もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 やっと修学旅行編です。以前も言いましたが、原作とは結構変えるつもりです。あまり長くはしない予定ですので、どうかお付き合いください。


立花京佳と修学旅行(1-1)

 

 

 

 

 

 新幹線

 

 新幹線の中では、修学旅行先の京都に向う秀知院学生がそれぞれ思い思いに過ごしていた。トランプで遊ぶ者、スマホでゲームをする者、旅行の日程を再確認する者お菓子を食べて話す者、写真を撮る者、熟睡している者など様々だ。

 

「おい立花、それ1つくれ」

 

「はい龍珠」

 

「さんきゅ」

 

「あ、立花さん。記念に写真撮っていい?」

 

「いいよ。ほら龍珠、少しこっちに寄れ」

 

「ったくしゃーねーな」

 

「んじゃ撮るよー」

 

 そして京佳は、持ってきたポ〇ロングを食べながら班の4人で楽しくしていた。

 

「にして京都、楽しみだねー」

 

「そうだな。初めて行くから楽しみだよ」

 

「そういえば、立花さんって中学校は秀知院じゃなかったよね?中学生の頃の修学旅行は何処に行ったの?」

 

「うちの中学の修学旅行は大阪だったよ。そこで食べ歩きしたり、通天閣行ったり、テーマパークに行ったりしてたね」

 

「ああ、あの有名な俳優でよくパロディポスターを作ってるテーマパーク?私まだ行った事無いんだよねぇ」

 

「え?いや普通に某映画系のテーマパークだけど」

 

「え?」

 

「どこだよそこ。知らねーぞ」

 

「え?」

 

「ごめん奈央、私もそこ知らない」

 

「え?嘘?あそこって結構有名じゃないの?」

 

 4人共、お菓子をつまみながら和気あいあいと会話をしている。秀知院入学当初からは、考えられない光景だ。入学した直後の時期は、誰も彼も京佳や龍珠を怖がっていた。

 しかし今は、こうして楽しく過ごせている。本当に良い事だ。この調子なら、京都でも楽しく過ごせそうである。

 

「すまない。ちょっとお手洗いに行ってくる」

 

「あ、じゃあ私も」

 

「わかったー」

 

「気をつけてねー」

 

 京佳がそう言うと、龍珠も一緒に立ち上がってお手洗いに行く。女子というのは、基本誰かと一緒にお手洗いに行く生き物なのだ。

 

「で、立花。お前何時白銀と一緒に行動するんだ?」

 

 その道中、龍珠が京佳に話しかける。

 

 龍珠はこの前、京佳が修学旅行中に白銀と一緒に行動できるよう協力すると言ってきた。そして京佳は、その提案に乗ったのである。正直、白銀と一緒に京都をまわる事を諦めていたのだが、こうして龍珠が協力してくれるのなら、何とかなりそうだ。

 

「明日の予定だよ。流石に初日から抜け出すのは班の2人にも悪いし、最初は班の皆で京都観光を楽しみたいしね。白銀も、初日は班の男子だけで楽しむつもりだって言ってたよ」

 

 京佳は明日の修学旅行2日目に、白銀と一緒になりたいと思っている。初日からずっと白銀と一緒にというのは、いくら何でも我儘が過ぎる。

 なので初日は班の事と目いっぱい楽しんで、2日目に白銀と楽しむ。3日目はちょっと未定だが、出来れば白銀と一緒にいいなと京佳は思っている。

 

「そうか。ならホテルに着いたら細かいとこ決めるぞ」

 

「わかった。あと、ありがとう」

 

「気にすんな」

 

 龍珠も一切愚痴を言わず、京佳に協力する気だ。何だかんだで世話になった京佳と白銀。その2人が恋人になり、そして今日から修学旅行。どうせなら、良い思い出になって欲しい。そうやって他人を思いやる心くらい、龍珠にだってあるのだから。

 

 

 

「「「あ」」」

 

