もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 朝日が昇るまでは日曜日。

 かなりの難産でしたが、ようやく書けました。今回、かぐや様がかなり酷い状態になっております。ファンの方々は、読む際にお気をつけください。


四宮かぐやと後悔

 

 

 

 

 

 文化祭が終わった後の休み明けの平日、秀知院全体に浮かれた空気が漂っていた。

 

「ねぇねぇ?お正月は何処に行く予定なの?」

 

「私の家はね、家族でシンガポールに行く予定!」

 

「私は九州のおばあちゃんの家に行くよ。親戚も集まるしね」

 

「私は家でのんびりかな。パパもママも仕事が忙しいし」

 

 その理由は、明日から2週間ほどの冬休みがあるからだ。夏休み程では無いが、まとまった休みがある冬休み。生徒の中には、既に様々な予定を組んでいる子もいる。旅行や帰省、もしくは何もしない。既に終業式を迎え、あとは帰宅するだけ。こうして、浮かれてしまうのも仕方が無い。

 

(私、何しようかしら…)

 

 しかし眞妃にように、特に予定の無い生徒もいる。彼女はクリスマスにインドに行ったせいで、もう暫くは旅行は遠慮したいと思っているのだ。インドでちょっとお腹壊したし。

 

(正月には親戚一同が集まる新年のパーティーみたいなのがあるけど、それ以外特にする事が無いのよねぇ…)

 

 かといって家にいても、四条家の集まり以外に特に用事が無い。現状、本当に時間を持て余しているのだ。流石にこのまま何もしないというのは勿体無い気がするので、何かしておきたい。

 

(何か有名な連続ドラマの一気見とかしようかしら?確か高校の教師が違法薬物作るアメリカのドラマがかなり面白いって聞いたけど)

 

 あまりドラマに興味は無いが、あえてそうやって自分の部屋で飲み物とお菓子を持ってドラマを見ながら怠惰に過ごすのもいいかもしれない。

 

(渚と翼くんは、一緒に初詣とか行くんだろうなぁ…はは…はぁ…)

 

 しかし自分がそうやって家で過ごしている間にも、渚と翼の2人は正月デートをするのだろうと思うと、いくら面白いドラマを見ても楽しめそうにない。だってふとした瞬間に思い出しちゃうから。

 

(私も、誰かとどこかに行こうかしら?)

 

 やはりここは、何か別の手段を持って気分を晴らしたい。例えば初詣とか、初売りとか、初日の出とか。

 

(初日の出…そうよ、初日の出…!!

 

 その時、眞妃に電流走る。初日の出とは、その年の初めての日の出の事。日本各地で毎年それを見ようと、朝早くに起きる人も大勢いる。これは、昔から日本では初日の出と共に神様が現れるとされており、初日の出を拝む事でその年の豊作や幸せを願う風習があったからだ。

 近年でもこの風習は多くの日本人がしており、中にはより良い初日の出を見る為に高い山に登山をして、その山の山頂で初日の出を見る人もいる。登山を終えてから初日の出を見ると、達成感もあってより初日の出が綺麗に見えるらしい。

 そして人は初日の出を見ると、気分が一新されると言われている。科学的根拠は無いが、そう思う人は沢山いるのだ。

 

(よし決めた!今年の年末年始はどっかの山に登って初日の出を見るわよ!そうすれば多少は私も前に進める筈!!)

 

 何時までも渚と翼の事で悲しんでいてはいけない。なんせ自分は四条家の令嬢。このままずーっと悲しんでいるなんてダメだ。だから正月に初日の出を見て、気分を一新しよう。そして再び前に進むのだ。

 

 こうして眞妃は、正月に山に登って初日の出を見る事にするのだった。

 

(それに苦労して初日の出を見れば、何か好転するかもしれないし!!例えば、翼くんが私と結ばれるとか!!)

