もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 朝日が昇るまでは日曜日。
 何とか書けたので投稿です。でも上手く書けているか不安。

 もしかすると細かい所がちょっと言葉足らずかもですが、どうぞです。


立花京佳と罰

 

 

 

 

 

 四宮家別邸 かぐやの部屋

 

「かぐや様…本当によろしいのですか?」

 

「ええ、お願い早坂」

 

 椅子に座っているかぐやの後ろには、やや困惑した顔をしている早坂。その右手には、人が1人すっぽり包まれるくらいの布がある。

 

 かぐやはこれから、ある事をする。しかしそれは、かぐや1人だけでは上手くできない。誰か協力者が必要不可欠。そしてかぐやは、その協力者に早坂を選んだ。

 

「ですが…」

 

 だが早坂は、正直に言えばやりたくないと言った顔。だってこれは、女の命とも言えるものを刈り取る様な行為。同じ女として、できればやりたくない。

 

「お願い早坂。これは、私なりのケジメなの」

 

 しかし、かぐやの決心は固い。彼女は明日、白銀と京佳の2人に謝罪する為に、ひとつのケジメをつける。その為にも、これはどうしても必要な事なのだ。

 無論、これで2人が、特に京佳が自分を許してくれるとは思っていない。下手をすると、ただのパフォーマンスだと思われかねない。もしかすると、全部無駄な行為に終わるかもしれない。

 だが、それでもかぐやはやる。これだけは絶対にやる。そうしないと、例え立ち直っても、一生前に進む事が出来そうにないから。

 

「……わかりました」

 

 かぐやの覚悟が変わらないと悟った早坂は、小さく頷いて、右手に持っていた布をかぐやにかける。するとかぐやは、まるでてるてる坊主のような格好になる。

 

 そして早坂は、机に置いてあった大きな鋏を手に取ったのだ。

 

 

 

 

 

 秀知院学園 校門前

 

「おはよう立花」

 

「ああ。おはよう、白銀」

 

 白銀と京佳は、殆ど人のいない秀知院学園の校門前に来ていた。既に学園は冬休みに入っており、今学校にいるのは、部活をしている生徒か、教師か守衛くらいである。2人のように、態々制服で学校までくるなんて生徒はいない。

 何故2人が学校に来ているかというと、昨日かぐやからメールを受け取ったからだ。

 

『とても大事なお話があります。明日、学校の生徒会室に来てください』

 

 そのメールを受け取った2人は、これを了承。こうして学校まで足を運んできたのだ。

 

「行くか」

 

「そうだな」

 

 2人は並んで校内に入る。そしてそのまま、生徒会室へと向かう。

 

(今回の件、絶対にクリスマスの事についてだよなぁ…)

 

 その道中、白銀は胃を痛めていた。彼は、かぐやが自分達を呼びだした理由について、心辺りがあるからだ。

 

 かぐやはクリスマスの夜、白銀に肉体関係を迫ってきた。

 

 無論、白銀はそれを断っているのだが、かぐやがあんな事をしたのは、自分のせいだと思っている。なので、何とかかぐやに対して罪滅ぼしをしたいと思っていたが、そのかぐやがクリスマス以降学校には来ず、そもそもどうやって罪滅ぼしをすればいいかがわからない。どうしようかと悩んでいる時に、昨日のメールだ。

 

(もっと早く何か解決策を考えるべきだった…俺って奴は…)

 

 思っていた以上に、最悪の展開になりかねない状況。あの事を知れば、京佳だって黙ってはいない。京佳には必ず話すとは言っているが、それはかぐやの件をどうにかしてからという前提があってこそ。

 しかし、もう時間切れ。いくら白銀が頭脳明晰だとしても、生徒会室にたどり着くまでの僅かな時間で今回の件の解決策を思いつく事は出来ない。

 

(もう、なるようになってしまえ…)

 

 結果、白銀は流れに身を任せる、もしくは状況に応じて臨機応変に対応する事にした。要は、行き当たりばったりである。

 

