もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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皆さん、本当にありがとうございます!!


立花京佳と願い事

 

 

「お前たち!七夕するぞ!!」

 

 ある日の放課後、生徒会の面々が生徒会室で仕事をしていると、突如白銀が生徒会室の扉を勢いよく開けて、肩に笹を担いだ状態で大声でそう言った。

 

「えっと、会長…?どうしたんですか?」

 

「今日は七夕だ!だから屋上に行ってみんなで七夕をするぞ!」

 

「は、はぁ…?」

 

 かぐやは白銀のいつもとまるで違う姿に戸惑っていた。なんせ今の白銀は眼をキラキラと輝かせており、肩にどこからか調達してきた笹を担いでいる。まるではしゃいでいる子供だ。戸惑うのも仕方ない。

 因みに、白銀がこれ程までにテンションが高い理由は、星に関係するイベントが大好きだからである。

 

「いいじゃないですか!やりましょう七夕!!」

 

「私も賛成だ。もう仕事も終わるし、偶にはこういうのもいいだろう」

 

 かぐやが頭に疑問符を浮かべていると、藤原と京佳の2人が七夕に賛成した。

 

「よし!四宮と石上はどうだ!?やるか!?」

 

 2人の賛成を得られた白銀は、今度はかぐやと石上にどうすろか名指しで質問をしてきた。そして相変わらず、その眼は輝いていた。

 

「ま、まぁ。私もかまいませんが…」

 

「僕もいいですよ、やりましょう」

 

「そうか!なら仕事片づけたら直ぐに屋上に行くぞ!!」

 

 皆から賛成を得た白銀はテンションを上げた。どうやら本気で七夕を楽しみにしていたらしい。そして仕事の後片付けをした生徒会メンバーは、みんなで屋上へと向かった。

 

「ところで会長、どこから笹なんて調達したんですか?」

 

「学園長から貰った!」

 

「いや何で学園長が笹なんて持ってるんですか?」

 

 屋上へ向かう途中、白銀に質問をしたかぐやだったが、結局謎が更に深まるだけだった。

 

 

 

「へぇ、街中でも結構見えるんですね…」

 

 かぐやは暗くなり始めた空を見ながら呟いた。空にはうっすらではあるが、星々が輝いており、夏間地かの夜空を照らしていた。そしてその空の下では、白銀が1人で一生懸命に七夕で使用する笹を建てている。

 

「よし、これで笹は問題ないな」

 

 笹を設置し終えた白銀は満足そうにし、額の汗をハンカチで拭きとった。

 

「会長、楽しそうっすね…」

 

「えぇ、あんな会長は見た事ないわ…」

 

 そんな白銀の後姿を眺める石上とかぐや。今までこんなに張り切っている白銀を見た事が無いので当然の反応ではある。

 2人がそんな白銀を見ている時、石上がある事に気づいた。

 

「あれ?そういえば藤原先輩と立花先輩は?」

 

「そういえば、いつの間にかいないわね…?」

 

 いつの間にか、藤原と京佳の姿が見えないのである。2人は周りを見渡したが、どこにも2人の姿は無い。すると、先ほど自分たちが昇ってきた階段がある扉が開き、藤原と京佳が現れた。

 

「お待たせ、持ってきたぞ」

 

「お待たせしましたー」

 

 お盆にそうめんを乗せて。

 

「いや、なんでそうめん?」

 

「知らないのか石上?そうめんはれっきとした七夕行事食なんだぞ?」

 

「え?そうなんですか?」

 

 所説あるのだが、古代中国の時代に、帝の子供が七夕の日である7月7日に熱病で死んでしまった。するとそのその子供は悪霊となり、国中に熱病を流行らせ始めた。

 そこで、生前その子供が好きだったそうめんをお供えしたところ、熱病が収まったという伝説がある。そこから紆余曲折あって『7月7日にそうめんを食べると一年間無病息災で過ごせる』と言い伝えられているのだ。

