もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
四宮家別邸 かぐやの部屋
「……」
「またこれですか…」
かぐやの部屋では、かぐやがベットに制服姿のまま仰向きに倒れこんでいた。家に帰ってから、ずっとこれである。もう既に見慣れた光景になりつつあるので、早坂は対して動揺もしない。
「で、何がありました?」
「……」
「かぐや様ー?起きてますよね?」
「……」
「前もこんな事あったなぁ…」
一向に起きる気配の無いかぐや。そしてデジャヴを感じる早坂。
(まぁ、大体の原因はわかりますけどね…)
だが主人のかぐやがこうなっている原因は大体察する事が出来る。白銀か、京佳のどっちかだ。
白銀を文化祭でデートに誘おうとしてヘマをしておじゃんになったか、京佳が白銀をかぐやより早くデートに誘って自分は白銀を誘えなかったか。大方そんなところだろう。じゃないとこんな風になる訳が無い。
「起きてくださいよかぐや様。いつまでそうしているつもりですか?」
早坂はそう言うが、かぐやは一向に起きる気配がない。今ならかぐやにセクハラし放題だが、そんな事するつもりは無い。
「早坂…私って、何で生きているのかしら…?」
「は?」
ようやくかぐやが口を開いたかと思えば、そんな悲観的な事を言い出す。
「思えば、今まで変に意地を張って生きてきて、その結果色んなチャンスをふいにしてきた…私って本当に、馬鹿よね…」
「あの、マジで何がありました?」
どうも今日のかぐやは普通じゃない。いつもヘコんだ時はかなり悲観的になるが、今日は一段と悲観的だ。流石の早坂も心配しだす。
「放課後にね、立花さんに面と向かって言われたのよ…」
「何をですか?」
「自分は会長の事が好きだって」
「は!?」
早坂、つい声を大きくして驚く。京佳が白銀を好きであるというのは勿論知っているが、まさかかぐやに対して面と向かって言うとは思っていなかった。
「そ、それでどうしたんですか…?」
この時、早坂には嫌な予感がしていた。落ち込んでいるかぐや。口を開けばとても悲観的。そして京佳に面と向かって言われた白銀が好き宣言。これらの出来事を踏まえて、ヘタレなかぐやを見るもしかすると、最悪の出来事があったかもしれないと。
だがまだ希望を捨ててはいけない。少なくとも、かぐや自身の口から真実を聞くまでは。
そんな早坂の願いは、
「私…つい何時もみたいに言っちゃった…」
「ぐ、具体的には…?」
「私は別に、会長の事を好きじゃないって…」
儚くも散ってしまった。
「折角立花さんが言ったのに…私、何時もみたいに…」
遂に目に涙を浮かべるかぐや。なんせこれでかぐやは、京佳が明日からの文化祭で白銀とデートをしても何も出来ないのだ。
放課後、京佳に言われた時に『自分も白銀が好き』だと言っておけば、明日からの文化祭で正々堂々と京佳と雌雄を決する勝負が出来ただろう。だがかぐやはそうは言わなかった。
ついヘタれて、自分の素直な気持ちを言わなかった。
「……」
そして早坂は絶句していた。はっきり言って、これはもう今までの自分の苦労が水の泡である。だってこれで京佳は白銀を正面からデートに誘えるのだ。もしそこにかぐやが邪魔でもしようものなら、京佳は言うだろう。
『四宮は別に白銀の事を好きじゃないんだから、私の邪魔をするな』と。
そう言われてしまえば、かぐやは何も言い返せない。だってそう言ってしまったのだから。自分は、白銀の事は好きじゃないと。
「そうだわ。いっそ今から立花さんを強制的に転校させてしまえばいいのよ。もしくは明日までに風邪をひかせるとか。そうすれば明日からの文化際で立花さんが会長に何かをする事は無いじゃない。そうと決まれば早坂。さっそく準備をして頂戴」
そしてかぐや。彼女はこの期に及んでも、未だに京佳自身を排除する方向で状況を打開しようとしている。それこそ、いつもの様に。
ブチッ
そんなかぐやを見ている早坂は、遂に我慢の限界を迎えた。もしこのまま自分もいつもの様にかぐやに言い聞かせても、対して効果が無いだろう。あと正直、もう手遅れ感が凄い。
それにかぐやが放課後に素直にならなかったせいで、この1年の苦労が水の泡だ。更にかぐやは、今もいつもの様に行動を起そうとしている。
はっきり言って、もう無理だ。いい加減、堪忍袋の緒が切れた。
「失礼します、かぐや様」
「え?」
早坂はかぐやにゆっくりと近づく。そして、
スパァァン!!
