もしもかぐやに滅茶苦茶強力な恋敵がいたら・・・   作:ゾキラファス

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 新年、明けましておめでとうございます。そしてかぐや様、誕生日おめでとう。新作アニメもおめでとう。
 去年はかなり更新頻度が下がってしまい、おかげで未だに修学旅行が終わっておりません。何してるんんだろうね、私。今年こそはもっと投稿頻度上げたい。
 今年もエタらず完結目指して頑張りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

 そんな訳で、修学旅行編+四宮親子編です。かなりの独自解釈含んでいますので、その辺お気をつけください。それでは、どうぞ。


立花京佳と修学旅行(2-4)

 

 

 

 

 

「あれは、本当にかぐやなのか?いやかぐやだけじゃねぇ。親父もあんな奴じゃ無かった筈だ」

 

 坂を部下2人と下っている最中、雲鷹は呟く。同じ教育を受け、そしてかぐやに四宮としての教えを色々と施してきた鷹雲。幼い頃からその凄まじい才能には目を見張り、いずれは四宮家の中枢を担う事さえできるかもと思っていた。

 

 だがそれは、自分のように人を使い、裏切りを許さず、常に利になる事を優先するような冷酷な人間であればの話。

 

「かぐやは絶対に、俺みたいなクソになると思っていたんだがな…」

 

 雲鷹には、先程のかぐやがまるで別人のように見えていた。みっともなくぎゃあぎゃあと喚き散らし、裏切り者を許そうとする。自分が知っているかぐやは、あんなにアホじゃない。

 

 それに父親である雁庵もだ。雁庵は、今までずっと四宮家の当主として君臨して続けた。彼が四宮家をここまで大きくし、日本で絶大な影響力を持つまでに育ている。

 だがそれは、時に人を大勢不幸に陥れ、時に命を奪う命令を下し、時に何もかも奪い取る冷酷さと貪欲さを持っていたからだ。先程のように、娘と向き合うなんて普通の父親らしい事、

絶対に言わない。

 

「私達にも、あの2人みたいな未来があったのかもしれませんね」

 

「……早坂か」

 

 雲鷹が思案していると、早坂の母親である早坂奈央が声をかけてきた。

 

「あの日、お互いもう少しだけ信頼し、話し合い許し合っていたら、あんな別れ方にはならなかったのではないでしょうか?」

 

 そして雲鷹に、昔自分達が道を分かってしまった時の事を言う。

 

 早坂奈央は、かつて四宮雲鷹をスパイしていた。

 

 それは今のかぐやと早坂とまるで一緒。雲鷹に従者として近づき、幼い頃からずっと一緒にいた。時に喧嘩し、時に笑い合い、時に協力し合って学校生活を共にする。

 

 だがある日、雲鷹にその事がバレたのだ。

 

『ずっと、ずっと俺を騙していたのかよぉ!?』

 

 その時の雲鷹の言葉が、今でも忘れられない。怒りと絶望に染まった顔をして、声を荒げて奈央に怒鳴り散らす。

 その後は、もう本当に酷かった。雲鷹は奈央にあらゆる罵詈雑言を浴びせ、奈央を殴り飛ばし、そして2度とその顔を自分に見せるなと言い放ち、その日の内に奈央を屋敷から追い出したのである。そして奈央は、そのまま早坂の家に帰り、2度と雲鷹の元に戻る事は無かった。

 

 でもあの時、もし今のかぐやや早坂みたいにお互いがもう少しだけ信頼して許しあえていたら、今とは全く別の未来もあったかもしれない。

 

「おぞましい事言うんじゃねぇ、裏切り者のクソババァ鼠が」

 

 だが、所詮はたらればの話。奈央は雲鷹を裏切り、奈央も雲鷹の傍を離れた。それだけが事実であり、結果である。今更そんなもしもの話をしても、しょうがない。だって過去は、変えられないのだから。

 

 それはそれとして、奈央は今の雲鷹の言葉に少しキレていた。

 

「クソババァ、ですか…」

 

「あ?そうだろうが。お互いもうそういう歳だし、お前に至っては高校生のガキがいるしな」

 

