もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
お待たせしました。かぐや様の傷心旅行編、開始です。
旅行先ですが、悩んだけどやっぱここかなって。
タイトルの()内のekは、ヒンドゥー語で1と言う意味です。
傷心旅行と呼ばれるものがある。
読んで字のごとく、傷ついた心を癒す為の旅行である。仕事のストレスや人間関係、他にも人生で行き詰った事があった人が行く事がある。
しかし傷心旅行に行く理由として番多いのは、失恋なのだ。失恋というのは、かなり精神的に来る。下手をすると立ち直る事が出来ず、何年もその恋を引きずってしまったりもしてしまう。そうならないように、失恋で出来た傷を癒す事は大切なのだ。
そしてそれに最適と言えるのが、旅行である。旅行では美味しい物を食べたり、絶景を見たり、温泉に入ってすっきりしたり、アクティビティを体験したりと、普段できない体験が沢山できる。そんな事を体験していると、いつの間にか心の傷が修復されていくのだ。
そして四宮かぐやは、その傷心旅行へ来ていた。先日かぐやは、失恋を経験した。人生で初めて本気で好きになる事が出来た恋だったが、それは実らず仕舞い。
そんな時、友人である藤原が旅行へ行こうと提案。かぐやはそれを了承し、旅行先を決めて、藤原と早坂を伴って旅行へと来ていた。
「冬なのに日本と違って熱いわね。流石インド共和国」
インドに。
インド共和国。
世界最大の人口を持ち、総面積も世界7位の国。5千年の歴史があり、数多くの世界遺産を所有する大国。カレーやお茶のイメージがあるが、実は数学にとても強い国であり、世界トップ層の経済大国であり、核兵器も保有している。そんな凄い国が、インドである。
「何でインド!?」
そしてかぐやと共に旅行へ来ている藤原が、大声でツッコミを入れる。
「何で私、大晦日にインドにいるんだろ…」
その隣には、早坂もいる。その顔は、既にどこか疲れているようだ。
「かぐやさん!?確かに私言いましたよ!?旅行先はかぐやさんが選んでいいって!!でもなんでインドなんですか!?確かにインドにも有名な観光名所とかありますけど、もっと他にあったでしょう!!例えばヨーロッパとかオーストラリアとか!それこそ国内でも良かったんじゃないんですか!?」
藤原が当初思い浮かべていたのは、かぐやと共にヨーロッパへ行き、そこの綺麗な絶景や料理を楽しむというもの。そうすれば、かぐやの心も自然と癒されるだろうと考えていた。
なのに、行先はまさかのインドである。普通傷心旅行の行先が、インドだとは思わない。誰だって藤原のように、ツッコミを入れるだろう。
「早坂さん!何で止めなかったんですか!?」
まさかのインド旅行になった藤原は、かぐやの従者であるメイドの早坂に詰め寄る。旅行前に早坂がかぐやを止めていれば、インドに来るなんて事は無かった筈だからだ。
「勿論止めたよ書記ちゃん。インドじゃなくて、イタリアとかオーストラリアとか、もしくは国内の老神温泉とかにしようってちゃんと言ったって」
当然、早坂はかぐやのインド行きを止めている。傷心旅行に行くとしても、インドじゃなくて良い筈だ。なのでかぐやに世界中の様々な旅行先を教えている。因みに、早坂個人はフィンランドに行きたかった。
「でも、ああなったかぐや様は止まらないんだよね…」
「……ごめんなさい」
そう言う早坂の顔からは、苦労しているのが見て取れる。この時藤原は、早坂が普段から相当苦労しているのだと理解。今後は、学校でも少し労わってあげようと決めた。
「藤原さん。私がなんの考えも無しにインドへ来た訳ないでしょ?そもそもこれはね、ただの傷心旅行じゃないの」
「え?どういう事です?」
藤原と早坂が不満を漏らしていると、かぐやが2人に話しかける。どうも、かぐやにはちゃんと考えがあってインドを旅行先に決めたらしい。一体何がどんな事があるかと思った藤原は、かぐやに聞き返す。
「この旅行で私は、悟りを開くのよ」
「は?」
そしてかぐやは、何かトンチキな事を言い出した。