 京佳と龍珠がお手洗いに行くと、お手洗いの前でかぐやと早坂に会った。そして何故か2人共、どこか暗い顔をしている。

 

「「「……」」」

 

「あ?なんだ一体?」

 

 相変わらず、少し気まずい空気。事情を知らない龍珠は、首をかしげるばかりだ。

 

「……」

 

 そして早坂は、そのまま何も言わず一礼だけしてその場から立ち去って行った。

 

「失礼します、立花さん」

 

「あ、ああ…」

 

 その後にかぐやも続く。残されたのは、京佳と龍珠の2人だけ。

 

「なぁ、立花」

 

「何だ?」

 

「お前、あいつらと喧嘩でもしてんのか?」

 

 そんな3人の様子を見ていた龍珠は、直ぐに何かあったと悟る。そして当人であろう京佳に聞いてみる事にした。

 

「まぁ、確かに喧嘩はしたけど、一応仲直りは出来たよ」

 

「でもまだ時間がそこまで経ってないからなんか気まずいってところか?」

 

「……」

 

「図星か」

 

 その通りなので、京佳は何も言えない。あれから既にひと月ほどが経とうとしているが、3人の間には未だに少し気まずい空気がある。何とかしないと思ってはいるが、そのやり方がわからない。

 

「立花」

 

「何?」

 

「今から少し、説教臭い事を言うぞ」

 

 そんな悩んでいる京佳に、龍珠は話し出す。

 

「私の母さんってさ、父さんと結婚する時に両親、つまり私のじーちゃんとばーちゃんに結婚を猛反対されたんだよ。まぁ、普通に考えたらそうだよな。なんせ相手はヤクザだ。まともな親なら、大事な1人娘をそんな奴と結婚させるなんて許さないだろ」

 

 龍珠の母親は、普通の一般家庭に生まれた人であった。成長し、上京した際にホステスのバイトをしていたのだが、その時に当時若頭補佐だった龍珠の父親と知り合った。そこから羽陽曲折あり、2人は真剣に将来を考えるようになり、遂に結婚する約束をするに至ったのである。

 

 しかし、普通の親ならそんな結婚反対するに決まっている。

 

 大事に育てた1人娘が、ある日突然結婚したい相手を連れてきただけならまだしも、その相手が現役のヤクザなのだ。これが会社員や公務員のような普通の仕事をしている人なら納得もできるが、相手は現役のヤクザである。

 到底、普通の生活なんてできる訳無いし、もしかすると命の危険もあるかもしれない。そんなの相手との結婚なんて、誰だって反対する。京佳も自分が親の立場だったら、反対するだろうし。

 

「でもそのまま、母さんは親の反対を押し切って父さんと結婚したんだ。父さんと一緒になれるのなら、親とは縁を切ってもいいって感じでな」

 

 しかし龍珠の母親は、もう2度と実家に帰らないと両親に言ってでも彼と結婚する事を選んだ。本人曰く、運命だったかららしい。そして2人は結婚したが、当然結婚式に彼女の両親も親族も来なかった。

 

「けどまぁ、その後ばーちゃんとは何とか和解できたんだよ。でも、じーちゃんは会う事すらしようとしなかった」

 

 だがその後、母親が密かに会いにきて話し合い、何とか和解が出来た。だが父親は、それでも会おうとはせず、同時に母親も向こうが会わないのならと会う事をしなかった。

 

「そしてじーちゃんは、私が生まれて直ぐに病気で亡くなった」

 

「え…」

 

 だがそうやってお互い意地を張っていたせいで、2人は仲直りが2度と出来なくなってしまったのだ。

 

「母さんは、その時の事を今でも後悔してるんだよ。もっと早く、無理やりにでも押しかけてじーちゃんと話し合って和解しておけばよかったってな。そうすれば、孫の私をだっこする事もできた筈なのにって」

 

 それは後悔するだろうと、京佳は思う。だって仲直りする相手とは、もう2度と会えなくなっているのだ。後悔しても、しきれない。自分だったら、暫く泣き明かすかもしれない。