「っ!?」
かぐやの左頬を思いっきりビンタした。
「え…?え…??」
早坂にビンタされたかぐやは混乱していた。どうして突然早坂にビンタされたのか意味がわからない。それにこれ、かぐやの人生初めてのビンタである。人生で初めて他人にビンタされて、かぐやは混乱する。
「いい加減にしなさい」
そんなかぐやに、早坂はマジトーンで話し出す。
「貴方は、この期に及んでもまだそんな事を言うんですか?」
「は、早坂…?」
何時もと違う早坂に、かぐやは少し怯える。先ず目がとても冷たい。まるで自分の事をその辺の野良犬か野良猫にでも見えているかのような目をしている。
そしてあの顔は、間違いなく怒っている。それも今までで1番。
「これまでは長い付き合いというのもあったので、多少の事は目を瞑ってきましたが、今回の事は許容できません。貴方は、自分が言った事がわかっているんですか?」
かぐやが思った通り、早坂はブチ切れている。これまでは我慢も出来たが、今回ばかりはもう無理だった。
「折角立花さんが態々正面切って言ったのに、それを無碍にするような事を言って。はっきり言って最低ですよ」
「さ、最低…」
「それだけじゃありません。かぐや様の発言で、立花さんはもう遠慮も容赦もしません。だって文化祭で白銀会長を誘える正当な理由を手に入れたんですから。そしてそれを、かぐや様は止める事なんてできません。何故ならかぐや様は白銀会長の事なんて好きじゃないと言ったのですから」
「……」
かぐやは何も言い返せない。だってその通りなのだから。
「というかマジでいい加減にしてください。かぐや様のその発言のせいで、この1年間積み上げてきた物が全部パーですよ。私も協力してきたのに、その全てが全部パーです。わかってますか?」
そしてこれが早坂がキレている1番の理由。今までかぐやの我儘や、トンチキな作戦に付き合ってきた。でもそれは全て主人であるかぐやが白銀と付き合えると思ったからこそ続けられた。
しかし今日の放課後の出来事により、その努力が全てが報われないまま終わる。つまりこの1年は、全て無駄になったのだ。
放課後にかぐやが素直になっていればまだ結果は違っただろうけど、こうなったらもう無理だ。だからこそ、早坂はキレている。
「もう、終わりなの…?」
「終わりです。今から何をしたってもう遅い。勝負は着きました。つまり、かぐや様の初恋はここで終了したんです」
かぐやに辛い現実を突きつける早坂。それを聞いたかぐやは、
「やだ…」
「何ですか?」
「やだぁ…!!」
声を震わせながら、泣き出した。
「やだ!会長を立花さんに獲られるなんて絶対にやだぁ!そんなの耐え切れない!会長が、立花さんと一緒になるって思うだけで吐きそうだもん!だって私、会長の事が大好きなんだから!」
ようやく本音をぶちまけるかぐや。
「でももう遅いって私言いましたよね?だってかぐや様、立花さんに会長の事は別に好きじゃないって言ったんですし」
「そんなのわかってる!でもやだ!だって本当の本当に会長の事が大好きなんだもん!もう遅いってわかってても、諦めるなんてできない!!」
小さな子供みたいに泣きじゃくるかぐや。全部自業自得なのはわかっている。全ては、自分が素直にならなかったせいだと。
でもやはり、諦めるなんて無理。未練がましとわかっていても、諦めるなんて無理。だって四宮かぐやは、こんなにも白銀御行の事が大好きなんだから。
「お願い早坂…もう2度と我儘なんて言わない…これからは素直になる…だから、だからどうか時間を巻き戻して…それが無理なら、過去に跳んで私を殴って…」
「……」
ネコ型ロボットでもない限り、時間を巻き戻すなんて無理だ。しかし、もうかぐやは縋るしかない。このままただ2人が付き合うのを見るくらいなら、いっそ死んでしまった方がマシなのだから。
「流石に過去改変は私もできません」
「うう…ぐす…」
「ですが、今直ぐ出来る事はあります」
「……え?」
どん底のかぐやに、光が差した気がした。
「ただし条件があります。今から2時間は、絶対に素直になってください。それが出来ないと言うのならば、この方法はダメです。あと例えこの方法をやったとしても、かぐや様が納得できる結果になるかはわかりません。だって状況は最悪なのですから。それでも、やりますか?」
状況は日本史で例えるなら沖縄戦が終わり、ソ連が参戦した時くらい最悪だ。つまりもう、ほぼ詰み。ここから逆転なんて、先ず無理だろう。
だが本当に僅かだが、可能性がある。スカイダイビング中に、針の穴に糸を目隠しした状態で連続で10本通すくらいの可能性。それでも、やらないよりはマシ。