「インドは、仏教やヒンドゥー教やイスラム教の国。そして知っての通り、私は本当に酷い事をしてしまったわ。立花さんに許されたとはいえ、それでも私の心には未だにドス黒い濁りがあるの。正直言うと、今でも会長の事が好きだから、億のにひとつの可能性で会長と付き合えないかなーとか思ってるし。でもそんな事、絶対に許されない。そしてこの想いを完全に綺麗さっぱり払拭しないと、私は前に進む事なんて出来ない」
かぐやの言う通り、かぐやはクリスマスにほぼ犯罪な事をしている。あれは自分こ恋が叶わなかったせいで、自分の欲望が暴走した結果起こしてしまった事件だ。もし自分にそんな欲望が存在しなければ、あるいはもっとちゃんと諦める事が出来ていれば、あのような事件は起きなかっただろう。
「だからこの旅で私は悟りを開いて、心を浄化するの」
故にかぐやは、インドで悟りを開こうと考えたのだ。傍から聞けばアホでしかない考えだが、かぐやは本気である。だってこのままだと、また事件を起しかねない。だから涅槃に入って、悟りを開いて救済を求めるのだ。そうすれば、心に巣くった穢れを落とせるだろうから。
「何言ってんだこの人」
「書記ちゃん、キャラブレてる」
「は!?」
そんなかぐやのアホっぷりを見た藤原は、ついキャラが崩壊してしまう。
「あの、あれは本当にかぐやさんですか?私の知っているかぐやさんとかなり違うんですけど…」
「間違いなくかぐや様だよ。あの人、家では割とあんな感じだし」
「うっそぉ…」
普段見る事のないアホなかぐやに、藤原は面食らう。実は双子の妹とかじゃないかと思ったが、その考えは直ぐに早坂に否定される。
「皆さん、先ずはガイドさんと合流しましょう」
3人がわちゃわちゃしていると、メイドの志賀が口を開く。彼女は今回のインド旅行で、3人の保護者兼護衛兼お世話係を任せられたのだ。本来、こういった役は高橋がするものなのだが、その高橋は四宮本家に行かないといけなかったので、志賀が代理を務めている。
「すみません志賀さん。態々インドに付き合ってもらちゃって…」
「構いませんよ。これもメイドの仕事ですし」
確かにメイドの仕事かもしれないが、志賀は早坂と違って雇われメイドである。アホな主人に付き合わせてしまい、正直申し訳ない。
「安心しなさい。今回志賀には特別手当を出すから」
だが一応、かぐやから今回の旅行について来る事でボーナスが出るらしい。でもやっぱり、こんな旅行に付き合わせてしまって申し訳ない。早坂は、可能な限り自分もメイドとして勤めようと決めた。
「こちらが、今回我々をガイドしてくれる現地ガイドのシンさんです」
「初めてまして。よろしくネ」
空港から出た4人は現地ガイドのシンと名乗るインド人と合流した。その風貌は、いかにもインド人と言った感じ。だがかなり流暢に日本語を話す。それに結構ギャップを感じてしまう。
「随分日本語が達者ですね」
「勉強を沢山したからネ。他にも英語とフランス語、中国語にドイツ語にロシア語も話せるヨ」
どうやら、かなり言語が達者にガイドらしい。恐らく、相当努力をしたのだろう。
「ところで、全員日本人?」
「そうですけど」
「もしかして、日本じゃインドに旅行に来るのが流行ってたりすル?」
「はい?」
シンさんの質問に、首を傾げる4人。
「実は、ほんの数日前にも日本からインドに旅行に来ていた日本人がいたのヨ。それも態々クリスマスに。そしてその子も、インドで悟りを開きたいって言ってたヨ」
「えぇ…他にもいたんですか…」
どうやら、こんなアホな事を考えるのはかぐやだけでは無かったらしい。その事実に、藤原は驚く。というか、少し引いた。
「クリスマスにインドなんて、変わった日本人もいるんですね」
「いやかぐや様。私達大晦日にインド来てるんですよ?その人らの事言えませんって」
自分の事を棚に上げるかぐや。そう思うのなら、もっと他の旅行先を選んで欲しかった。ぶっちゃけ国内でもよかったし。
「それじゃ、先ずは腹ごしらえをしよう。行こうカ」
