ライブハウス『CiRCLE』
「ねぇねぇ、あれって【Vanguard of Revenge】じゃない?」
「あっ、そうだよ! 今噂の覆面バンド、VORじゃん!」
「サニー様~♪」
CiRCLEの前を行きかう人々が注目しているのは、入り口前に立っているVORの5人だ。もちろん正体がわからないように、アニマルキャップとマスクを着けている。
「ここだね、ライブのリクエストをした会場は。 結構いいとこじゃん♪」
「しっかし、まさか羽丘や花咲川から歩いて行けるとは思わんかったわ。」
「僕達、音楽から大分離れて暮らしてたからね。」
「わたくし、近くのカフェになら行ったことあります。」
「……。」
5人の中で唯一レイン…雨打はどこか微妙な反応になっていた。
「ゆ…レイン、どうかした?」
「い、いえ…なんでもありません。」
「そう? じゃ、早速入ろうか。」
サニーの言葉に4人はうなづき、店内に入店する。
・・・・・・・・・・・・
入店して最初に見たのは、黒髪のラフな格好をした女性だった。
「いらっしゃ…って、もしかしてVORの皆さん?」
「はい。メールでライブをしてほしいとの希望がありまして。」
「話は聞いてるよ。スタッフの月島まりなです。今日は来てくれてありがとうね。」
「まりなおねーさんも、リクエストくれてありがと♪」
「あーいや、メール送ったの私じゃなくて--------」
「私達よ。」
まりなの言葉を遮り歩いてきたのは、Roseliaの5人だ。
「もしかして、Roseliaかいな?」
「えぇ、Roseliaのボーカルの湊友希那よ。今日は来てくれて感謝するわ。」
「ベースの今井リサで~す♪」
「ギターの氷川紗夜です。」
「あの…キーボードの…白金、燐子です……よろしくお願いします。」
「ふふふ、我が名は冥界より出でし漆黒の「宇田川さん?」…ドラムの宇田川あこです!」
やはりというか、独特な自己紹介をするあこにVORは苦笑する。
「うん、よろしくね。あたしはボーカルのサニー♪」
「…ギターを務める、クラウド。」
「ベースのレインです…どうも。」
「ドラムのサンダーや! 今日はよろしゅう!」
「わたくしは、キーボードのスノウです。…顔と名を明かせずに、申し訳ございません。」
「構わないわ。あくまであなた達の【音楽】に興味があるもの。」
そう言われ、スノウは気が楽になると同時に、まりなに声を掛けられる。
「あのー、時間が押してるんだけど?」
「あっ、そうだった! それじゃああたし達、ライブだから。」
「えぇ、あなた達の演奏、直に見せてもらうわ。」
それだけ言う友希那にサニーは手を振りながら控室に向かう。
・・・・・・・・・・・・
「はぁ~……。」
控室に入り、一旦仮面を外した5人。雨打は深くため息を吐く。
「どないしたん、雨打ちゃん? もうすぐライブやのに元気ないやん。」
「…宇田川さん、私のクラスメイトなんです。」
「湊さんや今井さんだって、同じ羽丘で僕の1つ先輩だ。」
「あのですね旗之台先輩、同級生ですよ、同・級・生! しかも先日、宇田川さんにライブの
鑑賞を勧められましたし…あぁ、胃がきりきりする。」
自分の胸をグッと抑える雨打。雪路はそんな彼女の背中をさする。
「でもでも、もうすぐライブ始まっちゃうよ?」
「…それは分かっています。分かっていますが……。」
「《妥協》するんか?」
「……なんですって?」
「あんだけ全力全力言うてた雨打ちゃんが、ライブで手加減なんてするわけあらへんやろ?」
「当然です!!」
御雷の煽りを受け、雨打は急にやる気を取り戻す。
『なんか雨打って、扱いやすいとこあるよね。』
『それは本人の前では、言わないでくださいね? 晴陽。』
燃えている雨打に聞こえないように、晴陽と雪路はこそこそ話していた。
《イェーイ、みんな、誰一人このハウスから逃げ出してないよね?》
『イェェェェェエエエエエエエイ!!』
《OK! それじゃあもう一曲歌うけど、みんな失神したりちびらないように気を付けてね!!》
『イェェェェェエエエエエエエイ!!』
サニーのアピールの後に、4人のメンバーが一斉に楽器を弾き始める。それは決して勢いだけではなく、卓越した技術による旋律が、サニーの歌声の期待度を上げているのだ。無論、サニーもそれに応える。
「(やはり、流石だわ……彼女達の一人一人の演奏が互いを引き出している。悔しいけど、
私達を明らかに超えている!)」
観客の中でVORの演奏に見惚れる友希那。リサや紗夜、燐子も同様で、あこは目をキラキラさせ、口元を緩ませていた。
「(何より、彼女達の気持ちの込め方……怒りや悲しみがこちらに伝わってくる。彼女達は
そういった負の感情というものを、よく理解しているわ。)」
一体何が彼女達をそうさせたのか……不謹慎ではあるものの、友希那はVORの根源を知りたいと思わずにはいられなかった。
・・・・・・・・・・・・
「今日はありがとう、いいライブだったわ。」
「ううん、あたし達もこんないい場所で演奏できてうれしかったよ♪」
笑顔でそう告げるサニー、それが嘘ではないことを、友希那は理解する。
「あの…今更なんですが、何故わたくし達を招待したのですか?」
「ブログの演奏を見て、直に聴いてみたいと思ったからよ。Roseliaの参考にも
したかったし。」
「えへへ、参考にされちゃったねスノウ♪」
「よかったですねサニー。」
和やかな雰囲気を出すVORの面々。とても先程まで憎しみを込めていたとは思えない。
「そういえばさ、VORってFUTUR WORLD FES.とかに出る予定ある?」
「プロでも予選落ちする世界的な音楽祭だよね…いや、予定はないけど。」
「なんや、Roseliaってそれを目指しとるんか?」
「うん! あこ達そのためのコンテストで上位3位に入るのが今の目標なんだ!」
「しかし惜しいですね……あなた方ほどの実力なら、コンテストでも通用するでしょうに。」
紗夜の言葉に、レインは口をとがらせる。
「……ブログの活動方針の通り、私達の目的はあくまで演奏を通して大人達に復讐
することで、世界的なデビューをしたいわけではありません。私たちは地道に
名を広めていきたいので……癇に障ったのなら謝ります。」
「…いえ、こちらこそ、話していただきありがとうございました。」
「それじゃぁまたね、おねーさん達♪」
そう言ってVORの面々は、CiRCLEを去ろうとする。
「サニー、いつか私達RoseliaはVORに対バンを申し込む……そして、VORを超えるわ!」
「楽しみにしてるよ~♪」
振り向かず、手を振るサニー。彼女が見なかった友希那の瞳には、明らかな闘志が宿っていた。
「ところで対バンってなに?」
「知らずに応えとったんかい!?」
5人だけになった最初の会話がこれである。