 そうこう考えていると、2人は生徒会室前までたどり着く。

 

「失礼する」

 

「入るぞ」

 

 あいさつをして、2人は生徒会に入る。

 

「「なっ…」」

 

 そしてそこで、驚くべき光景を目にした。

 

「おはようございます、お2人共」

 

「おはようございます」

 

「どうもです」

 

 生徒会室にいたのは、かぐやと藤原、そして早坂だ。これは別に驚かない光景である。確かに珍しいが、今までも偶に見た事がある組み合わせだ。

 

「四宮、それは…?」

 

「何があった…?」

 

 2人が驚いているは、かぐやの見た目である。

 

 

 

 何故なら今のかぐやは、長かった黒髪をバッサリと切って、ショートカットになっていたのだから。

 

 

 

「あ、やっぱり2人も驚きますよね。私もすっごい驚きましたもん」

 

 かぐやの隣にいる藤原も、相当に驚いたようである。

 

「四宮、どうしたんだその髪は?それに、何で藤原と早坂も?」

 

「その事についてもお話します。なので、先ずは座ってください」

 

 京佳の質問に応えるべく、先ずは座る様促すかぐや。もしかすると長い話になるかもしれないのなら、確かにこのまま立って話すのは疲れてしまいそうだ。

 ならば座って、じっくり話を聞くとしよう。そして京佳と白銀は、生徒会室に設置しているソファに座る。その対面には、かぐやと、彼女を挟む形で藤原と早坂が座る。

 

「それで四宮。私達に大事な話があるって言っていたが」

 

「はい、とても大事な話があります」

 

 京佳がかぐやに尋ねる。そしてかぐやは、とても神妙な面持ちで京佳を真っすぐに見る。しかしよく見ると、かぐやの手は小さく震えていた。それに顔も、どこか覚えている様に見える。

 

「かぐやさん、大丈夫ですよ」

 

 そう言うと藤は、かぐやの手を握る。すると、かぐやの手の震えは収まっていった。

 

「……ありがとうございます。藤原さん」

 

「いえいえ」

 

 かぐやは藤原にお礼を言う。

 

「その、四宮」

 

 そんなかぐやに、今度は白銀が話しかける。彼は、かぐやが何の話をしようとしているかを予想していた。しかしあれは、自分にも責任がある。ならばかぐやだけを責める訳には行かない。自分も罪を償わないといけないだろう。

 

「会長」

 

 だが、かぐやは白銀を静止させる。

 

「先ずは、私からお話をさせてください」

 

 そして、自分から全てを話すと宣言。この時のかぐやの目は、色々と覚悟を決めているように見えた。

 

「……わかった」

 

 だから白銀は、ここで自分がこれ以上何か言うのは、かぐやの覚悟に水を差す行為だと思い、先ずはかぐやの話を聞く事にした。それからの事は、それからまた考えよう。

 

 

 

 

 30分後

 

「以上が、私がクリスマスに行った事の全てです」

 

 そしてかぐやは、全てを話した。クリスマスの夜に、白銀を誘拐した事。無理矢理、既成事実を作ろうとした事。京佳の心を折る為に、なりすましの電話をした事。更に早坂はずっと、京佳の事を自分の命令でスパイしていた事。偶に京佳の作戦を邪魔していた事。それら全てを、包み隠さずに話した。その間、藤原はずっとかぐやの手を握っていた。

 

「……」

 

 そしてその話を聞いていた京佳は、右手で頭を抱える。

 

「た、立花。その」

 

「すまない白銀、ちょっとだけ落ち着かせてくれ…じゃないと私は、四宮にある事ない事言ってしまいそうなんだ…」

 

 白銀が京佳に話しかけるが、京佳は現在余裕がないので少しだけ黙らせる。現在京佳の心の中は、怒りが渦を巻いていた。なんせかぐやがやった事は、ほぼ犯罪なうえ、自分に対する最低な裏切り行為だからだ。

