もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 よくやく書き始めた新章であり文化祭決戦編。相変わらず亀の歩みの如く遅い展開ですが、日常編もちょくちょく書きながら本筋進めていきます。

 今回は完全なネタ回です。なのにまさかの1万字越え。普段からこれくらいかけたらいいのにね。


文化祭編
生徒会と不審者


 

 

 

 

 

「それにしても、すっかり暗くなったね。もう8時過ぎてるし」

 

「そうだね小野寺さん。でも時間かけて回ったおかげで、大勢の人から協力を得られる事に成功したよ」

 

 すっかり暗くなった放課後、伊井野とクラスメイトの小野寺は共に帰路に着いていた。普段ならば風紀委員や生徒会の仕事があっても、ここまで遅くなる事は無い。2人が今日これほど遅くなっているのは、文化祭の為だ。

 

 少し前、文化祭実行委員会での会議で『キャンプファイアーをするかどうか』という議論がなされた。最初は誰もが、これに難色を示した。近年は条例も厳しくなり、何より最近の秀知院生徒の風紀が問題で自治体が協力をしなくなったせいである。これではとてもキャンプファイアーなんて不可能だ。

 しかし、伊井野の必死の説得のおかげでとりあえずは皆の理解を得ら、それから周辺の自治体への説得を開始。長い間、風紀委員として様々な活動をしてきた伊井野をよく知っていた人も大勢いたおかげで、自治体の協力と理解を得る事に成功。

 そしてその他の人達にもキャンプファイアーの理解を得るために方々奔走し、こんな時間になっているのだ。

 

「でも今からマジ楽しみだよ。キャンプファイアーとかマジあがるし」

 

「うん」

 

 普段滅多に会話をしない2人だが、同じ実文のメンバーとして共に自治体へ説得をした結果、それなりに話すようになっていた。

 

「あ、ごめん。ちょっとそこの自販機でジュース買っていい?」

 

「それなら私も買うよ。喉渇いたし」

 

 そこら中歩いたせいで、冬だというのに熱い。なので偶然近くにあっ自販機で何か買う事にした。

 

「ん?」

 

「どうかしての小野寺さん?」

 

「あそこに何かいない?」

 

「え?」

 

 だが自販機に近づいた時、その傍らで何かを見つけた。薄暗いのでよく見えず、2人がじっと目を凝らしていると、

 

「ぽに~~~」

 

 それは急に飛び出して、2人に向かって走ってきた。

 

 

 

 

 

 翌日 生徒会室

 

「やはり、学校全体が活気づいてるな」

 

「もうすぐ文化祭だしね。皆活気づくさ」

 

「ですね~。私、こういう頑張ってる空気好きですよ~」

 

「まぁ、努力している人はいいですよね」

 

 生徒会室では、白銀、京佳、藤原、かぐやの4人が資料整理をしながら会話をしていた。もうすぐ秀知院は文化祭。全てのクラスが自分たちの出し物を成功させようと協力しあっている。そのせいで、学校全体が活気づいているのだ。

 

「京佳さんは大丈夫ですか?確か演劇でしたよね?」

 

「問題ないよ。台詞も段取りも全て覚えた。後は反復練習するだけだ」

 

「立花、無理はするなよ。頑張りすぎて、当日倒れたりする人もいるんだから」

 

「ありがとう白銀。でもそれブーメランだぞ」

 

 かつて努力をしすぎて倒れそうになったのを、京佳は忘れていない。でもそれはそれとして、白銀に心配されて少し嬉しがっていたする。

 

(それはそれとして、もう時間がないな…)

 

 一方で白銀。彼は未だに悩んでいた。それは勿論、かぐやと京佳の事でだ。

 

 同時に2人の女子を好きになってしまっている現状。当然の事ながら、どっちも選ぶなんて真似は出来ない。そんなのが許されるのは漫画だけだ。選ぶとすれば、どちらか片方だけだ。元々文化祭で告白する事を決めていた白銀だが、これではそれすら出来ない。

 

(会長や父さんに言われた通り、自分の気持ちをしっかり整理しておかないと、死ぬまで後悔する。だからこそ、この数日で必ず答えを出さないとな)

 

