もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 実は今回のお話、先週の投稿前に間違えて1度消してしまいました。結果モチベがダダ下がりしてお休みに。ごめんね。


恋人たちのクリスマス(один アジン)

 

 

 

 

 

 白銀からの電話を受け取った京佳は、帰路に着いていた。しかし、その足取りは非常に重い。視界も暗い。というか周りがよく見えていない。背中からは暗い雰囲気が出ており、何人かすれ違った人も少しびっくりしていた。

 

(いや、そもそも私は片目なんだか、あまり目が見えないのは当然か…はは…)

 

 自分の左顔をそっと撫でながら、京佳は自虐する。人間、ショックな事があると何も考えられなくなり、視界もぼやけるというが、そもそも自分は左目が見えていないのであまり変わらないと自虐する。

 

(なんで、こんな事になったんだろう…?)

 

 だがそんな風に自虐しても、全く気は晴れない。それほどに、京佳は今ショックを受けているのだから。

 

 先程、京佳は白銀に電話越しで別れ話を聞かされた。それを聞いた京佳は、文字通り頭の中が真っ白になった。

 

 ようやく長きにわたるかぐやとの恋愛戦争に勝利を納め、白銀と恋人になれた。そして今日これから白銀との初デートと言う時に、突然聞かせれた別れ話。

 折角服と下着も気合を入れて、美容院に行って髪も綺麗にしたというのに、その全てが無駄となってしまった。おまけに白銀が京佳と別れようと言い出した原因が『顔が気持ち悪いから』というもの。

 これを聞いた時、京佳はかつて中学時代のトラウマを思い出してしまい、本当に心臓が止まりそうになった。

 

 それから暫くはその場に突っ立っていたのだが、今はこうして家に帰っている途中である。待ち人が来ないのに、あれ以上あの場にいてもしょうがないと思ったし、周りに沢山いた幸せそうな恋人たちの姿を、あれ以上見たくなかったからだ。

 

(白銀は悪くない…悪いのは私だ…私のこの見た目が悪いんだ…)

 

 京佳は自分にそう言い聞かせながら、帰路に着く。先程白銀に言われたが、京佳は自分の左顔が大嫌いだ。

 中学時代の事件で、京佳は顔の左側に硫酸をぶっかけられている。その結果左目は失明し、顔の左側にはとても酷い火傷跡が残った。それ以来、まるでゾンビみたいだの、化け物だと言われて、恵美以外の同級生からは気味悪がられているのだ。今も京佳が黒くて大きな眼帯で隠しているのは、自分の左顔を他人に見られたくないからである。

 

 でも、白銀は違った。去年の春に、運悪く顔の左側を見られたが、白銀は全く気持ち悪がる事なんてしなかった。そんな差別なんてしない白銀に、何時しか京佳は恋をしたのだ。

 そして詳細は省くが、羽陽曲折あって京佳は白銀と恋人になれたのだった。

恋人になれた日、京佳はまさに天にも昇る気持ちになれていた。だって本当に嬉しかったのだから。こんな自分が再び恋をして、その上その恋が成就できたのだ。嬉しくない筈が無い。

 

 けれど、それはもう終わってしまった。だって先程、白銀からの電話で別れを切り出されたのだから。

 

(やっぱり、私なんかが恋をしちゃいけなかったんだ…)

 

 中学時代のトラウマのせいで、京佳は自分の見た目が非常にコンプレックスとなっている。

 その結果、自分が恋をする事にとても臆病になっていた。白銀に対して再び恋をする事ができたが、やはりこの左顔のせいで、先程フラれてしまっている。おかげで今の京佳は、自分は部不相応な恋をしてしまったのだと後悔しているのだ。

 

(そうだな…もうこうなったら、生徒会を辞めた方がいいかもしれない。顔合わせるの気まずいし…)

 

 もう生徒会室に行く事すら出来そうにない。だって生徒会室に行けば、白銀に会ってしまう。今更、どんな顔して白銀に会えばいいのかなんてわからない。

 ならばこの際、生徒会をやめてしまうのもいいかもしれない。そもそも自分は庶務だ。辞めたところで、いくらでも変えが効く。

 

(あとは、やっぱりもう恋なんてしない方がいいな。そうすれば、傷つく事も無い訳だし)