 事実かもしれないが、失礼にも程がある。確かに奈央は雲鷹を裏切っており、雲鷹はその事を今でも根に持っている。

 だからつい語義が強くなってしまうのも仕方ないかもしれないが、だからと言って、クソババァは無いだろう。確かに小じわが気になったり、肌が少しカサついたりしているが、これでも今日の昼に、娘の同級生から姉みたいと言われるくらいにはまだ若々しいのだ。それに女性に、そんなデリカシーの無い事を言う人は、普通に腹が立つ。

 

 なので奈央は、少しだけ雲鷹に仕返しをする事にした。

 

「……まだ私に未練あるくせに」

 

「ある訳ねーだろ。何言ってやがる」

 

「……私で童貞捨てたくせに」

 

「おいてめぇ!?その事を言うんじゃねぇ!!つーかそれは禁止カードだろ!?」

 

「「そうだったんですか!?」」

 

「ち、ちげぇ!!合ってるけどちげぇ!!そもそもあれはこいつから無理やり誘ってきて…!!てめぇ口閉じやがれ!!

 

 奈央の突然の暴露に、雲鷹は大慌て。彼はこの時、思い出したのだ。奈央が怒った時、大抵自分が負ける事を。しかし、奈央は止まらない。

 

「あら?私の記憶では、雲鷹様が突然後ろから私を抱きしめて『お前が欲しい』って言ってきて、そしてそのままベットに私を押し倒したと記憶していますが?」

 

「ち、ちがっ…!!あれは違くて…!!」

 

「何度も何度も、私に好きだって言ってくれたのに」

 

「だから、その…」

 

「おまけに文字通り一晩中、私を愛してくれたのに」

 

「……」

 

「私も初めてだったから、翌日歩くのすっごく大変だったんですけどねぇー」

 

「……」

 

「他にもまだ色々お話のタネはありますが、何か私に言うことは?」

 

「……クソババァって言ってすみませんでした。だからもう勘弁してください」

 

「よろしい」

 

((雲鷹様が頭下げてる…))

 

 想像以上の仕返しに、雲鷹は頭を下げて謝罪する。これ以上、あの日の事を蒸し返えされてはたまらないからだ。

 

 そして部下2人は、雲鷹の以外な弱点を知って驚く。最も、この事を口外すれば絶対にヤバイ事になるので死んでも口外なんてしないが。

 

 

 

 

 

「大丈夫なのか?龍珠?」

 

「ああ、特にこれといって怪我もしてねぇ。むしろ小島が投げ飛ばした四宮の家の従者の方が心配だね」

 

「マジですまん…無我夢中だったんだ…」

 

 雲鷹達が何やら口論している隙に、京佳は坂を下って龍珠と合流をしていた。なぜか小島もいる事に驚いたが、龍珠曰く勝手についてきたらしいとの事でとりあえず納得する事にした。

 

「にしても、本当に大丈夫か俺ら」

 

「まぁ、さっきのじーさん曰く、問題にする気は無いって事だし、気にしなくていいだろ」

 

「じーさんて龍珠…あの人四宮家のトップだぞ…」

 

「知るかよ」

 

 小島が少し不安そうにするが、龍珠は心配するなと言い放つ。あの四宮家相手に暴れてしまったのだ。普通に考えれば色々と揉め事が起きそうだが、少なくとも当主である雁庵が問題にする気は無いと言っている。ならば、これ以上心配する事は杞憂だろう。

 

「それではお三方、ホテルまでお送りします」

 

「わかりました。では、お願いします」

 

 雁庵が手配してくれた運転手に言われ、3人は黒塗りの高級車に乗り込む。

 

「おお、凄く座り心地いいなこれ」

 

「車内で足めっちゃ延ばせるし、テレビもある。すげーなこの車」

 

「これ、防弾仕様だぞ…うちの組にある車と同じじゃねーか。流石四宮家ってところか?」

 

「龍珠、お前の家の車ってやっぽそういう仕様なのか…」

 

「たりめーだろ小島。ヤクザは身辺をしっかり警護しておかないといけねーんだからよ」

 

 因みに龍珠組が使っている幹部用の車は、ロケットランチャーが直撃しても2発は耐えるとかいう対爆仕様でもある。

 

「では、出発いたします」

 

 3人がしっかりシートベルトをしたのを確認し、車は3人が宿泊しているホテルに向って出発する。

 