 

(あ…)

 

 ここで京佳は、龍珠が何を言いたいかわかった。

 

「明日も必ず同じ日が来るなんてありえない。お前が事故にあって死ぬかもしれないし、さっきの四宮や早坂が突然事件に巻き込まれていなくなるかもしれない。何だったら、いきなりどこかと戦争になって日本そのものが滅ぶかもしれない」

 

 人間、何があるかなんて誰にもわからない。当たり前の日常が、突然崩れ去る時もある。それまで傍にいた人が、突然いなくなってしまう時もある。明日も同じ日常が来るなんて保障は、誰にも出来ないのだから。

 

「だからさ、そうなる前にちゃんと話し合っておけ。じゃないと、絶対に後悔するぞ」

 

 確かに、もし何かが起こってかぐやと早坂ともう2度と話す事が出来なくなったりしたら、京佳は後悔するだろう。そうならないように、龍珠はこうやって警告してくれているのだ。友人である京佳には、自分の母親のような苦い経験をしてほしくないから。

 

「……そうだな。じゃあ、この修学旅行が終わったら、必ず四宮と早坂ともう1度話してみるよ」

 

「そうしとけ」

 

 確かに京佳は、2人の事を許した。なのであの件は、それでお終い。でも未だに、2人との関係はどこか気まずいまま。だったら、その気まずさを解決するためにも、もう1度ちゃんと話し合おう。そうすれば、また以前のような友人関係になれるかもしれないから。

 

(あの時とさっきの暗い表情も気になるしな…)

 

 それだけじゃない。修学旅行前に学校で見た早坂と、さっき見た2人は、どこか暗い表情をしていた。何があったか知らないが、楽しかったり嬉しい事では無いのはわかる。もし何か困っているのなら、相談に乗りたい。その為にも、1度2人と話し合おう。

 

(なんだか、少しだけ楽になった気がする…)

 

 そう思うと、少しだけ肩の荷が下りたというか、ふっと心が軽くなった気がしてきた。今なら、かぐやと早坂とも普通に話す事ができそうだ。こんな事で楽になるのなら、もっと早くこうしておけばよかったとちょっと後悔。

 

「にしても、龍珠のお母さんは良い母親なんだな。かなり壮絶な気もするが、そういう人生経験を教えてくれるなんて」

 

 これも龍珠の話を聞いたおかげ、もっと言えば龍珠の母親におかげだ。機会があれば、是非1度お礼をしたい。

 

「そうだな。他にもいろいろ私に教えてくれるし、ママは凄い人だよ。ほんと尊敬できる」

 

「………ん?」

 

「あ」

 

 瞬間、新幹線の音が消えたような気がした。

 

「龍珠、今」

 

「し、仕方ねーだろ!中学までずっとそう呼んでたんだから、今でも偶にそう呼んじゃうんだよ!!」

 

 実は龍珠、幼少期からずっと母親の事をママと呼んでいた。高校生になるにあたって呼び方を変えたはいいが、今でも偶にママと呼んでしまう。それにしても、ギャップが凄い。普段大勢の生徒から怖がられている龍珠が、まさかのママ呼びである。

 

「お前絶対に今の事誰にも言うなよ!?誰かに言ったらマジでぶっ殺すからな!?」

 

「言わない言わない。あと顔真っ赤にして言っても迫力ないって」

 

 顔を真っ赤にして京佳に懇願する龍珠。もしこの事を誰かに知られたら、今までのイメージが完全に崩れ去る。例えば白銀が聞いたりしたら、そのギャップに笑うだろう。

 だから絶対に、誰にも知られる訳にはいかない。なので彼女は必死になって京佳に口止めをする。

 でも京佳は、そもそも誰にもこの事を言うつもりは無い。誰だって、自分の恥ずかしい事を知られたくないし。

 

(龍珠、親の事偶にそう呼んでるのか…これがアレか、ギャップ萌えか…)

 

