もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
これが、私の考えたひとつの結末です。
白銀は、緊張した面持ちで階段を上がっていた。その緊張加減は、これまでの人生で1番と言っても良い。ここに来る前、白銀は屋上で見つけた例の暗号を誰もいない空き教室で解いていた。そして先程、ようやくそれが解読できたのだ。
(マジでめっちゃ難しかった…)
白銀が思う通り、屋上で見つけた暗号は本当に解読が難しかった。しかし実は、上の写真の暗号については直ぐにわかっていたのだ。何なら屋上で暗号を見た時には、既に理解出来ていたくらいである。
上に書かれていた写真と数字。あれは去年、白銀とある生徒が出会ったり何かをしたりした場所と月を表していた。
4月に校舎裏で白銀とその生徒は出会い、5月に2人一緒に生徒会に入り、9月の白銀の誕生日に京佳からアイマスクのプレゼントを貰い、12月に圭とその生徒がケーキを作り、1月の正月に白銀がバイトをしていたスーパーの精肉店でその生徒はしゃぶしゃぶ用の豚肉を購入。
あの暗号の上の写真と数字には、こういう意味があったのだ。そして屋上で暗号の写真と数字を見た白銀は、直ぐにこの暗号が自分宛の物だと理解した。ついでに、この暗号の作者も何となくわかってしまった。かぐやも、藤原も、石上も、伊井野も、早坂もこれはわからないだろう。だってこれは、白銀とその生徒しか知らない出来事なのだから。
しかし、これだけわかっても意味が無い。下の数字の羅列の意味がわからないからだ。この暗号が自分宛の物だと言うのはわかったが、下の数字にはどういう意味があるのか。恐らく、何かのメッセージが書かれているのだろう。ならば解読して、メッセージを知らなければ。そして白銀は、直ぐに下に書かれた数字の羅列の意味を解読する事にした。
なのだが、これが全然わからない。
元々こういった謎解きが苦手な白銀は、この暗号の解読に難航。4-1とか、27-2とかどういう解読をすればいいのか、まるで分らない。だがあまり時間をかける訳にもいかない。
そこで白銀は、ヒントをよく考えてみる事にした。書かれているヒントは『王様と序列』。一体これが何のヒントなのかわからないが、何も意味が無いとは思えない。だってこの暗号は、間違いなく自分宛の物。絶対に、何かしらの意味が込められている筈だ。
とりあえず白銀はスマホに『王様の序列』と入れて調べてみた。勿論、大した検索結果は出てこない。出てくるのは、王室と皇室の違いや、世界の王様の格付けとかである。
次に白銀は、とりあえず暗号に書かれている中で1番大きな数字の66と序列を合わせて『序列66』と検索。
すると検索画面に、『序列66番 キマリス』と出てきた。
キマリスとは、ソロモン72柱の1柱のひとつで、序列66番の悪魔の名前である。そしてソロモンとは、古代イスラエルの最盛期を築いた王様の名前。彼は72柱の悪魔を使役していたという伝説が残っている。
ここで白銀はまさかと思い、検索を続ける。1番上の4-1、これを序列4番と検索すると、ソロモン72柱の序列4番の悪魔であるガミジンが出てくる。そしてガミジンの1番目の文字は、ガ。
次に序列44番の検索すると、ソロモン72柱の序列44番の悪魔、チャックスが出てくる。そしてその3番目の文字は、ッ。白銀はここに活路を見出し、その後もスマホで調べながら数字を文字に変えていった。
5分後。白銀は紙に書かれていた暗号の解読に成功。暗号には、こう書かれていた。
がっこうのいちばんうえまできてくれ
解読した瞬間、白銀はようやく理解できた。この暗号は、自分宛のラブレターなのだと。
「…よし、行くか」
どういう訳か、先程からずっとある生徒による校内放送も行われている中、白銀は秀知院の1番高い所である時計塔の上まで行く事にした。
時計塔の上に向かう途中、白銀は覚悟を決める。恐らくこの暗号の送り主は、自分にとても大切な話があるのだろう。それも多分、他の人には聞かせたくない話が。そして白銀は、その大切な話が何かを予想している。というか、ここまできて予想出来ないほど鈍感でも無い。
(俺は絶対、この選択に後悔はしない)