 文化祭までもう時間が無い。それまでには自分の気持ちに答えを出さないといけない。それがどちらかを傷つける事になってもだ。

 

「そういえば白銀。最近この周辺で出る不審者の事を知っているか?」

 

「不審者だと?」

 

 そう思っていると、京佳から話かけられる。

 

「別の学校に通っている友達から聞いたんだが、何でも変な被り物をして女性に何かを吹きつけるらしい」

 

「いやなんだそれ。普通に危ないじゃないか」

 

 京佳の話を聞いてぎょっとする白銀。もしそんな奴がいたら問題だ。

 

「うへぇ…ニュースとかでも見ますけど、本当にいるんですねそんな人」

 

「ですね。一体何がしたいのかわかりません。それはそれとして、何か対策をした方がいいかもしれません」

 

 ぞっとする藤原とかぐや。やはり女子は、そういった人物に潜在的な恐怖を抱くようだ。

 

「そうだな。もし文化祭当日にそんな奴が侵入してきたら大事だ。あとで校長に話しておくよ」

 

 なので直ぐに対策を取る。校長は普段はあんなちゃらんぽらんだが、仕事は間違いなく出来るし、生徒の事を本当によく考えてくれている。そんな彼に言えば、何か対策をしてくれるだろう。

 

「し、失礼します…」

 

 そんな会話をしていると、生徒会室の入り口のドアから声がした。

 

「石上?どうしたんだそんなところで?」

 

 声の主は石上だ。普段なら普通に生徒会室に入って来るのだが、どういう訳か今日はドアで踏みとどまっている。

 

「えっとですね、会長に相談がありまして…」

 

「俺に相談?」

 

「と言っても、僕じゃないんですけどね…」

 

「ん?」

 

 どうも要領を得ない。

 

「失礼します…」

 

「し、失礼します…」

 

 4人が頭に疑問符を浮かべていると、石上の後ろから2人の女生徒が出てきた。1人は生徒会役員で会計監査の伊井野。もう1人は金髪の女生徒。こちらは初めて見る女生徒だ。

 

「伊井野と、誰だ?」

 

「この子は僕と同じクラスの小野寺さんです」

 

 石上が紹介する。金髪の子は小野寺というらしい。

 

「あれ?ミコちゃんどうしたんですか?急にポニーテールにしちゃって」

 

「お揃いですね」

 

「可愛いな」

 

 2人は髪型がお揃いのポニーテールになっていた。普段からおさげにしている伊井野にしてみれば、とても珍しい。

 

「違うんです…」

 

「はい?」

 

「これ、私の意志じゃないんです…」

 

「どういう事ですか?」

 

 よくわからない発言をする伊井野に、藤原は疑問符を浮かべる。

 

「これ、昨日無理矢理させられたんです!!!」

 

 そして伊井野と小野寺は話始めた。昨日、自分の身に起こった出来事を。

 

 

 

 

 

「……すまん伊井野、そして小野寺さん。もう1回確認するぞ」

 

「「はい…」」

 

「2人は昨日、近隣住人に、文化祭で行うキャンプファイアーの周知をして貰う為に色々回ってて」

 

「「はい」」

 

「そしてその帰りに、公園の中に設置されている自販機で飲み物を買おうとしたら」

 

「「はい」」

 

「突然変な被り物した人が現れて、髪に何かを吹きかけられて、髪型を無理矢理ポニーテールにさせれたと…」

 

「「そうです」」

 

「……どういう事?」

 

「「そんなのこっちが聞きたいですよ!!」」

 

 白銀が状況を整理する。が、整理してもよくわからなかった。なんせ不審者が現れたと思ったら、突然髪型をポニーテールにしていったと言うのだ。本当に意味がわからない。

 

「しかも見て下さいよこれ!!何でか知れないけど髪カチカチに固まってて全くほどけないんですよ!?」

 

「そうですよ!!昨日の夜にお湯とか水とかドライヤーとか色々試したけど全然効果なくて!まるで頭にそういう形のヘルメットを無理矢理かぶさせられている感じなんですから!!」

 

「うわ。本当ですね。まるでプラスチックですよこれ」

 