 

 そして京佳は、もうこんな自分が恋をする事はやめた方がいいと思う。やはりこんな顔をした自分が、恋なんてする事が間違っていたのだ。

 

「はは、そうだそうだ。私が恋をした事がそもそもの間違いなんだ。恋なんてしなければ、こんな風に傷つく事も無いんだから」

 

 つい、口を開いて呟く京佳。無理矢理にでも明るく振舞おうをするが、その声色は暗い。

 

「帰ったら、もう今日は寝てしまおう。そして明日からは、大学受験目指してもっと勉強をするべきだな。法学部を目指しているんだから、恋に現を抜かしている場合じゃないしな」

 

 自分に言い聞かせるように、京佳は呟く。さっさと寝てしまえば、この胸の痛みも引く筈だ。そもそも自分は弁護士を目指している。そんな自分が、恋愛をする暇なんてある訳が無い。本気で目指しているのなら、もっと本気になって勉強をするべきなのだ。

 

「やだ…」

 

 だが、そう簡単に切り替える事など出来る訳が無い。京佳はその場で足を止めてしまう。そして、目から涙を流し出した。

 

「やだよぉ…」

 

 涙は止まらない。まるでダムが決壊したかのようにあふれ出てくる。そして子供みたいに、京佳は泣きだす。

 

「ひぐっ…えぐ…やだ…やだぁ…」

 

 やっと恋が出来たのだ。こんな自分でも、やっとまた恋が出来たのだ。だっていうのに、こんな終わり方なんてあんまりだ。まだ1度も正式なデートもしていない。というかそのデート前にフラれたし。

 

「こんなの、いやだよぉ…」

 

 こんな現実見たくない。受け入れたくない。でも、フラれた今はもうどうしようも無い。そんな見たくない現実が、京佳に襲い掛かっている。これを受け入れないと前に進めないが、京佳はそれを拒否する。見苦しいと言われてもいい。情けないと言われてもいい。でも、やはりこんな終わり方はイヤだ。もっと白銀と一緒にいたい。もっと恋人らしい事を沢山したい。そんな欲望が、京佳の中に沢山ある。

 なのに、それらはもう叶わない状況になった。まるで天国から地獄に落ちた様な気分だ。このままでは、本当に絶望して自ら命を絶ちかねない。

 

 

 その時だった。

 

 

「立花!!」

 

「!?」

 

 

 

 突然、京佳は後ろから名前を呼ばれた。それも、聞いた事のある声で。京佳が振り返ると、そこには肩で息をして、額からは汗を流している私服姿の白銀がいた。まるで走ってきたばかりみたいな状態である。

 そしてそんな白銀を見た京佳は、

 

「っ!!」

 

 その場から、全力で逃走したのだった。

 

「いやちょっと待ってくれーーー!!」

 

 白銀、慌てて京佳の後を追う。京佳が逃げたのは、単純に今白銀と会って何を話せばいいかわからないからだ。

 なんせついさっき、京佳は白銀にフラれたばかり。それも自分の顔が原因でだ。そんな状態で、白銀と会うなんて無理だ。せめてもっと気持ちに整理がついてからじゃないと無理である。なので逃げた。

 それに今、京佳の顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃである。流石にこんな顔を、白銀に見せたくない。

 

「お願いだ立花!ちょっと俺の話を聞いてくれーー!!」

 

 白銀が京佳を静止するように言うが、京佳は止まらない。このまま家まで全力で走るつもりである。

 しかし、

 

「ぶべぇっ!?」

 

「立花ーーー!?」

 

 京佳はつい足を挫いてしまい、顔面から派手にこけてしまった。

 

 

 

 公園

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん…鼻血も止まったし、もう大丈夫だよ…」

 

 京佳がこけた後、2人は近くの公園に来ていた。京佳がこけた時、京佳は鼻を地面で打ってしまい、結構な量の鼻血をだしたのだ。流石にこのままにしておく訳にはいかないので、白銀は京佳を連れ添って、近くの公園で手当てをしたのだ。といってもポケットティッシュで鼻血を止めて、濡らしたハンカチを鼻に当てているだけだが。

 

「……」

 

「……」

 

