もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
「あの、四宮さん。それ重たくない?持つの手伝おうか…?」
ある日、白銀は頑張ってかぐやに話しかけてみた。ただ世間話をするだけでは不自然と思ったので、偶然かぐやが両手に荷物を持っているこの瞬間を狙って。
「……」
しかし、かぐやは1度白銀の方を見た後、直ぐに何事も無かったかのようにその場を後にする。
(ガ、ガン無視……)
1言も無く、軽い会釈すら無い完全な無視。というよりあれは、白銀を認識していたかどうかさえ怪しい。意中の女にそのような反応をされた白銀は、酷く落ち込んだ。
生徒会室
「何があったんだ?」
「ちょっと聞いてくれ立花。こいつ態々私に愚痴るんだぞ。本当めんどくせぇ」
「そんな事言わないでくれ…結構落ち込んでるんだから…」
京佳が生徒会室へやってきた時、白銀はソファに座り落ち込んでおり、龍珠はイラついていた。そして生徒会長は、その様子を面白そうに見ている。
「それで、どうして白銀は落ちこんでいるんだ?」
「そ、それは……」
「なんか四宮に無視されたからって言ってるぞ」
「お、おい龍珠!!」
「別に隠す必要なんてないだろ。むしろ私だけに愚痴らずこいつにも愚痴れよ。マジでめんどくせぇんだよ」
龍珠の隣に座り理由を尋ねると、龍珠が白銀に代わって答える。その結果、白銀は焦る。理由は、あの事を京佳に知られてしまうからだ。
(四宮さんに無視されてたから落ち込む…?それは、つまり…?)
龍珠から事の顛末を聞いた京佳は考えていた。かぐやに無視されたから落ち込んでいる。それもかなり。普通に考えれば、どうしてそれで落ち込んでいるか、原因はあきらかだ。
「もしかしてだけど、白銀は四宮さんが好きなのか?」
「………………うん」
「声ちっちゃ」
京佳の質問に小声で答える白銀。この時、ようやく京佳は白銀の気持ちを知ったのだった。
(できれば、立花には知られたくなかった…)
白銀は少し後悔する。可能ならば自分がかぐやを好きな事を、京佳には知られたくなかったからだ。これは別に京佳に知られるのが嫌だとかでは無い。単純に、恥ずかしいのだ。
京佳は白銀にとって、秀知院で出来た初めての友達。そんな友達に、自分の恋愛事情を知られるというのは、こそばゆい。てか恥ずかしい。思春期はこういうのに結構敏感なのだ。
尚、龍珠に対してはそういうのは一切無いので話せている。
(成程。だからか)
一方で京佳は合点がいっていた。いきなり勉強を教えて貰い成績を上げようとしたり、生徒会に入ったりと、最近の白銀は急にやる気をだしていた。それらの原因が、全てかぐやにあると京佳は理解。
あくまで推測だが、白銀はかぐやを好きになってしまったから、何でも頑張れるようになったのだろうと京佳は考える。誰かを好きになれば、人間は誰でも頑張れちゃうもの。恋のパワーは、それだけ凄まじいのだ。
実際はかぐやに相応しい男になりたいという理由なので、中らずと雖も遠からずである。
「あんな氷みてーな女の何がいいんだ?良いのはせいぜい顔だけだろ」
「確かに四宮さんはかなり顔が整っているな。女の私から見てもそう思える程に」
「つまり白銀くんは面食いって事か」
「違います会長。そんなんじゃ無いんです。本当に俺そんなんじゃないんです」
「でも四宮さんの事を美人だとは思ってるよね?」
「それは、まぁそうですけど…」
龍珠や京佳の言う通り、かぐやは学年はおろか学校でも相当な美人に入る顔立ちだ。しかし、それらは全てあの人を寄せつかない性格がダメにしている。人前ではしゃがず、誰とも群れず、決して笑わず、人を寄せ付けない冷たい孤高の女、通称「氷のかぐや姫」。そんな彼女に、好き好んで友人を続ける人は殆どいない。
実際かぐやの友人といえば、正体を隠している同学年の金髪ギャルと、自称恋愛探偵の頭ピンクな女生徒だけである。最も、憧れている生徒はそれなりにいるのだが。
「しかしそうか。白銀が四宮さんを…ふぅん?」
「おい立花。なんだよその顔は」
「いや別に?ただ、ちょっと微笑ましいと思っただけだよ。ふふ」
「お前は俺の母親か」
どこか母性を感じる少しにやけた顔で、白銀を見る京佳。だが顔がにやけるのも無理は無い。京佳だって年ごろの女子高生なのだ。こうして、友人の恋バナに興味津々になるのも仕方が無い。できればもっと詳しく聞きたい。
なので、白銀本人から話を聞く事にした。
「きっかけは何だ?」
「あー、あれだ。血溜池に落ちた生徒を助けただろ?あの時にな…」
「もしかして、一目惚れか?」
「それに近いと思う」
「一目惚れとか、ガキかよおめー」
「いや、別にガキって訳じゃないんじゃないかな?大人でも一目惚れはあるって、僕は親戚から聞いた事があるし」
「そうだぞ龍珠。誰かを好きになるのは一目惚れが多いって、私は母さんから聞いた」
