もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 朝日が昇るまでは月曜日。

 突然ですが、古今東西には様々なヒロイン対決があります。

 成瀬川なるVS浦島可奈子
 桐崎千棘VS小野寺小咲
 マインVSエスデス
 高坂桐乃VS黒猫
 シェリルVSランカ
 有馬かなVS黒川あかね

 果たして、本作の勝ちヒロインはどっちになるのか。そう考えながら書いています。

 あ、今回京佳さんあんまり出番ありません。


秀知院と文化祭(コスプレ喫茶)

 

 

 

 

 

 京佳は、秀知院の校門前で立っていた。学園内に入る人が何度も京佳を見て驚いたり、恐怖したりしているが、気にしない。どうせすぐに文化祭の楽しさに浮かれて、自分の事など忘れてしまうだろうからだ。

 

「やっほー!京佳ー!」

 

「やぁ、待ってたよ恵美」

 

 そうして校門前で待っていると、お目当ての人物が現れた。北高に通っている、京佳の親友の恵美である。

 

「いやー、秀知院も随分盛り上がってるみたいだねー!これは楽しみだよー!」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ。皆本当に頑張ったからね」

 

 恵美も秀知院の文化祭は初めてだ。そもそも京佳に招待されなければ、秀知院へ来ることすらなかっただろうし。

 

「こんにちは、京佳ちゃん」

 

「こんにちは、朝子さん」

 

 恵美と団欒していると、今度は純喫茶りぼんの店長、朝子が現れる。彼女も京佳に招待され、今日こうして秀知院の文化祭へやってきたのだ。

 

「今日はお招きいただき、ありがとう」

 

「いえ。朝子さんには本当にお世話になっていますので、そのお礼です。今日は楽しんでください」

 

「ふふ、そうするわ。にしても、文化祭なんていつ以来かしら」

 

 朝子は昔を思い出す。昔の文化祭はこれ程にぎやかではなかったが、それでも当時を思い出す。思わずはしゃぎそうになる。

 

「で、京佳。京佳が主演の演劇って何時なの?」

 

「10時だよ。チケットは?」

 

「もち。ちゃんと持ってきてるよ」

 

「私もあるわ」

 

 京佳のクラスは演劇をやる。そして京佳は、主役だ。折角の親友の晴れ舞台だ。これは何としてでも見ないといけないと恵美は思い、こうして文化祭にやってきている。そして朝子も同じ思いだ。

 

「ところで、京佳ちゃんのお母さんは?」

 

「あ、母さんは午後から来ると思います。まぁ、仕事があるので来ないかもですけど…」

 

 尚、京佳の母親である佳世は仕事の為まだ来れない。本人は凄く来たがっていたが、仕事なら仕方が無い。

 

「それじゃ、まだ少し時間があるから、学校内を軽く案内するよ」

 

「うん!よろしくね!」

 

「よろしく」

 

 京佳に案内されながら、恵美と朝子は秀知院の文化祭、『奉心祭』に参加するのだった。

 

 

 

 

 

「まさに大和撫子!」

 

「お似合いです!かぐや様!」

 

「本当に素敵だわ!まるで1枚の絵画のよう!」

 

「ふふ。ありがとうございます」

 

 かぐやのクラス、2年B組はコスプレ喫茶をしていた。魔法使いや小悪魔、某電子の歌姫に最近放送されて人気が出たエルフまで。そんな中かぐやは、大正浪漫溢れる和装メイドという、その手の人に非常に好かれそうなコスプレをしている。というか似合いすぎだ。1枚1000円で写真撮影でもすれば、かなり儲けがでるだろう。

 

「それにしても、そんなに似合ってますか?」

 

 かぐやは少し半信半疑だ。実はこれ、かぐや自身が望んでしたコスプレでは無い。かぐやのクラスメイト達の強い要望の結果なった格好なのだ。

 かぐや自信、やりたいコスプレがあった訳では無いので別にいいが、似合っているかどうかは気になる。

 

「ええ、大変お似合いですよ」

 

「!?」

 

 するとクラスメイトであり、自分の従者である早坂が、屋敷にいるときのメイド姿で答える。

 

「え?ちょ、え??」

 

「如何いたしました?かぐや様?」

 

 かぐや、混乱する。ここは学校。屋敷では無い。だというのに、目の前にいる早坂は屋敷にいる時のメイドの早坂になっている。これではかぐやと早坂の関係がバレてしまう。

 

「わー!早坂さんキャラ作り完璧ーー!本物みたいー!」

 

「あはは!ありがとー!ちょっと漫画とかドラマみて役作り頑張ったんだー!」

 

(そ、そうよね!役作りよね!あー!ビックリしたーー!!)