「……やるわ」
かぐやは制服の袖で涙を拭きながら、立ち上がる。
「例え可能性がほぼゼロだとしても、やれるならやるわ。このままこの恋を諦めるなんてあって溜まるもんですか!!」
こうやって立ち上がれる辺り、流石四宮家のお嬢様である。
「わかりました。それと、先程はビンタしてしまい、本当に申し訳ありません。如何なる罰でもお受けいたします」
「いいえ。別にそんなつもりないから安心して。むしろありがとう。おかげで目が覚めたわ」
この時早坂は、本当にどんな罰でも受けるつもりだった。しかしかぐやはそんな事をするつもりはない。そもそも、あれは全部自分の身から出た錆なのだから。
「それで早坂。何をするの?」
「簡単です。今から立花さんに会いに行きましょう」
立花家 京佳の部屋
「……」
自室のベットに腰かけ、京佳は天を仰いでいた。正確に言えば天井を仰いでいた。そして、この恋愛戦争の勝ちを確信する。
(これでもう、四宮は敵じゃない…)
京佳が思い返すのは、今日の放課後の事。
京佳は放課後、かぐやに宣戦布告をした。
それ自体は別にいい。元からそうするつもりだったし。だがその後、かぐやの言葉を聞いて京佳は、つい頭に血が昇ってしまったのだ。
『自分はこんな素直にならない子を恋敵としていたのか』と。
はっきり言って失望した。これまで白銀を振り向かせるにはかぐやをどうにかしないといけないと思っていたのに、当のかぐやがあんな事を言うからだ。
あの瞬間京佳は、かぐやをもう恋敵として見れなくなった。そして京佳は、そのまま帰宅。
(正直、自分に酔っていた気もするがな…)
だが今更ながら、少し後悔もしている。普通、いきなりあんな事いわれても誰だって困る。だって心の準備とかがあるからだ。
それを自分は考えずに、勝手に宣戦布告。そりゃ困るだろう。せめてかぐやが落ち着くまで、少し時間を置くべきだった。
(だがもう今更そんな事思ってもしょうがない。後はもう、白銀を振り向かせるべく明日からの文化祭に挑むだけだ!)
多少の罪悪感はあるが、時間を巻き戻すなんて出来ない。もう邪魔者はいない。あとはこのまま、一気に進むだけだ。
そんな時だ。
「ん?電話?」
京佳のスマホが鳴ったのは。京佳が画面を見るとそこには、
「四宮?」
四宮かぐやの名前が出ていた。
「……」
京佳、この電話に出るべきか少し悩む。恐らくだが、かぐやはは放課後の事で電話してきたのだろう。だが京佳の中では、既に終わった出来事だ。今更話す事は無い。
(いや、出よう)
だが放課後の出来事で少なからず罪悪感があるので、京佳は電話に出る事にした。
「もしもし?」
『や、夜分遅くにすみません立花さん』
「別にいいよ。それで、何の用だ?」
『今から、会う事はできますか?』
「こんばんわ、立花さん。態々ありがとうございます」
「私の家、直ぐそこだからあまり気にしなくていいよ」
電話をしてから10分。京佳は自宅近くの公園にきていた。そこには既に、かぐやがいた。後ろには、四宮家の物であろう黒い車もある。
「それで、一体何の用なんだ?」
京佳はここに来ることになった理由をかぐやに聞く。先程の電話では『直接会って話したい』としか言わなかったからだ。
「先ずは、謝らせてください」
するとかぐや、突然京佳に頭を下げ出した。
「本日の放課後、折角の立花さんの宣言を無碍にしてしまい、本当にごめんなさい」
「な」
その光景に、京佳は驚いた。だってあの四宮かぐやが頭を下げているのだ。ほんの1年半前まで、氷のかぐや姫なんて呼ばれていたあのかぐやが。
「いや、そこまでしなくていいって。頭を上げてくれ四宮」
確かに、放課後のかぐやの反応を見て失望した京佳ではあるが、流石にこれは申し訳ない。そもそもあれは突然がすぎた。もう少し、かぐやには時間を与えるべきだっただろう。
「よろしいのですか?」
「ああ。そもそも私も突然あんな事を言ってすまなかった」
「いえ、立花さんは何も悪くありません。悪いのは一方的に私ですから」
「そ、そうか?」
「はい」
そこまで言われると流石に気が引ける。
「それと、もうひとつ」
「ん?」
かぐやは頭を上げると、京佳の目を見る。その目には、確固たる決意が見えた。
「放課後の事ですが、撤回させてください」
「撤回?」
かぐやは1度深呼吸をすると、京佳に言った。
「私は、白銀御行が好きです」
白銀の事が好きだと。
「この好きというのは、友達としての好きではありません。私は会長の事を、1人の男性として好きになっています。あの目が好き。優しいところが好き。努力家なところも好き。そんな会長の事が、大好きです」