 おまけに2人の髪はカチカチに固まっている。試しに藤原が触ってみるが、本当に硬い。

 

「もしかして、立花さんが言っていた不審者ってこれでしょうか?」

 

「多分…いや、こんな不審者とは思わなかったが…」

 

 先程京佳が言っていた不審者の話。2人の出会った人物と、類似点が多い。恐らく同一人物だろう。

 

「警察には言ったのか?」

 

「勿論直ぐに行きましたよ!でも『何言ってるの?』みたいな事言われて相手にされませんでした!」

 

「おかげで私は日本の警察をもう信用できません!!」

 

 もしこれが、わかりやす痴漢行為や露出行為ならば警察も直ぐに動くだろうが、髪型をポニーテールにされましたなんて言われても、何かのイタズラと思ってそりゃ動かないだろう。

 

「うう、もしかして、私達って一生このままなんでしょうか…?」

 

「マジで嫌なんだけど…もういっそ髪を全部剃るしか…」

 

「早まるな、落ち着け2人共」

 

 落ち込む2人。このままでは本当にバリカンか何かで髪を剃ってしまうかもしれない。流石にそれは阻止しときたい。

 

「四宮家の子会社には、髪に関する会社もいくつかあります。今から連絡を取って、どうにかできないか聞いてみましょう」

 

「本当ですか!?」

 

「ありがとうございます四宮先輩!!」

 

 もう泣く寸前の顔でかぐやにお礼を言う2人。そしてかぐやは、直ぐにスマホで連絡を取ってみた。

 

「しかし白銀。これどうする?この学校の生徒にこんな被害が出ているなんて」

 

「おまけにまだその不審者は捕まっていませんしね。ひょっとすると、まだ被害者が出るかもですよ」

 

「しかも警察は相手にしてくれない。最悪ですねこれ…」

 

 状況は酷い。突然髪型をポニーテールに変えてくる不審者。それが未だ野放しでいる。藤原の言う通り、もしかするとまた被害者が出てくるかもしれない。

 

「最悪、文化祭中止なんて事態も…」

 

『!?』

 

 藤原の発言にはっとする生徒会メンバー。それはダメだ。白銀も京佳もかぐやも石上も伊井野も、文化祭ではそれぞれとある想いを持って迎えるつもりだ。白銀は告白の為。石上は憧れの先輩である子安つばめと距離を縮めたい為。伊井野はキャンプファイアーをしたい為。

 なのにこんな不審者騒動で中止になってしまったら、それらが全部達成できない。そんなの絶対に嫌だ。

 

「よし。捕まえよう」

 

「え?」

 

「その不審者を、俺たちで捕まえよう」

 

「本気ですか会長!?」

 

 白銀の突然の発言に驚く藤原。

 

「このままじゃ皆が一生懸命に準備した文化祭が中止になるかもしれない。生徒会長としてそれは許さない。そして警察はあてに出来ない。なら俺たちで犯人を捕まえるしかない」

 

「賛成です会長。僕も協力します」

 

「私も賛成だ」

 

「私も賛成です会長」

 

「ええ!?京佳さんやかぐやさんまで!?」

 

 普段、こういうのはストッパーになる京佳ですら協力的であり、電話を終えたかぐやでさえ協力すると言う。

 

「藤原さん。よく考えて下さい。先ほど会長が言ったように、このままその不審者が野放しでは文化祭が中止になるかもしれません。それにです。今はまだイタズラの範囲かもしれませんが、このまま放置していれば、いずれそれがエスカレートして、もっと酷い事になるかもしれませんよ?」

 

「そ、それは嫌ですね…」

 

 かぐやの言う通り、今はまだ髪型をポニーテールにするという訳の分からないイタズラで済むかもしれない。

 しかしこれがどんどんエスカレートしていくと、最悪性犯罪になるかもしれない。

 

「「……」」

 

 そんなかぐやの発言を聞いた白銀と石上。そして想像する。

 

 もしも、かぐやと京佳とつばめがそういった被害にあったらと。

 

「石上。必ず捕まえよう」

 

「ええ会長。必ずそのクソ野郎を捕まえましょう」

 

「なんか2人が超ヤル気出してます!?」

 