今まで散々迷ってきた。今回の選択で、今後自分や他の子にどんな影響が出るかわからない。もしかすると、大変な事態になるかもしれない。でも、もう引き返さない。後悔しないよう、前に進む。例えそれが、どんな結果になろうともだ。
「来てくれたか、白銀」
「ああ」
時計塔の上にたどり着くと、そこには白銀の予想通り、暗号の送り主である京佳が待っていた。そしていつの間にか、先程までやっていた京佳の校内放送は止まっていた。
白銀が来た時、京佳は心臓の音が早くなるのを感じる。白銀が思っていた通り、礼の暗号は白銀宛のラブレターである。何故普通に送らなかったかというと、あらゆる事に対する作戦だからだ。もし普通に送っていたら、藤原辺りが嗅ぎつくかもしれない。そしてそこからかぐやに話が知られ、邪魔されるかもしれない。
だから京佳は、態々謎解きのようなラブレターを送ったのだ。これで藤原はどっかに行くし、流石のかぐやもソロモン72柱の事なんて知らないだろうから、この暗号に意味を見出さないだろう。白銀がこの暗号を解読できるかという問題はあったが、そこは信頼するしかなかった。そして信頼した通り、白銀はここまで来てくれた。
(ここまで、長かった…)
思えば、白銀が好きだと自覚してからもう1年が経とうとしている。最初こそ白銀はかぐやが好きだと知っていたので、この気持ちを捨てようとしていた。
しかし日に日に想いは強くなり、最後は親友に背中を押されて京佳は白銀を振り向かせようと奮起する。
それからほぼ毎日、白銀へアプローチをする日々。偶にかぐやや藤原に邪魔されたり、時にかぐやの為に白銀に協力したり、作戦が上手くいったりいかなかったりもした。
それでも、京佳は諦めずに白銀にアプローチを続けてきた。何時かこの気持ちが、白銀に届くと信じて。世間から見れば、京佳のこの行動は立派な横恋慕になるだろう。でも京佳は、自分の気持ちに嘘をつけなかった。例え後で、世間から何を言われても構わない。
だって京佳は、本当に白銀が大好きなのだから。
(だからこそ、今日は朝から色々作戦を開始してきた…)
そして白銀への告白を成功させる為、京佳は朝から行動を開始してきた。龍珠に頼んで例の物を学園内に持ちこんだり、眞紀にお願いをして白銀の行動を聞いたり、自分で学園の外に行って今日の文化祭の宣伝をして、大勢の人を呼び込んで白銀にそっちに意識を向かせて、こちらの作戦を気が付かせないようにしたり、お世話になったあの人に協力を仰いで怪盗の真似事をさせたり、かぐやの意識を逸らす為に、時計塔の上からインカムで校内放送をしたりと、様々な事をしてきたのだ。
例のアルセーヌの予告状は予定外の事件だったか、それでも京佳の作戦は順調に進んでいた。おかげで自分の一世一代の告白は、ここまでこれたのだから。
「しかし白銀。よくあれがわかったな」
「自分で暗号作っておいてそれは無いだろう。でもまぁ、正直偶然だよ。ていうかソロモン72柱なんて普通わからねーぞ」
「だよな。私もそう思う」
「おい」
正直あの暗号は難解すぎたと、京佳も思っていた。でもかぐやに気がつかれないようにするには、かぐやが知らないであろう事をヒントにする必要があったのだ。流石のかぐやも、ソロモン72柱の事は知らないと思い、京佳はあのヒントを書いた。
「それで、ここに呼びだして、何か話があるのか?」
そうしていると、白銀が切り出してきた。京佳も、ここで白銀と世間話をするつもりは無い。
「―――うん。あるよ。大事な話が」
だからそれに応えるべく、京佳は白銀に話をする。彼女にとって、とっても大事な話を。
「白銀。私はね、自分のこの見た目が好きじゃないんだ」
白銀の僅か数歩前で、京佳は静かに話出す。そして白銀は、その話を黙って聞いていた。
「女子のくせに身長は180cmもあるし、無駄に胸は大きいし、何よりこの顔の左側が好きじゃない。中学の頃のクラスメイト達に見られた時は、化け物って言われたしね」
京佳はそっと顔の左側にしている黒い眼帯を撫でた。白銀は、その下の顔を知っている。京佳の眼帯の下には、かなり酷い火傷跡がある。大抵の人は、京佳の火傷跡を見て気味悪がるのだ。
「でも、白銀は違った。私のこの顔を見ても、全然気味悪がらなかった」
1年生の時、京佳はうっかり眼帯の下を白銀に見られてしまった。あの時、京佳は絶対に白銀にもこの顔の事を気持ち悪がられると思っていたが、そんな事は無かった。
