もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
土曜日午前11時、ポチ公前
「おはようございます皆さん」
「ああ、おはよう四宮」
「おはようです、かぐやさん」
「おはよう、四宮」
「どうもです、四宮先輩」
この日、生徒会メンバーは全員で交流会の買い出しにきていた。元々は『休日返上で行くなんて面倒』と白銀が言ってたのだが藤原が―――
『交流会を成功させるためにもちゃんと全員でいきましょう!』
と言ったため、こうして全員で買い出しに来ていた。おかげで白銀はかぐやと2人で買い出しデートを行うという予定が狂ってしまった。しかしそれはそれ。全員で来たからには、ちゃんと買い出しを成功させようと頭を切り替えていた。
「ところでどこで買い物をする予定なんですか?」
「駅近くにあるウェストデパートですね、あそこは品揃えもかなり豊富ですし」
藤原の質問に答えたのは、石上優。
現生徒会会計であり、唯一の1年生である。普段は仕事を家に持ち帰ってやっているので中々生徒会室に顔を出さないが、今日は白銀に『全員参加』と連絡を受け、こうして買い出しに来ている。
「では早速みんなで「待ってください藤原さん」え?何ですかかぐやさん?」
藤原が目的地のデパートに行こうと口を開いた時、かぐやが藤原の言葉を遮る形で口を開いた。
「5人全員で買い出しに動くのは非効率です。ここは土産菓子班と土産雑貨班の2班に分かれましょう」
「成程、確かにそうですね!」
かぐやは買い出し効率を上げるために2手に分かれるという事を提案をした。ただしかぐやは、ただ効率化を図るために提案した訳ではない。生徒会メンバーは男子2人と女子3人の5人で構成されている。2手に分かれるという事は、3人の奇数班と2人の偶数班に分かれるという事だ。
そして偶数班は、男子と女子の2人になる可能性がある。男女2人きりでの買い出し作業。それはすなわちデートに他ならない。
そう。つまりかぐやは、この買い出しで白銀と2人の偶数班になり、疑似的なデートをしたいのだ。
(さぁ会長!是非私を偶数班に誘いなさい!まぁ会長だったら直ぐにでも涙を流しながら私を誘ってくるでしょうけどね?)
相変わらず自分からは決して言わないのだが。それもこれも、高いプライドのせいである。そしてそんなかぐやとは真逆を行く存在が、この場に1人いた。
「白銀、君はあそこのデパートに行ったことはあるのか?」
「ん?いや無いが」
「なら私が案内しよう。あそこなら何度か行ったことがあるから迷うこともない」
「!?」
そう、立花京佳である。
かぐやと違い、自分から積極的に仕掛け、隙あらば白銀を振り向かせようと奮闘する少女。前回なんて、自分が着ていた服を着せてみるというかぐやからすれば破廉恥極まりない事すら実行した。最も、前回のは京佳もやりすぎたと思い反省したのだが。そして今回は、時間限定とはいえ2人っきりでの買い出しデートになる可能性がある。
そんなチャンスを京佳が見逃すはずもない。
「私は雑貨のほうに行きますね!フランスの方々が嬉しくなるようなものを選んできます!」
「じゃあ僕も、藤原先輩と同じ雑貨でいいです。土産菓子とかよくわかりませんし…」
「わかった。だったら私と白銀は土産菓子を買いに行くとしよう」
そして藤原と石上が土産雑貨班になると言い出し、京佳は白銀と一緒に土産菓子班になると言った。おかげでとんとん拍子に班分けが決まってしまった。
(ど、どうしましょう!私から土産菓子班に行きたいなんて言ったら、そんなの私が会長と一緒じゃなきゃいやだって言ってるみたいじゃない!)
かぐやは焦った。
既に生徒会メンバーはそれぞれ2人と2人の班に分かれている。しかしここで、白銀と同じ班になりたいと自分から言う事は出来ない。そんなのかぐやのプライドが許さない。だがこのままでは、白銀と同じ班になる事もなく、対して興味もない土産雑貨を買いに行くことになりかねない。
そして、自分が藤原と石上と一緒に買い出しをしている間、白銀と京佳は2人きりで買い出し、つまりデートをする事となる。
(そ、そんなのダメ!で、でもどうしたら…!)