確かに、丁度お腹が減っている。悟るにしても、先ずは食事をしてからだ。そう思った4人はオートリキシャに乗り込み、シンがおすすめするカレー屋に入り食事を取る事にした。到着したカレー屋は清潔感があり、内装も凝っていて、店員も笑顔が眩しい。これなら、美味しいカレーが食べれそうだ。
「ここは、日本人の舌にも合うカレー屋だヨ。お肉たっぷりで喰いでもあるから、力がつくネ」
「ほえー。私てっきり屋台で食べるもんかと思ってました」
インドは屋台が多い。それ目当ても観光客もいるので、そちらでカレーを食べるものと思っていた藤原。実際、移動中に見えていた屋台からはとても良い匂いがしていたし。そう口にしながら待っていると、店員がカレーが持ってくる。ふわふわしているナンと、鶏肉が大量に入っているカレーというオーソドックスなメニューだ。
『いただきます』
4人はいただきますと挨拶をし、右手を使ってカレーを食べる。インドでは左手は不浄の手だと言われているので、必ず右手で食事をしないといけないのだ。
「あ、思ったより辛いですね」
「でも美味しい!」
「ですね。ナンもとても美味しいです」
「具材が全部お肉なのも凄いですねこれ」
かぐや、藤原、早坂、志賀はそれぞれ感想を口にする。ナンはもっちりしていたし、カレーは何故か具材が肉しか無かったが、どちらもとても美味しかった。でも正直、東京でもこういうの食べれそうと思ったのは内緒である。
「そうそう。水は絶対にペットボトルに入っている未開封の水を飲んでネ。間違っても、水道水は飲んじゃ駄目だかラ」
「え?どうしてですか?」
「インドの水が、日本と比べると汚いからだヨ」
食事中、シンは4人にペットボトルの水を配りながら注意を促す。最近のインドは経済発展が凄い国であり、観光客も多く訪れる観光大国でもある。当然、そんな観光客を狙った商売を多くしているので、様々な料理を食べる事が出来るし、お店やホテルもその辺の衛生管理も気を付けてはいる。
でもやはり、日本程の衛生管理が出来ていないのが現状。もしその辺の水道の蛇口から出ている水を飲んだら、絶対にお腹を壊すのだ。
因みに、藤原が食べたかった屋台もそんな感じである。ガイドのシンさんが屋台では無くお店に連れてきたのも、そういった理由があるからだ。
「だから、絶対にペットボトルの水を飲んでネ。下手すると寄生虫で死んじゃうヨ」
『気を付けます』
態々海外に来て、お腹を壊したくない。というか死にたくない。4人は、絶対にペットボトルの水以外は口にしないと決めるのであった。
「ここがタージ・マハル。ムガル帝国5代皇帝のシャー・ジャハーン皇帝が、亡くなった最愛の妃のムムターズ・マハルのために建立したお墓だヨ」
「おお、写真とかでよく見る有名なやつですね」
「おっきい」
食事を終えた4人は、インドで1番有名な世界遺産である『タージ・マハル』に来ていた。かつて、この地を納めていた皇帝の奥さんが『後世に残る立派なお墓を作って欲しい』という遺言を残し、それを叶えるべく皇帝が張り切りまくってっ出来たのが、これだ。
全面が白大理石でできており、中央には水路もある。周りには尖塔と呼ばれる高い塔も建っている、誰もが1度は見た事のある有名なお墓だ。因みにこれを作ったせいで、財政が破綻寸前まで行ったらしい。
「現地の人の28倍の入場料取られなかったら、もっと素直に感動できたんだけどね」
「それは言わないでくだいよかぐや様…」
「多分インドの人も、外資を獲得するのに必死なんだと思いますよ?」
しかし如何せん、入場料がバカ高い。3人共金持ちなので普通に払える金額ではあるのだが、ちょっとだけ引っかかる。
「それにしても、最愛の人の為にですか」
タージ・マハルを見たかぐやは、作られた経緯を知り、羨ましいと思う。最愛の奥さんの為に、こんな立派なお墓を作るなんて。ジャハーン皇帝は、本当に妃の事を心から愛していたのだろう。そうでなければ、こんな物は絶対に作れない。
(もしも、私が会長と付き合って、そして結婚まで出来たら、会長は私にもこんな感じに後世に残る何かを作ったりしてくれるのかしら…?)