 

 内心、そんな邪な願いを持ちながら。

 

 因みに最初は、どうせならと思い富士山に登ろうとしていたが、夏ならともかく冬の富士山はベテラン登山家でも命の危険があるくらいヤバイ山なので、初心者でも比較的登りやすい筑波山に登る事にした。尚当然ながら、弟の帝も一緒である。というか多分、姉が心配だから普通についてくると思う。

 

 

 

(そういえば結局、叔母様学校に来なかったわね。そんなに酷い風邪なのかしら?)

 

 

 

 そして眞妃は、文化祭以降学校に来ていない叔母の事を少しだけ心配した。

 

 

 

 

 

 生徒会室

 

「伊井野、腕は大丈夫か?」

 

「はい、何とか大丈夫です。それに、石上に色々面倒見て貰っていますし」

 

「そうか。でも困った事があったら言ってくれ」

 

「そうですよミコちゃん。石上くんに出来ない事があったら、何でも言ってくださいね?」

 

「ありがとうございます、先輩方」

 

 生徒会室では、京佳と藤原が腕に包帯を巻いている伊井野を気遣っていた。なんせ今の伊井野は、右腕に包帯を巻いているからである。

 

 実は伊井野、クリスマスに階段から落ちて腕を折ってしまったのだ。

 

 詳しい事はよくわからないが、何でも石上が階段から落ちそうになったのをとっさに助けた結果らしい。その結果、伊井野は石上に色々と自分の面倒を見せて貰っているのだ。授業内容をノートにとる、喉が渇いたら飲み物を買ってきて貰う、制服の襟を直して貰う。他にも日常の様々な事を石上にやらせている。至れり尽くせりだ。

 しかし石上の負担がとても大きいので、生徒会室では同性の京佳や藤原が色々と手を貸している。

 

「お前も大変だな、石上」

 

「まぁ…僕の責任ですし…」

 

 白銀はパソコンでデータ入力をしている石上に少し同情する。だって今の石上は、完全に伊井野のパシリだ。どうも石上に責任があるらしいが、それでもこれは少しキツイ。石上本人はあまり気にしていないみたいだが。

 

「それにしても、四宮先輩、今日も来てませんね」

 

 データ入力を終えた石上が、パソコンを閉じてずっと気にしている事を言う。今、生徒会室には生徒会役員が5人しかいない。副会長であるかぐやは、文化祭以降ずっと休んでいるのだ。

 

「風邪をこじらせたって聞いてますけど、それにしても長いし…」

 

「石上と同じ意見なのは凄く嫌だけど、確かにずっとこないのは心配ね」

 

「何でお前何時も一言多いの?」

 

 家からの連絡で、どうもかぐやは風邪をひどくこじらせてしまったらしい。おかげで終業式の今日まで、ずっと学校に来ていないのだ。尚この事を聞いた新聞部の2人は、あまりに心配だったせいなのか気を失って保健室に運ばれた。

 

「私、今日かぐやさんの家にお見舞いに行こうと思います。もしかすると、今日がかぐやさんと会える最後の日になるかもしれませんし」

 

「藤原先輩、縁起でもない事を言わないでくれません?怖いっすよ」

 

 藤原はお見舞いに行こうと言い出すが、その理由が縁起でも無い。確かに風邪をこじらせて亡くなる人はいるが、だとしても態々言わないで欲しい。

 

「やめておけ藤原。たぶん、今四宮は風邪で相当キツイ筈だ。お見舞いに行っても、会う事すら出来ないだろう。それに今行っても、変に四宮は気を使ってしまう」

 

「でも会長!私かぐやさんが心配なんですよ!!」

 

「四宮の事が心配な気持ちはわかるが、今は待っておけ。四宮の体調がしっかり治ったら時までな」

 

「むー」

 

「ほっぺた膨らませてもダメ」

 

 そんな藤原に、白銀は待ったをかける。確かにここまで休むほど酷い風邪なら、相当に体調が悪いだろう。そんな時にお見舞いに行くのは、色々と大変だ。だから藤原に行かせないように言う。藤原は納得できていない様子だが。

 

(マジでどうしよう…?)

