もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
数分前
「こんばんわー。誰かいませんかー?」
四宮家別邸の玄関に、チャイムの音が鳴り響く。それと同時に、女性の声も聞こえる。早坂は、別邸内にある防犯カメラのモニター室で来客を確認。
「書記ちゃん…?」
別邸にやってきた来客は、かぐやと早坂の同級生で友達の藤原千花だった。その手には通学鞄と、何やらビニール袋が握られている。恐らく、風邪で休んでいる事になっているかぐやのお見舞いにきたのだろう。
「……」
ここで早坂は考える。このまま、藤原をかぐやと会わせてもいいのかと。今のかぐやは、とても危うい精神状態だ。振れるだけで、そのまま壊れてしまうような気さえする。
そんなかぐやに、生徒会の暴走特急である藤原を会わせてもいいのか。下手をするとかぐやは、もう2度と立ち直れなくなってしまうかもしれない。
(でも、彼女なら…)
だが早坂は同時に、自分ではもう助ける事が出来ないかぐやを、藤原であれば助ける事が出来るかもしれないとも思っていた。
何時もは意味の良くわからない行動を取る彼女だが、何だかんだで人を傷つけるような真似はしない。
(…………大丈夫だよね?)
いや、極稀に何気なくしたりするが今回は大丈夫だろう。多分、きっと、恐らく、メイビー。
(うん、やろう)
こうして早坂は決めた。このまま藤原を招き入れて、かぐやに会わせてみようと。今のかぐやをこのままにはしておけない。
そして早坂は素早く変装をして、藤原を別邸内に招き入れてかぐやに会わせる事にした。それが、自分がかぐやにしてやれる最後の手助けだと信じて。もしかすると、この行動で執事の高橋に怒られるかもしれない。でもいざそうなったら、どんな責任でも取る。例えそれが、自分の命に係わる事だとしても。
「どうして、藤原さんがここに…?」
「お見舞いに来ました」
扉の向こう側から聞こえるのは、間違いなく藤原の声。そして彼女は、ここにお見舞いに来たと言い出す。
現在かぐやは、学校には風邪をこじらせたという嘘をついて休んでいので、藤原がこうしてお見舞いに来るのはある意味当然の事かもしれない。これが本当に、風邪をこじらせている状態で藤原がお見舞いに来てくれているのならば、かぐやも素直に嬉しかっただろう。
だが今のかぐやにとって、藤原のこの優しさは受け入れられないものだった。
なんせかぐやは、風邪をこじらせてなんていない。本当は、今更皆に合わせる顔が無いから不登校になっているだけだ。
「あ、来る前にかぐやさんが好きな銀座の四越のゼリーを買って来ましたよ。もし食べれそうに無かったら、元気になった時にでも食べて頂ければいいですから」
「帰ってください」
「……へ?」
「その、風邪をうつしたらいけないので…」
だからかぐやは、藤原には会えない。直接顔を見て話すなんて、絶対に出来ない。
(会えない…怖くて、会うなんて出来ない…!!)
藤原千花は、疑う余地の無い善人だ。偶に意味不明な行いこそするが、彼女は間違いなく善人である。大抵のおふざけは許してくれるし、多少雑に扱ってもそこまでキレない。こんな子探したところで、中々いないだろう。
それだけじゃない。藤原は、かぐやが認めた数少ない友達だ。
実はかぐやは、四宮家という特殊な家で育った結果、人を試すという悪癖をつけてしまっている。自分に近づいてきた相手にゴシップ心を震わせる秘密の話をして、その後に早坂を使ってその話題をその人物の周囲に振らす。もしその時に秘密がバレていれば、その人物とは決して友達にはならない。
このテストは想像以上に厳しく、殆どの生徒はクリアできずにいた。クリアしたのが早坂と柏木と四条、その他にも数名がいる。
そしてこの試験に、余裕で合格したのが藤原なのだ。故にかぐやは、何時も藤原に対して色々と酷い事を思ったりしていたりするが、藤原の事を本当に信用のおける大切な友達だと思っているのだ。
だと言うのに、もしそんな藤原に拒絶なんてされてしまったら、本当に絶望しかねない。
(無理…!そんな事になったら、本当に生きていけない…!!)
