭をぽかりと殴りつけて、アスカは先をいくミサトに追いつくと声を潜める。

 

「別にミサトを信用してないわけじゃないけれど、ここの連中は信用できるの?」

 

肩越しに振り返ってミサトは笑う。

 

「少なくとも、ウチの司令に比べれば、ずっと愛想が良くて健康的よね♪」

 

「…納得」

 

ミサトのなかなかに際どい物言いに、アスカは大いに頷く。

今さらながら自分の所属するネルフという組織の不透明さというか不気味さを再確認している。

 

「さて、ここだ」

 

弦十郎が観音開きの扉を開け放てば、なかなかに広い部屋。

そこはちょっとしたパーティルームと化していて、『ようこそS.O.N.G.へ』という花輪で囲まれた看板が吊るしてあった。

幾つものテーブルに料理の載った大皿と飲み物が置いてある。

いわゆる立食パーティのスタイルで、確かに親睦を深めるという意味では無難かも知れない。

しかし、アスカが青い目を見張るその先で、そのスタイルを否定するような光景が。

 

黄色い髪の少女が、大きなテーブルの前にかぶりつきで猛然と料理を口に運んでいた。

見紛うことなき立花響である。

そしてその襟首を、「このバカ! パーティも始まってねーのに食いまくるヤツがあるか!」と必死で引っ張っている小柄な影は雪音クリスだ。

もちろん響は微動にせず「美味しい! 美味しすぎるッ!」と料理をかっ込んでいたが、さすがに弦十郎とネルフ一行が入室してきたのには気づいたらしい。

 

「あー! みんな、やっと来たんだね~ッ!」

 

ほっぺたの料理の欠片を拭いもせず、襟をつかんだままのクリスを難なく引きずって入口まで猛ダッシュ。

 

「なんだ響くん。待ちきれなかったのか?」

 

「すみませ~ん」

 

えへへと笑う響の背後でクリスが毒づく。

 

「病室で目ぇ覚ましたと思ったら、起き抜けに天丼三杯も喰っておいてよく言うぜ…」

 

「だってお腹が減ってしかたないんだもんッ!」

 

言い訳なのか開き直っているのか良く分からない憤慨をしている響の肩に手を置いた人物がいる。

青い髪のサイドテールも印象的な風鳴翼だ。

 

「まあ、そういってやるな雪音。立花が健啖なのは今に始まったことではないし、あの謎のノイズを倒したのに力を使ったのも間違いない。使ったエネルギーを補充するのは当然だろう?」

 

こちらもフォローしているのか褒めているのか微妙な台詞。

 

「あの謎のノイズは、今後『使徒ノイズ』と呼称することに決まった。おまえたちも、後ほど資料を渡すので目を通すように」

 

「…使徒ノイズ?」

 

クリスが目を細めたが、弦十郎はパン! と両手を打ち鳴らし、室内の全員の注目を集めた。

パーティ会場には、S.O.N.G.側からはさきほど会議室にいた四人と弦十郎に三人の装者。

ネルフ側からは、ミサトとリツコにチルドレンが三人。

 

(今のところは一般職員にまでわたしたちの存在を周知するつもりはないってことかしら? 

 それとも、内輪で忌憚なく情報をかわせる場を設けたつもり…?)

 

ミサトは心の内にそんな疑問を抱いたが、弦十郎の物言いは直球ストレート。

 

「そして、こちらの葛城三佐御一行は、2015年の違う時間軸の日本からやってきて、ネルフという組織に所属しているそうだ」

 

そして、いきなり核心をぶっちゃけられた装者三人の反応はというと。

 

「へえー。2015年の別世界の日本からねえ」

 

軽く目を見張るクリスに、

 

「なによ、その淡白な反応はッ!? もっと『うおおおお!』とか『うへええ!』とかってリアクションはないの!?」

 

さっそく噛みつくアスカがいる。

 

「んなこと言ってもよ…」

 

困惑の表情を浮かべるクリスは、月を穿つ神代のレールガンや巨大なオートスコアラー、果ては神の子を称する全裸錬金術師との戦いを繰り返してきている。

今さら別世界とかいわれても、超常に塗れた身としてはあまり新鮮さがなかった。

 

「同じ戦場(いくさば)に立ち、肩を並べて戦った。この事実は、千の言葉を交えるより雄弁だとわたしは思う。ゆえに、おまえたちを同胞と思うに不足はないぞ?」

 