 

 しかし、白銀が藤原にかぐやの家に行かせないようにしたのは、何もかぐやの体調を気遣っているだけでは無い。単純に今のかぐやの事を思うと、誰にも会わせない方がいいと思ったからだ。

 だってかぐやが学校に来ていないのは、白銀が原因だからである。

 

 クリスマスの夜、かぐやは白銀を誘拐して自分の部屋に招き入れた。そこでかぐやは、白銀が自分に好意を寄せていた事を問い詰めてきた。白銀はこの質問に肯定する答えを言い、かぐやに謝罪をした。今まで思わせぶりな態度を取っておきながら、最後はかぐやでは無く京佳を選んでいる。かぐやからしてみれば、ふざけるなと言う話である。

 

 だからかぐやは、白銀にそれまでの事の償いと称して自分を抱くように言って来たのだ。

 

 口では謝罪とか償いとか言っているかぐやだが、本心では白銀を諦める事が出来ない故に起した最終手段である。四宮かぐやは、白銀御行が好きだ。他の誰も代わりになれないくらい、白銀が好きだ。

 しかしその白銀は、自分とは別の女性である京佳を選んでしまった。普通ならば、自分の恋は終わった物として心に傷を負ってでも前を向いて生きて行くだろう。だが、かぐやはどうしても白銀を諦める事が出来ずにいた。

 故に、あのような強硬手段に打って出たのである。このまま自分が白銀と関係を持ってしまえば、京佳と白銀を別れさせる事が出来ると思い。

 そしてそのまま更に京佳を追い詰めて再起不能にしてしまえば、もう勝ちだ。これで自分の恋は報われて、幸せを手にする事が出来る。

 

 けれど白銀は、かぐやの願いを聞き入れなかった。

 

 自分はもう、京佳を選んだ。だからこそ、京佳を裏切る真似は出来ない。白銀はそう言って、かぐやの部屋を後にしたのだ。

 

 そしてそれからかぐや学校に来なくなり、連絡も一切つかなくなっている。

 

(何度か連絡したが、電話もメールもSNSも全部無視されてる…それに早坂も学校に来ていないから、マジで詳細がわからない…)

 

 それにかぐやだけでは無い。従者である早坂も、学校をずっと休んでいるのだ。かぐやの事を聞こうにも、その早坂すらいないのでは本当に何もわからない。

 残る手段は四宮家別邸に直接行く事だが、できればそれは避けたい。なんせ白銀は、かぐやをフったのだ。そんな自分が、どんな顔をしてかぐやに会いにいけるのだろう。

 

(四宮が学校に来ないのは、間違いなく俺のせいだ…何とかしないといけないが、どうすればいいんだこれ…)

 

 白銀は何とかしてかぐやを助けたいと思っている。しかしどれだけ悩んでも、解決策が思い浮かばない。そもそも自分に原因がある。そんな自分がかぐやに会いに行ったとして、何て声をかければいいのか。というか会ったところで、どうすればいいかがまるで思いつかない。

 

(はぁ…どうするべきか…)

 

 白銀は静かにため息をつきながら、どうすればいいかを考えるのだった。

 

(四宮、大丈夫だろうか?)

 

 そして京佳も、かぐやの事を心配していた。家からの連絡でかぐやは風邪をひいた事になっているが、京佳はそうは思っていない。京佳は、かぐやが失恋のショックから立ち直れていないと思っている。恐らくどこかで自分と白銀が恋人同士になったのを知って、その結果今もショックを受けているのだろう。

 だって自分も白銀にフラれたら、絶対に数日は落ち込む自信がある。同じ人を好きになった京佳だから、そう思っているのだ。

 

(ここで私が何か話しかけるのは違うよなぁ…向こうからしたら嫌味にしか思えないだろうし)

 