 2人はベンチに並んで座っている。しかしお互い会話は無い。なんせ先程、京佳は白銀にフラれたばかりなのだ。言いたい何を話せばいいかなんてわからない。

 

(でも、何か話さないと…)

 

 京佳は何か話題を考える。このまま沈黙しておくのは気まずいし。そこで京佳が考えたた話題が、どうして突然あんな電話をしてきたかという事だ。

 というのも、あの時はあまりに突然の事でパニっクになっていたが、どうして白銀は突然あんな電話をしてきたか疑問だ。

 確かに京佳は、顔に酷い火傷跡がある。しかし、白銀はそんな京佳を受け入れてくれた。なのに突然の掌返し。多少冷静になった今なら、その不自然さに疑問が出てくる。そもそも白銀は優しい子だ。だというのに、いきなりあんなひどい事を言うのは不自然に感じる。

 

(怖いけど、ここで聞いておかないと…)

 

 正直、聞くのは怖い。今でも肩が少し震えている。だってもしこれで本当にあの電話そのままの意味だったら、もう京佳は立ち直れない。

 それでも、聞かないといけない。疑問を疑問のままにしておく事は、絶対にやったらダメだから。

 

「その、白銀「立花!本当にすまなかった!!」え?」

 

 しかし話しかけようとした寸前、白銀が驚きの行動に出た。

 

 何と、その場で土下座をしたのである。

 

「初めてのデートだっていうのに、こんな事になってしまったんだ!謝ってすむ問題じゃないのはわかっている!でも先ずは謝らせてくれ!本当にすまなかった!!」

 

 白銀は、おでこを地面にこすり付ける程に頭を下げる。おかげでその部分だけ、小さなくぼみが出来ていた。

 

「……とりあえず、頭を上げてくれ白銀」

 

「わかった…」

 

 京佳に言われ、白銀は頭を上げる。しかし、地面には座ったままだ。

 

「質問がある。どうしてあんな電話をしたんだ?」

 

 そんな白銀に、京佳はストレートな質問を投げる。勿論、あの電話の事だ。ここであの事を聞いておかないと、お互い前に進めそうにない。だから聞く。

 

「……」

 

 そして質問をされた白銀は、京佳を見つける少し前の事を思い出す。

 

 それは、四宮家別邸での出来事だ。

 

 

 ―――――

 

 目の前にいる、下着姿のかぐや。そして自分は、そのかぐやにベッドに押し倒されている状態。おまけにかぐやは、自分を抱いて欲しいと言ってくる。

 大抵の男なら、誰が見ても美少女と言えるかぐやにこんな事を言われたら抱いてしまうだろう。実際今の白銀は全身がとても熱く、下半身の一部も変形しそうになっている。

 

「っ!!」

 

 しかし白銀は、かぐやを優しく押しのけて直ぐに起き上がると、ベッドの上にあるシーツをかぐやに着せる。そしてかぐやは、まるでおくるみのような見た目となった。

 

「白銀さん?」

 

 シーツにくるまれたかぐやは、きょとんとした顔で白銀を見る。そんなかぐやに対して白銀は、

 

「すまない四宮。それはできない」

 

 ベッドの上で、土下座をしたのだった。

 

「……理由を聞いても?」

 

 かぐやは、冷めた目で白銀を見ながら問いただす。先程白銀は、かぐやに対して可能な限りの償いをすると言っていた。

 なのでかぐやは自分を抱いて欲しいと言ったのだが、白銀はそれを拒否。何でもとは言っていないが、それでも自分に対する償いをしないというのはいかがなものか。一体どんな理由で、白銀はこの提案を断っているのだろう。だから聞く。

 

「俺は、立花を選んだんだ。だから立花を裏切るようなこんな真似は、絶対に出来ない」

 

 しかし、帰ってきた白銀の返答は、至極当たり前の物だった。白銀は既に、京佳と恋人になっている。なのに別の女生と肉体関係を持つなんて、あっていい筈が無い。

 もしこれが夏休み前や、最低でも体育祭直後くらいの出来事であれば、白銀はかぐやに手を出していただろう。

 しかし白銀は悩みに悩んだ末、京佳を選んだ。だからかぐやこの提案の償いを受ける事なんて出来ない。絶対に出来ない。

 