何度も考えてしまう。もし、藤原に心底軽蔑されてしまったらと。藤原から、罵詈雑言を浴びされらたらと。考えるだけで恐ろしい。
故に、かぐやは藤原に会う事はしない。会って拒絶されるのが怖いから。
「大丈夫ですって~。ちゃんとマスクしてますし。それに私、毎年必ず予防接種はしてるから風邪がうつる事なんてありませんって」
しかし、当の藤原はそんなかぐやの気持ちなんて知りもしない。彼女は、普通に風邪をこじらせたかぐやのお見舞いにきているだけなのだ。それに、藤原はどうしても胸騒ぎがしていた。
もしかすると、今日がかぐやに会える最後の日になるかもしれない、と。
生徒会室で言っていたその気持ちが、どうしても消えない。何故か藤原は、本当にもうかぐやに2度と会えなくなる気がして仕方が無かったのだ。なので藤原は今日、白銀の注意を無視してかぐやのお見舞いにきたのである。
「だ、ダメです…それでもダメです…万が一が、ありますから…」
しかしそれでも、かぐやは藤原に会おうとはしない。
四宮かぐやは、到底許されない事をした。
想い人を誘拐し、無理やり行為に及ぼうとして、更に恋敵だった相手を精神的に陥れようとした。それも、とても酷いやり方で。
こんな事をした自分が、今更皆に会える訳が無い。会う資格を、自ら無くしているからだ。だからこそ、会えない。会って話すなんて絶対に出来ない。
「そこまで心配してくれてありがたいですけど、大丈夫ですって。私風邪なんて早々うつりませんって。だから」
「いいから帰ってください!!」
「え…」
一向に帰ろうとしない藤原に、とうとうかぐやは大声で怒鳴り出す。
「私は会いたくないって言っているんです!!だったらそんなにグイグイ来ないで、少しは遠慮して帰ろうとしてください!!」
「えっと…」
「兎に角、今すぐに帰って!!!」
心にもない事を言うかぐや。当然だが、これはかぐやが藤原に会わない様にするために口にしている事だ。このままでは藤原は、普通に部屋に入ってきそうである。
しかし、かぐやは藤原に会うなんてもうできない。怖いし、もうその資格が無いからだ。だから、多少乱暴な言い方をしてでもここで藤原を突き放す。
「……」
するとどうか。今まで話していた藤原が、口を閉じた。そして、足音が遠ざかっていくのが聞こえる。恐らく、帰宅する為に玄関へ向かったのだろう。
(これでいい…これでいいのよ。だって、会う事なんて出来ないんだから…)
かぐやはドアから離れて、部屋の中にある椅子に座る。もうこれで、藤原には嫌われてしまったかもしれない。でも、あの事が知られて拒絶されるよりは良い。
(本当に私は、最低な女ね…)
藤原は善意で自分のお見舞いにきてくれた。だというのにあの態度。こんなの、最低も最低な行為だ。でも、全部自分で蒔いた種なので仕方が無い。
(でも最後に、藤原さんと話せてよかった…)
しかしちょっとだけ、かぐやの心は軽くなっていた。なんせかぐやは今、死ぬつもりである。こんな自分は、もう生きている価値すらないと思ってしまっているからだ。可能であれば、最後に藤原と一緒にお茶もしてかったが、もう自分にそんな資格は無い。こうして、扉越しに話せただけで満足だ。
(さて、死にましょう…)
そしてかぐやは、椅子から立ち上がり再び窓に向かう。そこから飛び降りて、死ぬ為に。地獄に落ちて、罪を償う為に。
(さようなら、早坂、藤原さん…そしてごめんなさい、会長と立花さん…)
かぐやは心の中で皆に謝罪をして、窓に手を掛ける。後はこのまま、頭から飛び降りるだけ。その後は、あっと言う間にあの世だろう。
その時だった。
「ちょっと藤原様!?何をするつもりですか!?」
「後で弁償しますから!!」
「…ん?」
部屋の外の廊下から、慌ただしい声が聞こえた。声の主は、早坂と藤原。そしてどうも早坂の方は、慌てているように聞こえる。一体何があったというのか。