何とも独特かつ解りづらい言い回しで会話に混じってきた翼も、どこか感覚がズレているようにアスカは思う。

 

「2015年かあ。みんな、わたしたちが生まれるずっと前の日本から来たんだね!」

 

何気ない響の台詞に、ミサトはグラスを持ったまま固まった。リツコも眼鏡の角度が変わり、その瞳は窺えない。

微妙な空気に、響はあたりをきょろきょろと見回す。

 

「あれ? どうしたの?」

 

その挙動はあくまで無邪気なものだから始末に悪い。

更に、そこにシンジまで乗っかったものだから、もう色々とどうしようもなかった。

 

「そっか。この世界では、僕たちは44歳になっちゃうんだね」

 

本人は全く他意もなく、事実を口にしているつもりなのだろう。

だが、それだけに余計タチが悪く、アスカの胸にも突き刺さってくる。

 

「あ、だとするとミサトさんたちは…」

 

呟くシンジの顔面を、すかさずアスカはアイアンクロー。

 

「痛いよ、やめてアスカアスカやめて…」

 

ギリギリ締め上げられ悶絶するシンジの耳に、アスカは小声で鋭く警告。

 

「アンタ死にたいの…?」

 

そっと背後を伺えば、ミサトとリツコから絶対零度の空気が噴きつけて来てアスカの背筋を凍らせる。

その雰囲気を察したのか、身体ごと割って入ってくるのは風鳴弦十郎。

彼は両手にビールの満たされた巨大ジョッキを持ち、片方をミサトへと差し出す。

 

「そんな小さなグラスでなく、こちらでどうだ、葛城三佐」

 

「…え」

 

「イケるクチかとお見受けしたが、俺の思い違いかな?」

 

「それじゃ、遠慮なく」

 

受け取って、喉を鳴らしてミサトは一気に半分ほど空にする。

 

「お見事。…時に、こちら世界のビールとの貴女の知るところの味に差異はないものだろうか?」

 

「いえ。ほとんど、というか完璧に一緒ですね」

 

「ならば良かった。まあ、酒抜きでも人は生きられるが、酒なしで生きる人生は些か寂しいと俺は思う」

 

「至言ですね、それは」

 

一気にミサトを和ませた手腕は、さすがS.O.N.G.総司令であった。

 

そして、一方のリツコの白衣の裾をくいくいと引っ張るものがある。

眼鏡越しに視線を巡らせたリツコは、眼下に同じ白衣姿を見出す。

 

「さ、先ほどの会議では失礼しましたッ!」

 

ぴょこんと金髪のおさげが前後に揺れた。

 

「あなた、エルフナインと言ったかしら?」

 

「は、はいッ!」

 

「私に何か用が?」

 

「…そ、その! 大変ぶしつけですが、そちらの世界の技術をご教授して頂ければと。特に量子学的な観点からの脳科学へのアプローチメソッドなどを…」

 

エルフナインが、己の身体の奥底のキャロルの記憶をサルベージすべく日々奮闘していることなぞ、リツコは知る由もない。

しかし、同じ科学者としての真摯さだけは痛いほど伝わってきた。

 

「相談に乗るのは吝かではないけれど…。私の世界では、有機コンピューターに人格を移植する程度が精々よ?」

 

リツコは脳裏にMAGIシステムを思い浮かべる。

彼女の母である赤木ナオコが開発した、科学者として、母親として、女としての己の三つの思考を移植されている夢の第七世代コンピューター。

 

「ッ!! とっても興味深いお話です! ぜひ、もっと詳しく…!」

 

「わ、わかったわ。分かったから袖を引っ張らないで…」

 

かくしてリツコはエルフナインに引っ張られて会場の壁際の椅子へ並んで腰を降ろし、話をせがまれる羽目に。

 

 

 

 

そして会場の中心へと視線を戻せば。

 

「それじゃ、改めて自己紹介するね! わたしの名前は立花響ッ!

 年齢は彼氏いない歴イコールの17歳!

 趣味は人助け!

 好きなものはごはん&ごはん!

