もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
そんな訳で、傷心旅行編その2です。どうぞ。
追記。感想でご指摘があったので、少し台詞を編集しました。
ガタンゴトンと、電車が揺れる。そのどこか心地よい音を聞きながら、かぐや達は車両の窓側に立っていた。その先には、広大なインドの街並みが見える。更にその先の空は徐々に明るくなっており、もう間もなく太陽が出ようとしている。
「そろそろね」
かぐや達はその太陽が出る瞬間を、今か今かと待っていた。そして遂に、オレンジ色の明るい太陽が顔を出す。日本とは全く違う異国の街並みに太陽が照らされて明るくなり、まるで1枚の絵画のような光景が広がる。
「とても綺麗ね…」
「ですねぇ…」
その光景を、かぐやと藤原はうっとりと見ていた。出来ればもう少し、このまま日の出を見ておきたい。そう思えるくらいに、この日の出はとても綺麗だ。
「まさかインドで初日の出を見るとは思いませんでしたけどね」
でもそれは、早坂の一言でスンと冷めてしまう。
「そんな事言わないでよ早坂。雰囲気が台無しじゃない」
折角良い雰囲気だったのに、急に現実に戻された感じがする。
今日は、1月1日。そして今かぐや達が見ているのは、新年最初の日の出である初日の出。とってもめでたい光景だが、まさかそれを外国であるインドで見る事になるとは思わなかった。一言ツッコミを入れても、バチは当たらないだろう。
因みにこの初日の出を、日本にいる眞妃も筑波山に登って弟と一緒に見ていたりする。
「とりあえず、拝みましょうか」
「わかりました」
「はい」
かぐや達は、インドで見る初日の出を拝む。
(今頃会長と立花さんも、日本で初日の出を見ていたりするのかしら?)
目を閉じて拝んでいる最中、かぐやは白銀と京佳の事を思い浮かべる。2人は正式に恋人になった。
そして恋人になって初めての正月、普通に考えたら、絶対にデートに行く。というか自分なら絶対に行く。もしかすると今頃日本で、どこか高い場所から初日の出デートとかをしているのかもしれない。
イラァ
そう考えた途端、かぐやの中でふつふつと黒い何かが湧いてくる。
(って!何嫉妬してるのよ私は!そんな気持ちは捨てないといけないのに!!)
ここでかぐやは、自分が京佳に嫉妬している事に気が付く。これはいけない。だって自分の恋は、もう既に終わっているのだから。
(第一私は、嫉妬する権利すら無いのに…)
そもそもかぐやは、犯罪といっても過言ではない事までして自分の恋を成就しようとした。結局恋の成就は叶わなかったが、今思えばあまりに醜い事をしている。あんな事をしたのに、2人が幸せそうにしている姿を見て嫉妬するなんて、いくら何でもダメだろう。
でもやはり、そう簡単にそう思えないのも事実。このままではいけないから、かぐやは遠路はるばるインドまで来ているのだ。母なる大河であるガンジス川で沐浴をすれば、自分がした罪を洗い流せると言われているから。そこで沐浴をし、しっかりとこのドス黒い穢れを洗い流してしまえば、かぐやは悟る事が出来るかもしれない。そうすれば、この嫉妬心も無くなる筈だ。
(絶対に沐浴して、穢れを流しましょう…)
初日の出を拝みながら、かぐやは必ずこの心の穢れを洗い流そうと決める。そうすれば、自分はちゃんと前を向いて歩けると信じて。
数時間後 インド バラナシ
「ここが、ガンジス川だヨ」
初日の出を拝んだ後、かぐや達は遂に、母なる大河と言われるガンジス川へ辿り着いていた。
「うっわー…凄い人ですね…」
「どれだけいるのかしら…」
川の周辺には、人人人。見渡す限り人だらけ。一体どれだけの人数がいるか見当もつかないくらい、
大勢の人がいる。そのほとんどが現地のインド人だが、それなりに外国人観光客も見受けられる。
川岸には多くのボートがあり、それに乗って漁へ行く人、大勢の観光客を乗せる人、川岸で洗濯をする人、他にも様々な人が見える。日本ではあまり見られない、まさに多種多様な光景だ。
