もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・ 作:ゾキラファス
いや本当に待たせてごめん。まさかかぐや様のインド編があそこまで時間かかるとは思わなくて。
次回以降は、ちゃんと出番増やせるよう頑張ります。
白銀家
正月3が日が過ぎた4日のお昼過ぎ。丁度かぐや達がインドから日本へ帰国している途中、白銀家は慌ただしく過ごしていた。
「えっと、ジュースもコーヒーもある。ティーパックだけど紅茶もある。後ケーキも買ったし、掃除も昨日からしてるから問題ないし。あ、晩御飯どうしよう?用意していた方がいいのかな?用意するならお肉?お魚?それとも出前?」
白銀御行の妹である圭が、家の中を行ったり来たりしている。その姿は、まるでコンシェルジュだ。
「なぁ、圭ちゃん」
「何、おにぃ?」
「何で立花の彼氏の俺より張り切ってるの?」
そんな妹の圭に、兄御行が問う。昨日から圭は、ずっとこんな様子だ。昨日の朝から掃除を始め、掃除が終わったら色んなお菓子や飲み物を購入し、着ている服も持っている中で1番の一張羅をタンスから引っ張りだして来ている。
当然、兄御行も似た様な感じだ。着ている服は圭が選んだ物だし、圭に言われて家中徹底的に掃除をさせられている。おかげで年末に大掃除をしたばかりなのに、家はとっても綺麗な状態だ。
「別にいいでしょ。将来姉になるかもしれない人が来る訳なんだし」
「いや気が早ーよ」
そんな兄の質問に、圭は当たり前のように答える。
実は今日、白銀家に京佳がやってくるのだ。
正月デートを終えた後、その日の夜に電話で会話をしていた2人。そこで京佳は、1度白銀の家族に挨拶をしたいと言い出した。既に白銀の家族と面識はあるのだが、正式に恋人になったので今1度ちゃんと挨拶をしたいと京佳が思ったからである。
これには白銀も同意。少し古い考えかもしれないが、それぞれの家族に恋人を紹介するのは良い事だ。なので京佳の提案に賛同し、その事を圭に伝えた結果がこれである。
「ていうか、パパは結局何処行ったの?」
「知らないよ。ちゃんと帰って来るとは言ってたけど、全然連絡取れないし…」
しかし1つだけ残念な事があった。どういう訳か、白銀父が家に帰って来ないのだ。今朝早く『用事があるから出てくる』と言ったきり、帰って来ない。これでは京佳が挨拶をすることが出来ない。
(遅れて帰ってきたら、1回引っぱたいてやるんだから…)
もし京佳が帰った後に帰宅したら、絶対に1回は引っぱたくと圭は決める。その時、玄関のチャイムが鳴った。
「あ、俺が行くよ」
「粗相の無いようにね」
「しないって…」
白銀は玄関に向い、扉を開ける。
「こんにちは、白銀」
「ああ、ようこそ立花」
そこに立っていたのは、白銀の恋人である京佳。クリーム色のセーターに、ブラウン色のトーンオントーンのロングスカートで、足には黒いショートブーツ。そして黒いコートを着て、手には小さいトートバックと何か入っているであろう箱。実にお洒落な恰好だ。
(めっちゃ可愛い…)
そんな京佳に、白銀は見とれてしまう。流石偶にモデルのバイトをしているだけはある。というか、本当に可愛い。スタイル抜群な京佳にとても似合っていて、とっても可愛い。もし今の京佳と街でデートでもしたら、絶対に多くの人から羨ましがられるだろう。
「それじゃ、あがってくれ」
「お邪魔します」
つい顔がにやけそうになるが、白銀はそれをグっと我慢して、京佳の家にあげる。
「あ、明けましておめでとうございます京佳さん!」
靴を脱いでリビングに入ると、圭が頭を下げて京佳に新年に挨拶をしてきた。
「ああ。明けましておめでとう、圭。それとこれ、お土産のプリンだ。どうか受け取ってくれ」
「あ!気を遣わせちゃってごめんなさい!ありがたく受け取らせて頂きます!!」
「そこまで頭下げなくても…」
京佳は圭に、ここに来る途中で買ってきたプリンの入った箱を手渡す。圭はそれを、緊張した顔で頭を必死に下げながら受け取る。
(何で俺より緊張してんだよ…)