 体重はもう少し親しくなったら教えてあげ…」

 

言いかけて、響はシンジを見て、

 

「あッ、シンジくんは男の子だから、仲良くなっても秘密だよッ!」

 

にぱっと笑う。

 

「は、はあ…」

 

今まで全く遭遇したことのないキャラにドギマギするシンジ。

 

「それじゃ、次はクリスちゃんの自己紹介だねッ!」

 

「するかバカッ!」

 

「え~? それじゃわたしが代わりにしちゃうよ?」

 

「するなバカッ!」

 

「まあまあ、立花。無理に自己紹介を肩代わりすることもあるまい?」

 

そういって取り成した翼はチルドレンたちに向かいあうと、クリスに比べて控えめな胸を張った。

 

「わたしの名前は風鳴翼という。風鳴総司令はわたしの叔父にあたり、風鳴一族は古くからこの国の国防を担う防人の一族だ。かくいうわたしも、護国の剣にして歌女でもある」

 

「は、はあ…」

 

いきなりの良く分からない物言いに、曖昧に頷くことしか出来ないシンジ。

 

それから翼はクリスを指し示す。

 

「そこの彼女は雪音クリスで、わたしの頼りになる仲間だ。わたしを先輩と慕ってくれる可愛い後輩でもある」

 

「結局、自己紹介肩代わりしてるじゃねーかッ!!」

 

「そしてクリスちゃんはわたしの嫁2号でもあるんだよー!」

 

「てめえもしれっとデマを吹聴してんじゃねぇ!!」

 

ギャーギャーと騒ぎ立てるクリスに、なぜに彼女が怒っているのか困惑している風にさえ見える響と翼。

そんな三人を眺め、アスカは先刻の想いを新たにした。

 

(やっぱりお笑いトリオなんじゃないの、こいつら…?)

 

 

 

 

装者たちが自己紹介をしてくれた手前、チルドレン側たちもしなければならない。

すると、珍しく率先するシンジがいる。

 

「ぼ、僕の名前は碇シンジ14歳です。エヴァ初号機にパイロットとして乗ってます!」

 

「へえ? あの紫色の、初号機っていうんだ?」

 

「ええ。何か僕専用のエヴァみたいな感じで…」

 

「ほへ~。シンジくんしか操縦できないってこと?」

 

興味津々で訊き返してくる響に、シンジの鼻の下が伸びているように見える。

その光景を不快に感じて、アスカはすかさず自己紹介でインターセプト。

 

「あたしの名前は惣流アスカ・ラングレー。エヴァ弐号機の専属パイロットよ。

 そこのバカと同じ14歳。でもね、自慢じゃないけど日本に来る前はアメリカ支部のエースだったわ」

 

本人的には嫌味にならない程度の自己アピールをしたつもり。

すると、思わぬところから援護の声が上がった。

 

「アスカは凄いんですよ! 14歳で飛び級でドイツの大学を卒業してるんですから!」

 

喜色満面で言ってくるシンジに、アスカは驚くというより戸惑ってしまう。

そりゃ褒められて嬉しくないわけじゃないけれど…!

 

「へえ、そりゃすげえなッ!」

 

「その齢で大学まで修めているのか!? 大したものだなッ」

 

複雑な表情になるアスカを知ってか知らずか、翼もクリスも手放しの賞賛。

ここまで裏表なく真っ直ぐに褒められた経験のないアスカの表情は、ますます混迷を極める。

 

「…ひょっとして、アスカちゃんってわたしより頭がいいの?」

 

最後に、おずおずと言ってくる響。

 

「大学出てるんだぜ? そりゃあ確実におまえより良いに決まってらあな」

 

「いや、むしろ、この中で一番明晰な頭脳の持ち主ではないのか?」

 

この状況、はっきりいって褒め殺しである。

そして褒めている当人たちも、まったく悪気も他意もないものだから、さすがのアスカも口を噤んで回れ右。

ただ一人棒立ちになっているレイの背後に回ると、後ろからその両肩を前に押し出す。

 

「ほら、ファースト。あんたも自己紹介しなさいよ…」

 

その声はほとんど呻き声に近い。

 

「…綾波レイ。14歳。碇くんたちと同じクラスメイトよ」

 

いつも通りと言えばいつも通りの素っ気ないレイの物言いも、素直に聞き流してくれる装者たちではない。

 

「あ、三人とも同じ学校の一緒のクラスなんだね!」

 

「すると惣流は、大学を出てなお中学校に通っているというわけか?」

 