「本当にすまない四宮。四宮がどれだけ傷ついたかなんて、想像も出来ない。多分だけど、今ももの凄く心に傷を負っているとは思う。それも全部俺のせいでだ。だから可能な限り償うつもりはあるが、これはできない」

 

 確かに白銀は、かぐやの事が好きだった。それも本気で恋をしていると言っていいほどに。

 なのに白銀は、途中から京佳の事も好きになってしまったあげく、最後に京佳を選んだ。その選択に後悔は無いが、これでかぐやが深く傷ついた事は想像するまでもない。だからかぐやに対して何かしらの償いはする気でいる。

 しかし、これだけはダメ。これは京佳に対する最悪の裏切り行為だ。もしここでかぐやに手を出してしまえば、絶対に碌な事にならないし、白銀自身も自己嫌悪で死にたくなる。というか多分死ぬ。もしくは龍珠か圭辺りに殺されるだろう。

 

「俺はもう行くよ。立花を待たせているし。そして四宮。この償いはまた別の機会に必ずする。絶対にする。何でもは出来ないが、四宮が納得できる償いを必ずする」

 

 白銀は何度も何度も謝りながら、ベッドから立ち上がりかぐやの部屋を出る。部屋に残されたのは、シーツに身をくるんでいるかぐやだけ。

 

「本当にすなまい。じゃあな」

 

 白銀は最後のもう1度だけかぐやに謝罪すると、そのまま部屋を出る。そして足早で玄関へと向かう。

 

「失礼します、白銀会長」

 

 その途中、白銀は突然声をかけられた。

 

「早坂?」

 

 振り返ると、そこには四宮家の従者であり、かぐやと同じクラスメイトの早坂がメイド服を着た状態で立っていた。

 しかし、その顔はかなり暗い。

 

「これを」

 

 すると早坂は、何かを白銀に差し出す。よく見ると、それは白銀のスマホだった。

 

「預かっていてくれたのか?すまん。それじゃ」

 

 白銀はそれを受け取り、その場を離れようとした。しかし、早坂の次の台詞を聞いて白銀は足を止める。

 

「立花さんは多分、今家に帰っている途中だと思います」

 

「え?」

 

 早坂は、いきなり白銀に京佳の今の居場所を伝える。明らかに変だ。何故京佳は、待ち合わせ場所の駅前広場にいないのか。そしてどうして早坂は、その事を知っているのか。

 

「何で、そんな事を知っているんだ?」

 

 急いでいるが、この事は聞いておかないといけない。その質問に対して早坂は、

 

「実は、貴方がここに運ばれると同時に、パソコンを使ってあなたの合成音声で、立花さんに電話をしました…」

 

「……は?」

 

 かなり予想外の事を言ってきた。

 

「一体、何て言ったんだ?」

 

 自分でも血の気が引くのがわかる白銀。一体早坂が何を言ったのかわからないが、何故かそれが碌な事では無いと思っていたからだ。

 そして、早坂は話す。

 

「……貴方の声で別れ話を。それも、とても酷い言い方で…」

 

「!?」

 

 本当に最低な事を電話越しに話していた事を。

 

「立花さんの心を折るつもりで電話をしました…これ以上、あの子が抵抗も反抗も出来ないように…」

 

 白銀は絶句する。だってそんなの、いくら何でもやりすぎだ。かぐやは言っていないが、恐らく白銀をここに運んだのは早坂かかぐやの息がかかった者だろう。

 だって白銀は、この四宮家別邸にきた記憶が無い。恐らくだが、どこかで自分はここに運ばれてきたのだろう。それだけでもほぼ誘拐だというのに、態々京佳に白銀の合成音声を使って別れ話をするなんて、完全にライン越えだ。

 

「何で…そんな事を…」

 

 しかし白銀は、怒りよりも疑問が先に出ていた。どうしてそんな事をしたのか。何で態々そこまでして、京佳の心を折ろうとしたのか、と。

 

「私は、どうしてもかぐや様にこそ幸せになって欲しかったんです…あの子は、本気で貴方に恋をしました…多分、今後誰も代わりになってなれないくらい、貴方の事を好きになっていました。けれど、それはもう終わってしまった。でも、どうしても諦めきれない。だからこそ、無理矢理にでもお2人をくっつけようとして、そして立花さんがもう2度とかぐや様に抵抗できないように、あのような電話をしました…」

