「コンサートホールで、共演ライブするわよ~!」
「訳が分からない。」
会場のコンサートホールの前ではしゃぐ弦巻こころにツッコミを入れるのは、彼女に半ば無理やりバンド入りさせられた奥沢美咲…が、中にいるクマの着ぐるみのミッシェルである。
「ふぇぇ…コンサートホールでライブなんて、緊張するよぉ…。」
話し方にあざとさが出ている水色の髪の少女は、松原花音。
「広いねー、ここで共演という名の戦いが始まるんだね!」
「共演の意味わかってる?」
ミッシェルにツッコミを入れられるオレンジショートの少女は、こころや花音、美咲と同じ学校の北沢はぐみ。
「ああ、なんて儚いんだこころ! この地にて行われるのはそう…天使と悪魔の“饗宴”!」
「多分文字、間違ってますよね?」
そして唯一羽丘の生徒で背の高い少女、瀬田薫。この5人こそ、世界中を笑顔にすることを目標とするバンド、【ハロー、ハッピーワールド!】である。
「(またとんでもないこと思いつくなぁ…でも、なんでVORなんだろう?)」
ミッシェルは思う。【Vanguard Of Revenge】といえば、恐怖の演奏をすることで有名な復讐バンドである。それとは真逆の思想をもつハロハピとは、関連性が薄いと思われる。
「こんにちは~。」
そんなことを思っていると、サニーを先頭にVORの5人が歩いてくるのがわかる。
「あら、こんにちは! あたし達のオファーを受けてくれてありがとう!」
「そらあんさん、偉大なる弦巻財閥のお嬢様から直々のオファーやからね~。」
事は数日前、VORのブログに共演依頼のメールが来たことから始まる。ご丁寧に信憑性を持たせるためのビデオレター付きである。しかも大きなコンサートホールでのライブときた。こんな大きな舞台で演奏できるのはチャンスだと、VORはリクエストを了承した。
「わたくし達、ハッピー?な演奏はできませんが、よろしくお願いします。」
「えぇ、よろしく。あたしはボーカルの弦巻こころよ!」
「えっと、ドラムの、松原花音です。」
「はぐみは北沢はぐみ! ベースやってるんだよ!」
「ギターの瀬田薫だ。今日はよろしく、子猫ちゃん達。」
「お…DJのミッシェルで~す。」
「(着ぐるみ?)」
「(着ぐるみだ…。)」
「(可愛い…。)」
VORの誰もがミッシェルに注目し、レインは外見の愛らしさについ見惚れてしまう。
「ところでさっき、天使と悪魔って聞こえたんやけど、悪魔って
「あぁ、すいません。気に障ってしまったのなら、謝りますんで。」
「えぇよミッシェルはん。ウチらも悪魔になったつもりでやっとるし。」
「はぁ…。」
気分を害するようなことは起こらなかったようで、安心するミッシェル。
「ねぇ、こころおねーさん。共演のライブって?」
「そうだったわ! 早速会場に行きましょう!」
こころはサニーの手を引っ張り、会場の中に入る。
・・・・・・・・・・・・
ホール内はそれなりに広く、演奏のためのステージは中央に設置物を置いて、2分割している。
「あそこでハロハピとVORが分かれて、交代交代で演奏するのよ!」
「確かにあれなら、交代時間を節約できるし、演奏の間に次の演奏の準備もできるね。」
「楽しいライブにするのよ? お客さんのみんなを待たせるのはもったいないわ!」
「徹底しとるな~。」
「そうゆう子なんですよ、こころは。」
まるで子育てに苦労する母親みたいな口調のミッシェル。そんなミッシェルを見て、レインはどこか同情してしまう。
「…一応確認しますけど、私達VORはいつも通りの演奏をします。
ような明るめな演奏はできませんので、あしからず。」
「それでいいわ! そんなあなた達だから、あたしは呼んだのよ?」
笑顔で答えるこころ。VORはそんな彼女の考えが、どうにも読めなかった。
《聴いてくれてありがと~! 次はハロハピの演奏、聴いてあげてね~?》
先攻のVORが歌い終わり、ハロハピにバトンタッチするサニー。ふうっと一息吐いたレインは、観客席を見やる。会場にはライブハウス以上の人数がおり、中には小学生ほどの子供の姿もあった。当然、自分達の演奏を怖がっており、子供にいたっては今にも泣きそうだった。
「(胃が痛い…。)」
泣きそうな姿を見て、流石に来るものがあるレイン。変に思われない程度に、胸を抑えていた。そんなレインに、後ろからスノウが声をかける。
『レイン…次が終わったらもう一曲ずつあります。』
『…大丈夫です、もう治ります。』
《ハッピー! ラッキー! スマイル! イエーイ! VORのみんな、とってもゾクゾクする
演奏ありがとう! 今度はあたし達ハロハピが、みんなを笑顔にするわ!》
マーチングバンドの衣装で演奏を始めるハロハピ。その演奏はVORとは正反対と言えるほどに明るくポジティブで、自然と観客の顔が緩んでいく。
「(みんなが笑顔になっていく。【ハロー、ハッピーワールド!】の名は伊達じゃないという
事ですか。)」
泣きそうだった子供が笑顔になっていく様子を見て、レインの胃の負担は多少軽くなる。同時に、もう1曲怖い演奏をするのだと考えると、レインは溜息を吐かずにはいられなかった。
「(しかし、妥協は絶対しないのが私です。)」
そう自分に言い聞かせ、腕を回して次の準備に入る。
・・・・・・・・・・・・
「いやー凄かったな。」
「なんというか、味変だよな。辛いVORと、甘いハロハピ的な?」
「私、2階席だったけど、すっごい伝わった!」
帰っていく観客達の様子を陰から見守るハロハピとVOR。途中、レインが見ていた子供の1人とその母親と思われる女性を見かける。
「今日はどうだった?」
「うん、ハロハピ、すっごく笑顔になれた。VORは怖かったけど、すごくかっこよかったから、
また聴きたい!」
という声が聞こえ、レインにとっては意外な感想だった。
「ほら、みんなハロハピだけじゃなくて、VORも好きなのよ。共演したことは、間違いじゃ
なかったわ!」
「…そうですか。」
「ああ、儚い! これぞツンデレ!」
「違いますよ薫さん。」
冷静に突っ込むミッシェル。そんなやり取りを見て、サニーは笑う。
「あっはは、おねーさん達面白ーい♪」
「あら、あなた達だって面白いわよ。だから、分からないわ。」
「うん?」
「みんなが笑顔になるのに、どうして
首をかしげながら、核心を突くような疑問をぶつけるこころ。言われた5人はピクっと動揺してしまう。
「ちょっと、こころ。」
「いいよ、ミッシェルおねーさん…そうだね、“あたし達が心から笑うため”に、VORを
やってるんだよ。」
「あら、そうなの?」
「そうだよ…今日はありがとう。ライブできてよかったよ。」
「ええ、また一緒に演奏しましょう!」
そう言って、VORとハロハピは別れる。
「…サニー。」
「いいよ、スノウ…VORの方針は変わらない。復讐は、やらなきゃいけないんだよ。」
それは本心なのだろう…だが4人から見て、今日のサニーはどこか後姿が寂しく感じられた。