未だに未練タラタラなかぐやは、内心そう思う。自分でもどうかと思っているが、やはりかぐやは白銀が好きだったのだ。
(って、いけないわ!私は悟りを開くのよ!こんな思いはダメ!そもそも私の恋はもう終わったのだから!!)
だがその想いに、直ぐに蓋をする。白銀は既に京佳の恋人。それを横取りするような真似は、絶対にしちゃいけない。そんな考えを洗い流す為に、かぐやはインドへ来ているのだから。
「写真撮りましょう!後で日本にいる姉さまや萌葉に送りたいし!!」
「シンさん。よろしいですか?」
「いいヨ。じゃあ並んデ」
「ほら、かぐやさんも」
「……わかりました」
けれど、今は少しだけ旅行を楽しんでもいいかもしれない。流石にずっと悟りの事を考えると、疲れてしまうし。
そしてかぐやは、藤原と早坂と3人でタージ・マハルを背景に写真を撮り、その後で志賀も一緒になった4人の写真も撮るのであった。
「ここがアーグラ城塞。ムガル帝国時代のお城で、全長は約2,5キロもあるヨ。
赤砂岩で作られているから、赤い城とも言われているネ。まぁ、デリー城も赤い城って言われているけド」
続いて4人は、タージ・マハルの直ぐ近くにある世界遺産、アーグラ城塞に来ていた。タージ・マハルより昔に作られ、全身赤い城だ。赤い城と言われはいるが、城内の宮殿には白大理石が使用されており、綺麗な装飾も施されている。
そして先程行ったタージ・マハルを建設したジャハーン皇帝が、息子に死ぬまで幽閉された場所でもある。
「こっちも綺麗ね」
「ですねー。日本にはない綺麗さですよ」
「そもそも大理石の建造物が無いですしね」
日本では先ず見る事の出来ないインド独特な装飾や建造物に、3人はうっとりする。その時、藤原が思いついたような顔をした。
「あ!もしかして、胡坐をかくってここが語源だったりしますか!?」
言われてみれば、似ている。インドは仏教の国でもあるし、その関係で古代日本がインドからアーグラ城塞の話を聞いて出来た日本語かもしれないと思ったのだ。この時藤原は、自分の知能が怖いと自画自賛もしていたりする。
「全然違うヨ」
でも、全くそんな事は無かった。
「胡坐をかくって言うのは、高御座から来てるって言われているネ。ここ、アーグラは全然関係無いヨ」
「……そうですか。すみませんでした」
「あとそれ、クリスマスに来た日本人の子も同じ事言ってたヨ」
藤原は頬を赤くして落ち込む。だって今の、凄く恥ずかしい。自信満々に言ったのに、全然違うからだ。羞恥心で死にたくなる。
「大丈夫ですよ藤原さん。誰だって、そういう事ありますから」
「そうだよ書記ちゃん。だから落ち込まないで」
「やめてーー!今優しくしないでーーー!!」
自分の恥ずかしい勘違いを指摘されたくない。今だけはどうかそっとしておいてほしいと藤原は願う。
「それでは3人共、写真撮りますよー」
志賀がカメラを手に写真を撮ろうとするが、藤原が中々復活するのにちょっとだけ時間が掛かってしまった。そして暫くして復活した藤原と共に、3人は写真を撮る。3人ともしっかり笑顔で、まさに観光を楽しんでいますといった様子の素敵な写真だ。
(インドに来てよかった…)
志賀が撮影した写真を見たかぐやは、心底そう思う。少し前まで、かぐやはかなり酷い状態であった。自分が日和ったせいで、告白の機会を逃し、あまつさえ現実を見る事が出来ず、
恋敵を陥れようとする始末。
その後正気に戻ったかぐやは、本当に酷い状態であった。今撮った写真のように、笑顔になんてなれない。それどころか生きる希望すら失いかけ、死のうとすら思っていた。
でも藤原による説得の結果、かぐやは何とかこの世に踏みとどまる事ができ、白銀と京佳に謝罪をする事も出来ている。
(でもこれじゃダメ…しっかり悟りを開かないと…)
しかし、それでも自分がした事は許されない。もう2度とあんな事をしない為にも、悟りは開かないといけない。そこで心を綺麗にして、前を向いて生きて行こう。
「かぐやさん!今度は向こうに見えているタージ・マハルを背景に写真撮りましょう!」
「ふふ、ええ。いいですよ」
だけど、もうちょっとだけ普通に観光は楽しもう。
「さてと、普通の観光はこれくらいにして、そろそろ目的地に行きましょうか」
「え?目的地?」
アーグラ城塞から出たかぐやは、ガイドブックを手にしてそんな事を言い出す。
「まぁ、確かにこれじゃ、ただのインド観光ですからね」