 

 全ては主人であるかぐやの為だと、早坂はポツポツと話し出す。

 

「言っておきますが、この電話の案は私が発案です。決してかぐや様の案ではありません。なので、この事でかぐや様を恨む事はしないでください…」

 

 頭を下げて、早坂は白銀に続けて言う。かぐやが発案したのは、白銀を誘拐して、既成事実を作ろうとした事だけ。

 しかしそこに早坂が、もう2度と京佳が立ち上がれないようにするべきだと提案。その結果、あのようななりすまし電話をしたのだ。

 

「これがとても間違った事なのは重々承知しています。けれど、それでも私はかぐや様は貴方とくっついてほしかったんです…そして、幸せな日々を送って欲しかった…だから行動を起こしました。例え後ろ指を指されても、間違っているやり方だとしても、かぐや様が幸せになれるのなら、それでいいと思って…」

 

 よく見ると、早坂の肩は震えている。これが間違ったやり方なのは、彼女も理解してた。それでも早坂は、かぐやの幸せを優先した。

 しかしやはり、罪悪感が無い訳では無い。こんな事をしておいて今更だろうが。早坂はそれを感じない程の人で無しではない。

 

「でも、それももう終わり。だって貴方は、それでも立花さんを選んだのですから。だから、これ以上もう何もしません…」

 

 しかし、それでも白銀は京佳を選んだ。こうなってしまえば、もう何をしても無駄だろう。今日色々と手を尽くしてきたが、これ以上はもう意味が無い。

 だって完全に、勝負は着いてしまっているのだから。なので早坂は、京佳の居場所を教える。

 

「かぐや様の事は、私に任せてください。貴方は直ぐに、立花さんの元へ」

 

 早坂は頭を下げたまま、白銀に京佳の元へ向かうように言う。この程度で、今日しでかした事の償いになるとは思ってない。けれど、ここで何もしないなんて事は出来なかった。

 

「ありがとう。四宮は頼んだぞ」

 

「はい、いってらっしゃいませ」

 

 早坂にかぐやの事を頼んだ白銀は、直ぐに玄関から出て京佳の元へ向かう。今京佳がどんな気持ちでいるかはわからないが、絶対に良い気持ちなんかじゃない。

 なんせ京佳視点では、突然恋人から別れ話を聞かされているのだ。もし自分がそっち側だったら、多分心臓が止まっている。だから急ぐ。下手をすると、京佳が死んでしまうかもしれないから。

 

「タクシーーー!!」

 

 四宮家別邸を出て直ぐ、白銀はタクシーを拾う。

 

「どちらまで?」

 

「新宿の公園前広場まで!出来る限り急いでください!!」

 

「了解。あ、シートベルトはしてね?」

 

「あ、はい」

 

 白銀がシートベルトを着用したのを確認してから、タクシー運転手兼都内ラーメン四天王の1人高円寺のJ鈴木は、タクシーを発進させる。

 

(待っていてくれ!立花!!)

 

 こうして白銀は、かなり遅くなってからデートの待ち合わせ場所へと向かったのだった。

 そして到着後に京佳が居ないのを確認した後は、必死になって京佳を探した。その結果京佳は見つかり、会う事が出来たのだった。

 

 ―――――

 

 場面は、白銀が京佳を見つけて、その後転んでしまった京佳を公園で手当てしているところへ変わる。

 そして白銀は、たった今京佳にされた質問に対して少し考えていた。京佳の質問は、例の電話について。あれは早坂が、パソコンを使って白銀になりすましてやった電話だ。その事を白銀は早坂本人から聞いている。だから京佳のこの質問には答える事が可能だ。

 

 しかし、

 

「い、言えない…」

 

「……は?」

 

「すまない!その事は今は言えない!!」

 

 白銀は、その質問に答える事はしなかった。

 

(そもそもだ!四宮たちがあんな事をしたのは俺が原因じゃないか!!もし俺の気ちが立花に心変わりしなかったら、四宮があんな事をする訳なかった筈だ!!)