「にしても、大変な1日だったな」

 

「まぁな。追手がいるわ、追いつかれて喧嘩するわ、マジで命の危機を感じるわで最悪だったわ」

 

「すまない龍珠、迷惑かけてしまって…」

 

「そこは別に迷惑だなんて思ってない。それより、早坂は大丈夫なのか?」

 

「多分ね。あとは四宮のお父さんが丸く収めると思うよ」

 

「そうか」

 

「つーか今更だが、俺ら勝手に行動してて学年主任に怒られたりしねーかこれ?」

 

「門限までに帰れば問題ないと思うが…む?」

 

 3人が移動中の車内で話していると、京佳のスマホが鳴る。

 

「どうした?」

 

「藤原からだ」

 

 画面には、藤原の名前。そして京佳は、直ぐにその電話に出た。

 

「もしもし?どうかしたか藤原?」

 

『京佳さん!今どこですか!?』

 

 電話に出ると、何やら藤原は慌てていた。

 

「あー、今タクシーに乗ってホテルに帰っているところだが、何かあったのか?」

 

 京佳は先ほどの騒動は言わずに、ただ今帰っている事だけを伝える。同時に、何か慌てている藤原に何かあったか尋ねた。

 

『早く帰ってきてください!会長がもう限界なんです!!』

 

「は?」

 

『なんかこう、変な事言ったりお土産に買った木刀とお菓子を儀式の触媒にしたりで大変なんです!!』

 

 そして藤原の返答を聞いて、京佳は思い出す。

 

 そういえば白銀には、碌な説明もせずに今日1日ずっとほったらかしにしていた事を。おまけに朝以降、1度も連絡をしてない事も。

 

(ヤバイかも…)

 

 そう思った京佳は、一刻も早くホテルに帰るのであった。

 

 

 

 

 

 場面は変わり、早坂が約束の場所と指定した池がある小さな山の上。そこに池に架かっている桟橋にかぐやと早坂は並んで座り、話をしていた。

 因みに雁庵は、少し離れたところにあるベンチに座って、かぐやを待っている。

 

「私と貴方の主従関係は、今を持って終わりにします。後の処理は私が必ずなんとかするわ。これで貴方は自由の身よ」

 

「そう、ですか…」

 

 小さい事から、ずっと一緒だった2人。しかし早坂は、かぐやをずっと騙し続けてきた。早坂は、かぐやの事が大好きである。出来れば全部正直に話して、この罪から解放されたいと何度も願った。

 だが、そんな真似をしたら親にも迷惑をかけるし、何より自分もただではすまない。だから、その罪悪感を押し殺してかぐやを騙し続けてきた。

 

「ごめんね。ずっと辛かったのでしょう?なのに今まで気が付いてあげられなくて、ごめんね…」

 

 その間、早坂がどれだけ傷ついたかかぐやは想像も出来ない。かぐやには早坂が自分を裏切った事に対する怒りはあるが、それは恐らく今だけ。怒りというのは炎と一緒で、時間が経てば消えていくのだ。

 でも早坂は、毎日毎日毒のように罪悪感が体中を巡り、苦しんできた。そんな早坂と比べたら、自分の怒りなんて可燃ごみだ。

 

「いや、悪いのは私…で…」

 

 最初こそ謝るかぐやに、早坂は直ぐに違うと言おうしたが、それを思いとどまって、早坂はようやく本心でかぐやと話す事にした。

 

「辛かったって、わかってくれる?」

 

 抑制していた感情が決壊した早坂は、涙を流しながらかぐやに言う。

 

「かぐや様に嫌われたらって思うと、毎日毎日怖くて辛かったよぉ…」

 

 自分が、毎日毎日怖くて苦しくて、辛かった事を。

 

「ごめんね早坂…本当にごめんね…」

 

「う、うう…うわっ…ひぐっ…うえぇぇぇん…」

 

 かぐやはそんな早坂を優しく抱きしめて、抱きしめられた早坂は子供のように泣き出す。涙と鼻水でメイクが落ち、綺麗な顔が台無しになるが、そんな事どうでもいい。

 今はただ、かぐやの腕の中で泣きたい。泣いて泣いて、この苦しみを出し切りたい。その後早坂とかぐやは、暫くの間2人で泣き続けるのであった。

 

