突然だが、少し考えてみて欲しい。
人は平等であるか否か。現代社会は平等、平等と訴えて止まない。
ある偉人が『天は人の上に人を作らず、人の下にも人を作らず』と言った。
だがこれには続きがある。
『生まれた時は平等だが、その後に差が生まれるのは学問に励んだか励まなかったか、そこに違いが生じる』と。
兎にも角にも、人間は考える事の出来る生き物だ。
平等という言葉は、嘘偽りだらけだが、不平等もまた、受け入れ難い事実であるということ。
「ねぇ。席、譲ってもらえないかな?」
入学式の日。学校に向かうバスの中、座席に座りゆらゆらと揺れていると、前の方から可愛いらしい声が響いた。
覗いてみると、辛そうに立っているおばあさんに、優先席にドッカリと腰を下ろし、席を譲ろうとしないガタイの良い金髪の高校生が、栗色の髪の女子生徒に声をかけられているところだった。
「そこ、優先席だし、おばあさんに座ってもらった方がいいと思うの」
しかし男子生徒の対応は想像を超えるものだった。
「おやおやプリティーガール。優先席は優先席であって、法的な義務は存在しない。若者だから席を譲れと? はっは.......、実にナンセンス。私が若かろうと立てばより体力を消耗する。何故、意味もなく無益な事をしなければならない?」
彼は長々と言い訳をし、どうしても席を譲る気がないらしい。
「でも社会貢献にもなると思うんだ。それにおばあさん、辛そうにしてるから.」
女子生徒はそう言っておばあさんに視線を向ける。
「社会貢献には興味がないのでね。それに」
男子生徒は金色の髪をバッとかきあげ、座っている乗客達に聞こえるように声を大きくする。
「私以外の一般席に座っている者はどうだ? 優先席かそうでないかなど、些細な問題だと思うがね?」
女子生徒は彼の言葉に何も言えず、目を伏せ俯く。
「い〜よぉ。わたしは大丈夫だからぁ。ありがとう」
おばあさんの言葉に女子生徒は決意したように俺達に声をかける。
「皆さん! どなたか席を譲ってあげてもらえないでしょうか!」
オレはふと、隣の席に座っている長い黒髪が特徴の女子生徒に目を向ける。
彼女はこの喧騒の中、まるで場に流されることなく無表情で過ごしている。
その異様さにジッと見てしまっていると、一瞬だけ少女と目があった。どうやら彼女も席を譲る気は無さそうだ。
仕方がない。ここはオレが。
「あの.......オレ、席譲りますよ」
そう言って立ち上がると
「あ、ありがとうございます!」
栗色の髪をした女子生徒は満面の笑みでお礼を言う。
腰掛けたおばあさんも、オレと女子生徒に何度も重ねてお礼を言った。
「席を譲ってくれてありがとう。私の名前は櫛田桔梗。君の名前は?」
櫛田と名乗った女子生徒は満面の笑みで話しかけて来た。
「オレの名前は綾小路清隆。よろしく、櫛田」
オレはそう言って手を出すと、
「うん、よろしくね! 綾小路くん」
櫛田は嬉しそうに手を握り返してきた。
まさか入学初日からこんなに可愛い娘と友達になれるなんて。
昨日までの俺からしたらとてもありえない事だな。
それから程なくして目的地に着くと、オレは櫛田と共に地に降り立った。
バスを降りると、そこには天然石を連結加工した作りの門がオレを
バスから降りた、制服に身を包んだ少年少女たちは全員この門をくぐり抜けていく。
「今日からここに通うのか」
大きい校舎を見つめながらポツリと呟く。
『東京都高度育成高等学校』日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者の育成を目的とした学校だ。
就職率、進学率、百パーセントを謳い国指導の徹底した指導により、希望する未来に全力でこたえるという。
「ちょっと」
「ん?」
凛とした声で呼び止められ、声のした方を向くと、先程隣に座っていた黒髪の女子生徒が髪を靡かせながら階段の上から見下ろしていた。
「バスの中で私の方を見てたけど、何なの?」
しっかりと目を付けられていたってことか。
「あぁ、悪い。あんたはオレと違って席を譲る気なさそうだったから。まぁ、確かにああいう事に関わりたくないというら気持ちも分からなくはないが」
「私は信念を持って譲らなかったの」
「いや、それもっと酷くね?」
「用がないならもういいわ.」
彼女はそう言ってコツコツと足音をたてながら校舎の方に歩いて行った。
「綾小路くん、さっきの子と仲良さそうだったけどお友達?」
さっきまで黙ってオレたちの会話を見ていた櫛田が声をかける。
「.......そう見えたか? 彼女はバスの中で隣に座ってただけだ」
「ふーん。そっか」
櫛田は含みのある言い方をする。
「なんだ? 何かあるのか?」
「別に.......。そんな事より、早く校舎に入ろう! 同じクラスになれると良いね!」
「あぁ、そうだな」
その言い方が気になるが、まだ知り合ったばかりだし、深く言及は出来ないな。
オレは仕方なく諦め、櫛田の後を追った。