そう思っていると、
ドゴォ
「え?」
何か、大きな音が扉から聞こえた。
ドゴォ ドゴォ ドゴォ
それはまるで、何か固い物を何度も何度も扉に叩きつけているような音。もしかすると、藤原が扉を思いっきり蹴っていたりするのかもしれない。
かぐやが、扉の方を見ながらそんな事を思っていると、
ゴシャ
「え゛」
扉から、斧が出てきた。もう1度言う。斧が出てきた。
「は?ちょ?え?」
かぐや、困惑。そりゃいきなり部屋の扉から斧が出てきたら、誰だってこうなる。そんな困惑しているかぐやをよそに、斧は何度も扉を叩いて破壊していく。
そしてとうとう、かぐやの部屋の扉にバスケットボールくらいの大きな穴が出来てしまった。
「ふぃ~、やっと穴開きました」
扉に開いた穴から、細い腕が出てくる。その腕は、扉のドアノブ周辺を探り、ゆっくりと扉の鍵を開けた。
「かぐやさん、ただいまです」
そして鍵の開いた扉が開いた時、そこには別邸の廊下に飾ってあった古美術品の小さめの三日月斧を持った藤原が立っていた。その後ろには、困惑した様子のハーサカに変装した早坂。
「な、何してるの藤原さん…?」
かぐや、思わず後ずさる。だって普通に怖い。斧持った同級生が、いきなり部屋の扉を破壊したのだ。まるであの有名な映画の再現である。石上だったら発狂していたかもしれないくらい怖い。
「こうでもしないと、かぐやさんに会えそうになかったので」
そして当の藤原は、かぐやに会うためにこんな恐ろしい真似をしたと言う。
「いや、だったら早…ハーサカに鍵を貸してもらうなりしておけば」
「あ、そうでした。そうすればよかったですね。一刻も早くかぐやさんに会いたかったのと、丁度廊下に良い感じの斧が飾ってあったのでつい」
「ついって…」
「前に石上くんから、斧は万能のマスターキーだって話を聞いたもので。あとショットガンとかも」
「それ多分ゲームとかの話じゃ…」
流石秀知院生徒会の暴走特急。本当に突発的で奇妙で思い切った行動をする。セ〇ールもびっくりだ。後、石上は一体藤原に何を教えているのか。小一時間程問い詰めたい気分である。
「さて、何は兎も角これでやっとかぐやさんに会えました」
藤原は斧を廊下の壁に立てかけると、足元に置いてあった鞄とビニール袋を持ってかぐやの部屋に入って来る。
「こ、こないでください!!」
そしてかぐやは、藤原から距離を取る。
「かぐやさん。何度も言ってますけど、風邪なんて早々うつりませんって。だから安心してください」
そんなかぐやに、藤原は笑顔で近づく。今の彼女は、ただ善意でかぐやに会いに来ているだけだ。普通ならば、この善意を受け取るべきだろう。
「そうじゃない…そういう事じゃなくて…」
しかし今のかぐやは、その藤原の優しさを受け取る訳にはいかないと思っている。だって自分は最低な人間になったからだ。こんな自分は、もう藤原の友達ではいられない。友達に、相応しくない。
それにあの事がバレて、藤原に軽蔑されるのが怖くて仕方が無い。だから会わない様にしていたのに、これだ。
「……かぐやさん、何かありました?」
「っ」
そんなかぐやの様子を見ていた藤原は、ようやくかぐやの様子が可笑しい事に気が付く。どう見ても、風邪をひいた人間には見えない。むしろ、どこか怯えているように見える。まるで何か悪い事をして、それがバレるのが怖くて怯えている幼子のようだ。
「かぐやさん、何か悩みがあるなら聞きますよ?」
だから藤原は、先ずはかぐやから話を聞く事にした。今のままでは何もわからない。つまり、藤原もどうすればいいかわからない。ならば先ずしっかりかぐやから話を聞いて、そこから何とかしよう。
「それとも、誰かに悪い事とかしちゃいました?もしそうなら、私も一緒に謝りにいきましょうか?」
「……」