「ああ、それは、日本に来たから日本語の勉強とか、日本の学校の雰囲気を味わいたいってヤツだろ? そうだろ?」

 

とうとうアスカはみんなの輪から料理の載っているテーブルの方へ緊急退避。

 

「? どうしたんだろ、アスカちゃん?」

 

首を捻る響に、シンジは笑いかける。

 

「ああ、きっとアスカは―――」

 

言いかけたシンジの背後には、いつの間にかアスカは戻ってきていた。

焼き鳥の串をシンジの背中に突きつけて、耳元で彼にしか聞こえない声でボソっと一言。

 

「…照れている、なんて言ったら殺すわよ…?」

 

「―――お腹が減っているんだと思いますよ、はい」

 

背中にびっしりと汗を掻きながらシンジが答えると、響は破顔。

 

「そうだね、みんなぺこぺこだったけど、まだ食べてないもんね! う~、わたしもまたお腹が空いてきたよ!」

 

「…マジかよ?」

 

クリスのツッコミも意に介さず、響は食事を再開。

自身で多大な戦果をあげつつも、彼女は実に甲斐甲斐しい。

 

「あ、ほら、レイちゃん! こっちの鶏肉も美味しいよ!」

 

「…ごめんなさい。わたし、肉が嫌いだから」

 

「え!? そうなの!? こっちこそごめんね! はい、じゃあ、こっちの揚げ出し豆腐は大丈夫かな!?」

 

素っ気なく応じても、その百倍くらいの弾力に富んだ反応が返ってくるので、レイも平静ではいられない。

響のテンションの高さに、レイのテンションも釣られて上がっているようにすら思える。

 

その余波はシンジも被り、彼もテンションが上がっていた。

 

「どう、シンジくん、食べてる? あ、良かったら、こっちのお皿にとってきたの、食べない?」 

 

「あ、はい。ありがとうございます、いただきます」

 

クリス視点で見れば、響の行動などウザさMAXの善意の押し売りでしかないが、シンジにしてみれば、これほど陽性で真っ直ぐな善意に構われた経験はなかった。

それが年頃の少女とあっては、思春期男子として平然としてろとなど無理な相談。

 

「遠慮することはないぞ碇。うかうかしていると立花に全て平らげられてしまうからな」

 

翼は笑っているが、強ち冗談とは思えない光景だった。

 

「にしても、おまえ細ッいなー? 普段からちゃんと食べてるのかよ?」

 

横に来たクリスにポンポンと手足を叩かれる。

このスキンシップも、シンジには新鮮極まりない。おまけに触れてくるのは、年上のお姉さんでグンバツ(死語)なトランジスターグラマーである。

 

―――僕はここに居ていいのかも知れない。

 

シンジが浮かべた恍惚然とした笑みは、物理的に吹き消された。

 

「なーにデレデレしてんのよ、あんたわッ!」

 

アスカがシンジの頭をはたく。

 

「…べ、別にデレデレなんてしてないよ…!」

 

「はん、どーだかッ!」

 

レイにしてみればいつもの二人のやり取りだ。微笑ましいかは別にして見慣れた光景。

しかしこの世界では、何やら気に入らない顔付きになるクリスがいた。

 

「おまえ、男の頭をポンポン叩いてんじゃねーよ」

 

アスカに一言物申し、その矛先はシンジへも向かう。

 

「おまえも、男のクセに叩かれっ放しって情けなくねーか?」

 

「って言われても…」

 

ドンッと胸を叩かれて、言葉に詰まるシンジ。

それはアスカも同様で、シンジを叩く理由に説明を求められても、その、困る。

 

スキンシップ? いやいや、そんなまさか。

あたしにとってコイツを叩くのは、いわば当たり前のことであって…。

 

じゃあなんで当たり前なのか? と問い返されれば、なんと答えていいか分からない。

 

黙り込むアスカに向かって、救いの手が差し出された。

その手の持ち主は響で、しかし実際に差し出された相手はアスカではなくシンジである。

響はぎゅっとシンジの両手を掴むと、

 

「うん、分かる! シンジくんの気持ちは、わたしはよーっく分かるよ!」

 

「は、はあ…」

 

異性に手を握られて動揺するシンジに、響は如何にも苦労しているといった風情で語りかける。

 