 

 かぐや、ほっと無い胸を撫で降ろす。今の早坂はコスプレメイドの役の一環でこうしているだけだ。これが素ではあるのだが、それを知るのはかぐやのみ。誰かにバレる事はないだろう。

 

「では、そろそろ仕事を「あ、かぐや様はこっちだよ!」え?」

 

 かぐやは気を取り直してコスプレ喫茶にやってきた人の接客をしようとしたが、クラスメイトに背中を押され廊下に連れていかれる。

 

「かぐや様はここでお客さんを誘導してね!それっぽく笑顔を振りまいていれば簡単に釣れるから!」

 

「な、成程…」

 

 かぐやには客寄せパンダ、もしくは看板娘の任が降りた。

 

(少し如何わしい気もしなくは無いですが、これもクラスの為、何より自分の為になりますし、やりましょう)

 

 こうしてかぐやは教室前の廊下で、仕事に励むの事になったのである。

 

 

 

(私のシフトは11時から13時の2時間。一応会長にはその事をそれとなく伝えているけど、来てくれるかしら?)

 

 かぐやは事前に、白銀にコスプレ喫茶の事を伝えている。しかし、白銀がくるかどうかはわからない。

というのも、白銀は来賓の相手をしているからだ。

 秀知院には、著名人が文化祭に来賓としてくる事も珍しくない。そういった人の相手を、白銀はするように学園長に言われている。なのでそちらの仕事が長引いてしまえば、ここに来る事も出来ないだろう。

 

(いいえ。弱気になってはいけないわ。こういうのは来ないかもと思うからダメなのよ。会長は必ず来ると思えば、自然と来てくれる。今はそう思いながら仕事をしましょう)

 

 かぐやは自分に言い聞かせながら、仕事に専念する。あの石上だって勇気を出して頑張っているのだ。ならば、自分も勇気を出して行動しなければならない。

 

(今回クラスでやっているコスプレ喫茶は、スペースの問題上客の目の前でコーヒーや紅茶を淹れる方法を取っている。これならば、自然と客との距離も近い。その至近距離でこの姿を見せれば会長だってときめく筈。勿論それだけだと弱いから、できればさりげないボディタッチとかもすれば…!)

 

 京佳からの宣戦布告を受け取っている以上、多少は攻めていかないとダメだ。早坂からは『腕くらい組んで行けばいい』とか言われているが、流石に大勢の人の前でそれは出来ない。なのでさりげないボディタッチでいく。

 

 しかし、そう簡単にいかない状況となってしまった。

 

「なぁ。あの子可愛くない?」

 

「ああ。ちょっと行こうか」

 

 かぐやは自他共に認める美人だ。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花という美人を表す言葉がこれ程似合う子もそうはいない。

 そんな彼女が、まさに大正浪漫といった感じのコスプレをしていればどうなるかというと、自然と男性客を呼び込んでしまう。最初は3分待ちだった教室も、今では15分待ち。

 

(何だか予想以上に盛況ですね。これじゃ会長が来ても…)

 

 これだけ忙しいと、白銀だけを接客するのは難しい。早坂に協力してもらえればなんとかなるかもしれないが、流石に他のクラスメイトたちに迷惑をかけかけない。

 

「ごめんなさいかぐや様!中で接客をやってもらってもいいですか!?」

 

「あっ、はい」

 

 突然クラスメイトに声をかけられ少し驚くが、かぐやは直ぐに教室の中に入って接客を始める。

 

「コーヒーを2つ。あとこのクッキーを下さい」

 