その圭の様子を、白銀は少し呆れ顔で見ていた。元々圭が、京佳に懐いていたのは知っている。恐らく、憧れ的な感情もあっただろう。
にしても、ああやって彼氏である自分より緊張するのはちょっとどうかと思う。別に悪い事じゃないけどね。
「どうぞ座ってください。飲み物は何が良いですか?」
「それじゃ、コーヒーをお願いするよ」
「わかりました」
京佳はコートを脱ぐと、圭に言われてリビングに座る。そして圭は、キッチンでインスタントのコーヒーを淹れる。
「今日はすまんな立花。立花の家結構遠いのに、わざわざうちまで来てくれて」
「いいって。挨拶は大事だろ?」
その間、白銀は京佳の前に座って話をする。これは元々圭に言われていた事だ。自分がおもてなしの準備をするから、白銀は恋人である京佳と一緒にいてくれと。そう言われた白銀は、妹の言葉に甘える事にした。
「あ、それと手土産ありがとうな。後で家族で美味しく食べるよ」
「うん。どうぞ美味しく食べてくれ。そういえば、バイトはもういいのか?」
「勿論。昨日の時点で正月のバイトは終わった。後は3学期まで家でゆっくり過ごすつもりだ」
京佳が家に来るのを正月明けにしたのは、白銀がバイトで忙しかったからである。貧乏な白銀家にとって、バイトは生命線。いくら恋人ができたからと言っても、疎かにする訳にはいかない。
「お待たせしました。コーヒーとケーキです。京佳さん、砂糖とミルクは?」
「いや、ブラックのままでいいよ。ありがとう、圭」
その時、圭が3人分のコーヒーと、今朝買ってきたばかりのケーキを持ってきた。
「「「いただきます」」」
圭がそれを机に並べて、3人で囲んで食べる。
「美味いなこれ」
「だな。やっぱりイチゴのショートケーキは格別だよ」
「わかります。やっぱりケーキって言ったらイチゴですよね」
3人が食べているのは、白銀家近所にある、老夫婦が経営している小さなケーキ屋で購入したイチゴのショートケーキ。本当ならテレビでも紹介されているようなもっと有名なケーキを買って食べたいところだが、なんせ有名店のケーキは高くて、白銀家では簡単に買えない。
そこで味もよく、とてもお手頃な近所のお店で購入する事にしたのだ。でも、3人共文句なんて無い。だって凄く美味しいから。
「京佳さん。改めて、お付き合いおめでとうございます」
「ふふ、ありがとう、圭」
「正直、初めて会った日から、何時かこんな日が来るんじゃないかって思ってました」
ケーキを食べ終えた時、圭が京佳に、兄と恋人になった事についておめでとうと言う。
「でも、本当に良いんですか?こんな兄で」
「ちょっと圭ちゃん?」
でも、直ぐにちょっと心配になる。だってこの兄である。運動が苦手で、歌がヘタクソで、目つきが悪くて、別に口にしてもいないのにお節介を焼いて、怖いくらい誰よりも努力をする兄。はっきり言って、京佳と釣り合わないように思える。
「勿論だ。私は彼が良いんだ。他の誰でもない、彼が良いんだよ」
しかし京佳は、はっきりと白銀が良いと口にする。
「もし私の目の前に、お金持ちで、俳優みたいに顔が良くて、会話がとっても楽しくて、私の顔についても何も言わない人が現れたとしても、私は君のお兄さんが良いんだ。世界中の誰よりも、白銀が好きだから」
「……」
それを聞いた白銀は、両手で顔を隠す。顔が熱くて恥ずかしい。そしてとても嬉しい。そんな感情が、一気に押し寄せてくる。
というか改めて思うが、どうして京佳はこんな事をはっきりと口に出来るのだろうか。自分であれば、もっと葛藤して口にするだろう。いや、そもそも口にすることさえ出来そうにないが。
「そうですか…」
そして圭も、少し頬を赤らめる。本当に兄は、とっても良い人を恋人にしたもんだ。こんな人、世界中探してもあと1人いるかどうかであろう。
「京佳さん」
「なんだ?」
圭は京佳の顔をしっかりとみて、姿勢を正して京佳に頭を下げる。
「こんな兄ですが、どうかこれからもこの兄をよろしくお願いします」
まるで、娘を託す父親みたいな姿だと京佳は思った。
「ああ、勿論だ」
そんな圭に、京佳ははっきりと答える。元より、白銀を手放すつもりなんて無い。だって白銀みたいな素敵な男の子なんて、絶対にいないだろうから。
