「ほら蘭、早く~。」
「分かったって……。」
銀髪ショートのおっとりした少女、青葉モカに手を引っ張られる赤メッシュをした少女、美竹蘭。彼女らが、向かっているのはライブハウス『CIRCLE』。入口の近くにはすでに、待ち合わせをした3人の少女がいた。
「あっ2人とも来たよ。」
「よっ。」
「もう、蘭もモカも遅いよ~!」
最初に声を出したおとなしそうな少女、羽沢つぐみ。次に声を出した背の高い少女、宇田川巴。最後に怒ったような声を出した少女は上原ひまり。そこに蘭とモカを合わせた彼女らはガールズバンド【Afterglow】。羽丘女子1年の幼馴染5人で結成している。今回はCIRCLEのライブにVORが出るということで、観客としてやってきた。
「でも巴、なんで急にVORのライブが見たいなんて言ったのさ?」
「前にあこがVORのライブ見たらしくてさ、家でRoseliaが結成した時ぐらいのレベルで興奮して
言ってきたんだよ。すごいとかかっこいいとかな。んで、あこにそこまで言わせるVORがどんな
もんなのかなーって思ってよ。」
「私はブログの演奏見て、すっごく興奮したから!」
「私は…演奏のヒントを得られればなって。」
3人の意見を聞いても、蘭はそう言うものなのかとしか思えなかった。ひまりの話によれば、『大人に復讐するために結成したバンド』らしいのだが、蘭にとっては「なにそれ?」と、思わず小馬鹿にしてしまう程度のものだった。
「あっ、もしかしてあの人達じゃない~?」
モカが蘭の袖を引っ張る。蘭達が見た先には、CIRCLEに向かって歩いてくるVORの5人の姿があった。
「あれが噂のVOR…確かに、ちょっと怖いね。」
「そう? 動物の被り物があって可愛いんじゃないかな?」
「可愛いはない。」
きっぱり言い切る蘭。巴はVORに歩いていく。
「なぁ、【Vanguard Of Revenge】だよな?」
「おねーさん達は?」
「アタシら、Afterglowってバンド組んでてさ。あこからすごいバンドだって聞いて聴きに
来たんだ。アタシはドラムの宇田川巴、Roseliaのあこはアタシの妹なんだ。」
「(宇田川さん、お姉さんいたんですか……。)」
「おー、あの元気っ子の姉ちゃんかいな。よく憶えとるよ。」
「では、後ろの4人が同じバンドの…?」
「はい、ベースの上原ひまりだよ!」
「キーボード担当の、羽沢つぐみです。」
「ギターの青葉モカで~す。…ほら、蘭も。」
「……ギターボーカルの、美竹蘭。」
面倒そうに自己紹介する蘭。しかしVORの5人は、気にしていなさそうだった。
「よろしく。あたし達は------」
「サニーにクラウド、レインにサンダー、それとスノウだよな。ちゃんと覚えたぜ?」
「いやー、ウチらも名が広まってきたもんやな~♪」
「覚えてくれてありがと♪ じゃあ次は、ライブステージで。」
サニーがそう言って、CIRCLEの入り口を通ろうとする。
「…復讐なんて、本当にできるんだか。」
蘭のつぶやきを、サニーは聞き逃さなかった。笑顔のまま蘭に近づき、顔前で口を開く。
【じゃあ、演奏で判断してみなよ……そうすれば本気かどうかわかるからさ♪】
「……!!」
瞬間蘭は、急な恐怖と寒気を感じる。先程まで微塵も怖さを感じなかったというのに…思わず後ずさってしまう。
「早く行くよ、サニー。」
「クラウド、了解。」
クラウドに呼ばれ、サニーは急いで中に入る。そして扉が閉まると、蘭は大きく息を吐く。
「どしたの~蘭?」
「…なんでもない。」
「でも蘭ちゃん、なんだか変だよ?」
「急に迫られて、びっくりしただけだから。」
そう言ってCIRCLEに入る蘭。4人は顔を合わせ、首をかしげるのだった。
・・・・・・・・・・・・
《では、プログラムラスト。【Vanguard Of Revenge】の皆さんです》
紹介と同時に、VORの5人がステージに立つ。観客からは、待ってましたと言わんばかりに大きな拍手が来る。
「やっと来たか。」
「今回のプログラムではVORは本当に最後のほうだからねー。」
「……。」
蘭は周りを見渡す。VOR目的のためか帰っている客はほとんどいないように見えるが、所々であくびをしたり、目をこすっている客がいる。
「なんか、疲れてる人たち居るね。」
「部活とか仕事帰りの人もいるし、ステージも暗いから仕方ないんじゃないかな?」
そしてVORのほうでも、蘭同様眠そうな客に目を向けていた。
『なんだか、眠そうな方々がいます。』
『ここまで結構、待たせてしもたからな~。』
『うん、あたし達が起こしてあげよう!』
サニーのうなずきを合図に、4人が臨戦態勢に入る。そして、
【--------------------------】
サニーの歌声が、4人の旋律がステージに響き渡る。
「なっ……!!??」
蘭が戦慄する。蘭だけではなく、他のアフグロメンバーも目をカッと開きながら固まり、だるそうにしていた客の目は一気に覚める。
「(なに、これ…心臓に直に掴みかかってくるような感覚…今にも喰われそうだ!!)」
先程まで興味を持たなかった蘭にも、ここからどんな音が出てくるのかと、恐怖と期待が同時にあふれてくる。
「す、すごいねみんな…みんな?」
つぐみが見惚れながらも声をかける。しかし4人とも、茫然と、ただただ、VORの奏でる演奏に心を奪われ続けていた。
「いやーヤバかった。あこが興奮するのも分かるな。」
「私も、歓声上げる暇なかった~!」
「モカちゃんもね~、関心どころじゃなかったよ~。」
「……あれは、参考にできないかも。」
「……。」
その中で蘭だけが、下に顔を向けて黙ったままだった。
「お疲れ様でした~。」
その時CIRCLEの扉を開け、VORが出てくる。蘭はそれを確認すると、サニーの前に立つ。そしてゆっくりと、頭を下げる。
「なんやなんや?」
「…あんた達の演奏、本当にすごかった。馬鹿にしてごめん。」
「いいよいいよ、嫌われるくらい覚悟してるから。」
手をひらひらさせて受け流すサニー。しかし顔を上げた蘭の目には、闘志が宿っていた。
「あたし…あんた達に負けないバンドに、絶対なるから!!」
「…うん、応援してるよ♪」
それだけ言って、今度こそVORはCIRCLEを後にする。
「(なんか似た展開、最近あったような。)」
思い返すと同時に、胃を痛めるレインだった。
・・・・・・・・・・・・
そして今回のライブを見ていたバンドは、アフグロだけではなかった。
「なんてすごい演奏なのかしら! とっても怖くて、ワクワクしたわ! よーし、
早速黒服や花音達に連絡ね…ハロハピとVORで、共演するわよ!!」
【ハロー、ハッピーワールド!】の弦巻こころ…彼女の思い付きが、レインの胃にさらなる負担をかけることになる。