 

 

 

 

「話は終わったか?」

 

「はい、お父様」

 

 2人で泣き続けた後、かぐやは父親である雁庵の元に来た。本当は早坂も一緒に行こうとしたのだが、かぐやがそれを拒否。そんな早坂は、今2人から少し離れた場所でかぐやを見守っている。

 

「先ずは、座りなさい」

 

「はい」

 

 雁庵に言われ、かぐやは山頂に設置されていた木製のベンチに座る。思えば、こうして父親の隣に座るなんて初めてかもしれない。

 

「それでお父様、どうして…ここに?」

 

 でも今はそれより、何故雁庵がここにいるかを知りたい。そんなかぐやの質問に対する雁庵の返事は、

 

「かぐや、すまなかった」

 

「え!?」

 

 頭を下げての謝罪であった。突然の出来事に、かぐやだけじゃなく離れた場所で見ていた早坂も驚く。

 あの四宮雁庵が、娘にとは言え頭を下げている。ありえない。こんな事ありえない。だって頭を下げるだなんて、四宮家としてありえないのだ。それが現当主ともなれば、その驚きはとんでもない物である。そのままかぐやが驚いていると、雁庵が口を開いて話し出す。

 

「お前がクリスマスに起こした事件は、高橋から既に聞いている」

 

「っ!?」

 

 その言葉を聞いて、かぐやの体が固まる。クリスマスの事件は、完全にかぐや最大のやらかし。もしこの事が本家に知られれば、自分はどうなるかわからないくらいの爆弾。それを雁庵は、既に知っていた。

 

「もっと俺が、お前を見ていれば、お前とちゃんと向き合っていれば、あんな事は起きなかっただろう…」

 

「い、いいえ!あれは私が起こした事なのでお父様は関係がありません!!」

 

「いや、俺の責任だ。もっとお前と話したり、向き合って色んな事を教えていれば、お前が道を踏み外すような事はしなかっただろう。昔本で読んだが、子供が道を踏み外したり非行に走る原因は殆どが親や家庭環境によるものらしい。そういった研究結果もある。つまり、お前があんな事をしたのは俺の責任だ」

 

 そして、あの事件は自分がかぐやに向き合わなかったせいだと言う。実際、雁庵は今までずっとかぐやを遠ざけてきた。偶に会う事があっても、一言二言喋るくらいでまともに話した事さえ無い。学校で行われる行事にも1度たりとも参加していないし、一緒に食事を取った事さえ無いのだ。

 

「本当に、すまなかった…今更こんな事言えた義理ではないが、俺程父親失格の男もおらんだろう…」

 

 そんな雁庵が、今はかぐやに親として接している。かぐやに謝り、自分の非を認めている。

 

「どうして、今更なんですか?だって、今までずっと…お父様は私の事を見なかったのに…」

 

 だが、そこに疑問が出てきた。今までずっと自分をほったらかしにしていたのに、どうして今更急に自分と話して、しかも謝っているのか。一体雁庵にどんな心変わりがあったと言うのか、気になって仕方が無い。

 普段なら、こちらが何を言っても何も答えてくれないだろうが、今なら逆に何を聞いても答えてくれそうだ。なのでかぐやは聞く。彼に何があって、こんな事を言い出したのか。

 

「実はな、今朝名夜竹が夢枕に立ったんだ」

 

「お母さまが?」

 

「そしてボコボコにされた」

 

「え?」

 

 そして雁庵はかぐやの問いに答えたのだが、それは更にかぐやを驚かせる事になってしまった。母親である名夜竹が夢枕に立ったのはまだいい。でもボコボコにされたとは何なのか。

 

「何度も言われたよ『娘を頼むって言ったのに、何ずっとほたってんだこのクソジジぃ』てな」

 

「く、くそじじぃ…」

 

「今も夢の中で殴られたとはいえ、両方の頬が痛い。いやマジで痛い。奥歯折られるかと思った。あと超怖かった…あいつが怒ったところ初めて見たが、マジで超怖かった…」

 

 因みに雁庵は、ここに来るまでの間、ずっと両頬に湿布を張っていたりする。何でかマジで痛いのだ。愛の力かもしれない。

 