 およそ9ヵ月に渡るかぐやとの恋愛戦争に、京佳は勝利して、白銀と恋人同士になれた。そんな自分が敗北者であるかぐやに、一体どう話しかければいいと言うのか。

 

(それにしても、あの電話は…)

 

 同時に京佳は、ある出来事を思い出す。それはクリスマスの夜に自分のスマホに掛かってきた、偽白銀からの別れの電話。あの電話を聞いた時、京佳は頭が真っ白になった。それほどまでに、京佳の精神を削る電話だったのだ。

 結局あの電話は白銀本人では無い事がわかったが、ならば誰があんな電話をしてきたのだろうか。京佳はそれが気になる。

 そして白銀は、あの電話が誰からかを知っている。出来れば今すぐにでも、白銀から真実を聞きたい。

 

(でも、私は白銀を信じるって決めたんだ。ならば、この件は白銀が話すまでは何も聞かないようにしよう)

 

 しかし、この件は白銀が必ず話すのでそれまで待っていて欲しいと言って来た。恐らく、余程の訳があるのだろう。そして京佳は、そんな白銀を信じる事にした。ならば待とう。白銀が真実を話すまで待っていよう。それが白銀の恋人としての、今の役割なのだから。

 

 

 

 

 四宮家別邸

 

「かぐや様、お食事は?」

 

 かぐやの部屋の前では、メイドの早坂が今日の食事について聞いていた。

 

「いらない…」

 

 だが扉の向こうにあるかぐやの部屋からは、食事がいらないという返答。

 

「ですが、もう3日も水くらいしか口にしていないじゃないですか。せめて簡単な物だけでも」

 

 早坂が心配するのも無理は無い。クリスマスの翌日から、かぐやは食事をほぼ取っていないのだから。おまけに今の声も、かなり弱弱しい。これでは本当に倒れてしまうかもしれない。この際エナジーバーでもいいから食べて貰いたい。

 

「お腹、空いていないの。だからいいわ…」

 

「……わかりました。ではここに水を置いておきます。何かあったら、またお呼びください」

 

 けれどかぐやは、やはり食事はいらないと言う。早坂もそれ以上は何も言えず、部屋の前に水の入ったペットボトルを置いて立ち去った。

 

(わかってる。こうなったのは、私の責任でもあるんだから)

 

 廊下を歩く早坂は、両手で胸を抑える。かぐやがこんな風になったいるのは、自分がクリスマスのあの作戦に協力したせいだ。早坂はこれは間違っていると思いつつも、これでかぐやが幸せになれるのなら良いと思い、かぐやに協力をした。

 だが結局作戦は失敗し、かぐやは部屋に閉じこもってしまったのである。

 

「私、メイド失格だなぁ…」

 

 もしもあの時かぐやの協力を拒んでいれば、かぐやはこんな風にはならなかったかもしれない。後悔先に立たずとは、まさにこの事だろう。

 

(誰か、かぐや様を助けてあげて…)

 

 もう自分では、どうあってもかぐやを救えない。だから早坂は、願ってしまう。今更こんな事を願うのはおこがましい。それでも早坂は、願わずにはいられない。

 もしかぐやを救ってくれるのあらば、自分は何だってする。だから誰でもいい。誰でもいいから、主人であるかぐやを救ってくれと願わずにはいられない。

 

 ピンポーン

 

「え?」

 

 そんな時、別邸にチャイムの音が鳴り響いた。

 

 

 

「……」

 

 部屋の中では、かぐやがベッドの上で毛布にくるまって体育座りをしていた。着ているのは普段仕様している寝巻なのだが、1日中ずっと着ているせいかシワが目立つ。

 更に見た目も酷い。髪はぼさぼさになっているし、肌も少し痛んでいる。目元には隈があるし、その目はやや映ろで、心ここにあらずと言った感じ。

 おまけにこの2日間シャワーすら浴びていないので、正直少し匂う。トイレ以外、部屋から全く出てこないその姿、まさに引きこもり。今のかぐやを姿見たら、かぐやファンの子はとても嘆くだろう。というか今のかぐやが普段のかぐやと違い過ぎて、かぐやと認識できないかもしれない。