「正直、初めてあんな事言われたから驚いたよ。勝手に見てしまってすまないって謝られたのも初めてだけど」
京佳の火傷跡を見てしまった白銀は全く酷い事は言わず、むしろ勝手に火傷跡を見てしまった事について謝罪までしてきた。今までそんな人、会った事無かった。そしてあれがきっかけで、京佳と白銀は友達になれた。
「この学校に来て初めて出来た友達だから、私はこの関係を大事にしようって決めたんだよ」
偏見を持たない白銀。そんな白銀と友達になれた京佳は、本当に嬉しかった。この友情は大事にしないといけない。だから京佳は、友人としてよく白銀と一緒にいるようになった。
「でもいつの間にか、私の中に特別な気持ちが出てきたんだ」
だがそれは、何時しか別の感情に代わってしまった。友情でも親愛でも無く、恋愛感情へと。
「最初は、この気持ちを心の奥底にしまおうと思っていた。そうすれば、誰も傷つかないと思ったからね」
この気持ちに気が付いた時、京佳はこの気持ちを捨てようとしていた。だってこの時既に、白銀には別に好きな子がいたからだ。自分が付け入る隙なんて無い。だからその気持ちを捨て、前を向いて生きて行こうとした。
「でも、どうしても無理だったよ…」
しかし、日に日にその想いは強くなり、捨てるなんてどだい無理な事だと気が付いた。白銀とかぐやが仲が良いところを見ると、モヤモヤする。白銀とかぐやが一緒にいるのを見ただけで、胸がズキズキする。毎日毎日、白銀の事を考えてしまう日々。あまりに白銀の事を考えすぎたせいで、寝不足になってしまった事さえある。
「そんな時、恵美が背中を押してくれたんだ。私には幸せになって欲しいて言ってくれてね」
そんな京佳に、親友の恵美は激を飛ばした。中学の頃、あんなひどい目にあっている京佳には、本当に幸せになって欲しい。だからこそ恵美は、京佳にその好きという想いを捨てないように言い、全力で親友の事を応援した。
「だから私は、例え他の誰かに何を言われようとも構わないと決意し、必死になって君にアプローチをしたんだ」
そして京佳はそれに応えるように、自分の気持ちに素直になったのだ。
「一緒に、プールに行ったりしたよな」
「ああ…」
「水族館にも、行ったよな」
「そうだな…」
「白銀の誕生日を、祝ったりもしたよな」
「そんな事もあったな…」
「その時に、キスもしたよね」
「……したな」
この数か月、京佳と白銀は色んな所へ行ったりした。学校でも楽しく過ごしたり、時には白銀の家に行ったりもした。
「本当にこの数ヵ月は、楽しかったよ…」
その全てが、かけがえのない思い出であると同時に、白銀の気持ちを自分に向けさせるためのもの。
「そして…」
そうやって思い出話をいる途中、京佳がスマホを取り出し、何かの操作をする。
「これが、私の気持ちだ」
その直後、何かの音がしたかと思えば、学校の夜空に沢山のハート型の花火が打ち上がり出した。
「こ、これは…」
白銀はその花火をあっけに取られながら見る。空に撃ちあがる数多くの花火。しかも、その全てがハートの形をしている。そして校庭でキャンプファイアーを囲んでいる生徒たちも、今だけは花火に釘付け。中には写真を撮っている生徒もいる。まるで、夏休みに生徒会の皆で行った花火大会みたいだ。
「どうやって、こんな事を?」
「友達に頼んだんだ。どうにかして花火を打ち上げれないかってね」
この花火は、京佳が龍珠に頼んだもの。最初は、個人でも花火を打ち上げれれる業者が存在したので、そこに頼もうとしたのだが、龍珠に話をしてみると、組が今年の夏祭りで使う予定だった花火が余っているのでそれを使わないかと言われたのである。
「因みに近隣住民と学園長には許可を取っているよ。じゃないと後が大変だからね」
それを聞いて少しだけホっとする白銀。無許可でこんな事をしていたら、本当に後でどうなるかわからないからである。
京佳は、今朝から密かにこの花火の準備をしていた。龍珠から今回の文化祭で使用する花火を受け取り、それを学校内に龍珠組の若衆を宅配業者に装って一緒に搬入。割と直ぐには準備は出来たのだが、下手に屋上に誰かがきたらバレるかもしれないと思い、京佳は屋上を立ち入り禁止にした。