「話してください。どんなお話でも、私しっかり聞きますから。あ、何だったらゼリー食べながらお話しますか?そうすればリラックスできるでしょうし」
「……」
しかし、かぐやは口を開く事が出来ない。だってあれは、親が大切にしていた盆栽を壊したとかそんなレベルの話では無い。明らかに、人の道を外れた卑怯極まりない事だ。何なら普通に通報されるレベルである。そのような事、話せる訳が無い。
「お願い、お願いだから、私に優しくしないでください…」
だからかぐやは、絶対にこの優しさを受けてはならない。自分はもう、そんな風に優しくされる価値なんて無いんだから。
「何でですか?教えてください」
「それ、は…」
でも藤原は、真っすぐかぐやを見て尋ねる。その目は、嘘を言うのは許さないと言っているように見えてしまう。その藤原の目に、かぐやは耐えられなくなっていた。
(ここまで、ね…)
もう終わりだ。ここまで来たら、藤原はどんな事をしてでも話を聞き出しにくるだろう。かぐやがどれだけ言い訳をしても、絶対に聞こうとしてくる。こういう時の藤原は、兎に角しつこいのだ。まるで1度指に食いついたら、雷が落ちても離さないと言われているスッポンのように。
「私は、決して許されない事をしたの…」
だからかぐやは、観念して全て話す事にした。どうせ時間の問題ならば、この期に全部自分から懺悔の意味を込めて話してしまおう。それにこれ以上、藤原に嘘をつきたくない。話した事で藤原からは軽蔑されるだろうが、自業自得だと受け入れるよう。
「何をしたんですか?」
「誘拐と、強姦未遂…」
「……詳しく聞かせてください」
かぐやは、藤原に全てを話した。白銀が好きだった事。自分と同じように、京佳も白銀を好きだった事。その京佳が白銀と付き合いだした事。
そしてそれを認めたくなくて、諦めたくなくて、白銀を誘拐し無理矢理既成事実を作ろうとした事。更に京佳を再起不能にするために、電話を使って京佳が傷つくであろう事を言った事。その全てを、かぐやは話した。
「……」
かぐやが話している間、藤原は一切喋らずにかぐやの話を聞いていた。その顔は真剣そのもの。まるでかぐやの言葉を、一言も聞き逃さないようにしているようだ。
「これでわかったでしょう藤原さん。私は、とっても卑怯な人なの…」
全てを話し終えたかぐやは、その場にゆっくりと座り込む。
これで何もかも終わり。
藤原からは軽蔑されるだろうし、彼女の口から生徒会の皆にも伝わるだろう。そうなれば、もう自分の居場所は何処にも無い。
でも全部自分のせいだ。例えどんな目に合おうとも、全てを受け入れてから、死んで償うしかない。それすらしなかったら、かぐやは本当に自分を許せなくなる。
「だから、もう2度と私に構わないで…」
最後にかぐやは、藤原にそんな事を言って体育座りをして膝に顔を埋める。今のかぐやは、沢山の後悔が渦巻いている状態だ。
もっと早く自分から行動を起こしていれば、こんな思いをする事なんて無かっただろう。全部自分がひよっていたせいだ。
京佳のように白銀に積極的にアプローチをしていれば、今頃かぐやは白銀と年末デートをしていたかもしれない。
でも、それはもう2度と叶わない。それに、これで藤原からもずっと軽蔑される。これで自分はもう、藤原と友達ではなくなった。いくら藤原が優しいからと言っても、こんな自分を許すなんてしないだろう。
「いやです」
そう、思っていた。
「……何を言っているの藤原さん。何がいやなの?」
「もう自分に関わらないでってところです」
そう言うと藤原は、かぐやの目の前に座り話し出す。
「確かにかぐやさんがした事は、簡単に許される事じゃないですよ?ていうかこれ普通に事件ですもん。聞いててびっくりしました。もし私が通報したら、多分かぐやさん逮捕されちゃいますよ」