 

「まだ、痛い…」

 

 かぐやは右手で、自分の左頬をそっと撫でる。そこには小さい湿布が張られていた。これは数日前のクリスマスに、執事の高橋にひっぱたかれた後である。

 

 

 

 3日前

 

スパァン

 

 かぐやの部屋に、乾いた音が響く。

 

「かぐや様。貴方は、ご自分が何をしたのかわかっていますか?」

 

 かぐやの目の前には、怒りを露にしている執事の高橋がいる。彼は今、自分の主人であるかぐやに思いっきりビンタをしたのである。高橋はクリスマスの今日、別の仕事があったので別邸を離れていた。そこをかぐやは狙い、早坂に命令をして白銀を誘拐したのだ。もし高橋がいたら、そもそも白銀を部屋まで運ぶことなど出来ないからである。結局作戦は失敗したが。

 そして高橋が帰ってくると、かぐやの部屋には茫然としているかぐや。何があったのか高橋が本人から聞いてみると、何と白銀を誘拐して無理矢理既成事実を作ろうとしたとかぐやは話す。この事に、高橋は激怒したのだ。

 

「わかっているのかと聞いているのです!!」

 

 高橋がこんなに怒るのも当然だ。だってかぐやがした事は、ほぼ犯罪である。例えるなら誘拐からの強姦未遂。こんな事、到底許される訳が無い。

 かぐやが幼い頃からずっと面倒を見てきた高橋は、これまでもかぐやを叱った事はあったが、手が出たのは今回が初めてである。それだけ、高橋は怒っているのだ。

 

「待ってください高橋さん!この件は、私がかぐや様をそそのかしたのが原因です!それにこんな事を考えたのも私です!罰を受けるべきは私です!なのでどうか、どうかかぐや様は…!!」

 

 そこに早坂が、これは自分が言い出した事だと割り込んでくる。だが、これは嘘だ。今回のこれは、かぐやが考えた事。確かに電話の件は早坂が考えたし、彼女も手伝いはしたが、そもそもの発案者はかぐやである。

 それでも早坂は、かぐやにこれ以上辛い目に合って欲しくない。もし今のかぐやに罪の意識が芽生えてしまえば、どうなるかわからない。だからこそ早坂は、かぐやを庇う。

 

「もういいのよ早坂…庇わなくていいわ…」

 

「かぐや様…?」

 

 しかしかぐやは、逆に早坂を静止させる。

 

「そもそも、例え貴方が私をそそのかしたとしても、最終的に命令を下したのは私だもの。つまり、責任は全て私にあるわ。それに最初から最後まで、こんな事を考えて実行させたのは私。ならば、罰を受けるのは当然私でしょう…?」

 

 高橋にひっぱたかれたかぐやは、ようやく自分が間違った事をしたのだと認識。いくら白銀が諦めきれないからとしても、こんな事は間違っている。その事実に、ようやく気が付いたのだ。

 

「この件は、必ずかぐや様自身が何とかするように。ご自分で蒔いた種です。早坂を使う事も、私や志賀を使う事も、ましてや本家の力を使う事も許しません。かぐや様自身が、ちゃんと納めるようにしなさい」

 

 そして高橋は、かぐやに今回の件について自分で尻拭いをするように言う。ここで誰かに頼ってしまえば、かぐやの成長にならないし、何よりこんな事を誰に手伝って貰うのは責任から逃れている事になる。

 それにもし、ここで別の誰かに責任を擦り付けようとすれば、それはかぐやが嫌っている本家の人間と同じになってしまう。だからこそ、かぐや本人にしっかりと責任を取らせる事にしたのだ。

 

「……わかったわ」

 

 かぐやもその事に同意する。こうしてかぐやは、人生最悪とも言えるクリスマスを過ごしたのだった。

 

 

 

 

 そして翌日から、かぐやは自室に籠って今後の事を考える。しかし、全くと言っていい程何も考えつかない。頭脳明晰で自他共に認めている天才のかぐやが、全く何も思いつかない。

 そもそも、今回かぐやがしでかした事はとても許される事では無い。なんせ想い人を誘拐し、更に恋敵を陥れようとしたのだ。下手をすれば、京佳の方はショックのあまりどうにかなっていたかもしれない。

 

(今更、どの面下げて学校に行けばいいの?)