 そしてその2人の会話を、男子トイレから出ようとしていた小島がトイレの中で偶然聞いていたりした。

 

 

 

 

 

 京都駅

 

「おお、映画で観たまんまの構図だ、ここでガ〇ラとイ〇スが戦ったんだな」

 

「わー、本当だ。今スマホでそのシーン観ているけど、まんまここで戦ったんだ」

 

「凄いねー。怪獣って大体外で戦っているのに屋内で戦うなんて」

 

 京都駅にたどり着いた2年生一同は、学年顧問から旅行中の注意や17時までにはホテルに戻る事を伝え、その場で解散となった。そして京佳の班は、京都駅駅口の向って左側にあるちょっとした高台の上に来ていた。

 そこで京佳は、京都駅内を眺めていた。その直ぐ横で、奈央がサブスクに入っているスマホで元ネタの怪獣映画を見て本当に構図がそのまんまである事に驚き、由佳は怪獣映画で史上初の屋内決戦が行われた事実に驚く。

 

「お前ってアレだよな。偶に精神が男子になるよな」

 

 そして龍珠はそんな3人、主に京佳を少し呆れた様子で見ていた。だって普通、花の女子高生が怪獣映画で盛り上がったりしない。これで盛り上がるのは、その手のオタクくらいだろう。

 

「多分、兄さんの影響だろう。兄を持つ妹はそういう傾向があるって何かで見た」

 

「聞いたことねーぞぞんな話」

 

 因みにこれは、割とマジだったりする。兄にひっぱられ遊んだりするので、兄のいる妹はどちらかというと男の子っぽい趣味を持ちやすいのだ。それでも限度はあるが。

 

 

 

 京都タワー

 

「あれがゴ〇ラに壊された京都タワーか」

 

「何かちょっと大根っぽいな」

 

 京都駅を出て正面に見える白い建物が、京都タワーだ。高さは約131メートルで、これは建設された時の京都市の人口131万人から取っているらしい。展望台やレストランもあり、平成の某怪獣王の熱線で破壊された建物である。

 因みに京都タワーはモノコック構造という特殊な建築方法を採用しているので、鉄骨を一切しようしていない。あと形のモチーフは、大根では無く灯台だ。

 

「登るか?」

 

「別にいいわ。高い建物なんて東京で登った事沢山あるし、そもそもこういうのに登るなら夜の方がいいだろ」

 

「私もいいかなー。料金結構するし」

 

「私もパース」

 

 全員、タワーに登ろうとはしなかった。

 

 

 

 三十三間堂

 

「すっごい…こんなに千手観音像が沢山」

 

「なんかご利益ありそう」

 

 非常に横に長い木造建築の建物で、正式名称は蓮華王院本堂。柱と柱の間が33あるから、三十三間堂と言われている。

 因みに33という数字は、観音菩薩の33の変身術にちなんでいるとのこと。そしてその中には、1001体の千手観音像がずらっと並んでいる。その光景は、まさに圧巻だ。文字ではその凄さを伝えられないので、是非1度見に行って欲しい。

 

「いやこれ本当にすげーな」

 

「だな。上手く言えないが、心惹かれるものがあるよ」

 

 出来れば写真を撮りたいが、残念ながらここは撮影禁止なので、しっかり目に焼き付けておこうとする4人。そしてそのまま、静かに千手観音像を見ながら歩くのであった。

 

 

 

 清水寺

 

「おおー、これが清水の舞台って奴か」

 

「思っていたより高いな。あ、さっきの京都タワーが見える」

 

 三十三間堂を観光し終えた4人は、恐らく京都で1番有名な観光地であり、世界遺産の清水寺に来ていた。本堂である清水寺の舞台からは、京都の街並みが一望できる。この舞台は芸事を神様に奉納する場所であり、平安の時代から雅楽や能などの様々な芸事を奉納してきた由緒ある舞台だ。

 

「ねぇねぇ!龍珠さん立花さん!4人で写真撮ろう!!」

 