「それじゃ、あっちの更衣室で着替えてから川に入ろうカ」
シンが指さすと、そこには明らかにキレイな建物が見える。恐らく、観光客用に作られた更衣室なのだろう。
「でも正直言うと、入るのはオススメできないヨ」
「へ?」
かぐや達がそこに向かおうとするが、その前にシンから予想外の事を言われてしまう。
「そのね、ガンジスって本当に汚い川なのヨ。だから入ると病気になるかもしれないヨ?」
「え?ガンジス川ってそんなに汚い川なんですか?」
「うん。汚いヨ」
シンの言葉に、藤原が眉をひそめながら聞き返す。そしてシンは、ガンジス川の説明を始めた。
実はガンジス川、世界で最も汚染されている川と言われているのだ。
母なる大河、神聖な川、女神ガンガーそのものとか様々な言われ方をされ、多くのヒンドゥー教徒が川に入っているが、科学的に見れば絶対に入るべきではない川なのである。
これにはいくつか理由がある。先ず、ガンジス川の周辺には火葬場があるのだが、何と火葬した灰をそのまま川に流しているのだ。これはヒンドゥー教の教えで、ガンジス川で火葬をしてその遺灰を川に流すと、輪廻転生が終わり涅槃に入る事が出来ると信じられているからである。
その教えが信じられているので、ガンジス川の川岸では、今も大勢の人が火葬をして、その遺灰を川に流している。何と、火葬している火が数百年前から消えた日は無いと言われているくらいだ。
しかしこれ、大勢の人が火葬するので火葬場が足りなくなり、あまり燃やしていない状態で川に流すなんて事もあるのだ。つまり、生焼けの状態である。船に乗っていると、亡くなった人がそのまま流れてきたなんて普通にあったりする。そんな物が流れている川なんて、ヤバイに決まっている。
次に、インドの下水施設が日本と比べて処理機能が追い付いていないのも理由だ。日本は世界で最も下水処理能力が高いと言われているのが、インドは全然違う。ちゃんと下水処理施設は存在するが、その機能は日本と比べるとずっと下。
更に人々の排泄意識も高く無く、世界で外で大きい方の用を足す人の6割はインド人であると言われていたりもする。つまりガンジス川には、大量の人の便がそのまま流れているのだ。これだけで、ガンジス川がいかに汚いかがわかるだろう。
そして最後に、今かぐや達がいるバラナシの少し上流には大きな化学工場があり、そこで出た工業排が大量にガンジス川に垂れ流しになっている。日本でも昭和の高度成長期に4大公害と言われた物があるが、あれは全て工場からの工業廃水が原因だ。日本はその後、そういった問題にもしっかり対応したおかげで川の環境はかなり改善されたが、インドはまだそこまで行っていない。
これらの理由があるので、ガンジス川は世界で最も汚染された川だと言われているのだ。大腸菌の仲間は、飲料水に100ミリリットルあたり50個以下、沐浴では500個以下が基準と言われているが、ガンジス川では何と、驚きの2万2000から3万4000個である。
その結果どうなるかというと、コレラや腸チフスに掛かってしまう可能性があるのだ。下手すると、そのまま死んでしまう事だってある。
「何年か前に来た日本人も、やめた方がいいって言ったのに入って、その後病院に入院したヨ。ずっと下痢してタ」
シンも以前、日本人観光客をガンジスに案内した事があるのだが、その日本人は忠告されたけどガンジスに入り、結果入院したらしい。幸い命に別状はなかったらしいが、それでも1週間は苦しみ続けたとの事。
あらゆるものが垂れ流しになり、信じられない程大量の危険な細菌が生息し、下手すると病気になり死んでしまう川。それが実際のガンジス川だ。それでも現地の人々からは、安全で神聖な川だと信じられている。今だって、普通に沐浴している現地人が多数いるのがその証拠だろう。
『……』
ガイドのシンの話を聞いたかぐや達4人は、絶句する。同時に『絶対に入りたくない』と思う。いくら汚いと言われていても、限度があるだろう。昔の日本だったら兎も角、少なくとも現代日本では考えられない。