「そして俺がお前の事を見なかった理由だがな、怖くなったんだ。真実を知る事が」

 

「真実、ですか?」

 

 名夜竹は一時期、雁庵の前から姿を消していた時期がある。その後姿を現したかと思えば、

腹には自分の子がいると言う。普通に考えて、怪しすぎる。当然四宮家の者達は、そんな名夜竹を追い返そうとした。

 

 しかし雁庵は、それら反対の言葉を全て黙らせて名夜竹を四宮家に迎え入れた。

 

 名夜竹は、雁庵が本気で愛した女性。ここで追い出すなんて事、出来る訳が無い。例えどんな事をしてでも、名夜竹と腹の子を四宮に迎え入れる気でいた。

 

 だがその後、名夜竹はかぐやを出産して間もなく死亡。そして人生で初めて本気で愛した女性が死んだ事により、雁庵は魂が抜けたような、生きた屍となってしまった。それだけ、名夜竹が死んだ事がショックだったのである。

 その魂が抜けていた時期があまりに長すぎたせいで、かぐやへの接し方がわからなくなってしまったのと、もしかぐやが名夜竹との間に出来た自分の子じゃなかったらという恐怖心で、雁庵はかぐやを遠ざけた。真実を知らなければ、それ以上傷つける事も無いから。

 

 そしていずれかぐやが成長し、自分が残した会社のひとつでも継いでくれるのならば、例え血が繋がっていなくても本当の親子と思えると内心勝手に考えた。実際、そういった話も実在する。だから喋らないし、近づけない。

 

「そう、だったんですか…」

 

 初めて聞く、母親や父親の話。かぐやはその話を、一言一句全て聞く。何とも不器用。何とも自分勝手。自分1人で勝手に決めず、もっと早くその事を話してくれれば、こんなに親子関係がこじれる事も無かったであろう。

 

「かぐや、先程も言ったが、俺は最低の父親だ。俺以下の父親なんて、そうはいないくらいに父親失格だ。いやもしかすると、お前の父親ですらないのかもしれないが」

 

 懺悔するように、かぐやに話す雁庵。雁庵はずっと、後悔していた。かぐやがクリスマスに事件を起こす前から、もっとちゃんとかぐやと向き合って話せばよかったと後悔していた。

 

「今までの事が無くなるなんて思っていない。だが、お前さえ良いのなら、これからちゃんと親子として向き会ってもいいか?」

 

 そして、まるで許しを請う罪人のように、かぐやにそんな提案をしてきたのだ。

 

「勿論、お前が嫌ならそんな事はしない。今まで父親らしい事なんて何もしてこなかった男だ。俺が憎いのなら、一生憎んでくれて構わない。ため込んでいた怒りがあるのなら、その全てを吐き出して俺にぶつけてくれて構わない。全てはお前次第だ。そして断っても、お前の今後を縛るなんて真似はしない。好きに生きて構わない」

 

 今までずっと向き合ってこなかった雁庵。これが本当今更な話なのは、雁庵も理解できている。でも、夢で名夜竹に殴られながら言われたのだ。『これ以上、娘に寂しい思いをさせるな』と。

 だからこれ以上かぐやを遠ざけるなんて出来ないし、したくない。本当に今更の事だが、このままなんてしたくない。だからこその、提案である。あまりに遅すぎたかもしれないが、それでもまだ親子関係が修復できるのなら、何とかしてみたいのだ。

 

「……」

 

 その提案を聞いたかぐやは、うつむいて黙り込む。一言も発せず、ただ地面を見つめていた。

 

「……そうだな。今更虫の良い事を言ってすまない。今の話は、忘れてくれ。俺の事は、もう2度と親と思わなくて構わない」

 

 かぐやの反応を見て、雁庵はかぐやがこの話を受けないと感じた。当然だ。なんせずっと、かぐやをほたっておいた。今更こんな事を言っても、受け入れてもらえる筈がない。それにそもそも、自分とかぐやを血の繋がった親子では無いのかもしれないのだ。そんな他人の提案なんて、受け入れる訳が無い。