本当なら龍珠組の若衆にエアコン修理業者を装って、屋上へ入ろうとする生徒を追い払おうと思っていたのだが、彼らは顔がかなりいかつく、下手すると通報されそうだったので断念。結果、別の人にその役と屋上に急に現れた怪盗の役を任せた。
更に龍珠には頭が上がらないと思い、いずれ何か恩返しをしようとしていた京佳だが、この話を聞いた龍珠の父親である龍珠組組長が『そんな事しなくてもいいから、どうぞ派手に思いっきりやりなさい』と言われちゃったのだ。何でも、彼の昔はこういった告白に憧れがあったらしい。
そして極道は、祭り事や派手な事が大好きなのである。龍珠組は元々的屋系の極道なので、猶更そういうのが好きだし、何より伝手が沢山あった。そこに京佳の告白の話がやったきたので、是が非でも協力をすると言い出したのだ。
おかげで、当初の京佳の予定より、ずっと多くの花火が打ち上がる事となったのである。尚、全部ハートの花火なのは龍珠の父親の配慮だったりする。
そして花火の準備を終え、怪盗と暗号を用意し、後は白銀を呼び出すだけとなったのだが、ここで問題が発生。どういう訳か、早坂がずっと京佳の傍に付きっ切りな状態となったのだ。このままでは白銀を時計塔の上に呼び出せても、告白が出来ない。いくら京佳でも、誰かに見られながらの告白は嫌だからである。
そこで京佳は、途中でトイレに行くふりをして、そこで早坂を撒く事にした。丁度早坂が用を足していた瞬間を狙い、京佳はトイレから勢いよく飛び出した。
結果は成功。その後直ぐにインカムでの校内放送でかぐやをかく乱し、京佳は時計塔へと向かう。おかげで京佳は、こうして白銀を時計塔の上で待つ事ができたのだ。
「白銀。奉心伝説を知っているかな?この地の風土記に伝わっている、千年前にあった自己犠牲の純愛物語なんだが」
「勿論だ。というか秀知院の生徒でそれを知らない奴いないと思うぞ?」
実際は、1割弱の生徒が知らなかったりする。そして石上は、その1割弱の生徒に含まれている。
「奉心伝説に則った逸話によると、心臓と同じであるハートの贈り物をした人は、永遠の愛をもたらされるらしい。ロマンチックだよな。私はこういう話好きだよ」
そしていよいよ、京佳の大事な話は佳境を迎える。
「白銀」
京佳は白銀に向き直ると、顔に装着している眼帯を外し始める。
「お、おい立花?」
白銀が止める間もなく、あっと言う間に京佳は眼帯を外し、外した眼帯を制服のポケットに入れる。
「今だけは、この顔で話をさせてくれ」
焼け爛れた左顔が露になるが、京佳は構わず話続ける。
「さっきも言ったが、私はこの顔の左側が大っ嫌いだ。大勢の人から怖がられるし、目は見えないし、当時は鏡で自分の顔を見るたびに泣いていたよ。一時は引きこもり寸前までショックを受けていたけど、今では学校にしっかり通えている。学校に行くようになれたのは、恵美と母さんとお世話になった弁護士さんのおかげだね」
京佳は、火傷跡のある顔の左側を撫でながら話す。
「それでも、学校に行くのは怖かった。知らない子ばかりの学校だったし、何を言われるかわかったもんじゃない。実際、入学当初はそういった影口のような事を言われたし。それだけじゃない。これから先、自分は誰かを好きになっても、一生交際や結婚まではいかないだろうって諦めていた。絶対にまた、気味悪がられてフラれるって思っていたから」
実際中学の頃、京佳はこの顔が原因で当時好きだった男子に罵声を浴びせられている。だから京佳は、もう自分の恋を諦めていた。恐らく自分は、一生独身なのだろうと。
「でも、私は再び人を好きになったんだ。こんな顔をした私が、恋をする事ができた。他ならぬ、君に」
だが、京佳は新しい恋をしてしまった。こんな見た目の自分の事を、一切気味悪がらず、普通に接してくれた子に、京佳は恋をした。
最初は釣り合う訳ないと思い、諦めようともした。でも、諦める事なんて無理だった。それほどまでに、京佳は恋をしたのだから。
「白銀」
京佳は白銀の顔を真っ直ぐ見つめて、口を開く。
「私は、君が好きだ。1人の男の子として、君が大好きだ」
それは、京佳の心からの本音。一切の嘘の無い、愛の告白。
「どうか私と、恋人になってください」
そして京佳は、両手を自分の胸で握りしめ、まるで祈るような姿勢で白銀に頭を下げて返答を待つ。
「……」