「わかりました」

 

「えーっと、コーヒーを1つで」

 

「わかりました。直ぐに用意いたします」

 

「このクッキー結構可愛いー!これくださーい!」

 

「はい。お飲み物はどうしましょう?」

 

「リンゴジュースで!」

 

(いや本当に忙しいわね…)

 

 コスプレ喫茶は大盛況だ。常に席は満席状態で、未だに廊下には列が出来ている。とてもじゃないが、今ここに白銀が来ても接客なんて不可能だろう。

 

「いやー!京佳凄かったよー!演劇自体もすっごい面白かったし!」

 

「そうね。とっても面白いお芝居だったわ」

 

「ありがとう、恵美、朝子さん」

 

 かぐやが忙しくしている時、聞きなれた声が聞こえる。

 

(立花さん!?どうしてここに!?)

 

 かぐやが視線を静かに動かすと、そこには以前1度だけかぐやも出会った事がある恵美を連れている京佳がいた。その後ろにはかぐやの見た事の無い老人、朝子もいる。一体なんの用で、ここにきたのだろう。

 

(まさか、ここを滅茶苦茶しにきたんじゃ!?)

 

 かぐやの頭の中に、ある考えが浮かぶ。それは、京佳がこのコスプレ喫茶を破壊しにきたというもの。もしここでコスプレ喫茶が無くなってしまえば、もう白銀を呼ぶことも出来ないし、何よりこの制服姿を見せる事も出来ない。これまでも京佳は、かぐやに対して様々な邪魔(かぐや視点)をしてきた。そんな京佳であれば、ここを破壊するくらいの事もするかもしれない。

 

(っていくら何でも考えすぎです。いくら立花さんとはいえ、そんな暴力的な手段には出ないでしょう)

 

 流石に考えすぎと思ったかぐやは、1度静かに深呼吸をする。どうも忙しすぎて、頭が疲れて変な事を考えてしまっているようだ。

 

(大方、あの友達を案内しているってところでしょう。そして偶然ここに来ただけ。変な方向に考えてはいけません)

 

 頭を切り変えて、かぐやは再び接客に専念する。

 

「いらっしゃいませ。ご注文を伺います」

 

 京佳の席で。

 

「やぁ四宮。似合っているな」

 

「おおーー!かぐやちゃんかっわいいーー!まさに武蔵撫子って感じじゃーーん!!」

 

「いや恵美。それを言うなら大和撫子な?」

 

「武蔵かぁ。懐かしいわね…小さい頃見た記憶があるわ。いや、あれは長門だったかしら?」

 

「…え?」

 

 凄く気になる事を言う朝子。正直今すぐ聞きたい話である。海上自衛官の兄の影響で、京佳は普通の人より少しだけそういう話題が好きだからだ。

 

(流石に考えすぎだとは思いますが、念の為に少し探りを入れときましょう)

 

 一方、かぐやは静かに京佳を睨む。いくら何でも営業の邪魔をしに来た訳ではないだろうが、やはり気になる。なので接客をしながら、探りを入れる事にした。

 

「ありがとうございます。それで、どうしてここに?」

 

「恵美がこういうのが好きでね。丁度目に入ったし、午前中の演劇も終わったから足を運んだんだ」

 

「成程。演劇はどうでしたか?」

 

「かなり盛況だったよ。午後からもあるから、時間があれば是非観に来てくれ」

 

「ふふ。そうですね。時間があれば行かせていただきます」

 

 他愛の無い会話。しかし、ほんの少しだけ火花が散ったように見えた。主にかぐやからだが。

 

「それで、ご注文は?」

 

「コーヒーを」

 

「私もー」

 

「私もコーヒーをお願い」

 

「コーヒーを3つですね。少々お待ちを」

 

 手早くコーヒーの注文を取り、かぐやは教室の隅に設置されている厨房スペースへと向かい、コーヒーを淹れる道具を用意する。

 

(そういえば、立花さんの演劇を会長は観に行くのかしら?もしそうなら阻止するか、私も行った方が良さそうね)

 