流石の藤原も、この話を聞いて無傷とはいかなかったようだ。口にこそしていないが、話を聞いてて内心『うわぁ…』とひいている。ついでに言うと、かぐやと京佳が白銀を好きになった事にもひいてた。
それだけ、かぐやのした事は凄まじかったのだ。だって普通は、いくら恋人になれなかったからと言っても、そんな事しない。
「でも、私はかぐやさんから離れるなんて真似、絶対にしません」
だが藤原は、そんな事をしたかぐやから離れる事をしない。かぐやに面と向かって、そう宣言する。
「どうして…?」
ゆっくりと顔を上げたかぐやは、藤原の言っている事がわからないでいた。これだけの事をしたのに、藤原はかぐやから離れないと言う。
そんなのありえない。普通は速攻で距離を取るだろうし、もう2度と話しかける事も無くなる筈。でもその理由は、とても単純だった。
「だってかぐやさんは、私の1番のお友達なんですもん」
ただ単に、藤原がかぐやを大切な友達を思っているから。藤原はかぐやの目の前にしゃがむと、かぐやの両手を包み込むように自分の両手で触れて話し出す。
「私は、かぐやさんが好きです。勿論、会長や京佳さん。石上くんやミコちゃんや早坂さんやTG部の皆も好きですけど、1番好きなのはかぐやさんです。そして、そんなかぐやさんが苦しんでいるのなら、見捨てずに助けたいって思います。それが、お友達ですから」
それは、あまりに真っすぐな答え。その答えがとても眩しくて、つい浄化されてしまいそうだ。
「だから、かぐやさんを見捨てるなんて真似しません。それに今のかぐやさん、ほっておくとどこか遠くに行っちゃいそうな気がしますし」
同時に藤原には、どうしてもぬぐい切れない不安がある。それは、このままかぐやをほっておくと、もう2度と会えなくなるかもという不安だ。確証なんてないが、藤原は直感的に何故か強くそう思ったのだ。
「なので、かぐやさんが納得するまでこの手は離しません」
だから、絶対にかぐやを見捨てない。何ならかぐやが納得するまで、この手を離さない。もし離してしまえば、かぐやの魂ごと離してしまうかもしれないから。
「だ、ダメです…!もう私に、貴方の友達を名乗る資格なんて…!!」
しかし、やはりここでこの藤原の優しさに甘えてしまう訳にはいかない。自分は本当に酷い事をした。いくら藤原が良くても、こんな自分が藤原の友達を名乗る訳にはいかない。
「いやです!!例えかぐやさんが何と言おうと、私はかぐやさんのお友達をやめません!!そもそもそういうのって、かぐやさんが決める事じゃありませんし!!私が決める事です!!」
だが、藤原はかぐやの友達をやめるつもりなんて全く無い。例えかぐやが京佳を殺していたとしても、彼女はかぐやとは友達で居続けるつもりである。因みにもしそんな事になっていたら、毎日面会に行くつもりだ。
「何で、そこまで優しいのよ…」
「私は元々優しいですから!」
「よく言うわ…」
稀に畜生な行動をするが、本当に底なしに優しい子だ。こんな子、世界中探したっていないだろう。
「でも、どうすればいいの…?私は、本当に酷い事をした…こんなの、どうやって償えば…」
藤原の優しさは嬉しい。今すぐにでも、この優しさに甘えたい。しかし、この後どうすればいいかを考え着かない。今更学校にはいけない。白銀や京佳に、どうやって償えばいいかなんてわからない。
「いや、普通に謝ればいいと思いますよ?」
「え?」
そこに藤原が、ある意味当たり前な事を言う。
「悪い事をしたのなら、先ずは謝りましょう。それが1番大事です。その後の事は、その後でまた考えればいいんです。私も、一緒に考えてあげますから」
それは本当に当たり前な事。誰しも、幼い頃に習うであろう最初の道徳、謝罪だ。かぐやは、そんな当たり前な事をずっと考えつかなかった。謝ってすむ問題じゃ無いと思っていたからである。
(今更、それで済むの…?あんな事をしておいて…)