 

 そもそも、白銀はかぐやに惚れていた。そしてかぐやに相応しい男になる為に、白銀はあらゆる努力をしてきた。生徒会長になったのも、それが原因だ。

 その後も勉強や生徒会長の仕事、そしてかぐやに積極的に話しかけるなどをして、白銀はかぐやと恋仲を噂されるまでに至る。

 

 だが白銀はそれから暫くして、自分の気持ちが京佳にも向いている事に気が付いてしまった。

 

 それ以来、白銀はかぐやと京佳、どっちが本当に好きなのかを悩む日々が続く。食事が喉を通らない事もあったし、よく眠れない事もあった。そして羽陽曲折あったが、白銀は最終的に京佳を選んだ。

 しかしこの選択は、今まで散々思わせぶりな態度を取っていたかぐやに対する最悪の仕打ちだ。ある意味、裏切り行為に等しい。

 もしも白銀の気持ちが、ずっとかぐやにしか向いておらず、その後も1度たりとも揺らがなかったら、かぐやが自分を誘拐し、京佳に酷い仕打ちをするなんて事にはならなかった。だからこそ白銀は、今回の事は全部自分に原因があると思っている。

 

(それにだ…!もしここで全部言ってしまえば、立花は絶対に四宮と早坂を許さない…!!)

 

 それだけじゃない。もしここで全ての真実を語ってしまえば、京佳は絶対にかぐやと早坂を恨むだろう。折角恋人になってからの初めてのデートで、その恋人を誘拐されたあげく、自分にはなりすましの電話で別れ話をしてきたのだ。こんな事、誰だって許さない。誰だってブチ切れる。下手をすると、京佳はかぐやたちを殴ってしまうかもしれない。

 元々自分の気持ちが揺らいでしまった事が原因なのに、もしそんな事になってしまったら、もう目も当てられない。

 

「本当にすまないと思っている!だが、今日の事は今は説明できない!でも少しだけ説明すると、その電話は俺じゃない!俺の意志なんかじゃない!!それだけは言える!!いずれ必ず全部説明するから、それまでどうか待っていて欲しい!!頼む!!」

 

 だからこそ、真実を今は言えない。ここで全部言ってしまえば、本当にどうなるかわからない。身勝手だとは思っているし、恋人に隠し事をするなんて最低だとも思っている。何よりこれは、問題の先送りでしかない。

 しかし、ここで生徒会メンバー内で不破を生むような事は絶対に出来ない。

 

「頼む立花!いつか必ず全部話す!こんな事を言うのはおかしいとは思っている!隠し事をするなんて最低な事だって理解している!!だが、どうか今は俺を信じて、今日会った出来事をこれ以上聞かないでくれ!!」

 

 白銀は再び土下座をしながら、京佳に言う。こんな事を言うのは間違っているのだろう。恋人ならば、こんな隠し事はしない方がいいのだろう。

 しかし、今はダメだ。ここで全部言ってしまったら、取り返しのつかない事になる。だから頭を下げて、懇願する。そもそも自分のせいで、こんな事になっているのだ。ならば、可能な限り自分で今回の事を解決しないといけないだろう。

 

「……ひとつだけ聞かせてくれ。浮気とかじゃないんだよな?」

 

 そんな白銀に、京佳は新しい質問を投げる。それは、今とっても気になっている事だ。あんな電話をしたのは、白銀が別の女性と一緒になりたいからと思ったからではないのかと京佳は考えた。だからこの質問である。聞くのは怖いが、ここでこの事を聞いておかないと、もう問いただす機会が無いかもしれない。だからストレートに質問をしたのだ。

 

「ああ!それは絶対に違う!!そして俺は立花と別れようとなんて全く思っていない!!そこは断言できる!!」

 

 京佳の新たな質問に、白銀は直ぐに答える。確かに浮気寸前みたいな事はあったが、白銀は別にかぐやに手は出していない。

 そもそも、白銀の中に京佳と別れるなんて気持ちは全くない。なので今の質問には、直ぐに答える事が出来た。

 

「……わかった、そこまで言うなら信じるよ。そして、これ以上こっちから今日の事を聞く事はしない」

 

「!!感謝する…!!」

 