 京佳はかぐやを恋敵だと思っているが、同時に友達とも思っている。だがかぐやは、そんな自分を陥れるような事をした。

 おまけに早坂も、ずっと自分をかぐやの命令でスパイをしていたかぐや側の人間だったと言う。こんな話を聞いて、平常でいられる訳がない。

 

 しかし、ここで感情に任せて口を開いてしまえば、本当に酷い事しか口にしなさそうだ。だから先ずは落ち着く。感情のピークはおよそ6秒と言われているので、とりあえず6秒は落ち着いてみる。そうすれば、多少は怒りが大人しくなると思って。

 

 

 

 そう、思っていた。

 

 

 

 ガシッ!!

 

『!?』

 

 京佳はソファから立ち上がると、机に脚をかけて、瞬時にかぐやの胸倉を掴みかかったのだ。その間、かぐやは一切抵抗をしなかった。

 

「ふざけるなよ、四宮」

 

 そして京佳は、かぐやに怒りをぶつける。

 

「君は、やって良い事の区別すらつかないのか?」

 

 声量は普通だが、声色は怒りに満ちている。このままでは、手が出てしまうかもしれない。

 

「京佳さん!落ち着いてください!!」

 

「いえ、何もしないでください藤原さん」

 

「かぐやさん!?」

 

 藤原が京佳を落ち着かせようとするが、かぐやはそれをやめさせる。

 

「私がした事は、本当に許されない事なんです。だから、ここで立花さんを止めるような真似はしないでください」

 

「で、でも…!」

 

「お願いします」

 

 かぐやに言われ、藤原はソファに座る。

 

「早坂、貴方もよ」

 

「……はい」

 

 隣にいる早坂にも、何もしないように命令。これで、邪魔される事は無いだろう。

 

「殴りたいのなら、気が済むまで殴ってください。もし2度と私の顔を見たくないと言うのなら、明日までに私は退学届けを学校に提出します。そして2度と、貴方の前の前に現れません」

 

「かぐやさん!?」

 

 更にかぐやは、いかなる罰も受け入れる覚悟を見せる。それだけの事を、かぐやはしたのだ。もしも京佳が本当に学校から出て行けと言うのならば、かぐやはそれを大人しく受け入れる。警察に通報するのならば、逃げずにそのまま警察に連行される覚悟だ。

 

「そうか」

 

 京佳はそう言うと、右手で握りこぶしを作る。そのままかぐやの事を思いっきり殴ろうと、右腕を振り上げる。かぐやも抵抗することなく、そのまま動かずに京佳の拳を受け入れようとする。だってこれは自分への罰なのだ。これを受け入れないなんて、それこそ自分が許せない。

 だから、抵抗なんてせずに受け入れる。京佳の気が済むまで、何発でも殴られる覚悟だ。例え歯が折れて、顔がパンパンに腫れる事になったとしても。

 

 しかし、

 

「待ってくれ、立花」

 

 それは他ならぬ、白銀によって止められた。

 

「何だ白銀?」

 

 白銀は京佳の右腕を掴んで、殴ろうしているのを止める。それに京佳は、少しだけイラっとした。だってこんなの、殴っても気が治まらない。しかし殴らなかったら、もっと気が治まらない。

 それにかぐや本人は、殴っても良いと言っている。だから殴ろうとしていたのに、それを止めてきた。それも自分の恋人であり、今回の出来事に対する被害者でもある筈の白銀に。

 

「頼む立花。四宮を、許してやってくれ」

 

「…………は?」

 

 だが白銀の更なる発言を聞いて、京佳は耳を疑った。

 

「白銀、それ本気で言っているのか?」

 

「ああ、本気だ」

 

 聞き間違いでは無かった。被害者でもある筈の白銀が、あろうことかかぐやを庇っている。意味がわからない。

 

「会長…?一体何故…?」

 

 かぐや本人も困惑している。何せ、庇われる理由が無い。だって自分は加害者で、白銀と京佳は被害者なのだ。

 