 なんか体からオーラを出している錯覚をしてしまうくらいにヤル気を出す2人。

 

 こうして生徒会主導で、不審者逮捕作戦が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 夜8時 都内某所の公園

 

「作戦を再確認しましょう。先ず囮が1人で公園内を歩く。そして2手に別れている別働隊がその後ろや物陰に隠れておく。その後、件の不審者が出てきたらとっ掴まえる。いいですね?」

 

「了解だ」

 

「わかりました」

 

 公園内の茂み。そこにはかぐやと京佳と藤原の3人がいた。反対側の茂みには白銀がいるが、ここからではよく見えない。

 因みに伊井野と小野寺の2人は、現在かぐやが手配した美容院に行っている。そこで髪型が元に戻るか色々試している最中だ。

 

「ところで四宮。それは何だ?」

 

「これですか?家の者に頼んで手配して貰った、不審者撃退用品です」

 

 かぐやの手にはスプレーが握られていた。これは四宮家の子会社が販売している防犯用催涙スプレー『護身くん』である。スプレー内には唐辛子やニンニク等を混ぜた成分が入っており、ひとたびこれを顔に吹きかけられると、その相手は顔中に激痛が走るらしい。お値段、1本2000円。

 

「相手がどんな人がわからない以上、こういった備えは大事ですから。お2人もどうぞ」

 

「ありがとう」

 

「どうもですかぐやさん」

 

 京佳と藤原にも同じ物を配るかぐや。これで不審者が出てきたら、一斉にスプレーを吹きかければいい。後は取り押さえて、直ぐに警察を呼んで作戦完了だ。

 

「あ、囮役が来ましたよ」

 

 そうこうしていると、道の向こう側から囮役が歩いてきた。

 

(何で僕なんだろう…)

 

 そしてその囮役とは、女装した石上である。最初はかぐやと京佳が囮役になろうとしたのだが、白銀と藤原が猛反対。もしもがあったら大変だからだ。

 そこで体育祭の時に女装をしていた石上に白羽の矢が立った。元陸上部でもある石上なら、いざという時走って逃げる事も可能だろうと思ったからである。

 

『ソノママ、アルケ』

 

 かぐやがハンドサインで石上に指示を出す。女装した石上はそれに従い、公園内を歩き出す。

 

(伊井野さんが言っていた不審者が出たという自販機までもう少し。そこでさっさと犯人を捕まえて、何としてでも文化祭を開始させなければ)

 

 もしも文化祭が中止になってしまえば、白銀と楽しく文化祭を回るというかぐやの願いも叶わなくなる。出来れば四宮家の力でさっさと始末してしまいたいが、他のメンバーも参加している以上それも出来ない。

 

(全く。本当に迷惑ですね)

 

 まだ出てこない不審者に怒りを覚えるかぐや。そんな時だった。

 

 ガサガサ

 

『!?』

 

 石上の先にある木の上から音がしたのは。

 

(ついに出てくるか!?)

 

 身構えながら歩く石上。その後方で隠れている4人も身構える。そして、

 

 ドサッ

 

 木の上から何かが落ちてきた。

 

「痛ったぁ…」

 

 それは全身黒づくめで、顔には特殊部隊の人間が付けるようなフルフェイスのマスク。しかも目元には暗視ゴーグルのようなものまでついている。ここが戦場であれば特におかしくないが、この平和な日本の夜の公園では明らかに不自然。どう見ても不審者だった。

 

(あれが伊井野と小野寺が言っていた不審者か!?)

 

 1番近くにいる石上が、懐に隠していた防犯スプレーを構える。それに合わせて、隠れていた白銀も道に出てくる。

 

「石上!うかつに近づくな!何されるかわからんぞ!」

 

 その手にはスマホ。いつでも通報できるよう準備万全だ。

 

「あれがそうですか?」

 

「だろうな。明らかに怪しいし」

 

 茂みに隠れながら様子を伺っている藤原と京佳は、その不審者をまじまじと観察。しかし、かぐやだけは違った。

 

(いやあれ早坂ーーーー!?)

