「続きまして。生徒会長の挨拶です」
入学式。現在、体育館には沢山の拍手が響いている。
「生徒会長の堀北学です。本年度、我が校に入学した皆さんに、在校生を代表して歓迎の意を評したいと思います。本校は、文武両道、更に高い進学率、就職率を誇る事は皆さんご存知でしょう。それは卒業生、在校生の普段の努力により、達されている。我が校の誇りであり、進入生にそれに続く事を望む。我が校は完全な実力主義によるーー」
生徒会長の長い挨拶を聞きながら、右斜め前を見ると、黒髪の女子生徒が気まづそうな目で生徒会長を見ていた。
同じクラスなのか.......。
しかも櫛田の後ろ姿も見える。
凄い偶然だな。
しかし入学式は好きになれない。そんな風に考えている一年生は少なくないだろう。
校長や在校生のありがたいお言葉に煩わしさを感じたり、整列だの立ちっぱなしだの、面倒な事が多いから邪魔くさく感じてしまう。
けど、オレが言いたいのはそういう事じゃない。
小、中、高校の入学式は、子供たちにとって一つの試練のスタートを意味する。
学校生活を満喫するために必要不可欠な友だち作りが出来るかどうか、この日から数日に全てがかかっている。
これに失敗すると、悲惨な3年間が待っていると言えるだろう。
そして、オレたちは体育館から自分たちの教室へ移動して来た。
ぐるりと教室を見渡し、オレは自分のネームプレートが置かれた席へと向かった。
窓際近くの後ろの席。一般的には当たりと言っても良い場所だ。
そして各々、初対面だと言うのに談笑を始めた。
「うふふ、そうなんだぁ?で、どういうジャンルの本が好きなの?」
「えぇ?本?ジャンル?えぇとねぇ恋愛ものかなぁ、やっぱり」
「やっぱりそうなの?」
「少女漫画とか.......」
「へぇ〜私はねぇ、ミステリーが好きなの」
「ミステリー?」
「意外でしょ?」
「意外!」
「えへへ.......よく言われる」
オレは櫛田たちの話に耳を傾けながら隣の席に目を向けると、黒髪の女子生徒が座っていた。
隣の席なのか.......。
「.......嫌な偶然ね」
そう考えるていると、彼女もそう思ったのか、声をかけて来た。
「.......同感だ」
オレがそう応えると、
「みんな、ちょっといいかな?」
スっと手を上げた男子生徒の声が教室に響いた。
彼は髪も染めておらず、優等生そうだ。
表情にも不良のそれは感じられない。
みんなが彼に注目する。
「今から皆で自己紹介をやって、一日も早くお互いに友達になれたらと思うんだ。先生もまだ来ないみたいだし.......どうかな?」
「さんせ〜い!」
「いいんじゃないの?」
「だよね〜あたしら名前も知らないし」
彼の意見に女子達が賛成の意見を述べる。
「ありがとう。.......じゃあまずは僕から。平田洋介。気軽に洋介って呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般で、この学校ではサッカー部に入る予定だよ。みんな、よろしく」
「「よろしく〜!」」
こういう奴がクラスの中心になっていくんだろうなぁ。
それに平田は容姿もいいし、女子にモテるんだろうなぁ.......。
「じゃあ次は私だね!」
元気にそう言ったのは櫛田だった。
「櫛田桔梗と言います。ここにいる皆と仲良くなる事が目標です。たくさん思い出を作りたいので、皆さん、どんどん誘って下さい!」
櫛田はぺこりとお辞儀をした。
男女共に人気出るだろうな.......。櫛田には悪いが、もうわたし、誰とでも仲良くなれるオーラ出てるし.......。
って批評してる場合じゃないな。
この自己紹介でクラス内の立ち位置が決まる。
ウケを狙うべきか.......。超ハイテンションで一笑いくらいとれるかも.......。いや、ドン引きされるか.......。
そもそも趣味とか特技とかないし.......。オレは何も持たない自由な白い鳥.......。
と黄昏ていると、
「ーー次は.......そこの君」
平田がそう言うと皆の視線がオレに集まった。
「え、オレ?」
ん〜.......仕方ない。ここは少し気張って自己紹介するとしよう。
「え〜.......えぇっと、綾小路清隆です。えぇ〜.......よろしくお願いします。え〜.......得意な事は特にありませんが、えぇ〜.......仲良くなれるように頑張ります」
パラパラと、乾いた拍手。
.......失敗した。
「よろしくね、綾小路くん。仲良くやっていこう」
席に着くと、
「.......ふっ」
と隣の席の女の子に笑われた。
「じゃあ次はーー」
平田がそう言いかけた時、
バン!