スラスラと、放課後の京佳みたいに白銀の好きなところを言うかぐや。それを京佳は、黙って聞いていた。
どうしてかぐやがこんな事を言っているのかというと、早坂の提案だ。即ち『京佳の宣戦布告をしっかりと受け取り、自分の素直な気持ちをぶちまけろ』である。
既にあれから数時間が経過している。正直、今更受け取っても遅すぎるだろう。そもそも京佳からしてみれば、態々自分が不利になるような真似はしたく無いだろうし。
だがそれでも、京佳からの宣戦布告を受け取らないよりマシの筈だ。これで京佳がどう思うかはわからない。もしかすると、更に失望されるかもしれない。そう言う意味では、これは賭けでもあった。だがもう、これ以外方法が無い。
「だから私は、そんな会長と恋人になりたい」
「……そうか」
そして遂にかぐやは、京佳と同じように白銀の恋人になりたいと言った。これこそ、四宮やかぐやの素直な気持ち。
「今更言うのはおこがましいのは判っています。でも、それでも今言わせてください」
かぐやは京佳を真っすぐ見て、
「受けて立ちます」
京佳の宣戦布告をかなり遅れて受けるのだった。
「……」
京佳は口を閉じたまま。一向に喋らない。それを見守るのはかぐやと、車の中で待機している早坂と運転手のメイドの志賀。
「何で、それを放課後に言わなかったんだ?」
ようやく京佳が口を開いた。
「えっと、恥ずかしくて、つい…」
「えー…」
「それに関しては本当にごめんなさい。逆の立場だったら私だって怒りますし」
本当に申し訳ないとかぐやは思っている。あの時素直に受けていれば、こんな事にはならなかったのだから。
「それで、あの…どうでしょうか?」
恐る恐る、かぐやは京佳に聞いてみた。
「正直、今更そんな事を言われてもというのがある」
「ですよね…」
やはりというべきか、京佳の反応はイマイチだ。
「だが物騒な言い方をすれば、倒しがいがあるとも思った」
「え?」
しかし直ぐに、違う反応が見えた。
「もしこのまま私が白銀と付き合ったとしても、ちょっと思うところがあるしね。こうして正面から勝負した方が、後腐れが無いだろう?」
「……」
「だから私が言うべき台詞はこうだ」
「こちらこそ、受けてたとうじゃないか」
それはかぐやの言葉を受けるというもの。同時に、かぐやと同じ土俵に降りてきたという事だ。
「本当に、ありがとうございます」
かぐや、再び頭を下げる。普通なら、態々同じ土俵に立とうとは思わない。少なくとも、自分ならそうはしない。
そして京佳自身、この選択がどうなるかわからない。だがやはり、四宮かぐやには正面から戦って勝ちたい。その結果この恋愛戦争に負けるかもしれないが、その時はその時に考えればいいのだから。
「ところで四宮。前から聞きたかったんだが、一体何時白銀を好きになったんだ?」
「え?えっと、きっかけは去年、血溜沼でハンカチが落ちた時なんですが…」
と、ここで京佳。かぐやに白銀を好きになった経緯を聞いてみた。折角だから、聞いておきたいと思ったからだ。
「ああ成程。それでか。確かにあの時の白銀はかっこよかったよな」
「ですよね!やはり会長はああやって誰かの為に動けるところが素敵で…!」
そしていつしか2人は、白銀の良いところを沢山言い合った。この時ばかりは、好きな人のところを共有できる喜びが、恋敵に対する憎しみを上回った。
その後1時間以上、2人は夜の公園で白銀の話に花を咲かせるのであった。
「志賀さん、私たちもう帰ってもいいですかね?」
「流石に夜この時間にお嬢様を置いて帰るのはちょっと…」
その間、メイド2人は車の中でずっと待ちぼうけを食らうのだった。
これにて宣戦布告完了。次回からいよいよ、かぐや様と京佳さんの文化祭決戦が始まります。
まぁ告白シーンまでいくの、また長くなるかもだけど。
変なところや矛盾しているところがあったら、言って貰えると助かります。
次回もしっかり投稿したいです。でも最近、仕事本当に忙しいのよね…。
秀知院 怒涛の3日間は
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書いて
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本編終わってからならいい
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別にいらない
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はよ本筋進めろ