(何だか、結婚の挨拶みたいだな…)
その様子を、白銀は黙ってそのような事を思いながら見ていた。立場的には逆な気もするが、これではまるで本当に結婚の挨拶である。
「でも、それだったら京佳さんもアメリカに行くんですね。ちょっと寂しいな」
京佳に兄をよろしくした圭は、ぽつりと言う。白銀は今年、アメリカの大学に行く。2人が恋人になったのなら、当然京佳もアメリカに行くだろう。そうなったら、もう今みたいに簡単には会えない。それは少し、寂しい。
「え?いや行かないが」
「…………え!?」
だが京佳は、白銀と一緒にアメリカに行く気は無い。
「最初はそれも考えたんだけど、私は弁護士になりたいからね。アメリカの大学だと日本の法律は学べないから、その夢が叶えられない。だから白銀とは、遠距離恋愛をする事にしたよ」
「まぁ、仕方が無いだろう。無理やりアメリカに連れていく事もできんし」
これは既に、京佳と白銀が話して決めた事だ。最初こそ、京佳も白銀と同じ大学に行きたいので
アメリカへの留学を考えていたが、費用や将来の事、そもそも入学資格が信じられないくらい難しい等の理由で、京佳は国内の大学に進学して、白銀と遠距離恋愛をする事にしたのだ。
「それで、いいんですか?」
「当然、叶うのなら一緒にいたいけど、こればかりは仕方がないよ。それに、一生会えなくなる訳じゃない。白銀が里帰りした時や、私が夏休みとかに渡米して会いにいけるさ」
「飛行機代稼ぐためにも、アメリカでバイトやらないとなぁ。向こうってどんなバイトがあるんだろう?」
「前に興味本位で調べたが、芝刈りとかペットシッターとかがあるらしいぞ。因みに私は、あのモデルのバイトを続ける事にした」
できれば一緒の大学に通って、キャンパスライフを楽しみたかったが、こればかりは仕方が無い。お互い、叶えたい夢があるのだ。それを蔑ろにして一緒になる事は、いくらなんでもダメ。だから遠距離恋愛。
「そういう事なら、わかりました」
嬉しいさ半分、残念さ半分といった気持ちの圭。恋人なのだから、2人にはずっと一緒に過ごして欲しいけど、これは仕方が無い。
けれど、不安もある。だって遠距離恋愛は、浮気する可能性が高いと言われているのだ。もし兄がアメリカで、アメリカンな金髪の美女と浮気でもしたら、圭は絶対に兄を許さないだろう。
(その時は、おにぃを刺そう。果物ナイフとかで)
かなり物騒な事を考えているが、圭は本気である。安心してくれ。死なないよう足を刺すだけだから。
「そういえば白銀。お父さんはどうしたんだ?ずっと姿が見えないが」
「それなんだが、朝からどこかに出かけているんだよ。ちゃんと帰ってくるとは言っていたけど、どこで何してんだか…」
白銀の言う通り、白銀父は今朝から何処かに行ったきり帰ってこない。これでは挨拶が出来ないが、何か用事があったのだろうと思う。
(折角立花が来てくれてるのに、何してんだよ親父…)
でもそれはそれとして、少しだけ怒りも沸く。事前にちゃんと家にいてくれと言っていたのに、これだ。早く帰ってきてほしいもんだ。
「「ただいまーーー!!」」
その時、玄関から男女の大きな声が聞こえた。
「なんだ?」
普段聞きなれない声が聞こえ、白銀は玄関に向かう。するとそこには、
「いやー、何でお昼から飲むお酒って美味しんでしょうねー!」
「ははは!本当ですね!特に昼から飲むビールなんて格別ですよ!」
肩を組んで、手に何かを持って、完全に出来上がっている白銀父と、京佳の母である佳世がいた。
「と、父さん?一体何が…って酒臭!?」
「な、何で母さんがここに?」
近づいただけでわかる。かなり飲んでいると。
「おおー。来ていたのか京佳ちゃん。御行、これお土産だ」
「はい京佳。これ今から皆で食べるわよ」
そして2人は、手に持っている何かをそれぞれ渡す。
「何だこれ…って蟹じゃねーか!?」
「こっちはお寿司だ…」
「私、酔っ払いがお寿司持って帰るの初めて見ました…」
それは、蟹と色とりどりの寿司。それ以外にも野菜やお肉、そしてビールもある。