 

 何故ならその不審者の正体を知っているからだ。あれはかぐやが命令を出して、公園内に潜伏させていた早坂である。いざという時、早坂に色々援護をしてもらおうと思ってそうさせていたのだが、恐らく何かの拍子で木から落ちたのだろう。それも運悪く、囮役である女装した石上の目の前で。

 

「あ、まずい…」

 

 早坂もこの状況はマズイと思ったのか、そのまま走り出す。

 

「追うぞ石上!」

 

「はい会長!!」

 

 このまま不審者を逃したとあっては、さっかくの作戦が台無しだ。それに逃がしてしまえば、かぐやや京佳やつばめに被害が出るかもしれない。なので必死で追いかける。全ては好きな人を守る為に。

 

「あ。会長達行っちゃいました」

 

「うーむ。仕方ない。私たちはゆっくり後を追うとしよう」

 

「そ、そうですね…」

 

 もの凄い勢いで行ってしまった2人。今から追いかけるのは間に合いそうにないので、歩きながら追う事にする。

 

(もし捕まっても、絶対に口を割るんじゃないわよ早坂。私は知りませんからね)

 

 そしてかぐやは、もし早坂がつかまっても知らぬ存ぜぬを通すと決める。ありていにいえば早坂を見捨てるつもりだ。最低である。

 

 と、その時である。

 

 ガサガサ

 

「「「!?」」」

 

 すぐ近くの茂みから音がしたのは。3人はゆっくりとそこに目線を向ける。するとそこには、

 

「ぽに~~~」

 

 首から上に馬の被り物をしており、右手にはスプレーを持ち、左手にはゴム紐を持ったスーツ姿の明らかにヤバイ不審者がいた。

 

「誰かぁぁぁぁ!?変態ですぅぅぅぅ!!それも極めて特殊な変態ですぅぅぅぅ!!助けてーーーー!?」

 

 藤原はそう叫ぶと、その場から走り出す。同時にかぐやと京佳も走り出す。

 

「ぽにぽにぽにぽにーーー!!」

 

 そしてその不審者は奇妙な声を出しながら3人を追いかける。

 

「いやぁぁぁぁ!?来ないでーーー!?こっち来ないでーーー!?」

 

「何ですかあれ!?何なんですかあれはぁぁぁ!?」

 

「知るかぁぁぁ!?でも明らかにヤバイから逃げるぞぉぉぉ!!」

 

 3人共、いざという時に備えていた防犯スプレーの事など既に頭に無い。人間は本当にヤバイ人を前にしたら、逃走の一択しか行動を取らないのだ。最悪その場から動けない事もあるが、逃げるという行動を取れただけ、この3人は懸命だろう。

 

「ぽにぽにーーーー!!」

 

 未だに3人を追ってくる不審者。おまけに足が速いので追いつかれそうだ。

 

「ああ!そうですスプレー!スプレーがありました!!」

 

「そうでした!一気にいきましょう!」

 

「そうだな!3人同時にいこう!!」

 

 ここで藤原が防犯スプレーの事を思い出す。そして3人揃ってスプレーを追いかけてくる不審者に向けた。

 

「「「せーっの!!!」」」

 

 合図と共に防犯スプレーを馬頭の不審者に吹きかける。

 

「ぽに?」

 

 しかし全く効果が無い。

 

「あ!あの馬マスクのせいで効果がありません!」

 

「どうして気が付かなかったんですか藤原さん!」

 

「言ってもしょうがない!また逃げるぞ!!」

 

 この防犯スプレーは、直接顔に吹きかけないといけない。しかし相手は馬のマスクをかぶっている。これでは意味が無い。再び逃げる3人。それを追う馬頭の不審者。

 

「ぶっ!!」

 

「藤原さん!?」

 

「藤原!!」

 

 その途中、藤原が顔から思いっきりこけた。

 

「ぽに~~」

 

「ひっ」

 

 そして追いついた馬頭の不審者が、藤原にゆっくり近づく。藤原は恐怖で腰を抜かし、動けなくなっていた。

 

(いっそ藤原さんを囮にして、その間に助けを求めたらいいのでは?)