 因みにあまり知られていないが、7月7日はそうめんの日でもある。

 

「という訳で、あらかじめ調理室に準備していたものを藤原と立花に頼んで持ってきてもらったんだ」

 

「しっかりめんつゆもあるぞ。みんなで食べよう」

 

「葱が無いのが少し残念ですけどねー」

 

 2人は生徒会メンバーそれぞれにめんつゆが入ったお椀と割りばしを渡し、そうめんが入った大きいプラスチック製のボウルを笹の近くにあるレジャーシートの上に置き、みんなはそれを囲むように座り、そうめんを食べ始めた。

 

「やっぱそうめんって美味しいっすね」

 

「本当は流しそうめんとかやってみたかったんですけどねー」

 

「あれは準備に時間が掛かるし片付けが面倒だからなぁ…」

 

「四宮家でもそういったものはしたことがありませんね…」

 

「でも一度やってみたいなよな、あれ」

 

 もくもくとそうめんを食べる生徒会メンバー。すると、石上が思い出したかのようにある疑問を口にした。

 

「ところで、七夕ってどういうお話でしたっけ?織姫と彦星が1年に一度だけ会えるってのは知ってますが…」

 

「ああ、七夕ってのはな…」

 

 七夕物語

 あるところに織姫という神様の娘がいた。織姫は神様たちの着物を作る仕事をしており、その着物は大変美しかった。そんな織姫が年ごろになったので、神様は娘の相手を探し始めた。そこで見つけたのが、天の川の近くで天の牛を飼い、世話をしている彦星という若者だった。彼は非常にまじめでよく働くので、神様は彼こそが娘にふさわしいと思い、直ぐに娘の織姫と合わせた。すると、2人は出会って直ぐに相手の事を気に入り、そのまま結婚。しかし2人は、結婚してからというもの、仕事をせず毎日毎日イチャイチャするばかり。その結果、神様たちの着物は新しいのが作られなくなり、天の牛は病気に。それを知った織姫の父親の神様は激怒し、織姫と彦星を天の川の西と東に分かれて暮らすように命令。

 しかし、2人があまりにも酷く落ち込んでしまったため、1年に1度、7月7日にだけ会う事を許したのだ。それから会える日をだけを楽しみにしながら、織姫と彦星は毎日一生懸命に働いた。そして、7月7日の天の川。ようやく会えると思ったその日、雨が降ったせいで天の川の水嵩が増え、織姫は川を渡る事ができずにいた。その時、どこからともなくカササギという鳥が現れて、天の川に虹の橋を架けて2人が会えるようにした。

 こうして、織姫と彦星は再び会える事ができたのだった。

 

「要するに恋愛ばっかりにかまけてたら親に怒られて離れ離れになったって話ですか。アホですね」

 

「石上くん?良いお話なのに何でそういう言い方になっちゃうんですか?」

 

 白銀が七夕物語の解説をしたが、石上がそうめんを食べながらひねくれたような言い回しをした。そんな石上に藤原がツッコミを入れた。

 

 

 

「さて、そうめんを食べ終わったし、いよいよこれだな!」

 

 全員がそうめんを食べ終わり、暫くみんなで星空を眺めていると、突然白銀が口を開いた。そしてその手にはいつの間にか沢山の短冊を持っていた。

 

「七夕と言えば短冊だ!今から全員で短冊に願い事を書くぞ!!」

 

 相も変わらずテンションが高い白銀。そしてそのテンションのままみんなに短冊とペンを配り始めた。

 

(願い事ですか…そうですね…)

 

 短冊を手にしたかぐやは、素直に短冊にペンを走らせ、

 

『会長の織姫になれますように』

 

 何ともストレートな願い事を書いた。

 

(いや!?何を書いているのよ私は!?)