「わたしもキミみたいに、そこのクリスちゃんからポコポコポコポコ叩かれるんだよ! もう本当にしょっちゅう!」

 

「あ、はい」

 

「でも、わたしは気づきました! これはいわゆるクリスちゃんのスキンシップ! いや、むしろ愛情表現! ほら、好きな子に対してイジワルしたくなっちゃうって、良くあるでしょー!?」

 

「…そうなんですか?」

 

茫然とするシンジの手を握ったまま、響は満面の笑顔で振り返る。

 

「ね!? そうでしょ、クリスちゃん! アスカちゃん!」

 

「んなわきゃねえだろッ!?」

 

「んなわきゃないでしょッ!?」

 

奇しくも、二人の声が見事にハモる。

 

「なんとッ! 違ったのか!? てっきりわたしも雪音なりのコミュニケーションの方法かと…」

 

全くアスカの望まないことに、なんと防人へも飛び火した。

これは言葉を重ねれば重ねるほど炎上する流れと知りつつも、アスカは声を張らずにいられない。

 

その時、またしても空気を読む男、もしくは徹底的に空気を読まない男、風鳴弦十郎が参戦する。

 

「おう、おまえたち! さっそく仲良くなったようで何よりだッ!」

 

「おっさんの目は節穴か!? これのどこが仲良く見えるってんだ!」

 

「昔から言うだろう? ケンカするほど仲が良いってな」

 

そういってバッチリとウインクしてくる巨漢に、クリスを始め、誰もが呆然、もしくはげんなりとした気分になる。

図らずも巻き起こった炎はたちまち鎮火。

完全に静まったのを確認してから、弦十郎は胸のポケットから三枚のカードを引き出す。

 

「さて! チルドレンの諸君に俺からのプレゼントだ」

 

「…これは?」

 

受け取ったシンジが訊ねる。

 

「三人の個室のキーだ。当面はそこで寝泊りしてもらうことになる」

 

各個人に部屋を用意するなど、身元不明の一行に対した宿泊先の提供としては破格である。

 

「まあ、この船の中は呆れるほど広くて部屋もたくさんあるしな。一応、各居室にバストイレも付属しているが、大浴場を使ってもらっても構わない」

 

「大浴場まであるんですか!」

 

驚くシンジに、弦十郎は若干申し訳なさそうな表情になる。

 

「だが、君たちの移動できる範囲は、今のところそれくらいだ。そして、個室のプライバシーは保証するが、廊下を通じて移動先などは随時監視させてもらう」

 

「まあ、それは当然でしょうね…」

 

アスカは渋い顔で考え込む。

別に監視がつくなど想定内だ。逆に、それをすまなさそうに告げられたことに戸惑ってしまう。

これはS.O.N.G.という組織の体質か、それとも弦十郎個人の為人(ひととなり)か?

大規模な組織になればなるほど、清廉さとは相反していくものなのに。

あるいは、これも罠…?

 

そんな考え込むアスカの様子を、例によって立花響は盛大に誤解した。

アスカに近づくと、響は彼女の手を取るように言う。

 

「安心してアスカちゃん! 師匠にお願いして合鍵を貰ったら、いつでも遊びにいくからね!!」

 

「あたしん時と同じコト抜かしてんじゃねーよ、このバカッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

這う這うの体で皆の輪から抜け出したアスカは、保護者の姿を探す。

見ればミサトは例によって大ジョッキでビールを呷っているところ。彼女の前のテーブルには、空きジョッキが溢れんばかりに載っていた。

 

「…ミサト! なに飲んだくれてんのよ!」

 

「あら、アスカ~。楽しんでいる~?」

 

「…この酔っ払いが…!」

 

アスカはやおら真剣な顔つきになると、ミサトの胸元を掴んで詰め寄った。

 

「協力体制も親睦も深めるのもまあいいわ。でも、元の世界へと帰る算段は付いているんでしょうね!?」

 

「ああ、そんなのモチのロンよ~♪」

 

上機嫌で言ってくる保護者の姿は、甚だ信用性を欠いている。

 

「本当? 諦めて適当に言っているんじゃないでしょうね?」

 

「だから大丈夫よ。リツコも同じこと言っているんだから」

 

ジョッキを口に運びつつ、一瞬だけミサトの目からアルコールの色が消えた。

 

「全ては、次の使徒―――いえ、使徒ノイズがくればはっきりするわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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