「何で、そんな事を言う?」

 

 どうして白銀が、かぐやを庇うのかわからない。どれだけ考えても、理解できない。おかげで京佳は困惑している。なので直接聞く事にした。

 

「そもそもだ。四宮があんな事をしたのは、俺に原因がある」

 

 そして京佳に質問をされた白銀は、ゆっくりと話し出す。

 

 自分は元々かぐやに惚れて、かぐやに相応しい男になる為に努力をした事。そんなかぐやを振り向かせる為に、色々動いてきた事。

 しかし何時しか、京佳にも惹かれていた事。同時に2人の女性を好きになってしまって、死ぬほど悩んだ事。そして最後に、かぐやではなく京佳を選んだ事。

 

「四宮からしてみれば、俺は散々思わせぶりな態度をとっておいて、最後に別の女性を選んだクソ野郎だ。そのせいで、どれだけ四宮が深く傷ついたのは間違いない」

 

「……」

 

「元はと言えば、俺が優柔不断だった事が原因だ。俺がもっとしっかりしていれば、傷ついた四宮が、あんな事をする事は無かった筈だ」

 

「……」

 

「勿論、立花を選んだ事に後悔なんて無い。俺は、四宮より立花を好きになったんだ。その選択に後悔なんて全く無い。これからずっと、立花の事を大事にするつもりだよ」

「……」

 

 白銀は必死に京佳を説得する。ある意味、これは京佳に対する裏切り行為にも見えるだろう。しかし、それでも白銀は、京佳にかぐやを傷つけて欲しくない。

 だって元をたどれば、全部自分が原因である。自分がもっとしっかりしていれば、こんな事件は起きなかった筈なのだ。勿論、白銀は京佳が好きだ。しかしそれでも、京佳にかぐやを傷つけて欲しくないのだ。

 

「立花の恋人として、最低な事を言っているのは理解している!クリスマスのせいで、立花がどれだけ傷ついたかなんてわからない!!でも頼む!今回だけでいい!どうか四宮を許してやってくれ!!」

 

 そして白銀は、京佳から手を離して頭を下げる。虫の良い話なのは理解している。けれど、それでも白銀は、2人にこのまま喧嘩別れをして欲しくない。もっと他に方法があったかもしれないが、今の白銀は、こうして頭を下げる以外の方法が思い浮かばない。

 

「京佳さん」

 

 そこに、藤原が割って入ってきた。

 

「京佳さんが怒るのは当たり前です。私だって、かぐやさんがした事は、酷い事だって思いましたもん」

 

 実際藤原は、かぐやから話を聞いた時にドン引きしていた。

 

「でも私、かぐやさんはもう充分罰を受けているって思うんです。好きになった人がいなくなって、その後自分が起こした事に対する罪悪感で、本当に苦しい思いをしていましたし」

 

 昨夜までのかぐやは、碌に食事をとれないくらいには疲弊していた。それだけ、自分がやらかした事を後悔していたのだ。

 

「だから、私からもお願いします。かぐやさんを、許してあげてください」

 

 そう言うと藤原は、白銀同様頭を下げる。

 

「立花さん」

 

 今度は早坂が口を開く。

 

「私の言う事は、もう何も信じられないでしょう。貴方からすれば、私だって裏切り者です。私の言う事なんて、聞きたくも無いでしょう」

 

 今までずっと友達と思っていた早坂。しかし彼女の正体は、かぐやの従者。おまけに早坂が京佳に近づいたのは偶然では無く、かぐやの命令によるもの。

 更に早坂は、偶にではあるが京佳が白銀を振り向かせる為に行っていた作戦の邪魔をしていた。こんなの、裏切り以外の何ものでもないだろう。

 

「なので私の事は、もう2度と信じないでいいです。許さなくてもいいです。ですが、お願いします」

 

 そして早坂は、他の2人より深く頭を下げる。

 

「かぐや様だけは、どうかお許しになってください。代わりに、私の事は一生恨んでくれて構いませんので」

 