 でもせめて、かぐやが今後四宮家に束縛されず、自由に生きていけるようにだけは必ずしようと決める。それがかぐやに対する、せめてもの罪滅ぼしになると信じて。そう思った雁庵は、ベンチから立ち上がりその場を去ろうとする。

 

「待ってください!!」

 

 しかしその前に、かぐやが立ち上がり声を出した。

 

「私は、私はずっと、お父様と、他の家の子みたいな親子になりたかったです…」

 

 雁庵の前に立って、かぐやは話し出す。

 

「普通に授業参観に来たり、運動会を観に来たり、偶にどこかに遊びに行ったりする、そんな子がとても羨ましかった…」

 

 秀知院であった授業参観。クラスメイトの多くの子の親は、自分の子供の事を見に来ていた。

 しかし、かぐやの元には決してこない。無論、他にもそういった子はいたが、それでも1度も来なかった子はかぐやだけである。運動会も、文化祭も誰も来ない。他の家の子の元には父親か母親が来て、一緒にそういった学校行事を楽しんでいた。

 

 かぐやは、そんな普通の親子が心底羨ましいかった。

 

 学校の授業参観に来てくれたり、休日のどこかに遊びに出かけたり、偶に怒られたり、褒められたりする、そんなどこにでもいる普通の親子が羨ましかった。四宮家が普通じゃない事は知っている。それでも、かぐやはそういう普通に憧れた。

 

「だから、その、お父様のそのお話は、正直言って凄く嬉しいです…」

 

 だから、雁庵の今の話はとても嬉しいのである。かぐやはずっと、親からの愛に飢えていた。それがようやく享受できるというのだ。無論簡単に話が進む事は無いだろうが、それでも自分も他の家の子みたいに過ごせるかもしれない。

 

「でも、その前にお聞かせください。お父様は自身は、どうしたいのですか?」

 

 しかし決める前に、雁庵にどうしても聞かなくてはならない。自分はそうでも、雁庵はどう思っているかをだ。もし今の話が、ただかぐやを憐れんでいる義務感からくるものであれば、

ちょっと考えさせてほしい。

 

「俺は…」

 

 かぐやに問われた雁庵は、少しだけ口を紡ぐ。しかし、直ぐにかぐやの顔を見て答えた。

 

「俺は、可能ならお前とちゃんと向き合って、親子になりたい。そう思っている。おまりに遅すぎるかもしれないが、これからは本当にそうしたいと、思っている」

 

 そう言う雁庵の顔に、嘘の気配は微塵も無い。間違いなく、本心からの想いだ。

 

「私も、です」

 

 それがわかったから、かぐやも本心で話す。

 

「ずっと、お父様にちゃんと見て欲しかった。お父様とお話したかった。お父様と、どこかに出かけたりしたかった…」

 

 早坂や藤原と言った友達がいたとはいえ、かぐやは寂しかった。1度でいいから、父親に頭を撫でてもらったり、抱きしめてもらったりしてほしかった。

 でも自分は、四宮家という特別な家の子。そんな普通を求めてはいけない。何時しかかぐやは、そう思うようになっていた。だからずっと、諦めていたのだ。でも今夜、その願いが叶うかもしれない。

 

「だから、これから少しでもいいので、親子になりたいです…」

 

 ならば、そのチャンスを不意になんてする訳無い。だってかぐやはずっと、こういう事が起こる日をどこかで願っていたのだから。

 

「いいのか?今更、こんな提案をするような俺だぞ?」

 

「構いません。だって、何事も遅すぎるなんて事はありませんし」

 

「……そうか、わかった」

 

 それは、雁庵も同じ。名夜竹がまだ生きていた頃、彼もかぐやとの親子生活を夢見ていた。3人でどこかに旅行に行ったり、時間を作ってかぐやの授業参観に行ったりと、そんな事を夢見ていた。名夜竹が死んだ事により、そんな事はもう出来ないと思っていたが、今からでもそれが叶うかもしれない。

 だからこそ、絶対にもう逃げないし、かぐやを遠ざけない。残された時間は多く無いだろうし、これから色々と大変だろうが、かぐやとちゃんと向き会えるなら何とでも出来る筈だ。

 

 だからちゃんと、かぐやと親子になろう。

 

「だがその前に、迷惑をかけた2人のご両親へ謝罪にいかないとな」

 