「親父!?どうしたんだよこれ!?つーかそもそも、どうして立花のお母さんと一緒なんだよ!?」
白銀、堪らず父親を問い詰める。なんせ蟹だ。それも年始価格で超高い奴。貧乏な白銀家にとって、簡単に買える物じゃない。それに、何で京佳の母親と一緒なのかも謎だ。全部問いたださないと、気が済まない。
「実はな、少し前に福引やったら、居酒屋の1日無料飲み放題券って物を当てたんだ。2人まで利用できるって事だったし、今日立花さんを誘ったんだよ」
「そんな事が…」
だからと言って、何も今日飲みに行かなくても良いだろうと白銀は思う。京佳の母親との約束を先にしていたとかなら仕方が無いかもしれないが、どうせなら予定をズラしてほしかった。
だって折角、京佳が来てくれているのだから。
「で、この蟹は?どうやって手に入れた?高いだろこれ」
でもそれはまだ良い。本題はこの高そうな蟹だ。この蟹は本当に何なのだ。貰い物とかなら問題ないが、もし買ったとなったら流石に怒らないと。一体いくらすると思っているのか。
「ああ、それは年末の有〇記念で大穴の3連単当てな。そのお金で買ったんだ」
「当ててたの!?」
「驚いたよ。実況の言ったように、これはビックリって感じだったな。まぁ掛け金が少なかったから、そこまで大金を手に入れた訳じゃないけど」
蟹を買ったお金の出所は、まさかの競馬である。それなら、高級な蟹を買えたのも納得だ。
「よし。それじゃ、皆で食べるか。今日は鍋にしたい」
質問に答えた白銀父は、そのまま家にあがり鍋をするべく準備を始める。
「いやいやいやいや!?まだ色々納得できねーよ!?何で立花のお母さんがうちに来てんだ!?」
だが、白銀はまだ沢山聞きたい事があるのでそれを阻止。
「それは追々話す。今はこの蟹や肉や野菜を早く鍋にしたい」
「えぇ…」
しかし白銀父は、今それは重要じゃないと言わんばかりの顔で、鍋の下準備を始める。
「あ、私やりますよー」
「あ、私手伝います」
「なら私も」
佳世から食材を受け取り、圭と京佳もキッチンへ向かう。
(何なんだよ一体…)
そして白銀は文句はありつつも、棚から土鍋を出して、鍋の準備を手伝うのであった。
『乾杯』
食材を切って、鍋に入れて煮る。それを暫く放置する事で、見事な蟹鍋が出来上がった。そしてその鍋を5人が囲い、手にしたコップで乾杯をする。白銀、圭、京佳は麦茶で、白銀父、佳世はビールだ。
「ふぅ。鍋を囲んでビールを飲むのは至高の贅沢だな」
「ですねぇ。おまけに蟹ですし。あ、白銀くん。蟹みそどうする?」
「えっと、あれ苦手なんで遠慮しときます」
「あらそう?お酒に合って美味しいのに」
「母さん?私も白銀も未成年だからな?無理やり飲ませようとしないでくれよ?」
「しないわよそんな真似」
そう言いながら、佳世は白銀の皿に鍋の具をよそう。
「えっと、いただきます」
「どうぞ。圭ちゃんも、遠慮なく食べてね」
「は、はい…!ありがとうございます…!」
圭にもよそってあげて、それぞれ鍋を食べる。正確には蟹を食べる。無言で蟹の殻を剥いて、身を取り出して口にする。
「うっめぇ……」
「本当に美味しい…」
蟹を食べたのなんて、一体いつ以来だろうと思いながら、2人は蟹の味を堪能する。かなり長い間食べて無かったが、やはり美味しい。流石蟹だ。
「これ、1晩寝かせたら蟹や海老から出汁が取れますので、明日お米を入れておじやにしてみて下さい。絶対に美味しいですから」
「おお、それは楽しみですね。ぜひそうします。あ、ビールどうぞ」
「ありがとうございます」
そして京佳の母である佳世は、白銀父からビールのお酌を受ける。
(……蟹食べ終えたら、質問しよう)
出来れば今すぐ色々聞きたいが、今は蟹に集中したい。あとご飯中は、あまり込み入った話はしたくない。ご飯は、楽しみながら食べるものだから。
「圭、次は何が食べたい?」
「えっとじゃ、海老を…」
「わかった。熱いから気を付けるんだぞ」
「はい、ありがとうございます京佳さん」
「白銀は何が良い?」
「じゃあ、肉団子と白菜を」
「わかったよ」
その後も5人は、鍋を食べながら過ごしたのだった。
「で、いい加減教えてくれ親父」