 

 かぐやは直ぐに手にしていた短冊を握りつぶした。

 

「か、会長…ちょっと間違えてしまったので、短冊をもう一つ頂いてもいいですか?」

 

「うん?いいぞ?まだまだ沢山あるしな」

 

 そして嘘をついて、白銀が持ってきた大量の短冊をまた手にした。

 

(危ない危ない…初めての七夕で私も少し舞い上がってたみたいね…)

 

 かぐやはこういったイベントをしたことが殆どない。故に、白銀程ではないがテンションが上がっていたのだ。だからこそ、あのような願い事を書いてしまった。今度はあのような事を書かないと冷静になったかぐやは、再び思案した。

 

「白銀、すまないが私にももう一つ短冊をくれ」

 

「ああ、いいぞ」

 

 かぐやが思案していると、今度は京佳が短冊を新たに貰いに来ていた。そんな京佳の事など特に気にせず、かぐやは考えている。ここで願い事を書く事自体は簡単だ。現にかぐやの中には、たった今『来年も七夕がしたい』という願いが浮かんできた。白銀のおかげで、いきなりやる事になった七夕だったが、かぐや自身かなり楽しんでいた。故に、また同じように七夕をしてみたいと思ったのだ。

 そして願い事を書こうとしたが、

 

(いえ、待ちなさい…)

 

 寸前のところで動きを止めた。

 

(もしもここで『来年も七夕がしたい』なんて書いたら、そんなの私がまた会長と七夕をしたくて堪らない我儘な女みたいじゃない!!)

 

 そしていつもの様におかしいな考えを浮かべた。

 

(お、落ち着きなさい私…!まずは他の皆さんの願い事を聞いてみましょう…それから考えても大丈夫な筈…!)

 

 かぐやは一旦ペンをしまい、他のメンバーに話を聞く事にした。

 

「藤原さんはどんなお願い事を書いたんですか?」

 

「私はこんなお願いです!」

 

 かぐやから質問をされた藤原は、自分の短冊をかぐやに見せた。そこには、

 

『次のテストで順位があがりますように』

 

 何とも自分本位な願い事が書かれていた。

 

「藤原先輩、それは自力でなんとかするべきじゃないですか?」

 

「いいんですよ!七夕のお願い事には学業関係のお願い事を書く人は沢山いるんですから!」

 

 すかさず石上がツッコむが、藤原は聞く耳を持たない。そしてそのまま笹に短冊を吊るし始めた。

 

「石上くんはどうな事を?」

 

「僕はこうです」

 

 石上が短冊をかぐやに見せた。そこには、

 

『レアアイテムがドロップしますように』

 

 自分の欲望丸出しの願い事が書かれていた。

 

「石上くん?これじゃあ藤原さんの事を悪く言えませんよ?」

 

「それは違いますよ四宮先輩。藤原先輩の願い事は自力でもなんとかなるじゃないですか。僕のは完全な運なんですよ?神頼みくらいしたくもなりますよ。もう300周くらい周回してるのに…」

 

 石上は正論を言った。確かに勉学の方は自力でどうにかできる。しかし、運要素があるものは自力でどうこうできるものじゃない。人間は、自発的に運気を上げる事など出来ないのだから。そういう意味では、石上の願い事は至極真っ当なのかもしれない。

 

(しかしこうして見ると、みんな結構自分の欲望に素直なんですね…)

 

 藤原、石上の願い事を見たかぐやは少しだけ安堵した。案外、みんなが欲望に素直だったからである。これならば、先ほど考えた自分の願い事も問題ないかもしれない。だがかぐやは用心に越したことは無いと思い、白銀と京佳の願い事を見てから書くことにした。

 そしてかぐやは、白銀のほうへ歩いて行った。

 

「会長はどんなお願い事を書いたのですか?」

 

「俺はこうだ」

 

 白銀が手にしていた短冊に書かれていたのは、

 

『健康で過ごせますように』

 

 何とも平凡な願い事が書かれていた。

 

「え?こ、これですか?」

 

「ああ。何事も体が資本だからな。自分の身体が健康な事が1番の願い事だよ」

 