 早坂はかぐやがどれだけ後悔して反省していたかを、尤も身近で見てきた。あんな姿、もう2度と見たくない。無論、反省しているからと言って許される事では無いだろう。

 けれど、それでもかぐやを許して欲しいと願わずにはいられない。あそこまで自分の行いを後悔して、苦しんだ人など、そうはいないのだから。

 

(私は、本当に何て事を…)

 

 その様子を見ていたかぐやは、胸が張り裂けそうになっていた。白銀は自分が原因だと言っているが、やはり今回の件は、どうあっても自分の恋を諦めきれなかったかぐやが原因である。そんな事皆わかっているはずなのに、自分を庇ってくれている。

 それが嬉しいと思う反面、罪悪感で押しつぶされそうだ。本当に自分は、とても愚かな事をしてものだとかぐやは後悔。同時に、かぐやは思い出す。

 

 自分は京佳にあの日の事を説明しただけで、まだ京佳に謝っていない事を。

 

 

「……立花さん」

 

「……何だ?」

 

「1度、手を離してください」

 

「……わかった」

 

 かぐやに言われ、京佳はかぐやから手を離す。そしてかぐやはソファから生徒会室の真ん中に移動する。そこで京佳を真っすぐに見つめて、ある謝罪をした。

 

 それは膝を折り、両手を床に付けて、額を床に擦り付ける、日本における最上位の謝罪の姿勢、土下座であった。

 

『なっ…』

 

 京佳だけでなく、皆が呆気に取られている。だが、それも仕方が無い。なんせ、あの四宮かぐやが土下座をしているのだ。プライドが高く、気品を持っており、常に誰かの上に立っている生徒であるかぐやが、土下座をしている。こんな真似、今までなら絶対に考えられない。

 でも、今のかぐやはそんなプライドとかもうどうでもいいと感じていた。だって自分は、これくらいの謝罪をしないといけないくらい、酷い事をしたのだから。

 

「立花さん」

 

 土下座をしたまま、かぐやが口を開く。

 

「ごめんなさい」

 

 京佳に対する、謝罪の言葉を。

 

『……』

 

 沈黙が、生徒会室を支配する。京佳の目の前には、未だに土下座をしているかぐや。誰もが、そのかぐやに目を奪われている。

 

「……」

 

 そして京佳は、ここでようやく落ち着きを取り戻した。あれだけの怒りが静まるくらい、かぐやの土下座にはインパクトがあった。かぐやがした事は、許される事では無い。いくら白銀達がかぐやを許して欲しいと言っても、そう簡単に納得できない。

 しかしかぐやは、あの綺麗で長かった髪をバッサリと切り、今こうして土下座までしている。とてもパフォーマンスとは思えない。本当に悪いと思っていないと、こんな真似は絶対に出来ないだろう。

 その姿を見た京佳は、ようやくかぐやの覚悟を見た。

 

「……白銀。確認するが、未遂なんだよな?」

 

 京佳は1度、白銀に質問をする。

 

「ああ!勿論だ!俺と四宮は一線を超えてはいない!!」

 

 その質問に、白銀は答える。正直少し危なかった気もするが、白銀とかぐやは何もしてない。精々、下着姿をがっつり見たくらいである。それを聞いた京佳は、未だに土下座をしているかぐやを見る。

 

「正直に言うよ四宮。私は今、とっても怒っている」

 

「はい」

 

「今、君の事を、とても卑怯な人間とも思っている」

 

「はい」

 

「本当なら、もう2度とその顔を見たくないとさえ、思っている」

 

「……はい」

 

 かぐやの声が、少し弱くなる。でも、何も言い返す事なんで出来ない。どんな罵詈雑言でも、言い返すなんて出来ない。

 

 

 

「だけど、君の覚悟は伝わったよ」

 

「……え?」

 

 

 

 しかしかぐやの予想に反して、京佳はそんな事を言い出す。

 