 

 そんな事をしておいて、普通に学校に行ける筈かぐやの面は厚く無かった。これが闇かぐやとしての精神を保てていれば、まだ何とかできただろう。

 しかし高橋にひっぱたかれてから、ようやくかぐやは冷静になれたのだ。自分がしでかした事は、とうてい許される事では無いと。今更になってかぐやは、自分がとんでもない事をしてしまったと理解したのだ。

 

「怖い…」

 

 それだけじゃない。もしも今回、かぐやがしでかした事が生徒会の皆に知られてしまったらと思うと、怖くて仕方が無い。間違いなく、皆自分を軽蔑するだろう。藤原も石上も伊井野も白銀でさえ、自分を軽蔑する。

 特に京佳に知られたら、殴られるだけじゃすまないかもしれない。もしかぐやが逆の立場だったら、そうする。そんな事をどうしても考えてしまう。この事が皆にバレて、皆から罵詈雑言を言われる未来を。皆から、軽蔑の視線を向けられるのを。

 

「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ…!!ぐっ…!?」

 

 そんな事を考えると、動悸が激しくなり胸が痛い。息もとても苦しい。かぐやは両手で胸を抑えながらベッドに横になり、ゆっくり深呼吸をする。暫くすると動悸が治まるが、かぐやはベッドに横になったままだ。

 

「私、何をしてたのかしら…?」

 

 今思えば、あの時の自分は完全に正気を失っていた。いくら京佳に白銀を取られたからと言っても、あんな事は許されない。許される訳が無い。もし自分が逆の立場なら、絶対に許さない。その事を考えていると、日に日に罪悪感が増していく。胸が痛く、食事が喉を通らない。おかげで体感で体重が2キロ落ちた。本当に自分は何をしていたのだろうか。

 

「誰も、いない…」

 

 それだけじゃない。本来ならかぐやの脳内にいるはずの別人格たち、それも今は全く出てこない。困った時に話し合う場所である脳内裁判所。そこには今、闇かぐや1人しかいない。それに、周りは真っ暗だ。

 

「ねぇ…?誰かいないの…?」

 

 声をかけてみるが、誰からも応答はない。それもその筈。あの日、闇かぐやが全員を闇に消してしまったからだ。この闇から他のかぐや達がいつ出てくるかなんて、闇かぐや自身にもわからない。もしかすると、もう2度と出てこないかもしれない。これでは何時のように、脳内会議をする事も出来ない。

 

 更にかぐやは、白銀に言われた言葉を思い出す。

 

 『俺は、立花を選んだんだ。だから立花を裏切るようなこんな真似は、絶対に出来ない』

 

 そう言った白銀の顔は、とても真っすぐだった。その目にはもう、自分は映っていない。別の誰かが映っている。そしてその時、かぐやはようやく理解したのだ、

 

 ああ、私はフラれたんだと。

 

 その事を、頭では理解しているつもりだった。けれど、その他が理解をずっと拒んでいたのである。故にかぐやは、あんな真似をしてしまったのだ。

 そしてそこからようやく冷静になったはいいが、今更になって罪悪感と後悔で心がグチャグチャになり、今のかぐやの精神状態はボロボロになっていた。

 

(そもそも、私がもっと早く素直になっていれば、こんな事にはならなかったじゃない…)

 

 今ならわかる。もっと早くプライドを捨てて素直になって、白銀に自分から告白をしていればよかったと。早坂はその事をずっと言っていたが、自分は何時もそれに耳を貸そうとはしなかった。