白銀からの返答は無い。その無言の白銀の反応が、京佳を少し焦らせる。正直に言うと、今でも怖い。もの凄く怖い。京佳は精神的にかなり強く見えるが、実際はそうでも無い。折角また人を好きになれたのに、もしまた振られでもしたらと思うと、吐きそうになるし、気分も悪くなる。なんなら頭痛もするし、お腹も痛くなる。
でも、この想いを口にせず終わるなんて真似だけは絶対に嫌だ。
ようやく勝ち目ゼロの状態から、ここまでやってきたのだ。数ヵ月かけて、即振られるという事は無いくらいまでやってきたのだ。
なのに、自分の想いを言葉にせずに終わらせるというのはありえない。花火を打ち上げて、相手に察せさせるだけではダメなのだ。こういうのは、しっかり相手に言葉で伝えないと意味が無い。
未だ白銀からの返答が無いまま、空に打ち上がっていた花火は、何時の間にか終わっていた。
「正直言うとさ、俺、凄い悩んでいたんだ…」
花火が終わり、辺りが静寂に包まれた時、ようやく白銀は口を開く。
「立花は多分気が付いていただろうからもう言うけど、俺には好きな子がいた。その子に相応しい男になるべく、俺は必死で努力をした」
白銀の言うう通り、京佳はその子の事を勿論知っている。間違いなく、かぐやの事だ。
「だというのに俺は―――他の子も好きになってしまったんだ」
白銀御行は、とても実直で真面目な子である。こうと決めたら真っすぐにそうするし、酷い事など絶対にしない。困っている人がいたら出来る限り助けるし、誰かを泣かせるなんてもってのほか。少なくとも、今まで彼はそうやって生きてきた。
そんな白銀だが、彼はこれからどうあっても1人の女生徒を泣かせる事になる。
誰も傷つかないハッピーエンド。白銀だってそういう結末の物語は大好きだ。悲しむ人がおらず、皆が笑って過ごせるハッピーエンド。もし叶うのなら、今からでもその最高の未来を目指してみたい。
だが、現実にそんな都合の良い未来は存在しない。
(あの時は、マジで自分が大っ嫌いになったなぁ…)
それもこれも、白銀の気持ちが揺らいでしまった事が原因だ。もし鋼の意志で、この気持ちが揺らがなければ、もっと早い段階で今とは違う別の結末に辿り着けたかもしれない。後悔先に立たずと言うが、まさにその通りだろう。
「この事で、後で何を言われるかわからない。そりゃそうだよな。傍から見たら思わせぶりな態度を取っていたクソ野郎だし」
思わせぶりな態度とは、果たして誰に対してか。しかしこの事で、白銀は苦しんだ。自分がこんな優柔不断な事をしてしまったせいで、どちらかの女性を必ず傷つけるからだ。もしかするとこの事で、いつか天罰が下るかもしれない。
そして、白銀は悩んだ。散々悩んだ。果たして自分は、どちらの女性により惹かれているのかと、毎日毎日悩み続けた。それを考えると夜眠れなくなった時もあったし、食事が喉を通らない時もあった。バイトに集中できない時もあったし、勉強が手につかない事だってあった。
そして白銀は、悩んで悩んで悩んで悩んで、悩み続けた。
「でも俺は、もう迷わない」
だがもう、これ以上白銀は迷わない。何故なら、彼は決めたからだ。この選択で今後誰に何を言われようとも、彼はしっかりと決めたからだ。
「本当なら、そっちが何かするより先にしたかった。これじゃあ、2番煎じだしな。というか、ぶっちゃけ花火の方が凄いし」
そして白銀は、突然スマホを操作する。すると花火が終わった校庭の空に、何かが現れた。それはかなり大きく、まるで気球のようにみえる。校庭にいる生徒も、皆がそれを見ている。そしてその謎の球体は、突然弾けて、何かを大量にまき散らすのだった。
「これが、俺の気持ちだ」
白銀がそう言った瞬間、空から大量のハートの風船が舞い落ちる。これは白銀が考えた作戦『ウルトラロマンティック作戦』だ。臆病でプライドが高い白銀は、相手に『好きです』と言葉にする事が出来ない。どうせなら、相手から告白させようなんて考えている。
そこで考えたのが、この作戦なのだ。文化祭前より準備をしてきて、ほぼ完璧にプランを進めてこれた。予告状を出して藤原の動きを止め、龍珠に恩を変えさせるために協力させ、伊井野の見回りも飲食店が多い方に誘導し、石上のつばめの演劇を見れるよう時間を調整。