「マジかよ。まぁ、私は絶対にねーなそんなの」
実際、人が誰かを好きになる瞬間なんて千差万別だ。そしてその中でも、特に多いとされるのが一目惚れだろう。最も、白銀がかぐやに抱いたそれは、一目惚れとは少しだけ違うのだが。
「他には?何か無いのか?」
「他……まぁ、さっき会長が言ってたように、四宮さん自身が綺麗っていうのはやっぱあるよ。男として目を奪われるって訳じゃないけど、どうしてもそうは思うな」
黒髪の美人。多くの男子高校生は、こういった女性に弱い。無論、白銀だってそうだ。だってやっぱり、そういった美人ってひとつの理想像だし。
最も、かぐやはあの冷たい眼差しがそれらをダメにしていたりする。どこぞの古典部の部員みたいにもう少し目が優しくなれば、今以上に男女からの人気はあるだろう。
「それで、四宮さんに無視されたっていうのは?」
「いや、話しかけてみたんだけど、一言も何も言われなくてだな…」
「成程。それは確かに落ち込むな」
「というかあれは無視どころか、俺の事を認識していたかどうかさえ怪しいけど…」
「いや、流石にそれはないだろう」
ある。
「つーか、無視されたとかその程度の事で落ち込むなよ」
「その程度って…」
龍珠はその程度と言うが、白銀にとっては全然その程度では無い。むしろ、心を半分はえぐられたぐらいの程度だ。割と重症である。
「まぁ、龍珠さんは特別怖いもの知らずだからねぇ。上級生に一切敬語を使わないその姿勢はいっそ尊敬するよ」
「は!何事も舐められたら終わりだからな」
「でも龍珠。多少は敬語使った方がよくないか?」
「絶対に嫌だ!」
(不貞腐れた中学生みたいだな……言ったら怒りそうだから口閉じとこ…)
龍珠の態度にそんな感想を浮かべる白銀。だが口は災いの門と言われているので、決してその事は言わないようにした。
余談だが、龍珠がここまで誰かに舐められたくないと思っているのは、親がヤクザなのが強く影響している。ヤクザは面子で生きている人達だ。それがあるからこそ、ヤクザはヤクザでいられる。故に、舐められたら終わりなのだ。
そして龍珠は、親からその辺の事をしっかりと学んで生きてきた。その結果が、学校でのこの態度である。
「なぁ、良い男の条件って何かな?」
「んだよ突然」
「いやだって、無視されるのってさ、俺が特別でも何でもないからそうであって、もし俺が何か特別だったら、無視なんてされないんじゃないかなーって…」
白銀は勉強を頑張って成績は上がったし、生徒会メンバーという事でクラスメイトにも顔を覚えられてはいる。だがかぐやのあの反応は、未だに自分がその辺の雑草と大差ない存在なのではと考えた。
このまま悩んでいても仕方が無い。そこで白銀は相談する事にした。こういう時は、1人で悩んでいても解決しない。
「そうだな…」
白銀の質問の答えを考える京佳。
「個人的な意見だけど、偏見の無い人かな?私はそういう男なら好きになれると思うし」
「それはあるね。僕も偏見を持たない人は尊敬するし、人として立派だと思うよ」
「まぁ、否定はしねーな」
京佳が思っている良い男の条件は、偏見に対するものだった。これは京佳が見た目のせいで色々言われてきたからこそ、考え付いたものである。そして会長と龍珠もそれには納得した。
「僕は家族や友人を大事に出来る人だと思うね。身近な人を大切に出来る人は、色んなものを大切にできる人だと思うよ。というより、家族を大事にしない人は普通に不愉快になる」
「わかります。そういう男の人って良いですよね」
「それは共感できるな。私も家族を大事にしねー奴はぶっ殺したくなるしな」
会長は思う良い男の条件は、家族や友人を大事にできる人らしい。これには京佳と龍珠も共感。
「つまり、偏見を持たず家族や友人を大事にして、尚且つ勉強もできれば良い男っていう事?」
それぞれの意見を聞いた白銀は、それらを纏めた良い男のイメージを固めてみる。確かに、これは絵に描いたような良い男だろう。ならばこの理想の良い男像を目指せば、かぐやも白銀を無視しなくなるかもしれない。
「それだったら、白銀は既にその条件を満たしていると思うんだけど」
「え?本当に?」
「私はそう思ってるよ。だって私や龍珠を怖がらないし、この前家に行った時も、家族仲が良かったじゃないか」
「マジかよ。でもじゃあ…何で俺は無視されたんだろう…?」
だが京佳曰く、自分は既にそれらを満たしているらしい。それを聞いた白銀は、またわからなくなる。ならばどうして自分は、まるでいないもののようにかぐやに無視されたのかと。
「ちげーよ。お前が四宮に無視されてんのはそんなんじゃねーよ」
「え?」
そうやって悩んでいると、龍珠が白銀に話かける。
「いいか白銀。お前は生徒会に所属していて、頭も結構良いし顔だって悪くない。でもな、そんな卑屈な態度取っていたらそれら全てが台無しなんだよ」