鍋がほぼ空になった頃、白銀は父を問いただす。内容は勿論、京佳の母親がここにいる事についてだ。
「そんな変な話じゃないぞ?ただの一石二鳥って話だからな」
「は?」
コップの注がれたビールを飲み終えた白銀父は、息子の質問に答える。
「昨日、お前が今日うちに京佳ちゃんが来るって言っていただろ?でだ。以前から今日の夜に立花さんと飲む約束していたから、だったら飲み時間を昼に変えて、そして飲み終えた帰りにうちに寄って、ついでにお前の挨拶をすませたらと思って実行しただけだ」
知ってしまえば単純な話。白銀も京佳がうちに挨拶に来たら、今度は自分が京佳の家に1度挨拶をしようと考えていた。
で、息子がそう考えているだろうと思った白銀父は、以前から飲む約束をしていた佳代をうちに誘い、そのまま挨拶を済ませようと思ってやっただけ。ついでに正月らしいご馳走とか食べていなかったので、それも競馬で獲得したお金でやっちゃおうとしたのだ。
「せめて事前に一言言ってくれよ。こっちも準備とかあったんだぞ?」
「サプライズだ」
「いらんてそんなサプライズ」
白銀の当初の予定では、京佳の家に手土産持って挨拶に伺う予定だったが、それがパァになってしまった。折角色々と考えていたのに、ちょっとだけ余計なお世話だと思ってしまう。
「白銀くん」
「は、はい!!」
その時、京佳の母である佳世が白銀に話しかけてきた。
「京佳から話は聞いているわ。恋人になったって」
「はい」
尚、例のクリスマスの事件については何も話していない。
「京佳はね、この左目のせいで、本当に酷い扱いを受けてきたの。気持ち悪いだとか、色々ね」
「はい」
「でも、貴方は1度もそんな事言わないどころか、京佳を好きになってくれた。こんなに嬉しい事は無いわ」
「はい」
「京佳からずっと話は聞いていたけど、貴方は本当に素敵な子ね。これなら、娘を任せられるわ」
「……はい?」
そして佳世は、白銀に頭を下げる。
「どうか、娘をよろしくお願いします」
「も、勿論です!ですから頭を上げて下さい!!」
突然の佳世の行動に、白銀は慌てる。こんな事は予想していなかった。白銀は佳世に頭を上げるよう説得する。しかし佳世は、一向に頭を上げない。
「あの!本当にわかりましたから!俺絶対に立花を幸せにしますから!生涯掛けて守りますから!だから頭上げてください!!」
「し、白銀…その言い方は…」
「え?」
ここで京佳の方を向く白銀。京佳は耳まで真っ赤になっていた。一体何かマズイ事でも言ったのだろうか。しかしそれは、圭の一言で直ぐにわかる。
「おにぃ、それまるでプロポーズじゃん」
「え?…………!?」
誰がどう聞いても、プロポーズにしか聞こえない言葉。それを白銀は今、京佳の目の前で言ってしまったのだ。
「違う!違うんだ立花!あ、いや!別に立花を守りたくないとかじゃなくてだな!?こういうのはもっと別の場所で言うべき事であって!ああああ!これも違くて!!」
白銀、パニック。だって意図せずプロポーズの言葉を吐いてしまったのだ。こういうのはもっと、ちゃんとした場面で言いたい。
「俺はいいぞ御行。京佳ちゃん程良い子は中々いないからな。何なら明日、役所行って書類一式貰ってくるか?」
「黙ってろ親父!そもそも俺達はまだ付き合って2週間も経ってねぇんだぞ!?早すぎるわ!!」
「別に時間は関係ないだろ。大事なのは相性と印象だ。俺の知り合いには、知り合って1分で『この人は運命の人だ』って思って婚約した2人もいるぞ」
「それはその2人が特殊すぎるだけだ!!」
「ねぇ、皆。京佳さんのお母さん、寝ちゃってるんだけど…」
「「「え?」」」
「すぅ…すぅ…」
父親にツッコミを入れていると、小さな寝息が聞こえる。どうも、佳世が寝てしまったようだ。
「多分、相当飲んでるからだろう。俺と一緒に飲んでいた時も、ビール5杯とハイボール3杯は飲んでいたし」
「あの、すみませんが母さんをちょっと寝かせてていいですか?タクシー呼びますので」
「勿論。じゃあ圭、ちょっと片付けるぞ」
「わかった」
父親に言われて、圭は後片付けをする。そして京佳は、佳世を邪魔にならないよう少し移動させる。