かぐやは脳をフル回転させ考えていたが、一向に解決策が出てこない。そんな時―――
「四宮先輩は副会長ですし、会長と一緒の方がいいんじゃないですか…?」
石上が提案をしてきた。かぐやにとってはまさに援軍である。それもこれ以上ないくらいの。
「…そうですね。石上くんの言う通り、私は副会長ですから会長と一緒の方が色々意見を言いやすいですもんね。そうします」
(ありがとう石上くん…)
かぐやは心の中で石上に感謝をした。おかげで、白銀と京佳が2人きりになるのを阻止できたからである。今度、何かお礼でもしようと考えてもいた。
(石上…悪気は無いんだろうが…余計な事を…)
一方で京佳は少しだけ石上を恨んだ。せっかく白銀と一緒になれると思ったのに、それが台無しにされたから当然なのだが。
そして、白銀、かぐや、京佳の土産菓子班。藤原、石上の土産雑貨班の2班に決まり、5人は目的地のデパートまで歩いていった。
「では、13時に再びここに集合しよう」
「わかりましたー。じゃあ行きますよ石上くん」
「はい」
デパートに着いた5人は、集合場所を決めた後、先ほど決めた班に分かれて買い出しをするため移動した。藤原と石上は雑貨が売っている場所へ。白銀、かぐや、京佳は食品が売っている場所へと。数分もしないうちに、白銀達は目的地に到着した。そして3人の目には様々な商品が映った。石上が言った通り、品揃えはかなり豊富のようだ。
「一体どれがいいのでしょうか?」
「こう沢山あると、簡単には決められないなぁ…」
「一応日本らしいものを選ぶのがベストだとは思うが…」
3人は考えた。相手は遥々フランスからやってくるのだ。下手なものを選ぶことはできない。そんなものを選べば、学園の名前に傷がつく事になる。そんなことは絶対に許されない。秀知院学園生徒会というのは、それだけ責任重大なのだ。
「どら焼きがいいんじゃないか?日本の伝統的なお菓子の代表格だろう?アニメの影響で知名度もあるだろうし」
「ですが会長、どら焼きはフランスまで日持ちするのでしょうか?」
「…うっかりしていた。フランスは遠いし、日持ちしないどら焼きは厳しいな…」
「ならせんべいはどうだ?日持ちはするし味も豊富だ。値段も手ごろでいいと思うが」
「いえ立花さん、おせんべいの硬さが苦手という海外の人も結構いると言います。柔らかいものもありますが、それを食すのは食べなれた日本人だけでしょうし…」
「…成程、そう考えると海外向けの土産菓子というのは難しいな…」
日ごろ、白銀にあれやこれやとしているかぐやと京佳も、ここに限っては真剣に考えている。流石に姉妹校の交流会というイベントを自分の気持ちを優先して失敗させるなどあってはいけないからである。その辺りはちゃんとしている2人であった。
長い時間悩んだ結果、最終的に3人は『八咫烏サブレ』を購入した。
土産菓子を購入した3人はまっすぐ集合場所へと向かっていた。思いのほか悩んでしまい、集合時間が迫っていたからだ。そしてその途中、ふとかぐやの足が止まった。
「あら、着物ですか」
かぐやの目線の先には着物店があった。ショーウインドーの中には数着の着物が飾ってあり、かぐやはそれを見ていた。そして白銀と京佳も、かぐやと同じように足を止めて着物を眺めていた。
(うっわ…高っけぇ…着物ってやっぱ高級品だな…)
白銀は着物の値段に驚いていた。白銀の家は貧乏である。日々の食事にはもやしが一度は出るし、生活費を稼ぐために毎日バイトもしている。そんな白銀から見れば、目の前の店にある着物は超高級品でしかない。
「会長はこの中ならどの着物が好みですか?」
「この中からかぁ…」
白銀が着物の値段に驚いていると、かぐやから質問が来た。白銀は特に深く考えもせず、素直に自分の思った事を口にした。
「この花の模様が入っているのは綺麗だなって思うぞ?」
「成程、こういうのですか…」
(ふむ……)
さりげなく白銀の好みを聞けたかぐやと、近くにいて同じように白銀の好みを聞いた京佳はその情報をしっかり覚えた。そして2人が覚えているその時、白銀が続けざまに言った。
「ああ、こっちの暖色系が四宮で、こっちの寒色系が立花に似合う感じだな」
「そう、ですか…」
「そうか…」
一応言っておくと、この白銀の発言に特に深い意味はない。本当にただ何となくそう思って、口にしただけである。普段ならこのようなセリフをいう時に色々と考える白銀だが、ここ数日の激務のせいでそういう事を考える余裕も無かったのだ。故に白銀の中では、かぐやの質問に答えて、その後ついでに思った事を口にしただけで終わっていた。最も、言われた女子2人はそんな事を知らないのだが。
「って!もうすぐ13時じゃないか!!急がないと藤原と石上を待たせてしまう!急ごう!!生徒会長が時間を守れないなどあってはいけない!!」
着物店にあった時計を偶々目にした白銀が、速足で集合場所に向かっていった。そしてその後を、少しだけ俯きながらかぐやと京佳がついて行った。
(花模様…花模様…)
(バイト増やすか…)
それぞれそんな事を思いながら。
因みに藤原と石上の土産雑貨班は、食品サンプルキーホルダーと富士山が描かれた手ぬぐいを購入していた。
交流会はバッサリカットの予定。いや、書く事ないのよ…
次回はHF観に行ったら