「別にいいぞ」

 

「構わないよ」

 

「じゃあ、さっきの本堂を背景にして」

 

「スマホをこの棒にセットして、じゃあ撮るよー」

 

 少し進んで奥之院に行くと、清水の舞台を俯瞰して見る事が出来て、そこで本堂をバックに4人は記念撮影をするのだった。まさに、青春の1枚と言えるだろう。

 

 

 

 鴨川デルタ

 

「何これ!?この大福本当に美味しい!?」

 

「だねぇ。こんなに美味しい大福、私初めて食べたよ」

 

「川原で大福食う女子高生ってどうなんだろうな?」

 

「別にいいんじゃないか?なんか部活帰りって感じだし」

 

 清水寺からバスで移動した4人は、鴨川デルタと呼ばれている場所にやってきた。来る直前に、近くにあった有名な大福のお店で大福と缶コーヒーを買って、河川敷で4人並んで食べながら川を眺めながら食べる大福はとても美味しい。

 

「でも寒いなここ」

 

「まぁ、今冬だしな」

 

 けれど、寒い。普通に寒い。これが夏なら大勢の大学生がたむろしているのだろうが、今は冬。夏程人はいない。寒いから。

 

「寒いけど、ここに来れてよかったー。本当に1度来たい場所だったんだよねぇ」

 

「まぁ、確かになんかよい場所ではあるね」

 

 奈央も由香も寒いけど来れた事にはご満悦。清水寺から少し距離はあったが、来てよかった。

 

「で、ここのどの辺がそのなんとかっていうアニメ映画の場所なんだ?」

 

「えーっと。あ、あそこ!あそこで主人公の頭に撮影用の飛行ドローンが落ちてくるんだよ」

 

「いやあぶねーなおい」

 

「奈央、それ主人公大丈夫だったの?」

 

「ちょっと血は出たけど問題なかったよ」

 

 その後も暫く、河川敷でまるで冬の電線に止まっている雀のように固まって、4人で楽しく会話をした。

 

「っと。少し早いが、そろそろホテルに戻らないか?」

 

「そうだな。何事も早めに行動するに越した事はねーし」

 

「賛成。遅刻したら学年主任にうるさくいわれそうだし」

 

「あとお風呂に入り損ねたりしそうだし」

 

 しかし、楽しい時間はあっという間。スマホで時間を確認すると、16時になろうとしていた。まだ時間はあるが、そろそろホテルに戻った方がいいだろう。そして4人は、地下鉄に乗ってホテルに帰るべく駅に向って歩き出す。

 

「あ」

 

 だがその途中、京佳はある光景を見てしまった。1人の杖をついて和服を着ている老人が、財布を落とす瞬間を。

 

「すまない皆、ちょっとだけ待っててくれ」

 

「あ?どうした?」

 

「直ぐに戻るから」

 

 京佳はそう言うと、速足で駅から外れた道に行く。そしてそこに落ちていた黒い財布を拾い上げ、直ぐ前を歩いている人に声をかけた。

 

「あの、財布落としましたよ」

 

「ん?」

 

 声をかけられた老人が、京佳に振り帰る。そして京佳が手にしていた財布を見ると、自分の懐を探る。

 

「おお、ありがとう。大事なカードやらが入っていてね。落としたら大変な事になるところだったよ」

 

 財布の落とし主は、どこか気落ちしている杖をついた和服姿の老人だった。彼は京佳から財布を受け取り、それを自分の懐に入れる。

 

「いえ、それでは」

 

 落とした財布を渡したので、京佳はその場を立ち去ろうとした。

 

「ああ、すまないが少しだけ待ってくれ」

 

「え?」

 

 しかしその途中、京佳は老人に呼び止められてしまう。

 

「大事な財布を拾ってくれたんだ。出来ればお礼がしたいんだが、どうだろう?」

 

 そして京佳に、財布を拾ったお礼がしたいと言い出す。

 