「因みに私もガンジス入った事ないヨ。汚いからネ」
「そうなの!?」
更にシンも、ガンジス川で沐浴なんてした事無いらしい。実はインド人でも、ガンジス川に入った事の無い人は結構いるのだ。理由は当然、汚いから。現地の人ですらこれなのだ。清潔好きな日本人が入るのは、とてもじゃないが無理だろう。
「やめましょう。私、病気になって入院したくありません」
「ですね。見るだけにしときましょう」
藤原と早坂は、早々にガンジス川での沐浴を諦めた。当初こそかぐやと一緒の沐浴しよと考えていたが、シンの説明を聞いたら入る気なんて失せてしまった。懸命である。というか普通はこうする。
「私は入るわ」
『え!?』
だが何と、この話を聞いてもかぐやはガンジス川に入りたいと言う。これには一同ビックリだ。かぐやにしてみれば、ここまで来て見て帰るだけなんてしたくないし、そもそもの目的地がここなのだ。
その目的を果たす事も無く日本に帰国なんて、絶対に嫌だ。例え病気のリスクがあってでも、かぐやはガンジス川に入る覚悟だ。そうすれば、悟りを開けるはずだから。
「いやかぐや様。流石にコレラや腸チフスの危険があるんですよ?全力で阻止させて貰いますからね?」
「そうですよかぐやさん!!流石にこれはダメですって!!」
「お2人のおっしゃる通りです。メイドとして、何としてでも阻止させていただきます」
それを聞いた早坂、藤原、志賀の3人は全力でかぐやを止めに入る。いくら沐浴をして悟りを開きたいと言っても、命の危険があるのはダメだ。死んでしまったら、元も子も無い。そもそも悟りを開きたいというのがよくわからないし。それでもかぐやがガンジス川に入りたいと言うのならば、殴ってでも止める所存である。
「止めないで。私は悟りを開きたいの。その為にも先ず、ここで体の穢れを洗い流したいの。だからガンジス川に入らせて」
しかし、かぐやの決意は変わらない。何としてでも、ガンジス川で沐浴をする所存だ。でもそんな事、絶対に許可できる訳が無い。
「じゃあ、ひざ下までとかならどウ?それでも沐浴にはなるヨ?」
ここでシンが提案。それは全身浸かるのではなく、ひざ下まで浸かるというもの。そうすれば病気のリスクはグっと減るし、一応は沐浴出来た事にもなる。
「かぐやさん。そうしましょう」
「そうですね。それがいいです」
「かぐや様。ここはどうか、我々のお願いを聞いてください」
「……仕方ないわね」
かぐやはその提案を、渋々だが受ける事にした。そして着替える為に、観光客用の更衣室へと向かうのだった。
「こうして川沿いまで近づくとわかるけど、ゴミだらけね」
かぐやは色気の欠片も無いフィットネス水着に着替え、ガンジス川の川沿いまで歩き、ガートと呼ばれる沐浴場まで来ていた。しかし、足元にはゴミばかり。これもガンジス川が汚いと言われている理由のひとつだろう。
「これから入るけど、出たら直ぐに足を洗浄するからネ。あと、絶対に膝より上には浸からないデ」
「わかりました」
そう言うシンの周辺には、近くの店で購入した大量の飲料水の入ったペットボトル。そして、早坂と藤原の手には大きなタオル。志賀は不審者に備えて直ぐ傍で周囲を警戒中だ。これで準備は整った。後はガンジス川に入り、穢れを落とすだけ。
「それじゃ、行くわ」
「気を付けてください、かぐやさん」
「ええ」
藤原に心配されながら、かぐやは遂にガンジス川に入る。入った瞬間、どこか生暖かい感触が伝わる。
(これが、ガンジス川…足から伝わる、母なる大河の感触…)
膝下まで入った状態で川の感触を感じながら、かぐやは両手で祈りを捧げ、これまで自分がしてきた行いを強く反省する。京佳への妨害。白銀を誘拐。もっと遡ると、藤原や石上への暴言もある。早坂には無茶な命令をしてきたし、自分のわがままのせいで多くの人に迷惑をかけてきた。
(女神ガンガー様、どうか私の罪をお許しください…)
それら全てを、かぐやは深く反省。これで穢れが落ちて、悟りを開けるかもしれない。
(まぁ、私ヒンドゥー教徒じゃないから効果あるかはわからないけどね…)