藤原の言う通り、これではただの観光。とても悟りを開く事なんで出来ない。
「でもかぐや様。一体どこに行くつもりなんですか?」
しかし悟りを開くと言っても、どこでそんな事が出来るかわからない。なのでインドに詳しくない早坂は、かぐやに尋ねる。そしてかぐやは、その早坂の質問に答えた。
「ガンジス川よ」
聖なる川と言われている大河、ガンジス川と。
ガンジス川。
ヒマラヤ山脈の南側、インド亜大陸の北東部を流れる大河。長さは約2525km、流域面積は約173万km²もある世界最大の川だ。女神ガンガーの化身とされ、彼女が地上に現れ人々を浄化し、罪や悪を洗い流すために流れているとされているのだ。かぐやの目的地はそこである。そこで自分の罪や穢れを洗い流すのが、この旅の目的なのだ。そうすれば、悟れるような気がするから。
「ガンジス川ですか。確かによく聞きますね。インドに行ったらガンジス川には行っておけって」
「確かに人生観が変わるとかよく聞くけど、本気で行くつもりですか?」
「本気よ。それが旅の目的なんだもの」
かぐやは本気である。今日こそ普通にインド観光しているが、本来の目的は悟りを開く事。そして悟るには、先ず穢れを落とさないといけないのだ。ガンジス川で沐浴をすれば、過去の穢れが落とされ、願いが叶うと言われている。それが終わったら、最終目的地に行くつもりだ。そしてそこで、悟りを開いてみせる。だから行く。幸い、旅費は沢山あるので問題ない。
「仕事だから行きたいなら案内するけど、ここからガンジス遠いヨ?」
でもここで、ガイドのシンさんが注意を促す。
「飛行機でも7時間くらいかかるし、列車だと半日以上はかかるネ」
「え?そんなに時間かかるんですか?」
「インド、とても広いからネ」
まさかの時間のかかり方に、藤原は億劫になる。てっきり車で数時間くらいの場所かと思っていたのに、まさかそんなに遠いとは。
「日本で例えると、東京から名古屋までを1往復半するくらいだネ」
「あー、遠いですねそれは…」
「え?書記ちゃん今ので分かったの?」
分かりづらい例えの筈だが、藤原は理解できたらしい。しかし、確かに遠いし時間が掛かるのは億劫だ。それだけ長い間飛行機に乗るのは、少し気分が滅入る。いや、既に日本からインドまで10時間くらい飛行機に乗っているのだが。
「前に来た日本人はこの話を聞いてガンジス行くのをやめたけど、どうすル?」
シンさんはかぐやに再び尋ねる。藤原と早坂は、無理してガンジス川まで行く必要な無いと思っている。そもそもインドで悟りを開くとかいうのがよくわからないし、2人は別に悟りを開く気はないからだ。そんな事せずに、このままニューデリー周辺で普通に傷心旅行して帰国した方が良いに決まっている。
「構わないわ。それでも私は行きたいの」
それでも、かぐやはガンジスまで行く気だ。その目には固い決意が見える。
「でも、3人はどうする?もし嫌だったら、私1人でも行くから無理にとは言わないけど。何だったら、先に日本に帰国しててもいいし」
しかし、自分はよくても他3人はわからない。なんせ長旅になる。それにこれは、自分主体の旅行だ。流石にそこまで突き合わせるのは悪い。なのでかぐやは、3人に確認を取る。
「私は勿論行きます!かぐやさん1人で行かせるなんて真似しません!!」
「お嬢様の護衛が私の仕事です。なので私もお付き合いいたします」
「ここまで来て、かぐや様1人だけ行かせる訳ないじゃないですか。勿論付き合いますよ。それこそ、地の果てまでも」
藤原も志賀も早坂も、全員が了承した。だってこのままだと、かぐやは本当に1人でガンジス川まで行ってしまいかねない。それは危険だ。かぐやには、これ以上嫌な思いをして欲しくない。だったら付いて行く。それに1度、ガンジス川というのを見てみたいし。
「わかったヨ。そういう事なら、責任もってちゃんとガンジスまで案内するネ」
全員の覚悟を受け取ったのか、シンさんはかぐや達を必ずガンジス川まで案内する事にした。
「それじゃ、足の準備をしておくから、少しまっててネ」
そしてガイドのシンさんは、全員分の足を準備する為動き出す。その間、かぐや達はシンのオススメの喫茶店でチャイを飲んで過ごしていた。香りもよく、とても美味しかった。
1時間後
「ガンジス川までの足が用意でいたヨ、あと、例の場所の行く足もネ」
「わかりました。行きましょう」
(例の場所?)