「いいえ、結構ですよ。そういう目的で拾った訳じゃありませんし」

 

 当然京佳は、この申し出を断る。

 

「いや、是非受け取って欲しい。私個人の決め事でね。他人に仮を作りっぱなしにしている訳にはいかなんだ。だからどうか、頼む。この通りだ」

 

「う…」

 

 しかし老人は、京佳に頭を下げてでもお礼がしたいと言い出した。

 

「わかりました。でも向こうに友人がいるので、せめて1度断りを入れてからでいいですか?」

 

「それならその友人も一緒でいいよ。その方が君も安心するだろう?」

 

「では、そのように」

 

 結局京佳は、この老人のお礼を受け取る事にした。まだ時間はあるし、態々頭を下げてまで言ってきたのだ。流石にこれは、断りづらい。

 

 その後、京佳は龍珠たちと共に老人と一緒に移動を開始した。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。あら、久しぶり」

 

「ああ。今日は何時もと違って5人いるんだが、大丈夫だろうか?」

 

「いいわよ。そこのカウンター席を使って」

 

「すまない」

 

 お礼にと案内された店は、駅の裏の住宅地にあったこじんまりとした茶屋だった。店名は『ヒゴロモソウ』。

 しかしなんというか、どこか雰囲気が格式高い気がしてならない。そして店長であろう妙齢の割烹着を着た女性に言われ、5人はカウンター席に座る。

 

「な、なんか凄いねこのお店。私少し緊張してきちゃったよ」

 

「だよねぇ。雰囲気が凄く落ち着いてる」

 

「お前、どうしたらこうなるんだよ。いや奢られるのは別にいいんだけどさ」

 

「仕方ないだろ。私もこうなるなんて予想できなかったんだから」

 

 財布を拾ったら茶屋で何かを奢られる。そうそうない展開だ。

 

「それで、何がいいかしら?」

 

「何時ものやつを5つ頼む」

 

「ふふ、わかったわ」

 

 老人は店主にそう注文し、注文を聞いた店主は奥に入っていった。

 

「君たちは、修学旅行生かな?」

 

「ええ、そうです。今日東京から来ました」

 

「そうか。その制服、秀知院学園の?」

 

「あ?何で知ってんだよあんた」

 

「有名な学校だからな。流石に知っているよ」

 

「そうか。ところであんたの名前は?」

 

「雁矢というものだ」

 

「あの、ここって雁矢さんの行きつけのお店なんですか?」

 

「そうだな。普段は仕事が忙しくて中々これないが、もう50年以上通っている店だよ」

 

「はへー、すっごい。私もそんな行きつけのお店とかあったらなぁ」

 

 そんな会話をしながら、5人は注文の品を待つ。最初こそ警戒してた龍珠も、今は普通に話している。話している内に、この雁矢という老人が危険ではないと判断したからだ。

 

「はいお待たせ。白玉あんみつ5人前よ」

 

 そうしていると、奥から店主が出て来て5人全員分の白玉あんみつと温かい緑茶を提供してきた。大きな白玉が4つ入っており、あんこと寒天というシンプルなあんみつだが、そのシンプルさもあってとても美味しそうである。

 

「わ、これ凄く美味しそう。あの、写真撮ってもいいですか?」

 

「いいわよ。でもちょっと恥ずかしいから、ネットに上げるのはやめてね?」

 

「わかりました」

 

「じゃあ、私も」

 

「私も撮っておくか」

 

「あ、私もー」

 

 奈央に続いて、京佳と龍珠と由香も写真を撮る。

 

『いただきます』

 

 そして写真を撮り終えると、手を合わせていただきますと言い、スプーンですくって一口食べる。

 

『!?』

 

 瞬間、4人は驚愕する。

 

「んだよこれ。マジでうめぇ」

 

「本当だな。こんなに美味しいあんみつ、初めて食べた」

 

「だよね。これ本当に美味しいよ。これなら毎日だって食べたい」

 

「わかる。もし近所にこのお店があったら毎日通うよ」

 