「君、私がここから出て行けと言ったら、本当に学校を辞めるつもりだろ?」

 

「…はい。だって、それだけ事私はしました。こんなの、それだけしないと償えません」

 

 京佳の言う通り、かぐやは本気で学校を辞めても良いと思っていた。藤原との約束があるので死ぬ事は出来ないが、それ以外なら何でもするつもりである。

 

「四宮がした事は、本当に酷い事だ。それはわかっているな?」

 

「……はい」

 

 かぐやは覚悟を決める。周りがどれだけ自分を庇っても、京佳は許さないだろう。どんな事でも、かぐやは大人しく受け入れる所存だ。

 

 

 

「でも、未遂だから許すよ」

 

「…………え」

 

 

 

 そしてその言葉を聞いたかぐやが、今度は呆気に取られた。

 

「私は、今回君がした事を許すよ。全部ね」

 

「な!?」

 

 顔を上げて京佳の言葉を理解した瞬間、かぐやは混乱する。だってありえない。いくら周りが説得したり、自分が土下座をしたとしても、許されるなんてかぐやは思っていなかった。少なくとも、自分が京佳の立花なら許す事等無い。

 

「何で…?」

 

 つい、口を開いてそう尋ねてしまう。

 

「だから、未遂だったからだ。もし本当に手を出していれば、流石に許せなかったと思うけど、あくまで未遂だったんだろう?だから、許す」

 

 そのかぐやの言葉に、京佳は答える。確かに危なかったかもしれないが、白銀とかぐやは一線は超えていない。

そして電話の件は、あの後白銀本人からしっかりと違うと説明を受けているので、実質ノーカンにする。

 

「とはいえ、このまま何もせず、ただ君を許すだけなのはどうかとも思う」

 

 だがそれでも、このままタダで許すのはダメだろう。やはり何かしらの罰を与えないと、お互いの為にならない。

 

「だから」

 

 故に、京佳はかぐやにある事をする為に話しかける。

 

「立て、四宮かぐや。そして、歯を食いしばれ」

 

「……わかりました」

 

 京佳が何をしようとしているか理解したかぐやは、直ぐにその場で立ち上がる。

 

「た、立花。それは…」

 

「会長」

 

 白銀が止めようとするが、それを藤原が止める。だってこうしてわかりやすい罰をしっかり与えておかないと、

お互いの為にはならない。

 故に、これは止めてはならないのだ。だってこれは、ケジメなのだから。

 

「行くぞ」

 

「はい、思いっきりどうぞ」

 

 かぐやはしっかりと歯を食いしばり、そして京佳は右手でかぐやを思いっきり殴りつける。

 

 ゴッ!

 

「っ…!!」

 

 とても鈍い音が、生徒会室に響く。京佳の一撃を受けて、かぐやは少し後ろによろめくが、倒れる事はなかった。

 

「これで全部チャラだ!!わかったな!!」

 

「ええ、ありがとうございます。そして、本当にごめんなさい」

 

 これで終わり。京佳はかぐやにしっかりと罰を与えたし、かぐやもそれをしっかりと受け取った。これでクリスマスの夜に起こった出来事は、全部水に流す事となったのである。

 

 けど、まだもう1人終わっていない。

 

「早坂」

 

「ええ、わかっています」

 

 そう、かぐやの従者である早坂である。彼女も、長い間京佳を裏切ってきた。そしてクリスマスの夜に、京佳の心を折る電話をしたのは早坂。主人であるかぐやが罰を受けているのに、自分が罰を受けない訳にはいかない。

 

「じゃまぁ、行くぞ?」

 

「はい。どうぞ」

 

 京佳はそう言うと、かぐやの時と同じように、思いっきり早坂の顔を殴る。

 

 ゴッ!