「はい。例えどれだけの罵詈雑言を吐かれようとも、誠心誠意しっかりと謝ります」

 

「安心しろ。俺も一緒に行く。子供が悪い事をしたら、それを一緒に謝ったり償ったりするのが親だからな」

 

 そしてかぐやと雁庵が最初にする事は、クリスマスに迷惑をかけた京佳と白銀にちゃんと謝る事であった。

 

 

 

 

 

 ホテル

 

「フングルイ ムグルウナフ!クトゥグア ホマルハウト! ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア!!フングルイ ムグルウナフ!クトゥグア ホマルハウト! ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグア!!フングルイ ムグルウナフ!クトゥグア ホマルハウト! ウガア=グアア ナフル タグン! イア! クトゥグカ!!」

 

「白銀ーー!マジで正気に戻れーー!!」

 

「誰かーー!大人の人か某神話に詳しい人呼んで――!?」

 

 京佳達が宿泊しているホテルの中庭。そこではなんか正気を失っている白銀が、両手で木刀持って空に掲げ、中庭の地面にお土産に買ったであろう生八つ橋を並べて変な呪文を唱えていた。そんな白銀を、風祭と豊崎の2人が必死に止めに入る。

 

「えっと確かこういう時は、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたもがっ!?

 

「藤原さん!?それ多分余計にややこしい事になる呪文だよ!?」

 

「これ以上混沌を増やさないでーー!?」

 

 あと何でか、その反対側で藤原も似たような事してた。これ以上はマジでヤバイと思ったマスメディア部の2人が、全力で藤原を止めに入る。

 

「あいつ…どうしたんだ?」

 

「え、白銀マジで何があったの?」

 

「あー…」

 

 ホテルに帰ってきた京佳達は、その異様な光景にちょっと引いてた。いや、訂正しよう。

超引いてた。何ならその様子を見ている他の生徒も、あの生徒会長である白銀が見た事無いくらい乱心しているとドン引きしているし。

 

 そして白銀が乱心している理由だが、簡単に言えば脳破壊を受けたからである。

 

 この日の朝京佳からのメッセージを見て、楽しみにしてた修学旅行2人きりデートが泡となって消え、白銀はかなり落ちこんでいた。

 だがあくまで今日の予定がダメになっただけで、明日は大丈夫だろうと考えた白銀は何とか復活し、今日も男子のみで京都を観て回ろうと決める。

 そしてスマホを使い、どこか穴場の観光名所とか無いかと思ってSNSで調べていた時に、白銀は運悪く偶然見てしまったのだ。

 

 京佳と早坂が、キスしている写真を。

 

 その写真は、その場にいた他校の修学旅行生が偶然撮影した写真で、その生徒はそのままの勢いで撮影した写真をSNSにアップ。現在は我に返ったその生徒によって写真は削除されているが、白銀は本当に偶然それを見てしまい、めでたく、いやめでたくないがNTR的な脳破壊を受けてしまった。

 そこから白銀は脳がバグり乱心し、どうにかして神様の力を使ってでもこの事実を無かった事にしようととんちきな考えに至ったのである。京都はなんか神聖な街ってイメージあるし、呼べばワンチャンあるかもしれない。その結果が、これだ。

 

(とりあえず、先ずは事情を話して落ちつかせるところからだな)

 

 ほぼ唯一引いていない京佳は、先ずちゃんと白銀と話して彼を正気に戻そうと決める。そして明日は、目いっぱい修学旅行デートをしようと強く思うのであった。

 

 

 

 

 

 余談だが、この日白銀と藤原の2人が口にしたこの呪文に引き寄せられて某旧支配者達がマジで京都に寄ろうとしてたが、白銀も藤原も呪文を間違えていたので結局来る事は無かった。まさに間一髪である。

 

 

 

 

 




 参考資料は轟家。そういう訳で、独自ルートにより親子関係なんとか?修復です。今後四宮家の内部事情や、四条家との事も書く予定ですので、そこはもう少しお待ちください。

 次回は、やっと会長と京佳さんのデート回です。待たせてすまない会長。目いっぱい甘えさせてあげる予定だから、なんとかもう少しだけ待っててくれ。

 それでは、今年も本作をよろしくお願いします。
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