謝って済むならそれでいいが、絶対にそんな事は無い。けれど他に償う方法なんて、死ぬ以外に思いつかない。
「いいんじゃないかしら」
「え?」
その時、かぐやの中に声が響いた。かぐやが意識を脳内に集中させると、そこには姿を消していた筈のかぐやのペルソナ達。
「もう充分でしょう。貴方は、十分来苦しんだもの。だったら、後は償うだけよ」
「私の言う通り。そして藤原さんの言った通り、先ずは2人に謝りましょう?」
「そうね。その後の事は、その後で考えればいいのよ」
数日ぶりに姿を現した氷かぐや、ノーマルかぐや、アホかぐや。そして彼女達は一様に、白銀と京佳に謝ろうと言い出す。
「ダメよ…こんなの、謝って済む問題じゃ…」
「でも謝らないと、次に進む事は出来ないわよ?」
すると今度は、幼女かぐやまで現れる。
「確かに、私のした事は簡単に許される事じゃない。でもここで謝っておかないと、それこそ一生償う機会なんてこないわ」
「……」
「だから、2人にごめんなさいしましょ?死んで償うなんて、そんな事やっちゃいけないわ。だって色んな人に迷惑かけちゃうし、そもそも死んで償うなんて自己満足じゃない」
もしここで死んで償ったりすれば、それで償ったと思えるのは闇かぐやだけだけで、残された人達はそうは思わない。
白銀や京佳は、自分達のせいでかぐやを追い詰めてしまったと思うだろうし、早坂はショックのあまり後追いをするかもしれない。そして藤原は大泣きするだろうし、眞妃はいきなり死んだ事にキレるだろう。
「……できるの?私に、こんな事をした罪を償う事が」
しかしやはり、自信なんて無い。こんな罪を償うなんて、死ぬ以外にあるのだろうか。それにもし生きて償うとしても、それはとても辛く苦しい日々となるだろう。
全部自分の自業自得で、全て受け入れるしかないとはいえ、自分だけでそれに耐えられるかわからない。どこかで耐え切れず、折れてしまうかもしれない。
「大丈夫。私達も、貴方の罪を背負うわ」
氷かぐやはそう言うと、闇かぐやに手を差し伸べる、今回の件は、闇かぐやが独断で起こした事。だけどかぐやのペルソナ達は、共に罪を背負い、償う覚悟だ。
「ええ、私の言う通り。ここにいる全員、これから逃げるなんてしない」
ノーマルかぐやも、それに続いてアホかぐやと幼女かぐやも闇かぐやに手を差し伸べる。ここで闇かぐや1人だけに、罪を背負わせようとはしない。
「どう、して…?」
あれだけの事をした自分に、どうして手を差し伸べるのかわからない闇かぐやは、4人のペルソナ達に尋ねる。
でも、その答えは簡単だった。
「「「「だって私達は、貴方なんだもの」」」」
だって彼女達は、全員四宮かぐやなのだから。だから自分の罪は、自分でしっかり償うのだ。
「……」
そして闇かぐやは、自分に差し出されたペルソナ達の手を握り、暗い空間からゆっくりと立ち上がり、小さな光に向かって共に歩き出す。しっかりと、自分の罪を償うために。
場面は切り替わり、かぐやの部屋に戻る。
「私は、本当に酷い事をしました…」
「はい」
「誰がどう聞いても、簡単に許されない事をしました…」
「はい」
「これだけの事をしたから、謝って許されるなんてありえないでしょう…」
「はい」
意識を現実に戻したかぐやは、ゆっくりと藤原に話し出す。
「でも…しっかりと償いたい…」
自分のした事を、償いたいと。
「明日、2人に謝ります…心から、本気でしっかりと謝ります…」
そしてかぐやは、決心する。明日、2人に謝ると。どれだけ罵詈雑言を浴びられようとも、しっかしと謝ると。それからの事は、またその時に考えよう。
「はい、わかりました。じゃあ私もお供しますね」
「……いいの?」
「勿論です」
藤原も、かぐやと一緒に行くつもりだ。正直言うと、謝ると決めたとは言え、明日が来るのが怖い。出来れば、明日なんて永遠に来なければいいとさえ思ってしまう。それだけ怖いのだ。