 

 かぐやは藤原を見捨てるかどうかを悩んだ。そもそも捕まっても、髪型をポニーテールにされるだけだ。そこまで実害はない。ならばこの隙に助けを呼ぶのもありだろう。

 

(さようなら藤原さん。貴方との日々は忘れません…)

 

 結果、かぐやは藤原を囮にする事にした。そしてその場から走ろうとしたのだが、

 

「ふん!」

 

「ぽに!?」

 

 京佳が手にしていたスプレーを馬頭の不審者に投げるのを見て足を止める。スプレーは丁度顔に当たり、馬頭の不審者はよろけた。

 

「藤原今だ!今のうちにこっちに!」

 

「こ、腰が抜けて立てないんです…」

 

「なら背負ってやる!ほら早く!!」

 

 そう言うと京佳は藤原を背負おうとする。しかしこの状況では中々背負えない。

 

「四宮!手を貸してくれ!!」

 

「え、ええ!」

 

 こう言われたらもう手を貸すしかない。かぐやは藤原を立たせようと手を引っ張る。しかし、中々藤原は立たない。

 

「藤原さん!?あなた重くありませんか!?」

 

「確かに最近少し太りましたけどこんな時に重いとか言わないでくださいよ!!」

 

 人間1人を持ち上げようとするのは、結構力がいる。それが女性であればなおさらだ。

 

「ぽに~~~」

 

「「「あ」」」

 

 そうやって手間取っている内に、再び馬頭の不審者が近づく。その姿に恐怖した3人は、その場から動けなくなってしまった。

 

「お父様、先立つ不孝をお許しください…」

 

「早坂、何時も我儘ばっかり言ってごめんなさい…」

 

「母さん、親不孝者ですまない…」

 

 そして死を覚悟し、3人で肩を寄せ合って最後の言葉を口にする。

 

「ぽにーーーー!!」

 

 しかし馬頭の不審者が襲い掛かろうとしたその時、

 

「おらぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ぽに!?」

 

 誰かが横からタックルをかました。

 

「「か、会長…?」」

 

「白銀…?」

 

 それは秀知院学園生徒会長、白銀御行だった。

 

「石上!手錠だ早く!!」

 

「了解です!!」

 

「ぽ、ぽにーーー!?」

 

 未だ女装姿の石上が用意していた手錠を取り出し、馬頭の不審者の両手両足に掛ける。結果、馬頭の不審者はもう逃げる事が出来なくなってしまった。

 

「よし!これでもう終わりだ!!」

 

「ぽ、ぽに~~~…」

 

 馬頭の不審者も観念したのか、抵抗するのをやめる。こうして生徒会メンバーは、件の不審者を捕まえる事に成功したのだった。

 

 

 

「で、結局何なんだこいつは?」

 

「さぁ?」

 

 警察に通報した後、5人で不審者を取り囲む。

 

「とりあえず、顔のあれ取りません?」

 

「そうね藤原さん。顔を把握しておかないと、いざという時困りますし」

 

「じゃあ言い出しっぺの私が」

 

 そう言うと藤原は馬マスクを取る。すると現れたのは、冴えない感じの中年男性だった。

 

「人間だったのか」

 

「僕もワンチャンそういう生き物かと思ってました」

 

 もしかすると宇宙人や異世界生命体の可能性も考えていたが、人間だ。そこに少しだけ残念に思う男子2人。

 

「で、なんでこんな事をしていたんだ?」

 

 京佳が不審者に問い正す。すると、男は素直に答えるのだった。

 

「だって、ポニーテールって最高じゃないですか」

 

『は?』

 

「ショートのうなじの色っぽさ。ロングのしっとりした女の子らしさ。一見矛盾する2つの要素を完璧に兼ね備えているんですよ。なのに、最近は全然ポニーの子を見かけないものだから…」

 

「……それで態々こんな事を?」

 

「ついでに勤めていた会社がこの不景気で倒産して無職になって、失う物がもう何も無いから本能のままに生きてみようと思ったのもあるね」

 

『えぇ…』

 

 一同ドン引きである。まさかそんな理由でこんな事をしていたなんて。

 

「でもね、俺は後悔なんてしないよ。だって自分に正直に生きたんだから…」

 

「あ…うん…」

 

 どう答えていいかなんて誰もわからない。そんな時、遠くからパトカーのサイレン音が聞こえた。

 