 準備をしながら、かぐやは今後の事を考える。もしも白銀が京佳の演劇を観に行くのなら、是非阻止しておきたい。舞台に上がった人は、何時もより輝いて見えるのだ。そんな普段より輝いてしまう京佳を見たら、白銀は落ちてしまうかもしれない。

 

(その時は早坂に手伝ってもらいましょう)

 

 だがまだ時間があるので、その事は後で考えよう。

 

「それでは、コーヒーを淹れさせていただきます」

 

 かぐやは厨房スペースから持ってきたコーヒー器具一式を机の上に置き、コーヒーを淹れる準備をする。

 

「……」

 

(なんかこの人、すっごい見てくるんだけど…)

 

 その際、何故か京佳の連れの1人である朝子がじっと見てきた。それも無言で。ちょっと不気味だ。

 

「お待たせしました。コーヒーです」

 

「ありがとう」

 

「ありがとー!」

 

 3つのカップにコーヒーを淹れた後、3人に渡す。そして京佳と恵美は、ゆっくりとコーヒーを飲む。

 

「…うん、美味しい」

 

「…だねー。やっぱり私は紅茶よりコーヒーの方が好きだよー」

 

「ありがとうございます」

 

 お礼を言われ、少しだけ嬉しい気持ちになるかぐや。

 

(立花さん別に何かする訳でも無いし、杞憂だったかしら…)

 

 来店して以来、京佳は特に何もしなかった。最初こそ警戒していたが、どうやら本当にただ来ただけみたいのようである。

 

(まぁ、それならそれで構いません。さっさと会長に備えましょう)

 

 これで憂いなく、来店するであろう白銀に備える事が出来る。そう思っていた時だ。

 

「酷い味」

 

「……え?」

 

 突然、朝子が口を開いたのは。

 

「あ、ごめんなさい。ここはお店はお店でも学生が文化祭でやっているお店だったわね。そんな場所で味の批評なんて、するもんじゃなかったわね。今のは忘れて」

 

 口を手で押えながら謝る朝子。彼女は喫茶店の店長だ。職業柄、どうしてもコーヒーの味は気にしてしまう。

だがここは文化祭でやっているお店。そこにプロ意識を持ち込むのは大人げない。ついうっかり口が滑ってしまっただけだが、こんな場所で態々言う必要は無い。なので直ぐに謝ったのだが、

 

「……参考までに、どういった酷さか教えていただいても?

 

「お、おい四宮?」

 

 かぐやがこう言われて、黙っている筈なの無い。

 

「じゃあ言わせてもらうけど、雑味だらけなのよこれ。まるで泥水ね。まぁ貴方の淹れ方を見ていたら当然の結果だけど。だって豆の量は碌に計っていない。おまけに配置も滅茶苦茶。お湯の注ぎ方だって適当。その結果が、この雑味だらけの酷い味。うちのお店だったら絶対にこんな子供のままごとレベルのコーヒーなんて出さないわね。お客様に失礼だもの。折角良い豆を使っているというのに、これじゃ豆が可哀そう」

 

「あ、朝子さん?」

 

 真顔で親切丁寧に教える朝子。でもその声色は、ちょっと怒っているように感じる。

 

(わかる)

 

 そしてその話を聞いていた早坂は、静かに頷いていた。

 

「ちょっとそれ貸しなさい」

 

「……どうぞ」

 

 すると徐に、かぐやが手にしていたコーヒー器具を手に取った。そしてそのまま豆を新しく淹れ直し、コーヒーを淹れる。

 

「どうぞ?」

 

「……いただきます」

 

 かぐやはそれを受け取ると、ゆっくり飲む。

 

「!?」

 

 かぐやは目を見開く。美味しい。とっても美味しい。早坂が淹れたコーヒーより、藤原が淹れたコーヒーよりずっと美味しい。

 今までの人生で、これ程までに美味しいコーヒーを飲んだ事は無い。これならば、何杯でも飲めそうだ。というか毎日飲みたい。

 

「うん、美味しい」

 

「やっぱり朝子さんのコーヒーが1番だよねー」

 