「でも、何時かは聞かせてくれ」

 

「ああ!勿論だ!!必ず説明をする!!」

 

 白銀の必死の思いが通じたのか、京佳は白銀に今日あった事をこれ以上聞く事をやめる。正直色々聞きたい事は山ほどあるし、未だに疑問は尽きない。

 しかし、ここはとりあえずは白銀を信じようと京佳は決めた。恐らく、簡単に口に出来ない相当な理由があるのだろう。それに、浮気などでは決して無いと白銀は言ってくれた。ならば信じよう。自分の恋人を信じよう。

 

「とりあえず、隣座るか?」

 

「いいのか?」

 

「いいよ」

 

「わかった」

 

 京佳に言われ、白銀は膝の土を落としてから、京佳の隣に座る。

 

「なぁ、白銀」

 

「何だ?」

 

 隣に座った白銀に、京佳は話掛ける。

 

「私の事、好きか?」

 

「好きだ」

 

「本当に?私、こんな顔なのに?」

 

「そんなの関係が無い。例え世界中の誰もが立花の顔を気味悪がったとしても、俺だけは絶対に立花にそんな感情は向けないよ。誰よりも立花を好きでい続ける」

 

「ふふ、そうか」

 

 惚気みたいな質問だが、白銀は嘘を言ってないのがわかる。これ程真っすぐに言ってくれたのだ。これが嘘だなんて思えない。

 

「映画、行けなくなっちゃったね」

 

「……それは本当にすまない」

 

「いいよ。よっぽどの理由があったんだろう?ならしょうがないって」

 

 いつの間にか、2人の距離はどんどん縮まっていた。既に肩が触れ合う距離になっている。

 

「冬は、月が良く見えるな」

 

「空気が感想しているからな。実際、天体観測は冬にやった方がいいって言うし」

 

 2人が空を見上げると、そこには半分だけ見える月があった。冬のためか、とても綺麗に見える。

 

「あ、そうだ」

 

 すると白銀は、何かを思い出したかのように、鞄を漁る。

 

「えっと、立花」

 

「何だ?」

 

「この状況で渡すのは正直どうかと思っているが、今渡しておかないともう渡す事出来そうにないから、渡してもいいかな?」

 

 白銀が鞄から取り出したものは、小さな箱。

 

「それって」

 

「一応、俺からのクリスマスプレゼントだ」

 

 それは、京佳へのクリスマスプレゼント。本当なら映画を観終えた後にどこかで渡すつもりだったのだが、あんな事があったのでその機会を失いかけていた。

 デートをすっぽかし、京佳を酷く傷つけた後でプレゼントを渡すのはどうかも思ったが、今渡しておかないともう渡す機会が無い気がした。

 なので白銀は、多少空気が読めないと思っても、ここで渡す事にした。

 

「うん、ありがとう。勿論受け取るよ」

 

 そして京佳は、そのプレゼントを受け取った。

 

「開けてもいいかな?」

 

「勿論だ」

 

 京佳はそう言うと、箱を丁寧に開けていく。

 

「これは、ハンドウォッシュか?」

 

「色々考えたんだけど、やっぱり日用品が1番喜ばれるかなって思って。一応、有名なブランドのやつだ。何か良い匂いがするらしい」

 

 箱の中に入っていたのは、ハンドウォッシュ、もしくはハンドソープだった。確かに白銀の言う通り、有名なブランドの代物だ。

 

「ふふ、白銀らしいじゃないか。ありがとう」

 

 特別高い代物じゃなく、誰でも手に取る事が出来る日用品。白銀らしいチョイスに、京佳は静かに笑う。

 

「なら、私もお返しをしなくっちゃな」

 

 そして今度は京佳が、バッグの中から何かを取り出した。

 

「はい、メリークリスマス」

 

 京佳は紙袋を取り出して、それを白銀に渡す。

 

「ありがとう。えっと、ここで開けても?」

 

「ああ、どうぞ」

 

 京佳からのクリスマスプレゼントを受け取り、白銀は紙袋を開ける。

 

「これって、マフラーか」

 

 中に入っていたのは、男性用のマフラーだった。

 

「白銀って、マフラーを持っていなかっただろ?だからそれにしたんだ」

 