尤も、かぐやはヒンドゥー教徒では無いので、どれだけ祈りを捧げても効果が出るかどうかはわからない。後は文字通り、神のみぞ知ると言った感じだろう。
(それにして、別に普通ね。もっと変な感触があると思ってたけど…)
膝下沐浴をしている最中、かぐやはガンジス川に対してそんな風に思う。シンから聞いていたが、ガンジス川は兎に角汚い。そんな汚い川に入ったらどうなるかと思っていたが、案外普通だ。
そう思った時である。
(ん?なんか足が痛…いや痛い!?)
急に、かぐやの足がジンジンと痛みだした。かぐやは直ぐに川から上がる。そしてそれを見ていたシンは、即座にかぐやの足に水をかけてかぐやの足を洗浄。
「はぁ…はぁ…」
「だ、大丈夫ですかかぐやさん?」
藤原が近づき、かぐやにタオルを渡す。数秒前まで普通だったのに、突然かぐやは大急ぎで川から上がってきた。何かあったのではと思うのは当然だろう。
「何だか、足がヒリヒリする…」
そしてかぐやは、自分の足が少しヒリヒリする事を伝える。実はかぐや、本人は無自覚だったのだが、結構な敏感肌なのだ。そんな敏感肌が、世界で最も汚染されていると言われたガンジス川に浸かれば、このように肌がダメージを受けるのも当たり前だ。一刻も早く、足を洗浄しなければならない。
「書記ちゃん!今すぐ救急車呼んでーー!!」
「きゅ、救急車ーー!!」
「誰がそんな古典的なボケしてって言ったの!?」
「落ちついてください3人共。今すぐ水で洗いますから」
「水は大量にあるから、全部使って洗おうネ」
かぐやの様子を見て、少しパニックになった藤原と早坂を落ちつかせる志賀。そして慣れた様子でかぐやの足に水をかけていくシン。その後志賀が、日本製の消毒液を使いかぐやの足を消毒する。これでとりあえず一安心だろう。
こうして、かぐやのガンジス川での沐浴は、一応ではあるが達成されたのだった。でも特に、悟りを開けた気はしない。それを聞いたら早坂が軽くキレそうと思ったので、かぐやはその事は口にしないようにした。
1時間後
「それじゃ、今から船に乗るからネ。落ちないよう気を付けてネ?川に落ちたら死ぬかラ」
『絶対に落ちません』
4人は、シンに連れられて船着き場へと来ていた。これから船に乗り、川沿いの露店で売っていた花飾りを川に流すのだ。それに祈りを込めると、願いが叶うとう言われている。因みにこれ、観光客に人気のコースだったりする。
「じゃ、出発」
シンに言われ、ボートの船長がボートを出す。ボートはそのままガンジス川の中心まで行くのだが、
「クゥー!クゥー!」
「クゥ。クゥ」
「めっちゃカモメいるんだけど」
「いやー。これ凄いですねー。中々見ませんよこの数」
そこら中にカモメがいて、ちょっと怖い思いをした。ちょっとだけ、某映画っぽい。
「どうする?餌をあげる事もできるヨ?」
「あ、やめときます」
別にカモメが好きという訳では無いし、何より餌を撒いてこれ以上カモメを集めたくない。もしかすると、糞まみれになるかもしれないし。
なのでシンのその提案は、丁重に断っておいた。その後、カモメの群れを抜けてガンジス川の川中に到着。
そしてシンが、かぐや達に花飾りを渡す。
「これに願いを込めて、ロウソクに火を灯して川に流しテ」
そう言われた4人は、露店で勝ったロウソクの付いた花飾りを手に取り、ロウソクに火を灯す。それをゆっくりと川に流し、全員が願う。
(どうか、前に進む事が出来ますように)
(お腹壊しませんように)
(かぐや様がこの旅で、過去に踏ん切りがつけますように)
(全員が安全に帰国できますように)
各々、しっかりとそれぞれの願いを祈る。その願いが、女神ガンガーへ届く事を信じて。
「あ、かぐやさん!今絶賛人焼いてますよあれ!」
「藤原さん。落ちついて下さい。貴方今凄い事言ってますからね?」
「船の上からなら写真撮ってもいいヨ」
「いや流石に写真はちょっと…」
その後はボートの上から様々な写真を撮ったりして、普通に観光を楽しんだ。
数時間後。
(2人共、どうしたのかしら?)