 

「くっ…!!」

 

 直ぐに、早坂の左頬に痛みが伝わる。

 

「これで私は、君の事も許すよ」

 

「わかりました。立花さん、本当にすみませんでした」

 

 痛みを我慢しながら、早坂は京佳に頭を下げて謝罪をする。

 

 

 

 こうして、かぐやの謝罪と罰は終わったのである。

 

 

 

 

 

「立花。本当にすまなかった」

 

「もういいよ白銀。私も、少し自分を見失っていたし」

 

 生徒会室を後にした白銀と京佳は、並んでそれぞれ帰路に着いていた。今回の件は、京佳の恋人としてはよろしくない選択だったかもしれない。

 

 それでも白銀は、かぐやをどうにかしたかった。

 

 かぐやに惚れていたからでは無い。仮にだが、白銀がかぐや全く惚れていない状態で今回の様な事が起きても、彼は同じ事をしただろう。だって白銀は、とても優しいのだから。

 

「でも正直言うと、再び四宮と早坂と前のように仲良くできるかはわからない部分もあるんだ」

 

「それは…」

 

「勿論、そうならないように努力はするよ。私は2人を許す事にしたんだし」

 

 これは別に、かぐやがやらかしたからという理由だけでは無い。元々2人は恋敵。そんな中、どちらか片方が意中の男性と付き合う事になったのなら、一緒になれなかった方は色々と気まずいものである。宣戦布告をしたとは言え、気まずい部分はどうしてもあるだろう。

 

「まぁ、冬休みの時間が解決してくれるかもしれないし、何とかするよ」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

 しかしそれも、今だけかもしれない。およそ2週間ある冬休み。その間に、それらの悩みは消えるかもしれない。

 

「ところで白銀」

 

「何だ?」

 

「正月って、予定開いているか?」

 

 そう、例えば恋人と正月デートをしたりすれば、冬休み明けにはその辺の悩みも気苦労も何とかなっていくかもしれない。

 

「大丈夫だ。今の所特に予定は無い」

 

「そうか。なら、私とデートしないか?」

 

「よろこんで」

 

 こうして2人は、正月デートの約束を取り付けた。クリスマスは予定と大幅に違うデートとなったが、

今度は違う。しっかりと、最初から最後まで楽しいデートをしたい。

 

(楽しみだ)

 

 京佳は残り数日まで迫った正月に想いを馳せながら、白銀と帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 秀知院学園 保健室

 

「かぐやさん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ藤原さん。湿布貼っていますし」

 

 その頃、かぐやは藤原と早坂と共に、秀知院学園の保健室にいた。京佳に殴られた後の処置の為である。と言っても、湿布を張るだけなのだが。

 

「それにしても、一発だけで済むとは思いませんでした。5発くらいは覚悟していたんですけど」

 

「そんな事言わないでください。正直、すっごく冷や冷やしたんですから」

 

 かぐやはアレだけで済んだ事に驚き、早坂はあの現場を見てずっと気が気じゃ無かった事を口にする。下手をすると、かぐやが顔の形が変わるくらいまで殴られていたかもしれないと思うと、血の気が引く。

 しかしこれで、かぐやはしっかりと罰を受けた。まだ罪悪感で苦しむ事はあるだろうが、少なくとも昨日よりはずっと晴れやかな気分だ。

 

「そうだかぐやさん。年末、予定ありますか?」

 

「え?一応正月に実家に帰る予定はありますけど…」

 

「ならそれ取りやめにして、私と旅行に行きませんか?」

 

「え?」

 

「当然、早坂さんもです」

 

「私も?」

 

 そんな時、藤原が突然旅行の提案をしてくる。

 

「かぐやさんは今日、罰を受けました。なら今度は、心の傷を癒すべきです」

 

 藤原の提案。それは要するに、傷心旅行であった。

 

「いえ、流石に本家に顔出ししないというのは。それに私は、そこまで傷を負っている訳ではありませんよ?」

 

 だが流石に、それを受ける訳にはいかない。なんせ、四宮本家の正月の集まりは強制である。特にかぐやは、四宮家当主四宮雁庵の実の娘だ。例え碌に父親と会話が無いとしても、出席しない訳にはいかにのだ。

