「ブログを作りましょう。」
ある日の練習の休憩中、雨打はそれぞれくつろいでいる4人にそう言った。
「どないしたん、突然?」
「一言で言って、今の私たちはチーム全体でみるとお金がない。全部リーダーの蓮沼さんに
賄ってもらってる状態です。」
「あたしから言ったことなんだから、そんなの気にしなくていいのに…。」
「私達が気にするんですよ。よくよく考えれば、蓮沼さんは5人の中で一番年下。なのに
スケジュール、作詞・作曲、楽器の用意等多くをやらせてしまっています。私達4人が
やってることと言えば、自分の楽器のメンテくらいじゃないですか?」
生真面目な雨打は、そういった状態が許せないのだろう。それを聞いた晴陽以外の3人も、考えるような表情になる。
「……言われてみれば確かにそうだね。」
「わたくし達、自分達の演奏に必死でしたから…。」
「せやな、雨打ちゃんの気持ち、分からんくもないわ。」
「はい、ですからブログを作ろうと言っているんです。パソコンも持ってきました。」
言って雨打は、自分の鞄からノートパソコンを取り出す。画面を起動させ、デスクトップになったのを5人が集まって確認する。
「雨打、ブログ作れるの?」
「教材ソフトなどは一通り覚えました。安定した将来のためです。」
「せやけど、なんでブログなん?」
「理由は大きく分けて3つあります。
1つ、VOR専用のブログを作成することで、多くの人にVORの活動方針を知ってもらうため。
2つ、この部屋でのVORの演奏を動画でアップすることで、ライブハウスへの交通費や参加費を
少しでも抑えると同時に、ライブハウス以上の人数の人に聴いてもらう事ができるため。
3つ、これが一番の理由ですが、アフィリエイト収入を稼ぐためです。」
「アフィリエイト収入?」
「広告収入ともいいますかね。VORのブログにメジャーな企業サイトに飛ぶ広告バナーを設置して、
そこから飛んだ人がその企業の商品を購入することで、商品を扱っている企業からバナーを設置
したブログの管理人に報酬が入るんです。」
「う、うん…?」
「簡単に言えば、私達のサイトから経由して買い物した人がいればいるほど、こちらにも
お金が入るってことですよ。こういった稼ぎ方、結構メジャーなんですよ?」
言いながら雨打は、事前に作成してきたブログの土台に、次々とアレンジを加えていく。
「さて、次に紹介なんですが…蓮沼さん、VORの活動方針は?」
「あたし?」
「そういえばそうや。バンドってそれぞれ流儀みたいなもんあるやん?
どんな流儀や方針があるん?」
質問された晴陽はう~んと考えた後、すぐに思いついたようにうなづく。
「それでは、これから活動が活発化していくVORのためにも、改めて方針を紹介します!」
晴陽はそう言うと、部屋の隅にあったホワイトボードを急いで持ってくる。雪路はほんわかとした表情で「前にもこんなことありましたね…」とつぶやく。
「まず1つ、あたし達VORは大人達に復讐するために結成されたバンド。だから当然、
事務所からのスカウトは一切受けない!」
「僕もそれはあると思ってたよ。全員メジャーが欲しくて集まったわけじゃないからね。」
「2つ、VORは音楽のスタイルを変えることは一切ない! 常に負の感情を加えたゴシックな
演奏で恐怖と興奮を与え続ける。」
これは考えを変えないという意思表明でもあるが、音楽においてスタイルはユニットの個性を強く出す。下手に変えてしまえば、最悪そのユニットには誰も見向きもしなくなる。それが原因で解散したバンドも少なくない。
「そして3つ。あたし達はいつだって全力で演奏する。相手のレベル関係なくあたし達の
持てる力を1曲1曲に全て発揮する。」
「前に雨打ちゃん妥協許さへん言うてたもんな。文句言えへんよ~雨打ちゃん?」
「何の心配ですか。ちゃんと賛成ですから大丈夫ですよ…っと、紹介欄は作りました。」
「じゃぁ、休憩終わり~! みんな、ブログの第1報告に載せる動画の演奏するよ!」
「ええやん! ウチは賛成やで!」
「僕も、特に反対はないかな?」
「わたくしもです。」
そんな4人の様子を見て、雨打は溜息を吐く。
「まぁ、予想はしていました。パソコン用のカメラは持ってきましたから、早速
撮影しますよ。」
「さっすが雨打ちゃん、チームの参謀担当やな!」
「いよっ、参謀!」
「誰が参謀ですか!」
結果でいえば、VORのブログは大人気だった。元々生で演奏を見た観客の拡散で密かに知名度はあったものの、VORのメンバーの個性が出ている面白いコメントや喧嘩腰な活動方針、そしてそれを証明するためにアップされた彼女たちの演奏は、瞬く間に多くの閲覧者を生み出した。
「これは…。」
「すごい…画面越しなのに、この子達の技術や迫力がちゃんとわかるよ。」
「えぇ…一人一人の演奏が、明らかに私達を上回っています。」
今絶賛進撃中の本格派バンド【Roselia】の湊友希那、今井リサ、氷川紗夜の3人も、VORの演奏には感服だった。目を見開くリサと紗夜。友希那も静かにみているが、内心は2人同様驚愕していた。
「こんにちは~!」
「こんにちは…です……。」
友希那達のいる練習スタジオに入ってくる2人の少女は、Roseliaの残り2人のメンバーの宇田川あこと白金燐子だ。
「待ってたよ、あこに燐子。」
「今、VORのブログを見ていたところです。」
「あっ、あこも見ました! 動画の演奏すごいですよね! なんか、こう、バーンッて感じで!」
「私も…見ました…悲しい感じなのに…どこか魅力的で。」
それは以前友希那達が演奏で体験した【キセキ】…それをマイナスの感情で、しかし気持ちが直にこもった演奏で、何度も起こした感覚だった。
「あこ、生で見てみたいです!」
「そうですね。今後のRoseliaのヒントになるかもしれません。」
「でも…どこで演奏するかわかりません……。」
「なら、こちらから呼びかけましょう。」
「友希那?」
「メールフォームで伝えるわ…【ライブハウス『CiRCLE』で演奏してほしい】とね。」
RoseliaとVORの邂逅まで、あと数日。