 シンプルな白玉あんみつなのだが、とっても美味しいのだ。言葉で言い表せないぐらい、とっても美味しい。

 

「ああ、やはりここの白玉あんみつは格別だな。疲れが吹き飛ぶよ」

 

「そう思っているのなら、若い頃みたいに毎月来てもいいのよ?」

 

「無茶を言わないでくれ。本当に忙しい身なんだ。こうして3カ月に1度来れるだけでも凄い事なんだぞ」

 

「前からずっと言っているけど、人生そんなに働いてばかりじゃ疲れるだけよ?」

 

「だからこうして、英気を養っているんじゃないか」

 

 老人はかなり多忙な身なのだろうが、それでもここに50年以上も通っていると言っていた。でもそれも、この味なら納得だ。この味を食べれるなら、何十年も通いたいと誰だって思う。

 

「で、何かあったの?」

 

「……何故わかる」

 

「どれだけ長い付き合いだと思っているのよ。顔を少し見れば何か悩んでいる事くらいわかるっての」

 

「はぁ…本当君にはかなわないな」

 

 そしてどうも老人は、何か悩みがあるらしい。

 

「昔話した事あるが、娘の事でちょっとな」

 

「喧嘩でもしたの?」

 

「そんなんじゃない。もっと大きい問題だ」

 

 どうやら、悩みの種は家族関係のようだ。その話を聞いた店主は、ある提案をした。

 

「そうだわ。折角若い子もいるんだし、どうせなら話だけでも聞いてもらいましょう」

 

「は?」

 

「いいかしら学生さん?」

 

「お、おい勝手に」

 

 老人は止めようとするが、店主はそれを無視して京佳たちに尋ねてみる。

 

「まぁ、解決できるかはわかりませんが」

 

「聞くだけなら聞いてやる」

 

「別にいいですよー」

 

「こんなに美味しい白玉あんみつご馳走されたし、それくらいなら」

 

 そして京佳たちは、それを承諾。

 

「すまない」

 

 本当ならあまり他人を頼るという真似をしたくないのだが、こうなってしまったら仕方が無い。今更やめる事も出来そうにない空気なので、老人は京佳たちに相談に乗ってもらう事にした。

 

 そして老人は、スプーンを置いて話出す。

 

「私には、歳のかなり離れた娘が1人いるんだ。丁度君たちくらいのね。だが本当に色々事情があって娘とは一緒に暮らしておらず、顔もまともに会わせていないんだ。会話だって殆どした事が無いし、一緒に夕食を食べた事も無い。そんな関係がずっと続いていたから、娘の方も私を親とは思っていないだろう」

 

((え、重…))

 

 相談内容が想像の倍は重かった内容だったので、京佳と龍珠は少し後悔。しかし今さら聞かなかった事は出来ないので、このまま聞く事にした。

 

「そして最近、その娘がちょっと事件を起こしてしまってね。大変な騒ぎになってしまったんだよ。最終的にその件は何とかなったが、それでも娘は許されない事をした…」

 

 そう言う老人の顔は、先ほど出会った頃よりずっと暗い。

 

(どうすんのこれ!?想像よりずっと重たい話が出てきたんだけどー!?)

 

(いやもうどうもできないよ!?このまま大人しく話聞くしかないって!!)

 

 奈央と由香も、想像だにしない話にびびる。でも今更、逃げ出すなんて事出来ない。こうなったら、最後まで話を聞いておくしかないのだ。

 

「それを知った私は、ショックだった。娘は幼い頃から頭が良くて、礼儀正しく育ってくれた。とてもじゃないが、そんな事をするような子じゃ無いんだ…本当にとても後悔したよ。もっと娘と話しておけば、一緒に過ごせていれば、娘はそんな事をせずに済んだんじゃないかって」

 

 老人の顔はどんどん暗くなっていく。それだけ、彼の娘のしでかした事がショックだったのだろう。

 