 白銀は多くのバイトを掛け持ちしている。これは白銀家が貧乏だからだ。そしてもし身体を壊し、バイトが出来なくなったら、それは白銀家の終わりを意味する。だからこそこういった願い事を書いたのだ。

 

「立花さんはどういった事を短冊に書いたのですか?」

 

「私か?こうだが?」

 

 かぐやは白銀の近くに居た京佳に質問をした。そして京佳がかぐやに短冊を見せるとそこには、

 

『肩こりが治りますように』

 

 ある意味白銀と同じような願い事が書かれていた。

 

「か、肩こりですか…?」

 

「ああ、最近は本当に固くてな」

 

「あ、京佳さんもですかー?実は私も最近酷いんですよねー」

 

 京佳の言葉を聞いたかぐやは、思わず京佳といつの間にか近くに来ていた藤原の胸を見た。そこには大きなマスクメロンが4つ。かぐやは思わず舌打ちしそうになる。

 

(でもまぁ、案外皆さん自分本位なお願いばかりなんですね…)

 

 直ぐに心を落ち着かせたかぐやは、みんなの願い事が案外自分の欲望に忠実なのを知り少し安心した。これならば、先ほど考え付いた自分の願い事を書いても、特に何か思われる事はないだろう。

 

(ですが、少しだけ誤魔化しましょう…)

 

 かぐやは短冊にペンを走らせた。

 

「そういえば、かぐやさんは何て書いたんですかー?」

 

 藤原がかぐやに近づき質問をする。

 

 「私はこうですよ」

 

 『来年もみんなで七夕ができますように』

 

 かぐやはそう書いた短冊を藤原に見せた後、笹に吊るした。それは最初に思った願い事に、少しだけ言葉を付け加えた願い事だった。これであれば、色々と誤魔化しもきくし、何より嘘ではない。特に罰が当たる事もないだろう。

 

「おお!いいじゃないですか!来年も是非みんなでやりましょうよ!今度は流しそうめんも用意して!!」

 

「ふふ、それは楽しそうですね」

 

 かぐやの短冊を見た藤原が来年の事を言いだした。かぐやも、来年の事を少しだけ想像して、楽しそうに笑った。その後暫くの間、生徒会メンバーは星を眺めて過ごした。

 

 

 

 

 

 生徒会メンバーで七夕を行った後、みんなは帰路に着いた。因みに屋上に設置したままの笹は、翌日、白銀が責任を持って処分すると言った。

 そして家に帰りついた京佳は、自室のベットの上に制服のまま寝転がっていた。暫くその状態だったが、突然何かを思い出したかのように鞄を漁りだし、中に入っていた短冊を取り出した。

 

「この短冊は、流石にあの場所では吊るせなかったな…」

 

 京佳が手にしている短冊には、

 

『この恋が成就しますように』

 

 自分が今、1番叶えたい願い事が書かれていた。

 

「私は、白銀にとっての織姫になれるのだろうか…?」

 

 不安そうな顔をして呟く京佳。未だに、白銀を自分に振り向かせるのは非常に難しい。故に、神頼みのようなことだが、こういう願い事を書いてしまったのだ。

 

「いや、不安になってもしょうがない…まだ白銀と四宮は付き合ってはいないんだ。つまり可能性は決してゼロじゃない。最後の最後まで必死で足掻いて見よう」

 

 京佳はそう言うとベットから立ち上がり、手にしていた短冊を自室のカーテンレールに括り付けた。そして眼を閉じてから手を合わせ、願った。

 

(どうか、この想いが届きますように…)

 

 京佳の想いが届くかどうかは、星々だけが知っているのかもしれない。

 

 

 

 

 尚、翌日になっても部屋に短冊を吊るしていた為、それを母親に見られてしまい、もの凄く恥ずかしい思いをする事になる京佳がいるのだが、その話は割愛する。

 

 

 

 

 




そろそろ夏休み編に入りたい。夏休みは、色々と原作とは違う展開にするつもりです。書ききれるか不安だけどね。


次回も頑張ります。

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