 何時の間にか京佳と恵美にもコーヒーが振舞われており、2人はそれを飲んでいた。実はこの2人、先程かぐやの淹れたコーヒーを普通にまずいと思っていたのだ。京佳に至っては、藤原が淹れたコーヒーの方がずっと美味しいと思う始末。

 そんなまずいコーヒーでは無く、今度はしっかりと美味しいコーヒーを飲めた。これは満足にもなる。

 

「まぁそういう訳だから、せめて豆の配分と配置くらいは覚えてから淹れた方がいいわよ?味のわかるお客様にこんなの出したら、不快に思われちゃうし」

 

 朝子も満足げに言うと、再び椅子に座る。少々面倒な客になってしまったが、それだけかぐやの淹れたコーヒーが酷かったのだ。少々大人げなかったが。あれは喫茶店の店長として一言物申さないと気が済まない。

 そしてもうここに用は無いと思った朝子は、席を立とうとする。

 

「ちょっと待ってください」

 

 しかし、それは他ならぬかぐやに止められた。

 

「確かに貴方の言う通り、私はコーヒーの淹れ方の知識はありません。ですが、紅茶であれば必ずあなたを満足させる事ができます」

 

「……なら、紅茶をひとついただけるかしら?」

 

「わかりました。少々お待ちを」

 

 そして朝子に対して、紅茶を淹れると宣言。ここまでコケにされて黙ってそのまま帰す事など、かぐやがする訳無い。

 

(今だけは会長の事も立花さんの事もどうでもいい!!絶対に紅茶で見返してやるんだから!!)

 

 ここで1度、朝子をぎゃふんと言わせないと気が済まない。かぐやは直ぐに厨房スペースから紅茶器具一式を持ち出し、席に戻ってきて紅茶を淹れ始める。茶葉を適量入れ、お湯の温度もしっかり計る。決まった時間ちゃんと茶葉を蒸らし、ゆっくりと温めたカップに注ぐ。

 

「どうぞ」

 

 出された紅茶を、朝子はゆっくりと一口飲む。

 

「うん、とっても美味しいわ。こんなに美味しい紅茶を淹れる事が出来るなんて凄いわね」

 

「恐れいります」

 

「それと、さっきはごめんなさい。失礼な事言っちゃって」

 

「いえ、私も勉強になりましたので、これでおあいこという事で」

 

 朝子もかぐやの淹れた紅茶にご満悦だ。そしてかぐやも、朝子をぎゃふんと言われる事が出来て満足である。

 

「にしても、懐かしい味ね。昔の私を思いだすわ」

 

「え?昔の味?」

 

「ええ。だってこれ、若い頃の私が旦那に淹れたコーヒーと同じ味なんだもの」

 

「はい?」

 

 何か突然変な事を言い出す朝子。かぐやは頭に疑問符を浮かべ、首を傾げる。

 

「そうね。例えるなら、恋の味ってところかしら」

 

「!?」

 

「懐かしいわね。旦那に美味しいコーヒーを飲んで欲しくて、何度も何度も練習して、ようやくたどりついた味。たった1人の想い人の事を考えながら淹れて、美味しいって言った旦那の顔がとっても優しくて。懐かしいわ。もう50年以上も前なのに…」

 

「ちょ、ちょっと…!」

 

 突然恋の味とか言われ、パニックになるかぐや。だって実際その通りなのだ。四宮本家でお茶の淹れ方を習ったというのはあるが、ここまで美味しく淹れれるようになったのは、白銀に美味しく飲んで欲しいと思ったから。それを看破されてしまった。大勢に人がいるこんな場所で。

 

(まずい!こんな事が皆にバレてしまったら…!)

 

 とっさに周りを見渡すかぐや。こんな話を聞かれたおしまいだ。もし聞かれたら、その人物は始末しないといけない。

 しかし教室内では、

 

「美味しい…」

 

「だよね。このコーヒー本当に美味しいよ」

 

「ね、ねぇねぇ立花さん!これ普段はどこで飲めるの!?」

 

「純喫茶りぼんってとこ行ったら飲めるよ。でもあそこで1番美味しいのはオムライスだ」

 

「だよね。朝子さんの作るオムライスはこの世で1番美味しいまであるし」

 

 朝子が淹れたコーヒーを、接客の仕事を放りだしている早坂を初めとした大勢のクラスメイトが飲んでいて、誰もさっきの話を来ていなかった。

 

(いや何してるのーーー!?)