 確かに白銀は、マフラーを持っていない。冬は何時も、厚手のコートを着て過ごしている。しかし、やはり自転車で走ると首回りが寒いので、これはありがたいプレゼントだ。

 

「今付けてもいいか?」

 

「それなら私が付けていいか?」

 

「ならよろしく頼む」

 

 早速付けようとしたが、どうやら京佳がマフラーを付けてくれるらしい。白銀はその言葉に甘えて、その場でじっとする。

 

「ところで白銀。今日はイブだよな?」

 

「え?そうだが」

 

「そして、私達は恋人同士だ」

 

「あ、ああ。そうだな。そうやって面と向かって言われると恥ずかしいが」

 

 マフラーを首に巻く直前、突然京佳がそんな意味深な事を言い出した。

 

 

 

「なら、いいよね?」

 

「は?ん!?」

 

 

 

 そして突然、京佳は白銀に顔を近づけてキスをしたのだ。

 

(や、柔らかい…!!)

 

 白銀は以前にも京佳にキスをされた事があるが、あれは頬にだ。こうして口にされたのは、今日が初めてである。初めてしたキスは、とても柔らかく、どこか甘い匂いがした。

 

「ふう…」

 

 キスを終えた京佳は、そっと白銀の首にマフラーを巻いてから、人差し指で唇をなぞる。

 

「ふふ、キスしちゃったね」

 

 そのしぐさがとても妖艶に見えてしまい、白銀は京佳に釘付けにされてしまう。

 

「ど、どうしていきなり…」

 

「イブの夜なんだ。キスくらいするだろう?」

 

「……不意打ちがすぎるって」

 

 手を顔に当てると、自分でも顔が熱くなっているのがわかる。

 

(ああ、俺やっぱり、立花に完全に惚れてるんだな…)

 

 同時に白銀は、自分はやはり京佳の事が好きなんだと再認識。この気持ちが揺らぐことは、絶対に無いだろう。今でもかぐやに対する罪悪感はある。でも、それでもこの気持ちが揺らぐとこは、絶対に無い。

 

「なぁ白銀。ここから少しだけ歩くけど、近くに私の行きつけの店があるんだ。そこで夕飯を食べないか?」

 

 そして京佳は、白銀にディナーのお誘いをする。行先は勿論、朝子が店長を務めている喫茶店りぼんだ。

 

「勿論だ。ご一緒させてくれ」

 

「うん、行こ」

 

 京佳は白銀に手を差し伸べ、白銀はそれを優しく握り返してから、2人並んでりぼんへと向かう。

 

(四宮の件は、絶対に俺が何とかしよう。正直、どうすればいいかまだわからないが、絶対になんとかしよう)

 

 道中白銀は、明日以降にかぐやが今日やらかした事に対して何かしらの解決策を考えようと思う。かぐやがあんな事をしたのは、自分のせいだ。

 ならば、絶対に自分が何とかしないといけない。どうすればいいか全く思いつかないが、絶対に何とかする。

 

(でも今は、立花の事だけを考えて過ごそう)

 

 しかし、今は恋人である京佳と一緒にいる。そんな時に、これ以上かぐやの事を考えるのは失礼だ。だから少なくとも京佳と一緒にいる時間だけは、かぐやの事を考えないようにしよと決める。

 その後、白銀は京佳とりぼんで共に夕飯を食べて、京佳を家まで送って自分も家に帰宅をしたのだ。そして、明日以降どうするべきかを考えながら、その日は就寝した。必ず、この件を何とかしようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし2学期の終業式の日になっても、四宮かぐやと早坂愛は学校には来なかった。

 

 

 

 

 




 後半が京佳さんがチョロく見えて、少し無理あるような展開かもだけど、こうでもしないともうお話進める事が出来そうにないのです。本当にごめんなさい。
 そして今更ですが、感想でも言われたように本作にアンチ・ヘイトタグを付けました。今後、どうあってもかぐや様や早坂に対して色々厳しい表現が避けられそうにないのと、前回の行動がライン超えで完全にヤバかったので。詳しくは活動報告に書いておりますので、お時間あれば、そちらもお読みください。
 あと少し前に感想で言われましたが、作者はかぐや様の事嫌っておりません。
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