でも、藤原も一緒ならば大丈夫だろう。明日何が起こるかわからないが、多分大丈夫。尤も、藤原にずっと助けてもらう訳にはいかない。いずれは、ちゃんと自分1人で立ち治らないとダメだ。それでも、明日だけは彼女と共に行こう。明日だけは、藤原の優しさに甘えよう。
「でもその前に」
藤原はそう言うと、かぐやに近づいてそっと自分の胸にかぐやの頭を埋めるようにして抱きしめる。
「え?な、何して…」
藤原の突然の行動に、かぐやはその場で固まる。
「明日になれば、否が応でも色々と辛い事が起きちゃうかもしれません」
それはそうだろう。もしかすると、京佳にはグーで殴られる事だってありえる。
「でも、今からその事ばかり考えていたら、ひたすら精神が摩耗してキツイだけです。多分、明日が来るのがどんどん怖くなっちゃいます」
藤原はそう言うと、かぐやを優しくぎゅっと抱きしめる。
「だから今は、今だけは私の胸の中で安らいでください」
「……何で胸?」
「え?こういう時は誰かの胸の中だと凄く安らぎません?私、お母様の胸の中とか凄く精神的に安らぐんですけど」
藤原は幼い頃、庭で思いっきり顔面から転んだ事がある。その時、母親が直ぐに転んだ彼女を抱きしめて、泣いている彼女をあやした。おかげで藤原は、直ぐに泣き止む事が出来た。親しい人の胸の中というのは、それだけ安心し、安らぐ事が出来るのだ。
(あの母親に…?いえ、考えるのやめときましょう)
その話を聞いてかぐやは、少しだけ思う事があったが、直ぐに忘れる事にした。超失礼だし。
(それにしても…)
そもそも今は、あまりそういう事を考え着かない。
(凄く、落ち着く…)
藤原の大きな胸に包まれているおかげで、かぐやは久しぶりに安らいだ気持ちになっているからだ。後悔や罪悪感、そういった気持ちが急激に薄れていく。何だか、ほのかに良い匂いもする。ここ数日はずっと寝れずにいたが、今なら8時間くらい安眠できそうだ。
(何だか、お腹も空いてきた…)
それに安心しているせいか、急にお腹も空いてきた。今の今まで水くらいしか口にできなかったのに。後で早坂に頼んで、おにぎりでも握って貰おう。
「あの、実は私、ここ最近お風呂に入っていなくて…その、匂いませんか?」
「気にしませんから」
(後でお風呂入ろう…)
ついでにちゃんとお風呂に入って、体にこびりついた汚れもしっかり落とそうと決める。
「……じゃあお言葉に甘えて、暫くこのままでいさせてください」
「はい、わかりました」
かぐやは藤原に抱きしめられた状態で、暫く過ごす事にした。そして藤原も、そんなかぐやを優しく抱きしめた状態で過ごす。かぐやが満足するまで、決して離さないように。
(それはそうと、やっぱり大きいわねこの子…)
ついでにかぐやは、藤原が巨乳である事を再確認するのであった。
「え、高」
尚、藤原が壊したドアの修理代は想像以上に高かった。
早坂は廊下で静かに泣いています。
そんな訳で、かぐや様救済回でした。これでかぐや様は、償いに向かって歩き出します。それがとても辛い事でも、しっかりと償います。
ところで藤原が、書いているうちになんか聖母みたいになってる。キャラ崩壊かもこれ。
次回はかぐや様の謝罪と償い回。
以下、闇かぐや様について
闇かぐや
抑圧され、簡単にわがままを言えずにいた結果、ずっと溜め込んでいたものがあふれ出した結果生まれた、四宮かぐやの新しいペルソナ。その性質は、欲望。
氷やノーマルと違い、欲望の為ならどんな手段でも取る、ある意味最も四宮家らしい状態。今回は他のペルソナ達が無意識化でブレーキをしていたが、もしそれが無かった場合、少なすくとも京佳は謎の不審死を遂げていただろうし、白銀は拉致監禁されていただろう。それほどまでに、自分の欲に素直で、手段を選ばないペルソナ。
そして多分、もう出番はない。