とでかい音を立てて机を足で蹴る音がした。
そいつは赤髪で目付きが悪く、いかにも不良って感じの奴だ。
「何が自己紹介だ。俺らはガキかよ。やりたいやつだけやってろ」
彼がそう喚いた、その時だった。
「お前たち、席に着け」
スーツを来た一人の女性がカツカツとヒールの音をたてて教室へ入ってくる。
見た目からの印象はしっかりとした、規律を大事にしそうな先生。歳の頃は30、に届いているか届いてないか。微妙なところだ。
それなりに長そうな髪は後頭部で、ポニーテール調にまとめられている。
「Dクラスの担任となった、茶柱佐枝だ。この学校にクラス替えはない。卒業まで三年間、私がお前たちの担任となる。まずは本校の資料を配ろう。前から後ろへ回してくれ」
前から回ってきた資料を受け取り、目を通す。
「本校には独自のルールが存在する。まず、全寮制で、在学中に敷地内から出る事と外部との連絡を制限している。だが、心配するな。学園にはありとあらゆる施設が揃っている。生活に必要な物は全て手に入るだろう。娯楽も含めてな.......。買い物には学生証端末に保有されているポイントを使う。この学校ではあらゆるものをポイントで買うことが出来る。ポイントは毎月一日に振り込まれる。1ポイントで一円の価値だ。お前達には既に今月分の10万ポイントが支給されている」
学生証端末を確認すると、確かに10万という数字が表示されている。
「え〜!?」
「10万!?」
「マジかよ!?」
「へぇ〜!」
茶柱先生の言葉に俺達はザワついていた。
彼女の言う通りなら、オレたちは現時点で10万円という大金を得ているのだ。
「支給学の多さに驚いたか?この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちにはそれだけの価値があるというわけだ。ではいい学生ライフを過ごしてくれ」
茶柱先生はそう締め括って喧騒に包まれる教室から立ち去った。
「思ったよりも堅苦しい学校ではないみたいね」
独り言かと思ったが隣の女子生徒はこちらを見ていたので話しかけて来たと分かった。
「確かに、何というか物凄く緩いな」
自由度の高い生活には危険なリスクがあるのではないかと疑ってしまう。
「ねぇねぇ、後で一緒に買い物に行かない?」
「いいね!私、取り敢えず服が欲しい!」
10万円という大金を得た喜びに浸り、浮き足立つ沢山の生徒。
見れば、既にグループが確立されていて、どうやらオレはボッチらしい。
「綾小路くん。この後、皆で買い物に行こうと思ってるんだけど、君も一緒に行かないか?」
帰り支度をして教室を出ようとすると、平田が声をかけて来た。
彼の周りには沢山の女の子がいた。入学早々、ハーレムを作っているのか。羨ましいヤツめ。
「これから用事があるんだけど、直ぐに終わるからそしたらオレも一緒に行きたいんだけど、それでいいか?」
本当は用事が終わったら直ぐに自分の部屋に戻りたいところだが、現在は12時前。
時間はたっぷりあるし、それに平田と周りの女の子達は見たところ、このクラスの中心人物だ。
今後の為にも彼らとは仲良くなっておいて損は無い。
「うん。軽井沢さん達もそれでいいよね?」
「オッケーだよ〜!」
平田は横にいる金髪のギャルっぽい女の子に聞くと、彼女は明るい話し方で了承した。
「それじゃあ後で合流出来るように連絡先を交換しとこうか」
「あ、じゃあわたしも〜」
「わたしも!」
「ありがとう、みんな。じゃあオレは用事を済ませてくるから、後で合流しよう」
「うん。じゃあまたね」
「バイバイ〜綾小路くん〜!」
彼らに別れを告げ、教室を出ると、廊下で櫛田が
待っていた。
「あ、綾小路くん」
「櫛田。何か用か?」
「うん。この後、友達と敷地内を回ろうと思うんだけど、綾小路くんもどうかなって」
「そうか.......。櫛田はもう友達が出来たんだな」
「うん。クラスの殆どの人とは連絡先も交換したんだ!」
「凄いな.......。櫛田、悪いけど、また今度にしてくれないか?この後は用事があってその後に平田達と遊ぶ約束をしてるんだ」
「そっか.......。なら仕方ないね。じゃあ連絡先だけ交換しよっか」
「あぁ、そうだな。せっかく誘ってくれたのに悪いな」
「ううん。気にしないで」
「.......櫛田。夜、電話してもいいか?話したい事があるんだ」
「え?.......いいよ。じゃあまたね」
櫛田は顔を赤くしながら逃げるように去って行った。
いったい何だったんだ?
オレは用事を済ませる為にコンビニへ向かった。