「卑屈……」
「つーかお前が無視されてるのは、間違いなく四宮に舐められているからだ。だから認識されているかさえ怪しんだよ」
龍珠は白銀を指さし、こう言った。
「『俺は女に好かれて当然だ』って態度を自信をもってしておけば、誰もお前を舐めないよ。それこそ、あの四宮にもな。虚勢のひとつも張れないで、女にモテる訳ねーだろバーカ」
「まぁ、ひとつの真実ではあるな」
「確かに。虚勢を張るっていう事は、自分に自信があるって現れでもあるからね。そういった人は、自然と人が寄ってくるだろうし」
「虚勢…自信…」
その龍珠の言葉を、頭の中で何度も繰り返す白銀。そして、ある事を決意するのだった。
放課後。白銀は自転車を押しながら、京佳と共に帰宅していた。
「どうかしたのか白銀?」
「え?何がだ?」
「いや…何か顔つきがさっきと違うというか…」
白銀は何か決意をしたような顔をしていた。京佳はそんな白銀の何時もと違うところに気がつき、聞いてみたのだ。
「ああ、そうだな。確かに、ちょっと決めた事がある」
「そうか」
「……聞かないんだな」
「聞いて欲しいのか?」
「そういう訳じゃないけど」
「ならそれでいいじゃないか」
「……それもそうだな」
何を決意したのかは知らないが、態々それを聞くのは何か違う。なので京佳は聞かない。そして白銀も、聞かれなければ、態々口にしない。
(やってやる。俺は絶対にやるんだ!四宮が好きになるであろう男に、俺は必ずなってみせる!!)
白銀の決意。それはかぐやに自分を認識させるために仮面を被る事だった。世の中、誰だって仮面を被っているもの。例えば好物でも無いのに、好きな人に合わせて同じ料理を食べる。例えば、好きな人の気を引く為におしゃれをする。例えば、好きな人に振り向いて欲しいから、性格を演じる。そういった行動も、仮面や虚勢のひとつだ。
そして白銀は、卑屈な自分に自信のある自分という虚勢の仮面を被る事に決めた。例えそれが偽物のハリボテだとしても、何度も何度も改良して、何時の日か本物の戦艦の装甲くらいにしてみせる。そして、あの四宮かぐやを必ず振り向かせるのだ。
「白銀」
「何だ?」
「何をするつもりかは知らないが、無理だけはするなよ?体を壊したら元も子もないんだから」
「……努力はする」
京佳に少し心配されたが、白銀はかぐやに並び立つ男になれるなら、1度や2度倒れても良いと思っている。それくらいの事をしないと、絶対に振り向いてくれないだろうから。
「じゃ、私はここまでだから」
気が付くと2人は、何時ものバス停に着いていた。
「ああ。じゃあな立花。また明日」
「ああ。また明日」
そして白銀も、自転車に跨り帰路へと着く。
(それにしても、白銀が四宮さんをなぁ…)
一人バス停に残った京佳は、今日生徒会室であった事を思い出す。
(確かに四宮さんは綺麗だし、白銀が好きになるのも当たり前かもな)
友達である白銀が、あの四宮かぐやを好きになった。今まで自信の無さげだった白銀がである。おかげで白銀は勉強も、生徒会での業務も頑張っている。恐らく恋をしたからだろう。
(そうだな。もし本当に2人が恋仲になったら、余計なお世話かもしれないが、何かお祝いをしてやろうかな)
そして白銀の恋が成就したのなら、友達として祝ってあげようと思った。
チクリ
(ん?)
チクリ チクリ
(何だ?)
だがそう思った時、京佳の体に僅かな異変が起こった。ちくり、ちくりと胸が痛むのだ。
(何だこれ?)
別に熱っぽくも無いし、倦怠感も無い。風邪では無いだろう。かと言って息苦しい訳でも無い。しかし、どういう訳か胸が痛む。
(これは、まさか…)
そしてこの痛みが何なのか、京佳は閃いた。
(子離れされた親の気持ちか!?)
つまり、親の気持ちと。思えば入学して以来、白銀は割と京佳にべったりだった。昼休みに放課後の生徒会。そして学校からの帰り道。もし2人が同じクラスだったら、教室でも距離が近かっただろう。
しかし今、白銀は京佳から離れ、1人で頑張ろうとしている。これはまさに、子離れ。もしくは、姉離れに近い現象だろう。
(母さんも、兄さんが自衛隊に入隊して家を出て行った時、こんな気持ちだったのかなぁ…?)
今は家にいない、自衛官の兄を思いだしながらそう思う京佳。寂しさと、どこかやりきった感。心に隙間があるような気持ち。
(ま、白銀が成長したみたいで何よりってやつかな)
少しだけ後方師匠面みたいな感じになった京佳は、バス停に停まったバスに乗り込み、家へと帰るのだった。
そして、京佳がこの胸の痛みが本当は何なのかを知るのは、もう少し後になってからである。
おや?京佳さんの様子が?
矛盾点や変なところあったら言ってくれると助かります。割とテキトーに書いてたりするので。
次回もほどほどの頑張って書ききりたい。