割と早い段階で、ガンジスまでの足が用意できた。しかし、例の場所とはなんだろうか。恐らくかぐやが何か付け加えたのだろうが。後で聞いてみようと早坂は思う。そして4人は、ガンジスに向かうべく移動を開始。
「あの、かぐや様?」
「何かしら、早坂」
「いえ、空港はあっちですよね?」
しかし、何故かかぐやは空港とは別方向へ向かう。その先にあるのは、駅だ。
「飛行機は予約が取れなかったから、列車を使って陸路で行くわよ」
「「陸路!?」」
まさかの陸路で行く事になった事実に、早坂と藤原は驚愕。
「仕方ないじゃない。この時期は本当に飛行機の予約なんて取れないんだから。むしろ列車で行けるだけ感謝しないと」
時は年末年始。日本も色々と忙しい時期である。インドの正月と言われるディワリは
10月末から11月初めにあるのでそこまで関係ないと思うかもしれないが、かぐや達のように旅行に来ている者が沢山いる。旅行客は殆どが年末年始に休暇を取って来ているので、当然飛行機の予約も争奪戦となるのだ。
そうなるとわかっていたのなら、前々から予約しておけというツッコミは無しだ。
「早坂さん。確かインドの列車って…」
「そうだよね…テレビとかで見た事あるけど、あんな感じだよね…」
だが、やはり抵抗がある。2人は知っている。インドの列車が、基本すし詰め状態という事を。
これは、インド人の主な交通手段が列車だからである。おかげでひとつの席に4人も5人も座ったり、足を延ばす事さえできなかったりしちゃうのだ。そんな状態で半日以上もいるというのは、ちょっと勘弁願いたい。
「安心して。少なくとも明日の朝には着くみたいだから」
と言う事は、列車で一晩を明かすと言う事。そんな状態で眠れるなんて思えない。もしかすると、同じ車両の人に変な所を触られたりするかもしれない不安もある。
「わかりましたよ。行くって言いましたから、こうなったらどこまでも着いて行きますって」
「わ、私も最後までお付き合いします!!」
けれど、少し前にああ言ったのだ。今更行かないなんて言えない。早坂も藤原も、腹をくくった。こうなれば、どんなキツイ状態でもどんとこいである。これも、良い人生経験になると思い。
「あ、私は勿論行きますからね?」
「ありがとう、志賀」
尚、志賀は最初から陸路でも付いて行くつもりであった。
「あの、かぐや様」
「今度は何、早坂?無理に行こうとしなくてもいいのよ?」
駅に入り、シンさんが用意してくれた列車に乗ろうとしたのだが、ここでも早坂がかぐやに尋ねる。
「ガンジス川に行くのはもう別に良いんですけど…」
早坂もああ言ったのだ。もう文句を言ったりはしない。でも、どうしても聞いておきたい事が出来てしまったので聞く。
「この列車、どうしてこんなに豪華何ですか?」
それは、これから4人が乗列車について。先ず見た目が凄い綺麗。インドの列車は、大抵がオンボロなのに対して、これから皆が乗る列車はまるで日本の有名観光列車みたいな見た目だ。
「うっわ!凄いですよこの部屋!ちゃんとしたベットに個室シャワーやトイレもついてますよ!」
おまけに中も凄い。寝泊まりする部屋こそあまり広くは無いが、それでもまるで高級ホテルみたいな部屋である。1部屋にベットが2つあり、トイレとシャワーもついている。更に壁かけテレビもあり、天井には小型のシャンデリア。それにタブレット端末までついている。どこからどう見ても、観光客向けの高級列車だ。