寝台列車に戻ったかぐやは、部屋のベッドに仰向けに寝そべって藤原と早坂の帰りを待っていた。ボートから花飾りを川に流した後、かぐや達はプジャーと言われるインドの礼拝の儀式を観たり、日本食が食べたくなったのでシンに案内された日本食レストランへ入って唐揚げ定食を食べたり、詐欺師に声をかけられたしながら列車へ戻っていたのだが、駅にたどり着く途中で藤原と早坂が足を止めた。
『かぐやさん。私達ちょっとお手洗いに行ってきますね?』
『なので志賀さんと先に戻っておいてください』
『2人は私がしっかり面倒見とくヨ』
『そう?わかったわ』
そう言うと2人は、シンと共に夜のバラナシの街に消えて行った。どうやらトイレに行ったらしいが、寝台列車の客室に戻ってからかぐやは違和感に気が付く。
だってトイレなら、清潔なやつがこの寝台列車にちゃんとあるのに、態々外で済ませる理由が無い。いくら現地ガイドがいるとはいえ、治安があまり良く無いインドの夜の街でトイレに行く理由も考え付かない。もしかすると、2人だけでどこかのお店に行ったのかもしれない。
(ここって何かあるのかしら?美味しいスイーツのお店とか?)
もしそうなら、別に引き留める理由は無いので、好きに食べてきたもらいたい。そもそも2人には、かぐやのわがままに付き合う形でインドまで一緒に来てもらっているのだ。ならばここで、2人が多少の我儘を言っても許すべきだろう。それくらい、かぐやも態々怒ったりしない。
「……」
待っている間暇になったかぐやは、スマホを手に取り写真フォルダを開く。
「写真、増えたわね…」
インドには悟りを開く為に来ているが、それはそれとして観光もしているかぐや。おかげで、スマホの写真フォルダには沢山の写真がある。それらの写真を見るだけで、楽しかった道中を思い起こさせる。
「……」
しかしスマホを操作していると、とある写真が目に入りかぐやの動きが止まる。その写真とは、生徒会室で撮った生徒会メンバーの集合写真だ。全員が写っているので、当然白銀と京佳もいる。
「はぁ…」
一気に気分が沈んだかぐやは、スマホを机の上に置く。やはりダメだ。やはり簡単には、白銀への気持ちを捨てきれない。この恋はもう終わったというのに、それでもかぐやは未だに白銀が好きなのだ。
実際かぐやは、あの日から熟睡出来ていない。ずっと眠りが浅いままなのだ。このままだと何時の日か、睡眠不足で倒れるかもしれない。
(絶対に悟ってやるんだから…)
これをどうにかするには、やはり悟りしかない。幸い、インドにはあと一か所行く場所がある。そこでなら、かぐやも悟れるかもしれない。到着予定は明日。それまでは英気を養っておこう。具体的には早めに寝るとか。
「ただいまですー」
「戻りました」
そう思っていると、藤原と早坂が戻ってきた。
「おかえりなさい2人共…ん?」
しかし、かぐやは直ぐ異変に気が付く。何だか2人共、ソワソワしているのだ。明らかに何か隠している。
「かぐやさん」
「かぐや様」
だがそのかぐやの疑問は、直ぐに解決された。
『お誕生日、おめでとうございます!!』
「え?」
藤原と早坂は、肩を並べた状態でかぐやに紙袋を手渡す。かぐやは、暫し思考を停止。そして10秒後、ようやく再起動して思い出す。