 

 恋の味云々を聞かれなかったのはよかったが、なんか別方向の事態になっていた。

 

「あ、空になった」

 

 コーヒーを入れていたポットは、あっという間に空になる。

 

「あ、あのすみません!コーヒーを淹れて貰ってもいいですか!?」

 

「わ、私もお願いします!!」

 

 すると飲めなかったクラスメイトが、朝子にコーヒーをねだりだす。

 

「えっと、いいのかしら?私、ここの学生でもなんでもないのだけれど」

 

「全然大丈夫です!所詮学生のお遊び喫茶なんで!」

 

「営業許可とか全然気にしなくていいです!お願いします!」

 

「ふふ、そういう事なら」

 

 クラスメイトたちに説得され、朝子はコーヒーを淹れ始める。

 

「美味しい…!!」

 

「私、コーヒーって苦手だったんだけど、これなら毎日飲みたい!!」

 

 そして朝子の淹れたてコーヒーを飲んだクラスメイトは、その味に驚くばかり。こんなに美味しいコーヒーを淹れれる人がいらなんて知らなかったと。

 

「すみません。私もいいですか?」

 

「あ、じゃあ僕もお願いします」

 

 その光景を見ていた、コスプレ喫茶に客としてやってきていた人たちも朝子のコーヒーを注文する。

 

 

 

「うむ。これは素晴らしい。これ程のコーヒーは飲んだ事が無い。そうは思わないかい?Jくん」

 

「うん。僕もあまりコーヒーは飲まないけど、これはいいね。凄く美味しい」

 

「あのすみません。私たちにもコーヒーを下さい!」

 

 いつの間にか、朝子のコーヒーを飲んだ客からも美味しいという感想が出て、それを見た他の客が再び注文するという現象が出来てしまった。

 

「え、えーっと!只今30分待ちでーす!」

 

「もう少々お待ちくださーい!」

 

「まずい!もうあまりコーヒー豆が無い!」

 

「私ちょっと買ってくる!」

 

 結果、当初の予想を大幅に超える大盛況となってしまった。

 

「かぐや様!このコーヒーをあちらのお客様へ!」

 

「わかりました!」

 

 当然、かぐやも忙しなく働く事となる。それはもう大忙しだ。

 

(あーもう!これじゃ会長を接客するなんて無理じゃないのよーー!!)

 

 これ程忙しいのであれば、もう白銀の事は諦めるしかない。今は一刻も早く、客をさばいて席を開けるべきだ。

 

「新しいコーヒーだ。頼む恵美」

 

「ラジャー。まっかせて」

 

 尚、朝子を連れてきた京佳と恵美も臨時で手伝っていた。流石にちょっと罪悪感あったし。

 

(ま、まぁもうこれ以上面倒は起きないでしょう。あとはただ仕事をしていくだけ…)

 

「やぁかぐやちゃん。久しぶり」

 

(何でよぉぉぉぉーーー!!)

 

 少し客がはけてきたかと思ったら、無情にもあの白銀父もやってきてしまった。これでは、客を全員さばけるのはもう少しかかるかもしれない。

 

 こうしてかぐやは、多忙に追われるのであった。

 

 

 

 

 

(四宮のクラス。めっちゃ盛況だな…)

 

 そして仕事を終わらせ、少し離れている所から見ていた白銀は、かぐやのクラスを見てそんな事を思ったりしていた。

 

 

 

 

 




 作者はコーヒー派。というか紅茶がどうも苦手。

 最初は、京佳さんがかぐや様を牽制する目的でコスプレ喫茶に来ていた事にしていたんですが、京佳さんが超嫌な人になってしまいそうだったので、急遽路線変更を。
 おかしなところがあれば言って下さい。修正しますので。作者、言われて気が付く事が割とあるので。

 次回は可能であれば今週水曜日。ヒントは、毎年恒例となっちゃっているあれ。
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