「えっと、多分そこそこ長くなると思うけど、頑張ってくれ」

 

「うん。ありがとう、お嬢さん。ところで最後にポニーテールをしてみてくれないかい?」

 

「しない。そもそも私の髪の長さじゃまともなポニーテールは出来ないだろう」

 

「かぐやさん、これ何罪になるんでしょうね?」

 

「多分傷害罪ではないでしょうか?」

 

 その後、駆け付けた警察官に男は連行され、この事件は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

「つ、疲れた…バイトよりずっと疲れた…」

 

「ですね…もう2度とこんな事したくありませんよ…」

 

「先輩方はまだマシじゃないっすか。僕なんて女装してたから警官にしつこく職質されましたよ?」

 

「だから私たちがちゃんと弁明したじゃないか」

 

「そうですよ石上くん。でも女装させてごめんなさい…」

 

 帰路に着く5人。その顔は誰が見ても疲れている。件の不審者が、まさかあんな特殊性癖故の犯行だったなんて思わない。それにやけに運動神経がよかったので、逃げるのに本当に疲れた。

 

「ところで白銀。最初見たあの全身黒づくめの不審者はどうしたんだ?」

 

「逃げられた。逮捕されたあの人よりずっと運動神経よくてな」

 

「まるで忍者でしたよ」

 

 京佳の質問に答える2人。あと少しで捕まえそうになっていたのに、最後は木に登り、そこから木々を飛びながら逃げていったらしい。本当に忍者みたいだ。

 しかし逃げられているのだ。逮捕された人とは別の不審者。おまけにこっちは、なんの目的かわからないが暗視ゴーグルとか装備している。そんなのが未だに野放しなのは危険だろう。

 

「一応その事も警察に報告していたから、今後暫くの間はこの辺を巡回するって言ってた。それに合わせて学校でも、そういう不審者がいる事を俺から先生方に伝えておくよ」

 

 よって白銀は学校で子の不審者の事を伝えるつもりだ。少しでも注意喚起をしておけば、生徒たちも気をつけるだろう。

 

(早坂、本当にごめんなさい…)

 

 自分の命令で動いていた従者が不審者扱いされている。かぐやは心の中で早坂に謝った。ついでに今度纏まった休みを与えようとも決めた。

 

「しかし、ポニーテールが原因でなぁ…」

 

「まぁあの人の言っていた事も分からなくありませんけどね。ポニーテールって確かに良いって思いますし」

 

 白銀と石上はそんな会話をする。逮捕された男性の言っていた通り、ポニーテールとは男子のとって憧れの髪型なのだ。一種のエロスさえ感じる。そこだけは男として同意する2人。

 

「まぁ、だからと言って犯罪を犯す真似はダメだけどな」

 

「そりゃそうですよね。超えちゃいけない一線を超えたらダメですよ」

 

 しかしそれはそれ。憧れているからといっても、見ず知らずの女性に無理やりそんな事をしてはいけない。それはライン越えだ。

 

(私の髪の長さならポニーテールも十分可能ですね。今度試しにしてみましょう)

 

(くっ!私の髪の長さじゃ良いとこちょんまげだ!もう少し髪を伸ばさないと!!)

 

 そんな会話を聞いていたかぐやと京佳の2人。そしてかぐやは優越感を、京佳は敗北感を覚えるのだった。

 

 

 

 翌日、朝の全校集会で白銀は『暗視ゴーグルをつけた不審者』の事を話した。それを聞いた早坂はバッとかぐやの方を見る。するとかぐやは思いっきり顔を反らしていた。

 そして早坂は、家に帰ったら絶対にこの怒りをぶつけようと誓うのだった。

 

 

 

 因みに被害を受けた伊井野と小野寺の2人は、美容師の必死の仕事の結果元の髪型に戻る事ができた。その後、その美容師の元には他にも被害を受けた人が幾人もやってきたのだった。

 

 

 

 




 オマージュ元の作品、もう20年も前なんですね。私も昔、レンタル屋で借りてみてました。現在だとストアとかで見れて便利になったねって実感する。

 次回から少しずつ本筋も進めながらこういったネタ回も書いていきます。
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