 その結果が、これだ。

 そもそも、告白するチャンスはいくらでもあった。もしも、白銀と2人きりで動物園デートに行った時に告白とかしていれば、今頃白銀の彼女になれたのは自分だったかもしれない。

 もしも、京佳が白銀を好きになる前に告白をしていれば、今頃白銀と楽しい年末を過ごしていたかもしれない。

 でも、今更後悔しても遅い。だってこのかぐやの恋は、もう終わってしまったのだから。

 

「こんな事なら…」

 

 かぐやの目から、静かに涙が出る。

 

「こんな思いをするくらいなら…」

 

 かぐやはそれを受け止めずに、そのまま流す。両目から沢山の涙が流れ出る。

 

「恋なんて、しなきゃよかった…」

 

 失恋がここまで辛いなんて思わなかった。こんなにもキツイなんて知らなかった。

 

「ううぅう…うえっ…うう…ぐずっ…!!」

 

 色んな感情でぐちゃぐちゃになり、とうとう子供みたいに泣き出すかぐや。

 

(もう私は、生きていても仕方ないんじゃ…?)

 

 そして遂に、生きる希望すらかぐやは無くし出していた。好きな男は別の女と一緒になり、自分は最低な事をしてその男を取り戻そうとした。

 その結果、多くの信頼を失ってしまっている。今更学校になんて行けない。もういっその事、このまま全ての行いにけじめをつけるべく、お空の上にいるであろう母親のところに行こうかとさえ考え始める。部屋の窓を開けて、そこから首を下にして窓から飛び降りれば簡単にあの世まで行ける筈だ。

 

(そうよ…こんな私はもう、死んだほうがいいに決まってる…)

 

 限界を迎えたかぐやは、遂に生きている事を諦め出した。自分がやった事、そしてなにより白銀に振られた事で、生きる意味を失ってしまったのだ。こんな自分には、遺書すら必要ないだろう。今すぐ死んでけじめをつけてしまおう。

 それにどうせこのまま生きていても、いずれは四宮本家によって政略結婚させられる未来しかない。ならば今のうちに、真の意味で自由になるべきかもしれない。

 そしてあの世で、ほんの数日しか一緒にいられなかった母親に謝ろう。『自分はとても情けない親不孝者です。本当にごめんなさい』と。

 

(いえ、そもそも私は地獄に落ちるでしょうから、お母様に会う事さえできないでしょうね…)

 

 だが人を誘拐し、恋敵を精神的に追い詰めようとした自分は、天国になんて行ける訳が無い。ほぼ間違いなく、地獄行だろう。そう思いながらかぐやが窓の方へ歩き出そうとした時、

 

 コンコン

 

 誰かが、部屋の扉をノックした。そのノックのおかげで、かぐやは戦前のところで足を止める。

 

「…………誰?」

 

 恐らく早坂か高橋、もしくは志賀だろうが、念の為誰かと尋ねる。そして少しだけ話をしたら、今度こそ窓から飛び降りそう。

 

 しかし、聞こえた声は予想外のものだった。

 

 

 

 

「こんばんわ、かぐやさん」

 

「……え?」

 

 

 

 

 その声に、かぐやは思わず呆気に取られる。

 

 何せ扉の向こうから聞こえたのは、かぐやの友達である藤原千花の声だったのだから。

 

 

 

 

 




 かなり前にアンケート取っていましたけど、もうこうなったらかぐや様を救えるのって、この子しかいないと思うんですよ。
 いや、会長じゃないんかいって思われるでしょうが、ここの会長は原作と違ってかぐや様の事振ってるし、そもそもここからかぐや様を会長が救える展開を思いつかなかったもので。ごめんなさい。

 そして友達に『何時までも長々と原作キャラを苦しめるのはよくない』と言われましたので、次回でさくっとかぐや様救済予定です。ややご都合展開になってしまうかもですが、どうかご了承くださいませ。

 次回も何とか書ききります。
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