「何であの子は、あんな事をしたんだろうな?私は、どうすればよかったんだろうな?俺は、一体これから、娘にどうすればいいんだろうな?」

 

 本当に、大切に思っていた娘なのだ。しかし、とある事情で普通の親子のように接する事が出来ない。何時かはどうにかしないと思っていたら、これだ。今まで様々な重大な決断を下してきた人生だったが、こと娘に関してだけは決断をずっと先延ばしにしてきた。

 その結果なのか、娘はとんでもない事をしでかしてしまっている。彼はもう、自分がこれからどうすればいいかなんてわからない。このままでは、結局これまでと変わらない冷めきった親子関係が続いてしまうだろう。

 

「会って話すしかないと思います」

 

 そんな悩んでいる老人に、京佳はどうするべきかを答える。

 

「えっと、学生である私がこんな事を言うのは恐縮ですが、もう娘さんと会ってしっかり話すしか手段は無いと思いますよ?」

 

「……ずっと父親らしい事なんてしてこなかったのに、今更になって父親として会って話せと?娘だって、今更話す事なんて無いって私に言うと思うが」

 

「ですが、他に方法なんて無いのでは?」

 

「こいつの言う通りだじーさん。もしかすると、その娘さんは実はあんたと話したからそんな事件を起こしたかもしれねーぞ?兎に角、会って話してやれ」

 

「……うちで働いている者にも、同じ事を言われたよ。でも、実際その通りなんだろうな」

 

 京佳の言っている事は最もだ。実際、何時までも会わないで話さずにいると、一向に問題は解決しないし、解決策も出せない。そして今後どうやって娘と接すればいいか、永遠にわからない。だからここは、もう娘としっかり話し合って今後どうすればいいかを考えるしかないだろう。

 

「ん…?あ゛

 

 その時、ふと京佳の視界に壁掛け時計が入り、京佳はおもわず間抜けな声を口に出す。なんせ時計の時刻は、16時30分を指していたのだから。もしこのまま学校が定めた門限まで帰る事が出来なかったら、学年主任による説教が待っている。折角の楽しい修学旅行で、そんなのごめんだ。

 

「マズイ!もうこんな時間だ!急いで帰らないとホテルの門限に間に合わない!!」

 

「げ!?マジか!?学年主任の説教とかごめんだ!おい急いで帰るぞ!!」

 

「えっと!ごちそうさまでした!!」

 

「白玉あんみつ、本当に美味しかったです!それじゃあ!!」

 

 そして大急ぎで、4人は店を後にする。店内に残されたのは、店主と白玉あんみつを奢ってくれた老人だけだ。

 

「私も、あの子たちと同意見よ?」

 

 店主は、京佳たちが食べ終えた食器を片付けながら、老人に話す。

 

「他の解決策なんて、もうどこにもないわ。ちゃんと、娘さんと会って話しなさい。怖いかもしれないけど、勇気を出して1歩踏み出しなさい」

 

 本当は老人も、その事はわかっている。でも未だに、最後の勇気が出なかったのだ。だけどもう、怖気づいている場合ではない。いい加減、腹をくくるときが来た。前に踏み出して、勇気を出す時が。

 

「……ああ、そうするよ」

 

 そして遂に、彼は腹をくくった。流石に今すぐ娘に会いに行く事はしないが、直ぐにでも会えるようにしておこう。具体的に言うと、時間を作ろう。そして娘と1度話し合い、今後そうするかを決めよう。

 

 

 

 

 

「ふふ、頑張りなさい、がんちゃん」

 

「……頼むからがんちゃん呼びはやめてくれ。俺はもうそんな歳じゃ無いんだ」

 

「あら、私にとったら、貴方はずっとがんちゃんよ」

 

 

 

 

 




 謎の老人登場。
 言いたい事、上手く書けているか不安です。もし変なところや矛盾しているところがあったらおっしゃって下さい。修正しますので。 

 次回はお風呂会のアレ。そして多分早坂関係のお話。
 シリアス書きたくないなぁ…。
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