「そういえば私、今日誕生日だったわ…」
そう。本日1月1日は四宮かぐやの誕生日なのだ。今まで白銀と京佳の事や、インドで悟る事しか頭になかったので、今の今まで完全に忘れていた。
そして藤原と早坂は、そんなかぐやの為に先程まで夜のバラナシの街で、かぐやへの誕生日プレゼントを探していたのである。
「ふふ、ありがとう2人共」
かぐやはそのプレゼントを、ちゃんと受け取る。
「開けてもいいかしら?」
「勿論です!」
「はい、どうぞ」
そして丁寧に、紙袋を開けていく。
「これは、ポーチ?」
紙袋の中には、鮮やかな青色のインド刺繍が施されたポーチが入っていた。
「シンさんに教えてもらったんですけど、何でもここバラナシで1番腕の良いおばあちゃん職人さんの手作りらしいですよ」
「見た目以上に頑丈で軽くて、何より可愛いデザインだったので。どうでしょうか?」
恐らく、2人共結構悩んで決めたのだろう。なんせかぐやは超お金持ち。大抵の物は買う事が出来る。そんなかぐやへのプレゼント。悩まない訳が無い。もしかぐやが気に入らなかったらどうしようと考えてしまう。
「ふふ。とっても、とっても嬉しいわ。ありがとう2人共」
でも、そんな事杞憂だった。かぐやは笑顔で、2人からの誕生日プレゼントを受け取っている。だって本当に嬉しい。このポーチは絶対に宝物にすると思う、かぐやは程嬉しいのだ。
「えへへ、喜んでくれたみたいで何よりです」
「ですね」
そのかぐやの笑顔を見て、藤原と早坂も嬉しくなる。かぐやはあの1件以来、ずっと気分が沈んでいた。インドに来てからは明るくなっている時もあったが、それでもどこか暗い顔をしている時が多い。自業自得であったとはいえ、それだけ白銀と京佳の1件が尾を引いていたのだろう。
でも今のかぐやは、心の底から嬉しそうだ。悩んで買ったかいがあったというもの。これで少しは、かぐやの気も晴れてくれただろう。
「ふふ、早速何か入れてみましょう。えっと、とりあえずスマホとか」
かぐやはポーチを開けて、自分のスマホを入れようとする。
「あ、そうだ。こういうのも写真に撮った方がいいのかしら?」
でもその前に、このプレゼントを写真に撮っておきたい。今までは風景とかしか写していないが、この嬉しい気持ちと一緒にこのポーチも写真に残しておきたい。
「いいと思いますよ。イソスタとかでもそういうのありますし」
「そうですよ。いっそこの期に、かぐやさんもイソスタやってみたらいいんじゃないですか?」
「い、イソスタ?」
藤原がかぐやの知らない何かを言うが、その後かぐやは何枚かポーチの写真を撮った。同時に、藤原と早坂との集合写真も、そして志賀やシンとのツーショットも何枚も撮った。これでまた、新しい思い出が増えた。
因みにイソスタは、色々と問題がありそうだったのでやらない事にしている。
その日、かぐやは久ぶりにぐっすり眠る事が出来たのだった。
そして翌朝、一行は最後の目的地へたどり着く。
傷心旅行編は次回で終わりの予定。そこからは、多分会長と京佳さんのイチャイチャが暫く続くと思います。
因みにガンジス川、マジで汚いらしいのでインドに行っても入らない方がいいとの事。でも流石に、ここのかぐや様みたいにヒリヒリはしません。あれは本作だけの設定です。