予定外の問題があったとすれば、本来なら自分が怪盗の役をする筈だったのに、全く別の知らない誰かが怪盗をやった事と、京佳が用意した新しい暗号。これのおかげで、白銀は作戦は京佳の後追いみたいな形になってしまった。正直、そこだけが少し残念に思う。
だがここまできてこの作戦をやらない訳にはいかないので、白銀は最後まで突貫する事にした。
「立花」
白銀は空から降ってきたハートの風船をひとつ手に取り、顔を赤くしながら京佳に話しかける。
「こんな俺でよければ、こちらこそよろしくお願いします」
そして京佳の告白に、肯定する返事をするのだった。
「……」
白銀の返答を聞いた京佳は、ゆっくりと白銀に近づく。未だに空からハートの風船が舞い降りている中を、ゆっくり歩く。そして白銀の目の前までやってきた京佳は、偶然自分の上から振ってきた風船を手に取り、
「はい」
満面の笑顔で、返事をした。その目には、うっすらと涙が見える。だって、夢にまで見た出来事が遂に訪れたのだ。最初は諦めた恋だった筈なのに、京佳は諦めず、自分から必死になってアプローチをしかけた。何度も何度も、決して諦めず前に進み続けた。その努力の結果が、これである。こんなの、誰だって泣きそうになるくらい嬉しいだろう。
「つーかすげーな立花。まさか告白の為に花火を打ち上げるなんて」
「どうせなら派手にしようって思っていたからね。それに、さっき私の気持ちっていっただろ?重いって思うかもしれないけど、私の気持ちはこれくらい大きいって意味も込めているんだ」
「……やっぱすげーな立花は。俺には花火なんて真似できなかった」
未だに空から風船が舞い降りている中、2人は話を続ける。そして白銀は、改めて京佳が凄い子だと再認識した。自分も今回のウルトラロマンティック作戦というのを考えたが、流石に花火を打ち上げるなんて事は考え着かなかった。
というかぶちゃけ、自分の作戦がしょぼく思える。これなら、もっと派手でロマンティックな事を考えればよかった。例えば、学校にイルミネーションを施すとか。
「しかし、どうやってこんな事可能にしたんだ?花火って決して安く無いだろう?」
「もう言っちゃうけど、龍珠のおかげだよ。組がお世話になっている花火職人から、今年の花火大会で余ったものを使ったんだ」
その発言に、白銀は驚く顔をする。
「……実を言うと、俺もこの大量の風船、龍珠に手伝って貰っているんだ」
「え?そうだったのか?」
2人が話した通り、今回の作戦は経緯は違えど、どちらも龍珠に手伝って貰っている。もし龍珠が手伝ってくれなければ、今回の作戦はどちらも成功しなかっただろう。
「ふふ。まるで恋のキューピットだな」
「ぶふっ…!!」
2人の恋の協力者という意味では、確かに龍珠は恋のキューピットだろう。でも、龍珠が背中から羽を生やして、ハート型の弓矢を持っている姿は全然似合わない。想像しただけで笑えてくるし。
(その事口にしたら、絶対に俺殴られるな…)
白銀は、絶対にこの話は死ぬまで黙っておこうと決めた。
「白銀」
笑いを堪えている白銀に、京佳は再び話しかける。
「不束者ですが、改めて今日からよろしくお願いします」
こうしてこの日、立花京佳と白銀御行は、遂に恋人となったのだ。
本日の勝敗 立花京佳の勝利
「………ウプッ」
と言う訳で、遂に京佳さんエンド達成です。でもこれで終わりじゃありません。まだ続きます。
尚、会長が優柔不断気味なのは、作者がキャラエミュミスったせいです。ごめんなさい。
かぐや様も会長も、原作だと一言も好きって口にしていないんですよね。作者、あれがどうしても納得できなかったんです。なので本作では、京佳さんに絶対に言わせようと決めていました。
あと、暗号は多分間違っていないと思います。
他に変な所などがありましたら言って下さい。修正いたしますので。
次回からは、京佳さんルートでお話を続けます。具体的に言うと、次回から原作ヒロインが超曇ります。そして多分少し闇落ちします。
京佳さんが白銀に告白する時は、
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かぐやがいない間に告白する
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かぐやと共に白銀に告白する