「なら俺も」
「おにぃは京佳さんと一緒にいてて」
「あー、じゃあそうするよ。ありがとう、圭ちゃん」
「別にいいって」
白銀は圭に言われ、京佳と少し話をする事にした。
「寒いな…」
「まだ1月だもんな」
2人はアパートの廊下に出ていた。ここならば、邪魔されず話す事が出来るからである。寒いけど、そこは我慢だ。そして廊下の壁に体を預けて、話し出す。
「今日は、本当に賑やかになった」
「そうだな。私、こんな展開全然予想してなかったよ」
当初の予定では、白銀の家族に改めて挨拶をして、夕方には帰宅するつもりだった。だが実際は、京佳の母親もやってきて、更に夕飯も一緒に食べるという展開。何だか、本来踏むべき過程を数段すっ飛ばしている気がする。
「でも、すごく楽しかったよ」
「それはそうだな。こんなに賑やかなのは、久しぶりだ」
けれど、とても楽しかった。皆で鍋を食べて話すのは、とても楽しかった。出来ればまたやりたいと、思える程に。
「その、立花。さっきは変な事言ってすまない」
それはそれとして、自分のあの発言はちょっとダメだと思う。いくら混乱していたとしても、もう少し段階を踏んでから言うべき言葉だ。
「気にしてないからいいよ。それに、嬉しかったしね」
「そ、そうか…」
そう言われると、恥ずかしい。だってそれは、聞きようによってはプロポーズOKとも捉えられるからだ。
「もう直ぐ3学期だな」
「そうだな。来週にはもう新しい学期が来ちゃうな」
「直ぐにテストもあるし、今からしっかり勉強しておかないと」
「まぁ、あれは復習テストみたいなものだし、これまでしっかり勉強していればそこまで酷い点数取る事は無いだろう。成績に影響もしないし」
その後も2人は、様々な会話をした。内容は、本当に普通の事ばかり。特別な会話なんてしていない。でも、これでいい。こういった何気ない普通の事が、良いのだ。
「っと、流石に寒い…そろそろ中に戻ろう。多分もう、片付けも終わってるし」
でもやはり、この寒さでずっとは話せない。下手すると風邪をひいてしまうかもしれない。なので白銀は、そろそろ中に戻ろうと言い出した。
「……」
「立花?」
しかし、京佳は動かない。だってここで中に戻ると、もう2人きりの時間が無くなってしまう。勿論、今後もデートをしたりすれば沢山2人きり時間はあるが、今日はお終い。
(それは、ちょっとだけ嫌だな)
これは、京佳の我儘だ。もう少しだけ白銀と一緒にいたいという、京佳の我儘。でも確かに、これ以上は風邪をひくかもしれない。それに何時までも、白銀家にお世話になるのもダメ。
なので京佳は、直ぐに終わる事が出来る思い切った行動に出たのだった。
「ん」
「!?」
何と京佳は、白銀に不意打ちキスをしたのだ。
恋人らしい事で、時間もかからずに直ぐ終わり、今日を締めくくるに相応しい事。それがキス。正月のお家デートの時は、キスしたら止まりそうになかったのでしなかったので、何気にこれが今年初めてのキスになる。
「ふふ、やっぱりキスっていいな。私、癖になりそうだよ」
「……頼むから、不意打ちはやめてくれ。心臓に悪い」
寒い筈なのに、とても熱い。それだけ、京佳の不意打ちキスは破壊力があった。
「じゃあ、不意打ちじゃなかったらいいのか?」
「あ!いや、それは…!?」
「なら、今度からそうするよ」
「……彼氏からかって楽しいか?」
「冗談だ。怒らないでくれって」
その後部屋に戻った2人は、少し暖を取って、スマホでタクシーを呼んで、京佳と佳世の2人がそれに乗って帰るのを見送った。
こうして、京佳と白銀の改めてのご挨拶は終わったのだ。
そして、3学期が始まる。
因みに、京佳さんが不意打ちキスした時、玄関で聞き耳立ててた圭ちゃんは「エンダァァァ!」してました。それと京佳さんのお兄さんは、仕事でこれませんでした。そのうちまた登場予定。
あと多分、今時恋人ができたからと言って、こんな風に家族に紹介する学生はいないと思う。でもまぁそこは、創作って事でどうか。
次回から、また学園でのお話になります。またわちゃわちゃしたお話が書けそう。