いや、別にそれはいい。想像していたすし詰め状態になる事はないので、むしろこっちが良い。でも、これから悟りを開こうとか言っている人がこういった豪華な列車に乗るのは、ちょっとどうかと思ってしまったのである。
「私はもっと普通の寝台列車でもよかったんだけれど、志賀にそれはダメって言われたのよ」
「え?志賀さんに?」
かぐや曰く、どうやら志賀から待ったが出たらしい。
「一言で言えば、安全面を考慮した結果です」
そして待ったをかけた志賀が話し出す。
「インドは治安があまりよろしくありません。もしかぐや様や千花様に万が一があったら大変です。なので安全面を考慮して、このような列車にしました」
「あー…」
言われてみれば、確かにそうだ。インドは日本よりずっと治安が悪い。無論、観光地として有名なデリーやムンバイは比較的安全ではあるのだが、それでも日本よりはずっと危険なのだ。
詐欺やスリや暴行や誘拐。場所によっては爆弾テロだって起こる。そんな国の普通の寝台列車に、四宮家の令嬢と藤原家の令嬢を乗せる訳にはいかない。なので志賀は、全員の安全を考えてこうした高級列車の乗せる事にしたのである。
「因みに私はここじゃなくて、後ろの寝台車だヨ」
尚、ガイドのシンさんはこの車両には泊まらないらしい。当初こそかぐやがシンさんの分も席を取ろうとしていたのだが、シンさんがそれを丁重に断ったのである。
何でも、会社の規定で旅行者からこういった部屋を奢られるのを禁止されているのだとか。なので会社の予算で寝泊まりできる、2つグレードの下がる車両で寝るらしい。
「それじゃ、明日また会おうネ。お休み」
「あ、お休みなさい」
シンさんはそう言うと、自分の席に戻って行った。
「部屋割りは、どうしましょうか?」
「私かぐやさんと同じ部屋がいいです!!」
「そう?早坂は?」
「私は志賀さんと同じ部屋で構いません」
「私もそれでいいですよ」
「なら決まりね」
部屋割りは、かぐやと藤原の令嬢部屋。そして早坂と志賀のメイド部屋となった。
「夕食は乗務員が部屋まで持ってくるらしいから、それまではゆっくりしてましょうか」
「そうですね。流石に私も疲れちゃいましたよ」
1日結構歩いている。いくら体力がある藤原も、いい加減疲れてきた。
「私達は、1度荷物を整理しておきましょうか」
「そうですね。ではお嬢様方、また夕食後にでも」
メイド2人も、与えられた部屋に行った。
「とりあえず、テレビでも見ましょうか」
「ですね」
夕食まで時間があるので、かぐやと藤原は部屋に備え付けられているテレビで時間を潰す事にした。2人とも結構外国語を話せるのだが、流石にインドの言葉はわからない。普通であれば、何も理解できずにテレビを眺めるのだろうが、
「これは多分、ダム開発の話で議論している感じですかね?」
「ぽいですね」
2人とも自頭は良いので、イントネーションやテレビに映っている人物の顔を見て、内容を大体理解できていた。
尚その日の夕食は、インド風のオムレツであった。
ちょっと中途半端ですけど、今回はここまで。そして傷心旅行ですが、最初は国内で温泉に入ったり、ハワイでバカンスしてはっちゃけたりさせようと思っていたんですけど、やっぱりインドかなーって。
尚、マキちゃんと違って、かぐや様は割とガチ目に悟り開こうとしてます。まぁ、結構なやらかしがあるからね。それでもギャグ調で書くつもりだけど。
インドの参考資料は、某鉄道番組です。本当にありがとう。書く上でマジで助かりました。
インド編は、書いても3話くらいです。どうかお付き合いください。