ようこそ綾小路清隆が本気を出した教室へ   作:俺がいる最高

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第6話 『ようこそ実力至上主義の世界へ』

 5月最初の学校開始を告げる始業チャイムが鳴った。

 

 程なくして、手にポスターの筒を持った茶柱先生がやってくる。

 

 その顔はいつもより険しい。

 

「席に着け。朝のHRを始まる」

 

「せんせー、ポイントが少ないんですけど、毎月10万貰えるんじゃなかったんですか?」

 

「.......本当に愚かだな、と言いたいところだが。遅刻欠席、合わせて38回。授業中の私語や携帯を触った回数156回。私が予想してた数よりも40%近く抑えられている。これを見ろ」

 

 手にしていた筒から白い厚手の紙を取り出し、広げた。

 

 それを黒板に貼り付け、磁石で止める。

 

 そこにはAクラスからDクラスの名前とその横に、最大4桁の数字が表示されていた。

 

 オレたちDクラスは420。Cクラスが490。Bクラスが650。そして一番高い数字がAクラスの940。

 

 これがポイントのことだとすると1000ポイントが10万に値することになる。

 

 オレの読み通りだ。

 

「私が予想していたのは0ポイント。しかしCクラスと70ポイント差まで詰めている。これは意外だった。誰かに指示されたな?」

 

「えっと.......平田くんと櫛田さんが2日目にこうなるかもって皆に指示してくれたんです」

 

 真面目組の中で1番真面目だった篠原が代表して言う。

 

「そうだな。だがもしこれがある人物によって仕組まれたことだったら?」

 

 まさか.......。

 

「ある人物?」

 

「そうだ。その人物はこの学校の仕組みにいち早く気づき、0ポイントという最悪の結果を避けるためにクラスの中心人物である平田と櫛田を利用した」

 

 この教師.......何が目的だ。オレの目立たず行動するという誓いを粉々にする気だ。

 

「平田、櫛田。思い当たる節があるだろう?言ってみろ」

 

「.......言えません」

 

「平田、お前は?」

 

「.......僕も言えません」

 

「.......そうか。そいつは余程信頼されているのだな。ならば教えてやろう。その人物を。全ての首謀者はお前だ、綾小路清隆」

 

 先生の言葉にクラスメイト全員がオレに注目する。

 

「驚いただろう?私も驚いている。入学当初から目立たなかった彼がまさかこんなことをするなんてな。いや、目立たないようにしていたお前だからだったのかもしれんな。綾小路」

 

「.......何のことでしょう?」

 

「とぼけても無駄だぞ。これを見ろ」

 

 黒板に、追加されるように張り出された一枚の紙。そこにはクラスメイト全員の名前が、ずらりと並んでいる。

 

 そして各名前の横には、またして数字が記載されていた。

 

「この数字が何か、バカが多いこのクラスの生徒でも理解出来るだろう」

 

 カツカツとヒールで床を踏み鳴らし、生徒達を一瞥する。

 

「先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒揃いで、先生は嬉しいぞ。中学で一体何を勉強してきたんだ?お前らは」

 

 一部の上位を除き、殆どのの生徒は60点前後の点数しか取れていない。

 

 須藤の14点という驚異的なものは無視するとして、その次が池の24点だ。

 

 平均点は65点前後か。

 

「良かったな、これが本番だったら7人は入学早々退学になっていたところだ」

 

「た、退学?どういうことですか?」

 

「なんだ、説明していなかったか?この学校では中間テスト、期末テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている。今回のテストで言えば、32点未満の生徒は全員対象と言うことになる。まぁ、それはさておき、注目して欲しいのは綾小路の点だ」

 

 皆がオレの点数に注目し、そしてざわついた。

 

「綾小路清隆、全教科50点。偶然か?」

 

「.......当たり前でしょ。狙って出せるもんじゃないですよ」

 

「そうか?私も偶然だと思っていたのだがな、今回のことで確信した。お前は本来このクラスにいていい存在じゃない。何故、隠す?」

 

「.......たまたまですよ。テストの結果もたまたまだし、ポイントの件も予想してたことがたまたま当たっただけです」

 

「.......そうだな。そういうことにしておこう」

 

「とにかく、この学校に望みを叶えて貰いたければ、日々の生活態度を改め、テストで良い成績を残し、Aクラスに上がるしか方法は無い。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することはないだろう」

 

「そ、そんな.......」

 

「浮かれていた気分は払拭されたようだな。お前らの置かれた状況の過酷さを理解出来たのなら、この長ったるいHRにも意味はあったかもな。中間テストまでは後3週間、まぁじっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切る方法はあると確信している。出来ることなら、実力派者に相応しい振る舞いをもって挑んでくれ」

 

 ちょっと強めに扉を閉めると、茶柱先生は今度こそ教室を後にした。

 

 がっくりとうな垂れる赤点組たち。いつも堂々としている須藤も、舌打ちをして俯いた。


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