 

「別にいいんじゃないでしょうか?」

 

「は?早坂?」

 

 しかしそれを、何と早坂が出なくてもいいと言って来た。

 

「あんな集まりに出るより、皆で旅行に行った方がいいですって。そもそも出たとしても、大した事なんてありませんし」

 

 早坂の言う通り、あの集まりは出たところでかぐやに何かある訳では無い。ただ集まりで顔を出して、親族の話を聞いて終わり。それだけだ。

 

「それに今のかぐや様には、傷を癒す事の方が重要です。なら余計に、あんな集まりに行く事はありません」

 

「私、そんなに傷ついているように見える?」

 

 自分ではそこまでとは思っていないが、どうも他人からはそうは思われていないらしい。

 

 

 

「かぐやさん。失恋って、自分では気付きにくいですけど、想像以上にキツイですよ?」

 

「失恋…」

 

「だから、行きましょう?ね?」

 

 

 

 それを聞いたかぐやは、突然胸が苦しくなるのを感じる。昨日まで感じていた胸の苦しみとは違う。もっと別の苦しみだ。

 

「あれ…?」

 

 同時に、目元が熱くなるのも感じた。かぐやが右手で目元を撫でてみると、手が濡れていた。その正体を、かぐやはやっと理解する。それは、涙であった。

 

「あれぇ…?」

 

 それはどんどん溢れてくる。我慢しようとしても、どんどん流れ出る。

 

「何で…?」

 

 わからない。どれだけ考えても、この涙が何の涙かわからない。

 

「何で私、こんなに泣いてるの…?」

 

 こんなに泣くのは、子供の頃以来かもしれない。その時、

 

「え」

 

 突然誰かが、かぐやを抱きしめた。

 

「かぐやさん。思いっきり泣いていいですよ?」

 

「そうです。泣いてくださいかぐや様。ここには今、私達しかいませんから」

 

 その正体は、藤原と早坂。2人はベッドに腰かけているかぐやを、左右から優しく抱きしめていた。ここに来て、かぐやはようやくこの涙の正体を理解した。

 

 

 ああ、これが、失恋の涙なのだ、と。

 

 

 

「う…ぐす…」

 

 2人に抱きしめられたかぐやは、ゆっくりと泣き出す。

 

「うぅぅ…ひっく…う、わぁぁぁ…」

 

 徐々にその声は大きくなり、藤原と早坂はかぐやを抱きしめる力を少しだけ強める。

 

「うわぁぁぁあぁあああ…!!ああああああぁぁぁぁぁ……!!」

 

 まるで子供みたいに泣き出すかぐや。その後もかぐやは、暫くの間泣くのだった。その間、藤原と早坂は、絶対にかぐやを離そうとはせず、かぐやが泣き終わるまで、ずっと抱きしめて続けるのであった。

 

 この日、四宮かぐやの初恋は終わり、四宮かぐやは失恋をしたのであった。

 

 

 

 

 

 数日後、四宮家本家にとある手紙が郵送で届いた。

 

『お父様へ。今年のお正月の集まりには参加しません。偶には好き勝手させてください』

 

 それを受け取った四宮家当主、四宮雁庵は大変驚いたらしい。

 

 

 

 

 

 




 かぐや様、断髪。そして一発殴られる事で、尚且つ未遂であったおかげで、何とかお許しを頂きました。
 都合の良い展開かもだけど、こうでもしないと多分京佳さんがかぐや様許す事ないだろうなと思ったもので。
 ついでに言うと、ここでかぐや様を許さない展開にしてしまうと、この作品がこの先ずっとギスギスしそうだったんですよね。なのでこうなりました。

 しかしこれで、ようやくかぐや様をマキちゃん化できる!次回以降は徐々にギャグ落ちさせるつもりなので、ご安心を。もうシリアスあまり書きとうないし。
 因みに藤原は『かぐやさんと京佳さん男の趣味悪っ!』とか思ってます。
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